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2章

2-32 帝国と人売り

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 「グーラ族の里」での出来事を話すと、カリーナは頭を抱えてしまった。

「1つ目も大して調査出来てないのに、3つ目のダンジョンが発見されたらああなるわよねー」

 リーズが茶化すようにつぶやく。

「せっかく拠点を作っていたのに、残念でしたね…」

 カリーナの言葉に、グラッツは

「ご心配ありがとうございます。
 本当は領主様に迷惑を掛けたくなかったのですが…」

「いえ、危険なダンジョンである以上、こちらの戦力増強依頼も聞き入れてくれるでしょう。」

 カリーナは本国当てに手紙を書き始める。

「申し訳ありませんが、そちらは少し時間を要します。」

 この後、ダンジョン攻略の日程などを話し合い、会議を終える。

ーーーーーーーーー

 俺たちの家に戻ると、リーズにシャーリーの事を尋ねる。

「実はね、シャーリーとシャーリーの弟は「人売り」に捕まった事が有るの…。」

 「人売り」、奴隷商か…

「そして、それはエルフの末裔だった…
 どこの種族かまでは分からなかったけどね…」

「エルフが人売り?
 なんでそんなことを…」

「それも分からない…
 怒り狂ったシャーリーが、一人でその組織を壊滅してしまったから。」

 なるほど、それで「エルフ」が苦手なのか。

「小人族はいまでも帝国内では高く取引されてるみたい。
 だからルーデリア王国では禁止されていても、小人族は狙われやすい…」

 クソみたいな話だ…

 俺も捕まった事が有るから気持ちは分からなくもない。

「そして、それが原因で帝国と戦争に発展しそうでもあるの…」

 いつになく深刻そうな表情のリーズだ。

「帝国の現皇帝は、ルーデリアとの戦争を回避する為に王国内での人さらいが発覚したら、王国民と奴隷商の両方を引き渡す約束をしていたのだけど…
 現皇帝が病に伏してからは、うやむやになってきている…」

 俺が最初にさらわれた時の事件をナツキたちが追っていたのも、その調査の一環だったのか。

「民を愛する国王陛下の怒りは爆発寸前、いつ戦争になってもおかしくないわ。」

 まさかそこまでの事態になっていたなんて…


 コンコン

 
 ノックの音で冷静になる。

「どうぞ。」

 合図をすると、シャーリーは小人族を一人抱えて入ってきた。

「連れて来たわよ、ナツキ。」

 ナツキが呼んだようだ。

「カズ殿、勝手な事をして申し訳ありません。」

 いきなり謝られても困るが、一体…

「そう言う事ね…」

 リーズも聞かされていなかったようだ。

「その人は?」

「私の弟、シェールズよ。」

 中性的で少女のように見えなくもない彼はとてもぐったりとしている。

「ナツキに話したら、あなたなら助けてくれるって…
 お願い、助けて…」
 
 ナツキの友人という事もあるが、目の前で死にかけている人を放っておくことは出来ない。
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