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悔恨と戦争
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~ボグラグス 帝国領魔術学院小学部春の補修にて~
「はーい!冬のテストで赤点取った馬鹿のみなさーん!今日も授業を始めますよ~!」
「うわー・・・あれどうにかならないかな。」
「どうにもならないだろ。なんせ俺たちのせいで、先生、彼氏とのデートがおじゃんになったんだから。」
「はーい、そこの馬鹿ども今日の実験の材料になってもらいまーす。」
「いやだー!!!」
「っと冗談はこれくらいにして・・・はい、そこの成績優秀なのにテストの日に体調崩して休んだ馬鹿お嬢様!魔法と魔術と魔導の違いについてお答え下さい。」
「先生・・・すいませんでした。えーっと確かこんな感じでしたよね。」
魔法・・・使い勝手が悪く、詠唱も長い。略式詠唱で呪文を唱えても発現しない。
魔術・・・使いやすく、略式詠唱が可能。また、場面場面での臨機応変な対応が可能。
魔導・・・魔法を作成すること。
「はーい、全然違います。てか、テストにそんなこと書いちゃだめだから。」
「え、違うんですか?でも、家庭教師の方からはこう教わりましたけど。」
「はい。じゃあ正解はこれです。」
魔導・・・魔力を正しい方向に導くことにより呪文、魔法陣を作成し、魔法を新たに生み 出すことを言う。魔導を生業とするものを魔導師と言う。
魔法・・・魔導師が作成したものを魔法と言う。詠唱や魔法陣などの方式を簡略化や性質変化させることなどは出来ないが、魔力によっては最高位の魔法を放つことが出来る。魔法を生業とするものを魔法使いという。
魔術・・・魔法を略式詠唱、及び性質、威力を変化させることが出来る。魔術を生業とするものを魔術師という。
「へー、知らんかった。」
「ちょっと待ってください。魔法は魔術に劣ると私の家では教わってきました。それと魔導士になるには魔術を究めなければいけないとも・・・。」
「ああ、その考え方はかなり古いわね。帝国と王国が戦争していたころ、実用的に用いられたのは魔術なの。魔術は、略式詠唱、性質変化、威力変化をすることが出来るから、これが研究されたのね。その時よく言われたのが、魔術は魔導に匹敵する。そして、魔法よりも高威力で魔法を放てるってね。でも、悠久の魔導師の出現によってその考え方は一変した。彼女はこう言った。『私たちが作った魔法を打てないのは単に魔力が低いだけ。そしてもう一つ、魔法と魔術を究めなければ、魔導師にはなれないし、高位の魔法を放てなければ、新しい魔法を生み出すなんて論外だ。魔導師は神に認められてなれるものであり、人によって認められた魔導師は偽物として神に断罪される。何人かいたでしょう、雷に打たれて死んだ奴。あれ神様だからって』と彼女は言った。この発言により魔術と魔法の考え方が見直され、現在、魔術と同等のものとして魔法が研究されることになったのよ。」
「でも、書物では魔術書と魔導書が一般的に用いられますよね。特に魔導書は生活になくてはならないものとして平民にも普及してます。魔法書を持っているのは私達学生や研究者だけ。やっぱり扱いづらいからですか。」
「それもちっがーーーう!!」
「ひ!」
「私たちのような研究者や学生が魔法書を持つのは魔法を行使する為だけじゃない。正確に呪文、魔法陣を覚えることが第一なの。例えば、『炎よ丸まれファイアボール!』。見てこの魔術、一見して見れば炎の球に見えるけど、こうやって壁に向かって投げると!」
ドカーーーーン!!
「すげー!これが先生の魔術って、あれ?」
「壁が吹っ飛ぶと思ったけど?」
「焦げただけですか?」
「はいちゅうもーく!このように少し焦げただけで壊れてません。ただの音が大きいだけのボールです。これなら、石を投げた方が相手を殺せます。はい、じゃ、そこの頭よさそうに見えるおかっぱの馬鹿!なぜでしょうか?」
「・・・そうか中身がないんだ。」
「中身?」
「そうね。中身がなければただの張りぼての炎の球・・・それがこのファイアボールなんですね。」
「正解です。魔術にはこういった欠点が存在したの。でも、魔法を正確に発現すると〈魔より来りて炎の原人イフリート、今この時大気は丸く円を描きて空に放つは炎の球!ファイアボール!〉」
どががががががが!ガーン!!!!
「うわ!壊れた!」
「すっげーーーー!!」
「これが本当のファイアボールの威力!」
「フッフーン!キャピ!私ってすごいでしょ。このように魔法の詠唱をしっかりと暗記しなければ、こういったファイアーボールは打てません。つまり、魔術は魔法の性質をしっかりと理解しなければならないの。」
「そうですね。でも・・・この状況まずいのでは・・・。」
「あ!いない!」
「なんだ!壁がいきなり壊れたぞ!そこの三人!教員室に連行する!」
「僕たちのせいじゃなーーーーーーーーーーーーい!」
--------------------------------------
モグラはファルシオンに言われ魔物を倒しつつ、周囲にある木を切り倒していた。ファルシオンはある魔法書を取り出すと、暢気に宙に浮きながら読んでいる。たまに魔法陣を地面に落書きしつつ、バッグから取り出したクッキーを食べながらフンフーンと鼻歌を歌っている。その光景は傍から見れば頭のおかしくなった者達だった。
(これでいいでござるか。)
(あ、ごめん。もうちょっとそこの木を切っておいて。あとそこに切り株残ってるから。)
(い、いや。魔法陣であれば丸く切らなければならないのでは?)
(いいのいいの。やっといて。まだ、ちょっと時間がかかりそうだからゆっくり時間をかけてよろしく。)
(わ、わかったでござる。)
魔道具を使用した、声を発さない会話をしながら言われるままにモグラは木を切る。ただ、ファルシオンから言われたことは一辺に切らず、ゆっくりと木こりが切る速度で丁寧に切ってほしいということと切り株をすべて避けるということだった。ファルシオンから伝えられた作戦は袋のネズミ作戦と言うことなのだが、ギルティアからすればさぞ自分たちの方が馬鹿なネズミに見えていることだろう。ただ、奇妙なことにたまに魔物が来るだけでギルティアからの攻撃は一切ない。はっきり言って不気味だ。
(しかし、ファル姉は凄いでござるな。)
(何が?)
(この状況下に置いても全く自分を見失わず、動じていない。まるで像のような方でござる。)
(失敬ね。それに私は何事にも楽しむことにしてるのよ。)
(楽しむ、か。)
(そうよ。魔法や魔術はその人間性に反映される。心がかき乱されれば、結局自分のものが出せなくなる。いるのよね、クソ真面目に馬鹿みたいに何かを信じ込んでる奴。そういう人間は自由に何かを想像できなくなる。そして裏切られた時、その一回で全てを信じられなくなって、魔法や魔術を使わずに杖で殴ろうとしてくる。魔法は想像。でも、現実にその現象を引き起こす。決して信じる力なんかじゃない。自分の実力と向き合いながら、今目の前で起こっていることを理解しようとするの。私達の生まれてくる前それは科学と呼ばれていたらしいわ。)
(科学でござるか?)
(ええ、朽ちた書物にそういうことが書かれてたわ。あれ楽しかったわよ。知らない言語で書かれてたんだけど、何と魔力を使わずに現象を起こす力が人間にあったって話だったわ。でも、同じなのよ。起きたことに対して考察し、信を交えず、何かに捕らわれないものだけがその力を自由に扱う。それが魔法の源なのよ。本は私が呼んでるときにエールをこぼして、火で乾かしたらあら不思議。なくなってしまったのよ。)
(じ、自由過ぎて拙者・・・ついていけないでござる。)
(えへへ、照れるぜ。ほめられても何も出ないわよ。)
ファルシオンは鼻の下を右手の人差し指でこすりながら得意げに話しているが、研究者がそれを聞いたら卒倒するだろう。古代の遺物の中には大きな人型ロボットや鉄の戦艦などが見つかっているが、動力やシステムがわからず、日夜研究が進められている。ただ、理解できずに倉庫の肥やしになっているものも少なくない。エルドラドの銃は機工が単純であり、魔法なども組み合わせられるため、貴族や王族にも流通しているが、単純に魔法の方が戦力としては優秀なため、用いられることは少ない。
(・・・あの真面目な研究馬鹿が聞いたら、きっと死んでしまう内容だな。その者は友人だ。ファル姉は会わないように念を押したい。)
(それってどういう意味よ。まったく、動じてないのはあんたもでしょ。)
(何故そう思うでござるか?)
(感情のブレを見せてるつもりでしょうが、経験上それはフェイク。人間であることを失いたくない最後の抵抗・・・そんな感じなのかしらね。私が変なことしても、命令に忠実に従ってる。疑問は感じてるのに、変なことをささせられてるのに、淡々とこなしていく。対価があれば疑問を感じず人間は動けるけど、あなたは違う。心を動かしているように見せているだけ。言語化するとそんな感じかしら。)
(・・・以前、周師範から言われたことがあるでござる。人には人の武器がある。だから人間らしさを失ってわいけないと。だが、過酷な修行をしていると自分は人間じゃなくなったような、そんな喪失感に捕らわれる。暗闇の中で何も疑問を感じなくなった時、その師範の言葉を思い出した。だからこそ、人の前では人でありたい。大切なものの前ではその人が幸せであって欲しい・・・だから、心の奥底から踏ん張って隆起させるのである。感情のブレは人に安心感を持たせる。この人は人なんだと思わせる言わば会話を持たぬコミュニケーション。だから、大切なのである。)
胸に手を当てながら空を見る。アイテムボックス内なので、きっとこれは作り物なのだが、精巧に作られている為、本物と言っても遜色ないのだろう。
(なぜギルティアはこの空間を作ったのだろうか?)
(・・・それがあなたがギルティアと話したい理由?)
(・・・聖剣の勇者だったころ、俺は強さに憧れた。村を訪れたAランク冒険者・・・そいつがセレンを襲っていた時、俺は無謀にも戦いを挑んだんだ。結果は惨敗。身体はボロボロで足の骨なんかむき出しだった。結局、教会の婆が騒ぎを聞きつけて降臨、その後は婆が全員滅多打ちにして半殺し・・・でも、俺はその強さに憧れた。婆にじゃない、そのAランク冒険者にだ。婆は俺が見た感じはるか高みに立っていた。きっと手の届かないところにいるんだろう。でも、そいつらは違った。だから、そんな強さを手にしたいと思って、酷いことをいろいろした。ギルティアたちは何を思って、戦争をしているのだろうか。そう思ったでござるよ。それにジークの件もある。あいつは拙者と違うが、根本は同じだ。兄弟が困った状況になったらそれを助けるのが兄貴の役目。)
(あなたは理由を知ったら殺せるの?)
(殺すさ。奴はもう引くことが出来ないところに来てしまっている。殺し過ぎだ。ならば、誰かがやらなくてはならない。肉切り包丁では何ともならなかったが、これならば問題あるまい。)
(そう・・・。でも、あなたは一人じゃない。あまり背負わないでね。)
(ファル姉。頼りにしている。)
(まかせなさいよ!じゃあ、やりましょうか!)
ファルシオンはバタンと魔法書を閉じる。すると、魔法書が突然光だし、バラバラと捲れていく。地面にペンタゴンの形の魔法陣が描かれ、周囲に文字が、中央に複雑な形の図形が描かれていく。
「ラファエル、ガブリエル、ミカエルの大天使よ。その翼を広げて天を駆け、宇宙を目指し、神の御身に降り注ぎし害悪を打ち倒し、その傷を癒し、願わくは太平に幸福と平和をもたらし給え。願わくはそのお力を私達人間に貸し、今この時この場所でその力、その御心で邪なるものの野望を持ちしものの元までこの剣を届け給え!アブソリュートゼロガイア!バーストファルシオン!」
ファルシオンは天に左手を掲げると白い極太な光線が空に向かって放たれる。それと同時に二人の身体が白い光に包まれる。そして、そこには誰もいなくなる。あとに残ったものは、たった一枚の羽だった。
「はーい!冬のテストで赤点取った馬鹿のみなさーん!今日も授業を始めますよ~!」
「うわー・・・あれどうにかならないかな。」
「どうにもならないだろ。なんせ俺たちのせいで、先生、彼氏とのデートがおじゃんになったんだから。」
「はーい、そこの馬鹿ども今日の実験の材料になってもらいまーす。」
「いやだー!!!」
「っと冗談はこれくらいにして・・・はい、そこの成績優秀なのにテストの日に体調崩して休んだ馬鹿お嬢様!魔法と魔術と魔導の違いについてお答え下さい。」
「先生・・・すいませんでした。えーっと確かこんな感じでしたよね。」
魔法・・・使い勝手が悪く、詠唱も長い。略式詠唱で呪文を唱えても発現しない。
魔術・・・使いやすく、略式詠唱が可能。また、場面場面での臨機応変な対応が可能。
魔導・・・魔法を作成すること。
「はーい、全然違います。てか、テストにそんなこと書いちゃだめだから。」
「え、違うんですか?でも、家庭教師の方からはこう教わりましたけど。」
「はい。じゃあ正解はこれです。」
魔導・・・魔力を正しい方向に導くことにより呪文、魔法陣を作成し、魔法を新たに生み 出すことを言う。魔導を生業とするものを魔導師と言う。
魔法・・・魔導師が作成したものを魔法と言う。詠唱や魔法陣などの方式を簡略化や性質変化させることなどは出来ないが、魔力によっては最高位の魔法を放つことが出来る。魔法を生業とするものを魔法使いという。
魔術・・・魔法を略式詠唱、及び性質、威力を変化させることが出来る。魔術を生業とするものを魔術師という。
「へー、知らんかった。」
「ちょっと待ってください。魔法は魔術に劣ると私の家では教わってきました。それと魔導士になるには魔術を究めなければいけないとも・・・。」
「ああ、その考え方はかなり古いわね。帝国と王国が戦争していたころ、実用的に用いられたのは魔術なの。魔術は、略式詠唱、性質変化、威力変化をすることが出来るから、これが研究されたのね。その時よく言われたのが、魔術は魔導に匹敵する。そして、魔法よりも高威力で魔法を放てるってね。でも、悠久の魔導師の出現によってその考え方は一変した。彼女はこう言った。『私たちが作った魔法を打てないのは単に魔力が低いだけ。そしてもう一つ、魔法と魔術を究めなければ、魔導師にはなれないし、高位の魔法を放てなければ、新しい魔法を生み出すなんて論外だ。魔導師は神に認められてなれるものであり、人によって認められた魔導師は偽物として神に断罪される。何人かいたでしょう、雷に打たれて死んだ奴。あれ神様だからって』と彼女は言った。この発言により魔術と魔法の考え方が見直され、現在、魔術と同等のものとして魔法が研究されることになったのよ。」
「でも、書物では魔術書と魔導書が一般的に用いられますよね。特に魔導書は生活になくてはならないものとして平民にも普及してます。魔法書を持っているのは私達学生や研究者だけ。やっぱり扱いづらいからですか。」
「それもちっがーーーう!!」
「ひ!」
「私たちのような研究者や学生が魔法書を持つのは魔法を行使する為だけじゃない。正確に呪文、魔法陣を覚えることが第一なの。例えば、『炎よ丸まれファイアボール!』。見てこの魔術、一見して見れば炎の球に見えるけど、こうやって壁に向かって投げると!」
ドカーーーーン!!
「すげー!これが先生の魔術って、あれ?」
「壁が吹っ飛ぶと思ったけど?」
「焦げただけですか?」
「はいちゅうもーく!このように少し焦げただけで壊れてません。ただの音が大きいだけのボールです。これなら、石を投げた方が相手を殺せます。はい、じゃ、そこの頭よさそうに見えるおかっぱの馬鹿!なぜでしょうか?」
「・・・そうか中身がないんだ。」
「中身?」
「そうね。中身がなければただの張りぼての炎の球・・・それがこのファイアボールなんですね。」
「正解です。魔術にはこういった欠点が存在したの。でも、魔法を正確に発現すると〈魔より来りて炎の原人イフリート、今この時大気は丸く円を描きて空に放つは炎の球!ファイアボール!〉」
どががががががが!ガーン!!!!
「うわ!壊れた!」
「すっげーーーー!!」
「これが本当のファイアボールの威力!」
「フッフーン!キャピ!私ってすごいでしょ。このように魔法の詠唱をしっかりと暗記しなければ、こういったファイアーボールは打てません。つまり、魔術は魔法の性質をしっかりと理解しなければならないの。」
「そうですね。でも・・・この状況まずいのでは・・・。」
「あ!いない!」
「なんだ!壁がいきなり壊れたぞ!そこの三人!教員室に連行する!」
「僕たちのせいじゃなーーーーーーーーーーーーい!」
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モグラはファルシオンに言われ魔物を倒しつつ、周囲にある木を切り倒していた。ファルシオンはある魔法書を取り出すと、暢気に宙に浮きながら読んでいる。たまに魔法陣を地面に落書きしつつ、バッグから取り出したクッキーを食べながらフンフーンと鼻歌を歌っている。その光景は傍から見れば頭のおかしくなった者達だった。
(これでいいでござるか。)
(あ、ごめん。もうちょっとそこの木を切っておいて。あとそこに切り株残ってるから。)
(い、いや。魔法陣であれば丸く切らなければならないのでは?)
(いいのいいの。やっといて。まだ、ちょっと時間がかかりそうだからゆっくり時間をかけてよろしく。)
(わ、わかったでござる。)
魔道具を使用した、声を発さない会話をしながら言われるままにモグラは木を切る。ただ、ファルシオンから言われたことは一辺に切らず、ゆっくりと木こりが切る速度で丁寧に切ってほしいということと切り株をすべて避けるということだった。ファルシオンから伝えられた作戦は袋のネズミ作戦と言うことなのだが、ギルティアからすればさぞ自分たちの方が馬鹿なネズミに見えていることだろう。ただ、奇妙なことにたまに魔物が来るだけでギルティアからの攻撃は一切ない。はっきり言って不気味だ。
(しかし、ファル姉は凄いでござるな。)
(何が?)
(この状況下に置いても全く自分を見失わず、動じていない。まるで像のような方でござる。)
(失敬ね。それに私は何事にも楽しむことにしてるのよ。)
(楽しむ、か。)
(そうよ。魔法や魔術はその人間性に反映される。心がかき乱されれば、結局自分のものが出せなくなる。いるのよね、クソ真面目に馬鹿みたいに何かを信じ込んでる奴。そういう人間は自由に何かを想像できなくなる。そして裏切られた時、その一回で全てを信じられなくなって、魔法や魔術を使わずに杖で殴ろうとしてくる。魔法は想像。でも、現実にその現象を引き起こす。決して信じる力なんかじゃない。自分の実力と向き合いながら、今目の前で起こっていることを理解しようとするの。私達の生まれてくる前それは科学と呼ばれていたらしいわ。)
(科学でござるか?)
(ええ、朽ちた書物にそういうことが書かれてたわ。あれ楽しかったわよ。知らない言語で書かれてたんだけど、何と魔力を使わずに現象を起こす力が人間にあったって話だったわ。でも、同じなのよ。起きたことに対して考察し、信を交えず、何かに捕らわれないものだけがその力を自由に扱う。それが魔法の源なのよ。本は私が呼んでるときにエールをこぼして、火で乾かしたらあら不思議。なくなってしまったのよ。)
(じ、自由過ぎて拙者・・・ついていけないでござる。)
(えへへ、照れるぜ。ほめられても何も出ないわよ。)
ファルシオンは鼻の下を右手の人差し指でこすりながら得意げに話しているが、研究者がそれを聞いたら卒倒するだろう。古代の遺物の中には大きな人型ロボットや鉄の戦艦などが見つかっているが、動力やシステムがわからず、日夜研究が進められている。ただ、理解できずに倉庫の肥やしになっているものも少なくない。エルドラドの銃は機工が単純であり、魔法なども組み合わせられるため、貴族や王族にも流通しているが、単純に魔法の方が戦力としては優秀なため、用いられることは少ない。
(・・・あの真面目な研究馬鹿が聞いたら、きっと死んでしまう内容だな。その者は友人だ。ファル姉は会わないように念を押したい。)
(それってどういう意味よ。まったく、動じてないのはあんたもでしょ。)
(何故そう思うでござるか?)
(感情のブレを見せてるつもりでしょうが、経験上それはフェイク。人間であることを失いたくない最後の抵抗・・・そんな感じなのかしらね。私が変なことしても、命令に忠実に従ってる。疑問は感じてるのに、変なことをささせられてるのに、淡々とこなしていく。対価があれば疑問を感じず人間は動けるけど、あなたは違う。心を動かしているように見せているだけ。言語化するとそんな感じかしら。)
(・・・以前、周師範から言われたことがあるでござる。人には人の武器がある。だから人間らしさを失ってわいけないと。だが、過酷な修行をしていると自分は人間じゃなくなったような、そんな喪失感に捕らわれる。暗闇の中で何も疑問を感じなくなった時、その師範の言葉を思い出した。だからこそ、人の前では人でありたい。大切なものの前ではその人が幸せであって欲しい・・・だから、心の奥底から踏ん張って隆起させるのである。感情のブレは人に安心感を持たせる。この人は人なんだと思わせる言わば会話を持たぬコミュニケーション。だから、大切なのである。)
胸に手を当てながら空を見る。アイテムボックス内なので、きっとこれは作り物なのだが、精巧に作られている為、本物と言っても遜色ないのだろう。
(なぜギルティアはこの空間を作ったのだろうか?)
(・・・それがあなたがギルティアと話したい理由?)
(・・・聖剣の勇者だったころ、俺は強さに憧れた。村を訪れたAランク冒険者・・・そいつがセレンを襲っていた時、俺は無謀にも戦いを挑んだんだ。結果は惨敗。身体はボロボロで足の骨なんかむき出しだった。結局、教会の婆が騒ぎを聞きつけて降臨、その後は婆が全員滅多打ちにして半殺し・・・でも、俺はその強さに憧れた。婆にじゃない、そのAランク冒険者にだ。婆は俺が見た感じはるか高みに立っていた。きっと手の届かないところにいるんだろう。でも、そいつらは違った。だから、そんな強さを手にしたいと思って、酷いことをいろいろした。ギルティアたちは何を思って、戦争をしているのだろうか。そう思ったでござるよ。それにジークの件もある。あいつは拙者と違うが、根本は同じだ。兄弟が困った状況になったらそれを助けるのが兄貴の役目。)
(あなたは理由を知ったら殺せるの?)
(殺すさ。奴はもう引くことが出来ないところに来てしまっている。殺し過ぎだ。ならば、誰かがやらなくてはならない。肉切り包丁では何ともならなかったが、これならば問題あるまい。)
(そう・・・。でも、あなたは一人じゃない。あまり背負わないでね。)
(ファル姉。頼りにしている。)
(まかせなさいよ!じゃあ、やりましょうか!)
ファルシオンはバタンと魔法書を閉じる。すると、魔法書が突然光だし、バラバラと捲れていく。地面にペンタゴンの形の魔法陣が描かれ、周囲に文字が、中央に複雑な形の図形が描かれていく。
「ラファエル、ガブリエル、ミカエルの大天使よ。その翼を広げて天を駆け、宇宙を目指し、神の御身に降り注ぎし害悪を打ち倒し、その傷を癒し、願わくは太平に幸福と平和をもたらし給え。願わくはそのお力を私達人間に貸し、今この時この場所でその力、その御心で邪なるものの野望を持ちしものの元までこの剣を届け給え!アブソリュートゼロガイア!バーストファルシオン!」
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