金碧の女豹~ディアナの憂鬱 【外伝2 女王の騎士】

椎名 将也

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第十二章 天龍の法衣

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「大丈夫ですか、アストレア様?」
 長い銀髪を優しく撫ぜながら、セイリオスが腕の中で目を覚ましたアストレアを見つめた。
「おはようございます、セイリオス。体が……動きません……」
 昨夜の壮絶な愛の嵐で、躰の芯に残る甘い愉悦を感じながらアストレアが恥ずかしそうに告げた。生まれて初めての超絶な高みに押し上げられ、アストレアは指先まで痺れて身動き一つ取れなかった。

「中級回復ポーションです。飲めますか?」
 セイリオスが枕元に置いてあった青い小瓶の栓を開けて、アストレアに差し出した。
「口移しで……飲ませてください」
「分かりました」
 セイリオスが頷くと、ポーションを三分の一ほど呷り、アストレアの唇を塞いできた。舌を絡めながら流し込まれた液体をアストレアがコクンと喉を鳴らして飲み干した。それが三度繰り返された。三度目は液体を飲み干した後に、濃厚に舌を絡め合った。

「好きです、セイリオス……。愛してます……」
 アストレアがセイリオスに豊かな乳房を押しつけながら抱きついた。その滑らかな白い背中を撫ぜながら、セイリオスが訊ねた。
「ミッシェルという教皇と俺のどちらが好きですか?」
「え……?」
 アストレアが驚いてセイリオスの顔を見上げた。セイリオスは黒瞳に意地悪そうな色を浮かべながらアストレアを見つめていた。

「セイリオス……。ミッシェルは女性ですよ?」
「えっ……?」
 アストレアの言葉に、セイリオスは黒瞳を大きく見開いて驚きの表情を浮かべた。初代教皇が女性だというのは初耳だった。
「ミッシェルは、女性初の剣士クラスSSでした。二つ名は『男装の麗人』です。私はミッシェルの勇気と志を愛していましたが、セイリオスとのような関係になったことは一度もありません」
 アストレアが楽しそうに告げた。

「初代教皇が女性だなんて、初めて知りました」
「教皇になってからは、極力女性であることを隠していたみたいですからね」
 呆然として告げたセイリオスの言葉に、アストレアが笑いながら言った。
「でも、あれほど嫉妬してくれたのは、凄く嬉しかったです。セイリオスは私にメロメロなんですね?」
「アストレア様……許しません」
 真っ赤に顔を染め上げると、セイリオスは照れ隠しのようにアストレアの唇を塞いだ。そして、アストレアの舌を絡め取り、濃厚な口づけを交わした。

「はぁあ……セイリオス……」
 ネットリとした唾液の糸を繋げながら唇を離すと、アストレアが官能にトロンと蕩けた瞳でセイリオスの顔を見上げた。昨夜の残り火が再燃したかのように、アストレアの表情は濃艶な色香に塗れていた。
「そんな顔で誘ってもだめです、アストレア様。俺をからかった罰です。そのままでいてください」
「そんな……意地悪です、セイリオス」
 拗ねたようにアストレアはセイリオスから顔を背けた。

「それより、もうすぐジュリアスたちと待ち合わせをしている朝の五つ鐘が鳴ります。急いでお風呂に入って、黒髪に戻ってください」
「一緒に入ってはくれないんですか?」
「残念ながら、アストレア様が寝ている間に俺は風呂を使いましたから。お一人でどうぞ……」
 ニヤリと笑いを浮かべたセイリオスの顔を、アストレアが睨んでため息をついた。
「ホントに意地悪ですね、セイリオスは……。もう、知りません」
 そう告げると、アストレアは寝台から降り立ち、一人で全裸のまま浴室に向かった。


 『銀の竪琴』の一階にある食堂でジュリアスたちを待っていると、二人は腕を組みながら食堂に入ってきた。二人の周囲だけが甘い桃色の空気に彩られていた。セイリオスとアストレアの視線に気づくと、二人は慌てたように腕を離した。
「早かったな、セイリオス。もう注文はしたのか?」
 何事もないような素振りでジュリアスがセイリオスに訊ねた。セイリオスも二人が腕を組んでいたことなど気づかなかったように答えた。

「いや、ちょうど来たばかりだ。朝のお勧めセットでいいか?」
「ああ」
「うん、それでお願い」
 ジュリアスとアンナが頷くのを見て、セイリオスが店員に四人分の注文をした。店員が厨房へ戻っていくのを見送ると、セイリオスがジュリアスたちに訊ねた。

「俺とアスティは、朝食を食べたら教皇に会いに行ってくる。お前らはどうする?」
「教皇に会うって言っても、どうするつもりだ? 教皇と直接会ってからアスティが幻影魔法を解除するならともかく、大聖堂の入口でそれをしたら大騒ぎになるぞ」
 首都ゾルヴァラータには王宮の代わりに大聖堂と呼ばれる巨大な建物があった。その大聖堂で教皇を初めとする枢機卿たちが政務を執っていた。

「そう言えばそうですね。では、教皇に会うのは深夜にしましょう。セイリオス、教皇の寝室って大聖堂の上の方ですよね?」
「たぶん、最上階に近いあたりだと思うが……。たとえ深夜でも、それなりの警備はあるはずだぞ」
 アストレアはセイリオスの返事を聞くと、楽しそうな笑みを浮かべながら言った。

「私の結界魔法でセイリオスと一緒に大聖堂の一番上まで飛びます。そこで窓か何かから大聖堂に侵入するのはどうですか?」
「飛ぶって……? 大聖堂は五階層もあるんだぞ。そんな高さまで結界ごと飛べるのか?」
 アストレアの案に驚きながら、セイリオスが訊ねた。

「五階層と言っても、百メッツェもないですよね? それくらいなら大丈夫です」
 ニッコリと笑顔で告げたアストレアを見て、アンナが大きくため息をついた。
「結界ごと百メッツェも浮遊するなんて、やっぱりアスティは術士クラスSSのレベルを遥かに超えているわね」
「まったくだ。まあ、アレだから仕方ないか……」
「そうね、アレだしね……」
 顔を見合わせて頷き合うジュリアスとアンナに向かって、アストレアが文句を言った。

「アレ、アレって、人を化け物みたいに言わないでください。他の人より少しだけ魔力量が多いだけですから……」
「少しだけ……」
「アレの感覚だと、少しだけなんでしょう?」
 驚きと呆れとを表情に浮かべながら、ジュリアスたちは首を横に振った。本来、浮遊魔法は膨大な魔力量が必要とされ、術士や魔道士が数十人規模で行うものだった。それを単独で行使し、百メッツェも浮遊できる方が異常なのだ。

「じゃあ、昼間は日帰りできる狩りの依頼でも受けるか? アンナとアスティは新しい魔道杖に慣れておいた方がいいだろう?」
 セイリオスが取りなすように告げた。だが、現実的に新しい魔道杖に慣れる訓練は必要だった。
「そうね。食事が終わったら、依頼書を見に行きましょう」
 セイリオスの言葉に頷くと、アンナが腰に差した火龍の魔道杖に触れながら言った。

 ちょうどその時、店員が朝のお勧めセットを運んできて四人の前に並べた。卵料理の香ばしい香りが鼻孔をくすぐり、四人は舌鼓を打ちながら朝食を食べ始めた。
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