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第3章 火焔の女王
7.復活の女神
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JR三鷹駅北口から徒歩五分のところにある新築分譲マンションのモデルルームを咲希と玉藻は訪れた。昨夜、神社幻影隊本部から帰ってすぐに、夜遅くまでインターネットで物件探しをしたのだ。その中で最有力候補がこのマンションだった。
聖光学院大学までは電車で四十分、道路の混み具合にもよるがバイクでも五十分以内で通学可能だった。S.A.P.本部のある代々木までは、JRで三十分と通勤・通学には問題ない立地であった。
三鷹駅北口からは徒歩五分と近く、周辺にはスーパーやコンビニもあって駅の反対側には昔ながらの商店街も並んでいた。すぐ近くに立つ二十八階建てのスカイタワーマンションの中には、病院やスーパー、スポーツジムなども完備されていた。
部屋の間取りは2LDKが主体で、各フロアに3LDKと1LDKが一部屋ずつあった。建物自体は十二階建てで、総部屋数は四十五室だった。その最上階にある3LDKの東南角部屋にキャンセルが出たため、急遽モデルルームの見学に来たのだった。
不動産業者の話を聞くと、販売価格は八千八百万円であった。今回の妖魔殲滅報酬である六千万と咲希のS.A.P.入隊契約金一千万を足して、不足分の千八百万円は玉藻が持っていた金の延べ棒を換金すれば即金で購入可能だった。問題は六十本もの金の延べ棒をどこで換金するかだったが、色葉に相談するとS.A.P.の取引先である貴金属商を紹介してもらえることになった。
「これだけ広ければ、ダブルベッドも十分に置けそうですわね」
十畳はある寝室に入ると、玉藻が嬉しそうな表情を浮かべながら言った。
「でも、三部屋あるんだから、一人一部屋ずつ使ってもいいんじゃない?」
「何を言ってるんですか? 私は咲希と一緒じゃないと嫌ですわ」
また激しく愛される可能性を危惧した咲希の提案は、玉藻によって即却下された。
「でも、せっかく三部屋……」
「一部屋は丸々クローゼットとして使います。もう一部屋は咲希の仕事兼勉強部屋です。だから、寝室は一つしかありませんわ」
「玉藻の部屋は……?」
最後の抵抗を試みた咲希の言葉は、軽く一蹴された。
「私はリビングと寝室があれば十分ですわ。この条件が呑めなければ、この話はなしですわよ」
「分かったわ……。一緒に寝ましょう……」
ハアッと小さくため息をつきながら、咲希が折れた。その様子を見て、玉藻が淫魔の笑みを浮かべながら大切なことを告げた。
「それに、週に一、二回は神気を分けていただかないと、私は倒れてしまいますわ」
「えッ……? そんなの、聞いてないわよ」
玉藻の言葉に、咲希は黒曜石の瞳を大きく見開いて告げた。
「前にお話ししたはずですわ。今までは咲希が寝ている間に咲耶の神気をこっそりといただいていたと……。でも、昂ぶった咲希からいただく神気の方が濃密ですので、回復が早いんですの……」
平然と告げた玉藻の言葉に、咲希は真っ赤に顔を染めた。
「もしかして、一緒に寝たいっていうのは、そういうことなの……?」
「当然ですわ。最近、咲希は力が上がってきたので、咲耶から神気をもらう必要が少なくなったのです。週に一度か二度のことなので、よろしくお願いしますわ」
ニッコリと笑みを浮かべながら、玉藻が告げた。その美しい貌を見つめながら、咲希は言葉を失った。
「あ、あんなことは……もうしないって、約束したじゃない……?」
「でも、辛くなったときには神気を分けてくださると約束していただきましたわ。神気がないと、私は弱って死んでしまいますわ」
困ったような表情を浮かべながら、玉藻が上目遣いに咲希を見つめた。
「わ、分かったわよ……。じゃあ、キスだけにして……。それ以上のことはしないって、約束して……」
週に二度も玉藻からあの壮絶な愛撫をされたら、間違いなく堕とされると思い、咲希は必死で懇願した。
「安心してください。咲希から求めない限り、それ以上のことはいたしませんから……」
「う、うん……。お願いね、玉藻……」
カアッと顔を赤らめながら、咲希が恥ずかしそうに告げた。だが、あの凄絶な快感を思い出すと、自分を抑えきれる自信が咲希にはなかった。
(分かっておりますわ、咲希……。あと一、二回、私の愛撫を受ければ、自分からそれを求めるようになりますわ。紂王や幽王でさえ、私の愛撫を得るために国を滅ぼしたのですから……。どんなに意志が強くても、女の咲希にそれを拒むことなど不可能ですわ……)
淫魔の微笑を内心に隠して、玉藻が愛おしそうに咲希を見つめた。
マンションの契約と保険の手続きなどを済ませると、咲希と玉藻は新宿の百貨店にベッドを見に行った。だが、不景気なのか、ベッドの展示数も少なく、気に入ったものが見つからなかった。
「ねえ、玉藻……。ここに行ってみない?」
スマートフォンでベッドを検索していた咲希が、液晶に表示されたブランドを玉藻に見せた。
「ジモンズですか? なるほど……。ずいぶんとベッドの種類があるみたいですわね。どこにあるのですか?」
「ショールームは有楽町ね。ダブルクッションのベッドって、前から憧れてたんだ。一流ホテルでも使われているブランドだし、見に行ってみない?」
ダブルクッションとは、ベッドフレームの代わりに厚いマットレスを二枚重ねるタイプのことだ。マットレスの厚さは一枚三、四十センチもあり、そのクッション性には定評があった。
「これなんて、よさそうですわね。少し高いですが、金の延べ棒を多めに換金すれば十分に買える金額ですし……」
玉藻が指したベッドを見て、咲希は顔を引き攣らせた。ダブルクッションのベッド本体とヘッドボード、ナイトテーブルなどのセットで、百六十万円を超えていたのだ。
「ち、ちょっと……。そんなに高いのじゃなくても……」
「何を言ってるんですか? 睡眠不足というのは美容の天敵なのですよ。この際ですから、最高の物を購入しましょう。換金する本数を六十本から百本くらいに増やせば、十分足りますわ……」
金の延べ棒の換金相場は、一本あたり約三十万円だった。マンションの購入資金に不足している千八百万円を補填するため、六十本を換金する予定だったのだ。それを百本にすると、手元に千二百万円は残る計算だった。
「玉藻といると、金銭感覚がおかしくなりそう……」
ハアッと大きなため息をつきながら、咲希が呟いた。それを聞いて、玉藻が笑いながら告げた。
「殷や西周の宮殿と比べたら、可愛いものですわ。あの頃は二百畳はある寝室で、五人は十分に寝られる広さの寝台を使っておりましたから……」
「二百畳って……」
目の前にいる美少女が、妲己や褒似と呼ばれた皇帝の寵姫であったことを咲希は思い出した。
「さあ、行きますわよ、咲希……」
その寵姫が、見る者を魅了する笑顔を浮かべながら咲希の手を取った。
(二人で新居の家具を揃えるなんて、まるで玉藻と結婚するみたい……)
自分の妄想に苦笑いを浮かべると、玉藻に手を引かれながら咲希は百貨店の寝具売り場を後にした。その妄想が現実にならないことを、咲希は心の中で切実に願った。
購入したマンションに引っ越したのは翌週の日曜日だった。この一週間は、引っ越しの手配や公共料金の手続き、転居の手続きなどに追われて咲希は多忙を極めた。
だが、その苦労も新しい部屋で暮らす喜びの前では、微々たるものだった。
「やっぱり、いいわね、この部屋……! 新宿の高層ビル街の夜景も見えるし、何よりも凄く広いからリラックスできるわ!」
リビングにある大きな窓には、新宿や渋谷の高層ビルの灯りが美しい絵画のように映っていた。買ったばかりの北欧風カーテンを開くと、咲希は大きく伸びをして喜びの声を上げた。
部屋の間取りは3LDKで、総面積は92平方メートルもあった。立川に借りていたマンションのおよそ三倍の広さだった。
重厚な入口の扉を開けるとリビングへ続くフローリングの廊下があり、その左側には六畳と八畳の洋室があった。六畳の方をクローゼットとして使い、八畳の部屋は咲希の仕事兼勉強部屋にしてもらった。
アイランドキッチンがあるリビングは十八畳で、新しく買った六十五インチのタイムシフト・テレビ、ウォールナットの本革張りソファとローテーブル、北欧風のリビングボードなどを置いた。このLDKの家具だけで、購入価格は二百万円を超えていた。
それにベッドを含む寝室の家具と咲希の書斎を合わせると、家具類だけで七百万円以上もかかったのだ。他にエアコンや家電製品、カーテンや絨毯、雑貨類などをすべて合計すると、一千万円近くの出費だった。
「少し値は張りましたが、気に入った物を揃えると気分がいいですわね」
部屋の中を見渡して満足そうな笑みを浮かべながら、玉藻が告げた。
「少し……ね? 玉藻の好みを優先したら、とんでもない金額になったんだけど……」
顔を引き攣らせながら、咲希が苦笑いを浮かべた。
「咲希と私の愛の巣なのですから、このくらいの出費は当然ですわ」
「あ、愛の巣って……? あんなことするのは、禁止だからね……」
カアッと顔を赤らめながら、咲希が恥ずかしそうに玉藻を睨んだ。
「分かっておりますわ。でも、そろそろ妖気が減って辛くなってきておりますの。早速、ベッドの使い心地を確かめましょう……」
そう告げると、玉藻は咲希の手を取って寝室へと向かおうとした。
「ち、ちょっと……。キ、キスだけだからね……。それ以上は禁止よ……!」
「大丈夫ですわ。咲希が求めない限り、それ以上のことはしてあげませんから……」
ニヤリと妖艶な笑みを浮かべると、玉藻が楽しそうに告げた。
(あたしから求めない限りって……、そんなこと絶対にあるはずない……わ)
凄絶な玉藻の愛撫を思い出すと、咲希は不安に慄きながら顔を赤らめた。
「くッ……はぁッ……いやッ……あッ……はぁあッ……!」
真っ赤に顔を赤らめ、眉間に深い縦皺を刻みながら咲希は両手で白いシーツを握り締めた。全身を駆け巡る官能の愉悦に、黒曜石の瞳から溢れた涙が白い頬を伝って流れ落ちた。
「どうしました、咲希……? そんなにイヤらしい声を上げて……? もしかして、もっとして欲しいのですか?」
「ち、違ッ……あッ、いやッ……はッ……あッ、はぁあッ……!」
ニヤリと笑いながら告げた玉藻の言葉を、咲希は激しく首を振って否定した。長い漆黒の髪が白いシーツの上を舞い乱れ、抑えようもない女の色香を撒き散らした。
今日の玉藻の愛撫は、今までとまったく異なっていた。普段であれば、口づけを交わして神気を吸われた瞬間に、壮絶な絶頂に襲われるのだった。だが、愛撫が始まってすでに一時間近く経つにもかかわらず、咲希は一度も歓喜の頂点を極めさせてもらえなかった。達しそうになる直前で玉藻は責める手を緩めて、咲希を絶対にイカせてくれなかったのだ。
限界まで昂ぶった白い肢体は情欲に紅潮し、熱い喘ぎを漏らす唇は今にも恥辱の言葉を漏らしそうだった。
「ここも、もうこんなにカチカチですわよ。どうして欲しいか、言ってごらんなさい……」
そう告げると、痛いほど突き勃っている媚芯を、玉藻がピンッと指先で弾いた。
「ひぃいいッ……!」
たったそれだけの刺激で、咲希はグンッと顎を突き上げて絶頂に達しそうになった。だが、玉藻はそれ以上敏感な部分には触れずに、やわやわと乳房を揉み上げ、脇腹をゆっくりとさすってきた。そのもどかしさに、黒曜石の瞳から大粒の涙が流れ落ちた。
(こんなの、堪えられない……。もう、イキたい……! イカせて……!)
溢れ出そうになる哀願の言葉を、咲希は唇を噛みしめて抑え込んだ。その言葉を告げたら、自分が二度と戻れなくなることを本能的に察していた。体中を走り抜ける快感に抗うように、咲希は白いシーツを指先が白くなるまで力一杯握り締めた。
(なかなか我慢強いですわね? でも、我慢すればするほど、あの時の快感が大きくなるってご存じなのでしょうか?)
ニヤリと淫魔の笑みを浮かべると、玉藻は脇腹をさすっていた右手をずらして咲希の叢に移動させた。そして、繊毛の柔らかさを楽しむと、ビッショリと濡れ光る花唇を指先で撫で上げた。
「ひぃいッ……! それ、いやぁッ……!」
白い顎をグンッと仰け反らせて、咲希が大きく喘いだ。クチャクチャと卑猥な音色を寝室に響かせながら、玉藻がニヤリと微笑んだ。
「ここも凄いことになっていますわよ、咲希……。こんなにイヤらしい音を立てて……。恥ずかしくありませんの……?」
「いやぁあッ……! やめッ……! あッ、あッ……ひぃいいッ……!」
自らが奏でる淫らな旋律に、咲希は恥辱のあまり真っ赤に染まった。だが、抗議の言葉を告げようとした瞬間、堪えようもない快絶に咲希は大きく仰け反った。
「でも、咲希が大好きなのは、こちらですわよね?」
そう告げると、玉藻は右手を少し上げて、硬く充血している真珠を探り当てた。そして、指先でコリコリと転がすと、慣れた手つきでクルンと薄皮を剥き上げた。
「ひぃいいッ……!」
その衝撃に、咲希の裸身がビックンッと大きく跳ね上がった。限界まで昂ぶらされた状態で、女の急所を責められたら堪ったものではなかった。
「ひぃいッ……! そこ、だめぇッ……! あッ、あッ……いやぁあッ……!」
真っ赤に充血した真珠を転がしながら溢れ出た蜜液を塗り込むと、咲希の声が切羽詰まったものに変わった。その崩壊が直前に迫っていることが、玉藻には手に取るように分かった。
「そんなに恥ずかしい声を上げて、どうしたのですか……?」
「だめッ……! だめぇえッ……! イッちゃうッ……! あッ、あッ……あぁああ……?」
ビクンッビクンッと裸身を痙攣させて絶頂を極めようとする寸前で、玉藻が指先を真珠から離した。
「どうされたのですか、咲希……? 私、約束しましたわよね? 咲希が求めない限り、それ以上のことはしてあげませんと……」
美しい貌に淫魔の笑みを浮かべると、不満そうな表情の咲希を見下ろして玉藻が告げた。その言葉の意味を悟ると、咲希はカアッと赤面して玉藻からプイッと顔を逸らせた。
「生意気な態度ですわね? でも、いつまでその強気が続くか、楽しみですわ……」
ニヤリと笑いながらそう告げると、玉藻は再び右手で咲希の敏感な真珠を責め始めた。同時に、左手で右の乳房を揉みしだきながらツンと突き勃った媚芯をコリコリと扱き上げた。そして、魅惑的な唇で左の媚芯を咥えると歯で甘噛みしながら舌先で転がした。
「ひぃいいッ……! いやぁあッ……! やめッ……! だめぇえッ……!」
一度限界まで昂ぶらされた女体が、女の急所を何カ所も同時に責められたら堪ったものではなかった。凄まじい官能の嵐が全身を駆け抜けると、咲希はあっという間に歓悦の頂点へ押し上げられた。
「だめッ、だめぇえッ……! イッちゃうッ……! イクッ……」
またしても咲希が絶頂を迎える直線に、玉藻がすべての責めを中断した。ハァ、ハァと熱い喘ぎを漏らしながら、官能の愉悦に蕩けきった瞳で咲希が茫然と玉藻を見つめた。
「イキたいのでしたら、ご自分から私におっしゃいなさい。『お願いします、玉藻さま。イカせてください』と……」
「誰が……そんなことを……」
随喜の涙が溢れた黒曜石の瞳で、咲希がキッと玉藻を睨みつけた。だが、三千年を生きる大淫魔は、その視線を受けながらも平然とした表情で告げた。
「素晴らしいですわ、咲希……。この私の愛撫を受けて、まだそんな眼ができるとは……。その美しい眼差しがいつまで続くのか、楽しみですわ!」
嬉しそうな表情を浮かべてそう告げると、玉藻は九尾狐の愛撫を再開した。
「あッ、あッ……だめぇッ……! いやッ……あッ、ひぃいいッ……!」
淫気を纏った唇と指先で責められて、咲希は激しく首を振りながら悶え啼いた。長い漆黒の髪が舞い乱れ、快感に喘ぐ女の色香を撒き散らした。
(こんなの続けられたら……あたし、おかしくなるッ……! もう、やめてッ! お願い、玉藻ッ……!)
だが、咲希の心の叫びを無視するように、玉藻の壮絶な愛撫は休むことなく続けられた。
「はッ……ひッ……もう……ゆるして……はッ……はぁッ……」
ビクンッビックンッと痙攣が止まらなくなった裸身を横たえながら、涎に塗れた咲希の唇から哀願の言葉が漏れた。玉藻の凄まじい焦らし責めが始まってから、二時間が経過していた。白い乳房の中心には薄紅色の媚芯が痛いほど突き勃ち、秘唇から溢れた蜜液はビッショリと白いシーツに淫らな染みを描いていた。
「許して、ではありませんわ。『お願いします、玉藻さま。イカせてください』ですわ……」
随喜の涙と涎を垂れ流している咲希を見下ろすと、玉藻が満足そうな笑みを浮かべながら告げた。
(思っていたよりも時間がかかりましたが、これで咲希は私のものになりますわ。私の妖気を乗せた言霊を自分から言えば、二度と私の言葉に逆らえなくなりますわ……)
「はぁ……はぁッ……。お、お願い……します……玉藻さま……」
壮絶な官能にトロンと蕩けきった瞳で玉藻の美貌を見つめると、咲希は屈服のセリフを口にし始めた。
(咲耶……ごめん……。これ以上……堪えられない……)
「どうか……あたしを……イカせ……」
その瞬間、全身の細胞が生まれ変わったかのような、超絶な神気が咲希の中から溢れ出た。咲希の裸身から凄まじい閃光が放射され、真っ白い光輝に包まれた。
『遅くなって悪かった、咲希ッ……! よく頑張ったッ! あとは私に任せるがよいッ!』
咲耶の意志が急速に浮上するとともに、咲希の意志が心の奥底に沈んでいった。
(咲耶ッ……! 遅すぎるわよ、このへっぽこ女神ッ!)
その思考を最後に、咲希は咲耶と入れ替わった。
「ひッ……!」
喉元に突きつけられた<咲耶刀>に気づくと、玉藻は蒼白な表情を浮かべながら仰け反った。咲希の体から膨大な神気が溢れ出た瞬間、その雰囲気が別人の如く変わったのだ。
「さ……咲耶……?」
上半身を起こした目の前の美少女の瞳を見つめた瞬間、咲希と咲耶が入れ替わったことに玉藻は気づいた。黒曜石の輝きを宿す瞳が、激しい怒りの焔を映しながら真っ直ぐに玉藻を見据えていた。
「ずいぶんと咲希をいたぶってくれたな、女狐めが……! 今度は封印と言わず、その存在自体を消滅させてやろうぞッ!」
咲耶の全身から溢れ出る膨大な神気に、玉藻はガクガクと慄え始めた。
先日、玉藻は咲耶のSA係数を一万三千くらいだと咲希に告げた。それが大きな誤りであったことに、玉藻は気づいた。少なく見積もっても、今の咲耶が自分の二倍以上の力を持っているのは確実だった。
「ま、待って……咲耶……。わ、私を殺したら、兄が……」
必死で命乞いを始めた玉藻の言葉を、咲耶は一顧だにしなかった。
「素戔嗚が来るならば、いつでも来るがよいッ! だが、奴が来る前に、お前の首はその体から離れておるわッ!」
壮絶な神気を全身から燃え上がらせる咲耶に、玉藻は心の底から震え上がった。
「お、お願い、咲耶……。助けてッ……。咲希が愛しいあまり、やり過ぎたことは認めるわ……。二度としないから、お願い……」
凄まじい恐怖に、星々の煌めきを映す黒瞳から涙を溢れさせながら玉藻が哀願した。今の咲耶がその気になれば、自分など瞬殺されてしまうことが玉藻には痛いほど分かっていた。
『咲耶ッ! あたしからもお願いッ! 玉藻を殺さないでッ!』
咲耶が本気で玉藻の生命を奪おうとしていることを知り、咲希が慌てて叫んだ。
(何故じゃ? 此奴を生かしておけば、また同じ目に遭うぞッ! 次は本当に堕とされてしまうかも知れぬッ! 淫魔と人間が共生することは不可能じゃッ!)
咲耶の言葉が正論であることは、咲希にも十分に理解できた。だが、それでも咲希は玉藻に死んで欲しくなかった。
『玉藻は、あたしを親友って言ってくれたわッ! あたしも玉藻が大好きなのッ! 嫌いだったら、一緒に住もうなんて思わないわッ!』
(しかし……)
反論しようとした咲耶を遮って、咲希が続けた。
『玉藻に、二度とあたしを堕とそうとしないって誓わせてッ! 少しくらいの神気なら上げてもいいけど、今日みたいなことは絶対にしないって約束させてッ! それで、手を打つわッ!』
(……。分かった……。ただし、もしその誓いを破った時には、九尾狐の生命を奪うぞ!)
『うん……。ありがとう、咲耶……』
「九尾狐、咲希からの伝言じゃ……。心して聞くがよいッ!」
厳かな神託を告げるような声で、咲耶が玉藻の美貌を見据えた。玉藻はビクンと体を震わせながら、咲耶を見つめ返した。
「は、はい……」
「お前の生命は、一時預かる。今日のように咲希を自分のものにしようとしたら、次は絶対に許さぬ。このことを、私の……いや、アマテラスの名に誓うがよいッ!」
咲耶は高天原を統べる主宰神であり、太陽神である女神の名を告げた。
「ア、アマテラスの……? わ、分かりましたわ……」
玉藻はベッドから降り立つと、両膝を床について胸の前で両手を組んだ。そして、長い漆黒の髪を揺らしながら頭を下げて祈りを始めた。
「高天原に鎮まりまします天照皇大御神さま……。私、九尾狐はここに誓います。神守咲希を二度と我が手に入れようとせぬことを……。この誓い破りし時は、我が生命を捧げ奉ります……」
誓いを終えると、玉藻は深く頭を下げて額を床に付けた。
「よかろう。お主の誓い、この木花咲耶がしかと見届けたッ!」
そう告げると、咲耶は<咲耶刀>を左腰に差した神鞘に戻した。咲希は<咲耶刀>に鞘があることを初めて知った。
『ありがとう、咲耶……。これでもう安心ね?』
(そうじゃな。九尾狐ほどの妖魔であれば、その誓いは言霊となってアマテラスに届くはずじゃ。この誓いは、一生破られることはない。自分に向けられた誓いを破った者をアマテラスは許さぬからな……)
咲耶は満足そうな笑みを浮かべながら、玉藻を見据えた。玉藻は美しい裸身を咲耶の前に晒しながら立ち上がった。
「それと九尾狐よ……」
「は、はい……!」
咲耶の呼びかけに、ビクンと肩を震わせながら玉藻が答えた。
「アマテラスへの誓いは先ほど済んだが、私への誓いが残っておるぞ」
「咲耶への……さ、咲耶さまへの誓いでございますか……?」
玉藻が咲耶に敬称をつけたことに、咲希は驚いた。今までずっと呼び捨てだったのだ。
「毎朝、私に神饌を捧げよ……」
「し、神饌でございますか……?」
咲耶の言葉に、玉藻が驚いた。まさか、神饌を要求されるとは思ってもいなかった。
「そうじゃ……。神饌には、必ずデザートを付けるがよい。そうじゃな……。デザートはプリンにしてもらおうか……?」
『こら、咲耶ッ! この流れで、プリンなんて要求するんじゃないッ!』
咲耶の魂胆を見通して、咲希が慌てて叫んだ。
(よいではないか? 最近、此奴に神気を吸われたせいで、ずっと眠っておったのじゃ。しばらく、プリンを食べてないではないか?)
『プリンなら今度食べさせてあげるから、神饌は却下よッ! 毎朝なんて、面倒くさいわッ!』
先ほどまでの凜々しい女神はどこに行ったのかと、咲希は言いたかった。
(では、今すぐに食べさせるのじゃ! そうじゃ、此奴に買いに行かせようぞッ!)
『ち、ちょっと……』
咲希が止める間もなく、咲耶は玉藻に向かって重々しい口調で告げた。
「咲希が神饌まで用意する必要はないと言っておる。その代わり、お主には今すぐに買い物に行ってもらうことになった……」
『あたし、そんなこと言ってないわよッ!』
「買い物……でごさいますか?」
話がまったく見えていない玉藻が、驚いた表情で咲耶に訊ねた。
「そうじゃ……。急いで、プリンを五個買ってくるがよい」
『五個って……』
「プ、プリンでございますか……? か、かしこまりました……」
そう告げると、玉藻は慌てて脱ぎ散らかした服を身につけ始めた。
『七個に変更してッ! あたしも食べたいッ! 玉藻とあたしの分も追加してッ!』
「いや、待つがよい。やはり、七個買ってきてもらうとしよう」
咲希の言葉に頷くと、咲耶が威厳に満ちた表情で玉藻に告げた。
「七個……で、ございますね? かしこまりましたわ。すぐに買いに行ってまいります」
衣服を整え終えた玉藻が、丁寧に咲耶に頭を下げた。そして、寝室のドアを開けると、早足で玄関に向かって行った。
『まったく……。三大妖魔にプリンを買いに行かせる女神が、どこの世界にいるのよ?』
(そういう咲希だって、ちゃっかりと自分の分を追加したではないか?)
『だって……あたしもプリン、食べたかったんだもの……』
(やはり、そうじゃろう! あれほど美味が他にあるはずがなかろうッ!)
『そうね……。やっぱり、何だかんだで一番美味しいスィーツかも……?』
守護神とその生まれ変わりは、珍しく意見が一致したことを喜び合った。その巻き添えを喰って、三大妖魔は近くのコンビニまで走らされたのだった。
聖光学院大学までは電車で四十分、道路の混み具合にもよるがバイクでも五十分以内で通学可能だった。S.A.P.本部のある代々木までは、JRで三十分と通勤・通学には問題ない立地であった。
三鷹駅北口からは徒歩五分と近く、周辺にはスーパーやコンビニもあって駅の反対側には昔ながらの商店街も並んでいた。すぐ近くに立つ二十八階建てのスカイタワーマンションの中には、病院やスーパー、スポーツジムなども完備されていた。
部屋の間取りは2LDKが主体で、各フロアに3LDKと1LDKが一部屋ずつあった。建物自体は十二階建てで、総部屋数は四十五室だった。その最上階にある3LDKの東南角部屋にキャンセルが出たため、急遽モデルルームの見学に来たのだった。
不動産業者の話を聞くと、販売価格は八千八百万円であった。今回の妖魔殲滅報酬である六千万と咲希のS.A.P.入隊契約金一千万を足して、不足分の千八百万円は玉藻が持っていた金の延べ棒を換金すれば即金で購入可能だった。問題は六十本もの金の延べ棒をどこで換金するかだったが、色葉に相談するとS.A.P.の取引先である貴金属商を紹介してもらえることになった。
「これだけ広ければ、ダブルベッドも十分に置けそうですわね」
十畳はある寝室に入ると、玉藻が嬉しそうな表情を浮かべながら言った。
「でも、三部屋あるんだから、一人一部屋ずつ使ってもいいんじゃない?」
「何を言ってるんですか? 私は咲希と一緒じゃないと嫌ですわ」
また激しく愛される可能性を危惧した咲希の提案は、玉藻によって即却下された。
「でも、せっかく三部屋……」
「一部屋は丸々クローゼットとして使います。もう一部屋は咲希の仕事兼勉強部屋です。だから、寝室は一つしかありませんわ」
「玉藻の部屋は……?」
最後の抵抗を試みた咲希の言葉は、軽く一蹴された。
「私はリビングと寝室があれば十分ですわ。この条件が呑めなければ、この話はなしですわよ」
「分かったわ……。一緒に寝ましょう……」
ハアッと小さくため息をつきながら、咲希が折れた。その様子を見て、玉藻が淫魔の笑みを浮かべながら大切なことを告げた。
「それに、週に一、二回は神気を分けていただかないと、私は倒れてしまいますわ」
「えッ……? そんなの、聞いてないわよ」
玉藻の言葉に、咲希は黒曜石の瞳を大きく見開いて告げた。
「前にお話ししたはずですわ。今までは咲希が寝ている間に咲耶の神気をこっそりといただいていたと……。でも、昂ぶった咲希からいただく神気の方が濃密ですので、回復が早いんですの……」
平然と告げた玉藻の言葉に、咲希は真っ赤に顔を染めた。
「もしかして、一緒に寝たいっていうのは、そういうことなの……?」
「当然ですわ。最近、咲希は力が上がってきたので、咲耶から神気をもらう必要が少なくなったのです。週に一度か二度のことなので、よろしくお願いしますわ」
ニッコリと笑みを浮かべながら、玉藻が告げた。その美しい貌を見つめながら、咲希は言葉を失った。
「あ、あんなことは……もうしないって、約束したじゃない……?」
「でも、辛くなったときには神気を分けてくださると約束していただきましたわ。神気がないと、私は弱って死んでしまいますわ」
困ったような表情を浮かべながら、玉藻が上目遣いに咲希を見つめた。
「わ、分かったわよ……。じゃあ、キスだけにして……。それ以上のことはしないって、約束して……」
週に二度も玉藻からあの壮絶な愛撫をされたら、間違いなく堕とされると思い、咲希は必死で懇願した。
「安心してください。咲希から求めない限り、それ以上のことはいたしませんから……」
「う、うん……。お願いね、玉藻……」
カアッと顔を赤らめながら、咲希が恥ずかしそうに告げた。だが、あの凄絶な快感を思い出すと、自分を抑えきれる自信が咲希にはなかった。
(分かっておりますわ、咲希……。あと一、二回、私の愛撫を受ければ、自分からそれを求めるようになりますわ。紂王や幽王でさえ、私の愛撫を得るために国を滅ぼしたのですから……。どんなに意志が強くても、女の咲希にそれを拒むことなど不可能ですわ……)
淫魔の微笑を内心に隠して、玉藻が愛おしそうに咲希を見つめた。
マンションの契約と保険の手続きなどを済ませると、咲希と玉藻は新宿の百貨店にベッドを見に行った。だが、不景気なのか、ベッドの展示数も少なく、気に入ったものが見つからなかった。
「ねえ、玉藻……。ここに行ってみない?」
スマートフォンでベッドを検索していた咲希が、液晶に表示されたブランドを玉藻に見せた。
「ジモンズですか? なるほど……。ずいぶんとベッドの種類があるみたいですわね。どこにあるのですか?」
「ショールームは有楽町ね。ダブルクッションのベッドって、前から憧れてたんだ。一流ホテルでも使われているブランドだし、見に行ってみない?」
ダブルクッションとは、ベッドフレームの代わりに厚いマットレスを二枚重ねるタイプのことだ。マットレスの厚さは一枚三、四十センチもあり、そのクッション性には定評があった。
「これなんて、よさそうですわね。少し高いですが、金の延べ棒を多めに換金すれば十分に買える金額ですし……」
玉藻が指したベッドを見て、咲希は顔を引き攣らせた。ダブルクッションのベッド本体とヘッドボード、ナイトテーブルなどのセットで、百六十万円を超えていたのだ。
「ち、ちょっと……。そんなに高いのじゃなくても……」
「何を言ってるんですか? 睡眠不足というのは美容の天敵なのですよ。この際ですから、最高の物を購入しましょう。換金する本数を六十本から百本くらいに増やせば、十分足りますわ……」
金の延べ棒の換金相場は、一本あたり約三十万円だった。マンションの購入資金に不足している千八百万円を補填するため、六十本を換金する予定だったのだ。それを百本にすると、手元に千二百万円は残る計算だった。
「玉藻といると、金銭感覚がおかしくなりそう……」
ハアッと大きなため息をつきながら、咲希が呟いた。それを聞いて、玉藻が笑いながら告げた。
「殷や西周の宮殿と比べたら、可愛いものですわ。あの頃は二百畳はある寝室で、五人は十分に寝られる広さの寝台を使っておりましたから……」
「二百畳って……」
目の前にいる美少女が、妲己や褒似と呼ばれた皇帝の寵姫であったことを咲希は思い出した。
「さあ、行きますわよ、咲希……」
その寵姫が、見る者を魅了する笑顔を浮かべながら咲希の手を取った。
(二人で新居の家具を揃えるなんて、まるで玉藻と結婚するみたい……)
自分の妄想に苦笑いを浮かべると、玉藻に手を引かれながら咲希は百貨店の寝具売り場を後にした。その妄想が現実にならないことを、咲希は心の中で切実に願った。
購入したマンションに引っ越したのは翌週の日曜日だった。この一週間は、引っ越しの手配や公共料金の手続き、転居の手続きなどに追われて咲希は多忙を極めた。
だが、その苦労も新しい部屋で暮らす喜びの前では、微々たるものだった。
「やっぱり、いいわね、この部屋……! 新宿の高層ビル街の夜景も見えるし、何よりも凄く広いからリラックスできるわ!」
リビングにある大きな窓には、新宿や渋谷の高層ビルの灯りが美しい絵画のように映っていた。買ったばかりの北欧風カーテンを開くと、咲希は大きく伸びをして喜びの声を上げた。
部屋の間取りは3LDKで、総面積は92平方メートルもあった。立川に借りていたマンションのおよそ三倍の広さだった。
重厚な入口の扉を開けるとリビングへ続くフローリングの廊下があり、その左側には六畳と八畳の洋室があった。六畳の方をクローゼットとして使い、八畳の部屋は咲希の仕事兼勉強部屋にしてもらった。
アイランドキッチンがあるリビングは十八畳で、新しく買った六十五インチのタイムシフト・テレビ、ウォールナットの本革張りソファとローテーブル、北欧風のリビングボードなどを置いた。このLDKの家具だけで、購入価格は二百万円を超えていた。
それにベッドを含む寝室の家具と咲希の書斎を合わせると、家具類だけで七百万円以上もかかったのだ。他にエアコンや家電製品、カーテンや絨毯、雑貨類などをすべて合計すると、一千万円近くの出費だった。
「少し値は張りましたが、気に入った物を揃えると気分がいいですわね」
部屋の中を見渡して満足そうな笑みを浮かべながら、玉藻が告げた。
「少し……ね? 玉藻の好みを優先したら、とんでもない金額になったんだけど……」
顔を引き攣らせながら、咲希が苦笑いを浮かべた。
「咲希と私の愛の巣なのですから、このくらいの出費は当然ですわ」
「あ、愛の巣って……? あんなことするのは、禁止だからね……」
カアッと顔を赤らめながら、咲希が恥ずかしそうに玉藻を睨んだ。
「分かっておりますわ。でも、そろそろ妖気が減って辛くなってきておりますの。早速、ベッドの使い心地を確かめましょう……」
そう告げると、玉藻は咲希の手を取って寝室へと向かおうとした。
「ち、ちょっと……。キ、キスだけだからね……。それ以上は禁止よ……!」
「大丈夫ですわ。咲希が求めない限り、それ以上のことはしてあげませんから……」
ニヤリと妖艶な笑みを浮かべると、玉藻が楽しそうに告げた。
(あたしから求めない限りって……、そんなこと絶対にあるはずない……わ)
凄絶な玉藻の愛撫を思い出すと、咲希は不安に慄きながら顔を赤らめた。
「くッ……はぁッ……いやッ……あッ……はぁあッ……!」
真っ赤に顔を赤らめ、眉間に深い縦皺を刻みながら咲希は両手で白いシーツを握り締めた。全身を駆け巡る官能の愉悦に、黒曜石の瞳から溢れた涙が白い頬を伝って流れ落ちた。
「どうしました、咲希……? そんなにイヤらしい声を上げて……? もしかして、もっとして欲しいのですか?」
「ち、違ッ……あッ、いやッ……はッ……あッ、はぁあッ……!」
ニヤリと笑いながら告げた玉藻の言葉を、咲希は激しく首を振って否定した。長い漆黒の髪が白いシーツの上を舞い乱れ、抑えようもない女の色香を撒き散らした。
今日の玉藻の愛撫は、今までとまったく異なっていた。普段であれば、口づけを交わして神気を吸われた瞬間に、壮絶な絶頂に襲われるのだった。だが、愛撫が始まってすでに一時間近く経つにもかかわらず、咲希は一度も歓喜の頂点を極めさせてもらえなかった。達しそうになる直前で玉藻は責める手を緩めて、咲希を絶対にイカせてくれなかったのだ。
限界まで昂ぶった白い肢体は情欲に紅潮し、熱い喘ぎを漏らす唇は今にも恥辱の言葉を漏らしそうだった。
「ここも、もうこんなにカチカチですわよ。どうして欲しいか、言ってごらんなさい……」
そう告げると、痛いほど突き勃っている媚芯を、玉藻がピンッと指先で弾いた。
「ひぃいいッ……!」
たったそれだけの刺激で、咲希はグンッと顎を突き上げて絶頂に達しそうになった。だが、玉藻はそれ以上敏感な部分には触れずに、やわやわと乳房を揉み上げ、脇腹をゆっくりとさすってきた。そのもどかしさに、黒曜石の瞳から大粒の涙が流れ落ちた。
(こんなの、堪えられない……。もう、イキたい……! イカせて……!)
溢れ出そうになる哀願の言葉を、咲希は唇を噛みしめて抑え込んだ。その言葉を告げたら、自分が二度と戻れなくなることを本能的に察していた。体中を走り抜ける快感に抗うように、咲希は白いシーツを指先が白くなるまで力一杯握り締めた。
(なかなか我慢強いですわね? でも、我慢すればするほど、あの時の快感が大きくなるってご存じなのでしょうか?)
ニヤリと淫魔の笑みを浮かべると、玉藻は脇腹をさすっていた右手をずらして咲希の叢に移動させた。そして、繊毛の柔らかさを楽しむと、ビッショリと濡れ光る花唇を指先で撫で上げた。
「ひぃいッ……! それ、いやぁッ……!」
白い顎をグンッと仰け反らせて、咲希が大きく喘いだ。クチャクチャと卑猥な音色を寝室に響かせながら、玉藻がニヤリと微笑んだ。
「ここも凄いことになっていますわよ、咲希……。こんなにイヤらしい音を立てて……。恥ずかしくありませんの……?」
「いやぁあッ……! やめッ……! あッ、あッ……ひぃいいッ……!」
自らが奏でる淫らな旋律に、咲希は恥辱のあまり真っ赤に染まった。だが、抗議の言葉を告げようとした瞬間、堪えようもない快絶に咲希は大きく仰け反った。
「でも、咲希が大好きなのは、こちらですわよね?」
そう告げると、玉藻は右手を少し上げて、硬く充血している真珠を探り当てた。そして、指先でコリコリと転がすと、慣れた手つきでクルンと薄皮を剥き上げた。
「ひぃいいッ……!」
その衝撃に、咲希の裸身がビックンッと大きく跳ね上がった。限界まで昂ぶらされた状態で、女の急所を責められたら堪ったものではなかった。
「ひぃいッ……! そこ、だめぇッ……! あッ、あッ……いやぁあッ……!」
真っ赤に充血した真珠を転がしながら溢れ出た蜜液を塗り込むと、咲希の声が切羽詰まったものに変わった。その崩壊が直前に迫っていることが、玉藻には手に取るように分かった。
「そんなに恥ずかしい声を上げて、どうしたのですか……?」
「だめッ……! だめぇえッ……! イッちゃうッ……! あッ、あッ……あぁああ……?」
ビクンッビクンッと裸身を痙攣させて絶頂を極めようとする寸前で、玉藻が指先を真珠から離した。
「どうされたのですか、咲希……? 私、約束しましたわよね? 咲希が求めない限り、それ以上のことはしてあげませんと……」
美しい貌に淫魔の笑みを浮かべると、不満そうな表情の咲希を見下ろして玉藻が告げた。その言葉の意味を悟ると、咲希はカアッと赤面して玉藻からプイッと顔を逸らせた。
「生意気な態度ですわね? でも、いつまでその強気が続くか、楽しみですわ……」
ニヤリと笑いながらそう告げると、玉藻は再び右手で咲希の敏感な真珠を責め始めた。同時に、左手で右の乳房を揉みしだきながらツンと突き勃った媚芯をコリコリと扱き上げた。そして、魅惑的な唇で左の媚芯を咥えると歯で甘噛みしながら舌先で転がした。
「ひぃいいッ……! いやぁあッ……! やめッ……! だめぇえッ……!」
一度限界まで昂ぶらされた女体が、女の急所を何カ所も同時に責められたら堪ったものではなかった。凄まじい官能の嵐が全身を駆け抜けると、咲希はあっという間に歓悦の頂点へ押し上げられた。
「だめッ、だめぇえッ……! イッちゃうッ……! イクッ……」
またしても咲希が絶頂を迎える直線に、玉藻がすべての責めを中断した。ハァ、ハァと熱い喘ぎを漏らしながら、官能の愉悦に蕩けきった瞳で咲希が茫然と玉藻を見つめた。
「イキたいのでしたら、ご自分から私におっしゃいなさい。『お願いします、玉藻さま。イカせてください』と……」
「誰が……そんなことを……」
随喜の涙が溢れた黒曜石の瞳で、咲希がキッと玉藻を睨みつけた。だが、三千年を生きる大淫魔は、その視線を受けながらも平然とした表情で告げた。
「素晴らしいですわ、咲希……。この私の愛撫を受けて、まだそんな眼ができるとは……。その美しい眼差しがいつまで続くのか、楽しみですわ!」
嬉しそうな表情を浮かべてそう告げると、玉藻は九尾狐の愛撫を再開した。
「あッ、あッ……だめぇッ……! いやッ……あッ、ひぃいいッ……!」
淫気を纏った唇と指先で責められて、咲希は激しく首を振りながら悶え啼いた。長い漆黒の髪が舞い乱れ、快感に喘ぐ女の色香を撒き散らした。
(こんなの続けられたら……あたし、おかしくなるッ……! もう、やめてッ! お願い、玉藻ッ……!)
だが、咲希の心の叫びを無視するように、玉藻の壮絶な愛撫は休むことなく続けられた。
「はッ……ひッ……もう……ゆるして……はッ……はぁッ……」
ビクンッビックンッと痙攣が止まらなくなった裸身を横たえながら、涎に塗れた咲希の唇から哀願の言葉が漏れた。玉藻の凄まじい焦らし責めが始まってから、二時間が経過していた。白い乳房の中心には薄紅色の媚芯が痛いほど突き勃ち、秘唇から溢れた蜜液はビッショリと白いシーツに淫らな染みを描いていた。
「許して、ではありませんわ。『お願いします、玉藻さま。イカせてください』ですわ……」
随喜の涙と涎を垂れ流している咲希を見下ろすと、玉藻が満足そうな笑みを浮かべながら告げた。
(思っていたよりも時間がかかりましたが、これで咲希は私のものになりますわ。私の妖気を乗せた言霊を自分から言えば、二度と私の言葉に逆らえなくなりますわ……)
「はぁ……はぁッ……。お、お願い……します……玉藻さま……」
壮絶な官能にトロンと蕩けきった瞳で玉藻の美貌を見つめると、咲希は屈服のセリフを口にし始めた。
(咲耶……ごめん……。これ以上……堪えられない……)
「どうか……あたしを……イカせ……」
その瞬間、全身の細胞が生まれ変わったかのような、超絶な神気が咲希の中から溢れ出た。咲希の裸身から凄まじい閃光が放射され、真っ白い光輝に包まれた。
『遅くなって悪かった、咲希ッ……! よく頑張ったッ! あとは私に任せるがよいッ!』
咲耶の意志が急速に浮上するとともに、咲希の意志が心の奥底に沈んでいった。
(咲耶ッ……! 遅すぎるわよ、このへっぽこ女神ッ!)
その思考を最後に、咲希は咲耶と入れ替わった。
「ひッ……!」
喉元に突きつけられた<咲耶刀>に気づくと、玉藻は蒼白な表情を浮かべながら仰け反った。咲希の体から膨大な神気が溢れ出た瞬間、その雰囲気が別人の如く変わったのだ。
「さ……咲耶……?」
上半身を起こした目の前の美少女の瞳を見つめた瞬間、咲希と咲耶が入れ替わったことに玉藻は気づいた。黒曜石の輝きを宿す瞳が、激しい怒りの焔を映しながら真っ直ぐに玉藻を見据えていた。
「ずいぶんと咲希をいたぶってくれたな、女狐めが……! 今度は封印と言わず、その存在自体を消滅させてやろうぞッ!」
咲耶の全身から溢れ出る膨大な神気に、玉藻はガクガクと慄え始めた。
先日、玉藻は咲耶のSA係数を一万三千くらいだと咲希に告げた。それが大きな誤りであったことに、玉藻は気づいた。少なく見積もっても、今の咲耶が自分の二倍以上の力を持っているのは確実だった。
「ま、待って……咲耶……。わ、私を殺したら、兄が……」
必死で命乞いを始めた玉藻の言葉を、咲耶は一顧だにしなかった。
「素戔嗚が来るならば、いつでも来るがよいッ! だが、奴が来る前に、お前の首はその体から離れておるわッ!」
壮絶な神気を全身から燃え上がらせる咲耶に、玉藻は心の底から震え上がった。
「お、お願い、咲耶……。助けてッ……。咲希が愛しいあまり、やり過ぎたことは認めるわ……。二度としないから、お願い……」
凄まじい恐怖に、星々の煌めきを映す黒瞳から涙を溢れさせながら玉藻が哀願した。今の咲耶がその気になれば、自分など瞬殺されてしまうことが玉藻には痛いほど分かっていた。
『咲耶ッ! あたしからもお願いッ! 玉藻を殺さないでッ!』
咲耶が本気で玉藻の生命を奪おうとしていることを知り、咲希が慌てて叫んだ。
(何故じゃ? 此奴を生かしておけば、また同じ目に遭うぞッ! 次は本当に堕とされてしまうかも知れぬッ! 淫魔と人間が共生することは不可能じゃッ!)
咲耶の言葉が正論であることは、咲希にも十分に理解できた。だが、それでも咲希は玉藻に死んで欲しくなかった。
『玉藻は、あたしを親友って言ってくれたわッ! あたしも玉藻が大好きなのッ! 嫌いだったら、一緒に住もうなんて思わないわッ!』
(しかし……)
反論しようとした咲耶を遮って、咲希が続けた。
『玉藻に、二度とあたしを堕とそうとしないって誓わせてッ! 少しくらいの神気なら上げてもいいけど、今日みたいなことは絶対にしないって約束させてッ! それで、手を打つわッ!』
(……。分かった……。ただし、もしその誓いを破った時には、九尾狐の生命を奪うぞ!)
『うん……。ありがとう、咲耶……』
「九尾狐、咲希からの伝言じゃ……。心して聞くがよいッ!」
厳かな神託を告げるような声で、咲耶が玉藻の美貌を見据えた。玉藻はビクンと体を震わせながら、咲耶を見つめ返した。
「は、はい……」
「お前の生命は、一時預かる。今日のように咲希を自分のものにしようとしたら、次は絶対に許さぬ。このことを、私の……いや、アマテラスの名に誓うがよいッ!」
咲耶は高天原を統べる主宰神であり、太陽神である女神の名を告げた。
「ア、アマテラスの……? わ、分かりましたわ……」
玉藻はベッドから降り立つと、両膝を床について胸の前で両手を組んだ。そして、長い漆黒の髪を揺らしながら頭を下げて祈りを始めた。
「高天原に鎮まりまします天照皇大御神さま……。私、九尾狐はここに誓います。神守咲希を二度と我が手に入れようとせぬことを……。この誓い破りし時は、我が生命を捧げ奉ります……」
誓いを終えると、玉藻は深く頭を下げて額を床に付けた。
「よかろう。お主の誓い、この木花咲耶がしかと見届けたッ!」
そう告げると、咲耶は<咲耶刀>を左腰に差した神鞘に戻した。咲希は<咲耶刀>に鞘があることを初めて知った。
『ありがとう、咲耶……。これでもう安心ね?』
(そうじゃな。九尾狐ほどの妖魔であれば、その誓いは言霊となってアマテラスに届くはずじゃ。この誓いは、一生破られることはない。自分に向けられた誓いを破った者をアマテラスは許さぬからな……)
咲耶は満足そうな笑みを浮かべながら、玉藻を見据えた。玉藻は美しい裸身を咲耶の前に晒しながら立ち上がった。
「それと九尾狐よ……」
「は、はい……!」
咲耶の呼びかけに、ビクンと肩を震わせながら玉藻が答えた。
「アマテラスへの誓いは先ほど済んだが、私への誓いが残っておるぞ」
「咲耶への……さ、咲耶さまへの誓いでございますか……?」
玉藻が咲耶に敬称をつけたことに、咲希は驚いた。今までずっと呼び捨てだったのだ。
「毎朝、私に神饌を捧げよ……」
「し、神饌でございますか……?」
咲耶の言葉に、玉藻が驚いた。まさか、神饌を要求されるとは思ってもいなかった。
「そうじゃ……。神饌には、必ずデザートを付けるがよい。そうじゃな……。デザートはプリンにしてもらおうか……?」
『こら、咲耶ッ! この流れで、プリンなんて要求するんじゃないッ!』
咲耶の魂胆を見通して、咲希が慌てて叫んだ。
(よいではないか? 最近、此奴に神気を吸われたせいで、ずっと眠っておったのじゃ。しばらく、プリンを食べてないではないか?)
『プリンなら今度食べさせてあげるから、神饌は却下よッ! 毎朝なんて、面倒くさいわッ!』
先ほどまでの凜々しい女神はどこに行ったのかと、咲希は言いたかった。
(では、今すぐに食べさせるのじゃ! そうじゃ、此奴に買いに行かせようぞッ!)
『ち、ちょっと……』
咲希が止める間もなく、咲耶は玉藻に向かって重々しい口調で告げた。
「咲希が神饌まで用意する必要はないと言っておる。その代わり、お主には今すぐに買い物に行ってもらうことになった……」
『あたし、そんなこと言ってないわよッ!』
「買い物……でごさいますか?」
話がまったく見えていない玉藻が、驚いた表情で咲耶に訊ねた。
「そうじゃ……。急いで、プリンを五個買ってくるがよい」
『五個って……』
「プ、プリンでございますか……? か、かしこまりました……」
そう告げると、玉藻は慌てて脱ぎ散らかした服を身につけ始めた。
『七個に変更してッ! あたしも食べたいッ! 玉藻とあたしの分も追加してッ!』
「いや、待つがよい。やはり、七個買ってきてもらうとしよう」
咲希の言葉に頷くと、咲耶が威厳に満ちた表情で玉藻に告げた。
「七個……で、ございますね? かしこまりましたわ。すぐに買いに行ってまいります」
衣服を整え終えた玉藻が、丁寧に咲耶に頭を下げた。そして、寝室のドアを開けると、早足で玄関に向かって行った。
『まったく……。三大妖魔にプリンを買いに行かせる女神が、どこの世界にいるのよ?』
(そういう咲希だって、ちゃっかりと自分の分を追加したではないか?)
『だって……あたしもプリン、食べたかったんだもの……』
(やはり、そうじゃろう! あれほど美味が他にあるはずがなかろうッ!)
『そうね……。やっぱり、何だかんだで一番美味しいスィーツかも……?』
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