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第3章 蒼龍神刀
7 異常発生
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ギルバートの元に戻ったアトロポスは、状況を説明するとメルビンに地上に戻ってもらうように依頼した。
その目的は二つあり、一つは冒険者たちを救出するために管理事務所から男手を借りるためだった。その際、入場者リストを持って来てもらうように念を押した。そのリストがあれば、ダンジョンに入っている冒険者の正確な人数が分かるからだ。
もう一つは、メルビンにそのまま冒険者ギルド・ザルーエク支部に戻ってもらい、アイザックにこの事態を報告してもらうためだった。原因を調査するにせよ、冒険者たちを助けるにせよ、アトロポスたちだけでは不可能だからだ。応援に来てもらう冒険者には、必ず上級回復ポーションと上級魔力回復ポーションを持ってきてもらうように依頼することも忘れなかった。
「そんな……!」
一階層に向かったメルビンと別れた後、アトロポスはギルバート、デビット、ノーマを連れて最初の目的地であった場所に移動した。ノーマは、そこでゴブリンたちに凌辱されて意識を失っている女性を見ると、愕然とした表情で言葉を失った。
その女性の下腹部からは血と白濁が内股を伝って流れ落ち、白い乳房にはいくつもの鋭い爪痕による裂傷と痣が刻まれていた。
「ひどい……」
蒼白な表情で呟いたノーマの肩に、アトロポスは力づけるように手を置きながら告げた。
「お願い、ノーマ。彼女にハイヒールをかけてあげて……」
「うん……分かった……」
蒼白な表情で頷くと、ノーマはその女性に両手を翳した。ノーマの手の平から光輝が溢れ、その女性の体を包み込みながら広がっていった。それに伴い、女性の体から切り傷が塞がれ、痣が消え、流血が止まっていった。
「これで大丈夫だと思う……。後は意識が戻ってくれれば……」
額に浮かんだ汗を拭いながら、ノームが肩で息をしながら告げた。術士クラスDの彼女にとっては、ハイヒールによる魔力の消耗が大きいようだった。
「彼らにもかけられる?」
女性の横に寝かせている三人の男性冒険者を見ながら、アトロポスが訊ねた。
「ごめん、三人は無理……。あと一人くらいなら……」
そう告げると、ノームは一番傷が深い男性の横に膝立ちになり、彼の腹部に両手を翳した。ゴブリンの爪で腹膜ごと抉り取られていた傷が光輝に包まれると、周囲の肉が盛り上がりながら徐々に傷を塞いでいった。
「これで……大丈夫……」
ノーマの上半身から力が抜け、アトロポスの方に倒れ込んできた。アトロポスは慌てて彼女を支えながら叫んだ。
「ノーマ!」
「ごめ……魔力切れ……」
囁くような声でそう告げると、ノーマはアトロポスの腕の中で意識を失った。
「術士クラスDの魔力では、ハイヒール一回でもきついんだ。これでもノーマはがんばったんだ。悪く思わないでやってくれ」
ギルバートがアトロポスの腕からノーマを引き取ると、ゆっくりと地面に寝かせた。
「ごめん、ノーマ……。無理させちゃったのね……」
ノーマの顔にかかった前髪を優しく書き上がると、アトロポスはギルバートを振り向いて言った。
「ゴブリン・キングとゴブリン・エンペラーがいたわ。B級魔獣のゴブリン・キングはまだしも、A級のゴブリン・エンペラーが二階層にいたことは異常だと思う」
「キングとエンペラーだと!? どの辺にいたんだ? 早く逃げないとやばいぞッ!」
アトロポスの言葉に、デビットが焦燥にかられた声で叫んだ。
「倒したから、大丈夫よ。この階層にはもう、一匹のゴブリンもいないわ」
「た、倒したッ!? ゴブリン・エンペラーを?」
「エンペラーやキングだけじゃなく、百を超えるゴブリンたちを一人で倒したのか!?」
アトロポスの言葉を聞き、ギルバートたちは驚きのあまり目を見開いてアトロポスを見つめた。
「そんなことよりも、中層にいるはずのゴブリン・エンペラーやキングが、この二階層にいたことの方が問題だと思う。奴らがここにいるということは、中層には何がいるの?」
「……! まさか……?」
アトロポスの言いたいことを理解して、ギルバートが愕然とした。
「もし、ゴブリン・エンペラーが中層から逃げて来たとしたら?」
ゾクッ……!
アトロポスのうなじを悪寒が逆撫でた。
「な、何……?」
「な、何だ?」
「こ、これって……?」
ズンッっと腹の底に響くような音が三人の鼓膜を震わせた。
ギィガァアアア……!
ガァアアア……ッ!
グゥガァアアア……!
次の瞬間、大気を震撼させる凄まじい咆吼が周囲を席巻した。
「ま、魔獣……か?」
「こ、こんなの……嘘だろ……?」
ギルバートとデビットが蒼白な表情で震えながら呟いた。
「エンペラーやキング並みの魔力が……十以上も……」
二階層の最奥……三階層に繋がる洞窟から、多数の魔獣たちが一斉に姿を現したのだ。
「ス、異常発生……!?」
「ま、間違いないッ! スタンビートだッ! 逃げるぞッ!」
デビットが告げた言葉に頷くと、ギルバートがアトロポスに叫んだ。
「私が足止めをしますッ! その間にノーマと女性を連れて、ダンジョンの外へッ!」
「この三人はどうする?」
「手が足りませんッ! このまま、ここに……! 私が護りますッ!」
<蒼龍神刀>を抜きながら、アトロポスが告げた。
「ローズ……! 分かった! 行くぞ、デビットッ!」
ギルバートは無理だと言いかけたが、アトロポスの眼を見ると、言われたとおりノーマを背中に背負った。アトロポスの黒瞳には、理不尽な運命に逆らおうとする熾烈な意志が燃えていた。
「ローズ、これが終わったら、また飲みに行くぞッ!
ノーマを背負いながら、ギルバートがニヤリと笑いながら告げた。
「ギルバートさん……。ハイッ、絶対にッ!」
それがギルバートなりの激励であることを理解し、アトロポスは満面の笑みを浮かべて答えた。
「今度は口説くから楽しみにしていろよ!」
自分の上着を女性に羽織らせてから背負うと、デビットが片目を瞑ってアトロポスに言った。
「ハイッ、格好よく口説いてくださいね、デビットさん!」
「任せとけッ!」
笑顔でそう告げると、デビットはギルバートと頷き合い、一階層へ続く通路に向かって走り出した。
その後ろ姿を見送ると、アトロポスは真剣な表情を浮かべて魔獣たちを見据えた。
(さっきより増えてる……。二十以上いるわね)
感じられる魔力量からは、そのすべてがB級以上の魔獣だと思われた。距離はまだ四、五百メッツェくらいあった。
(散けられると面倒だわ。一気に行くわよッ!)
アトロポスの全身から漆黒の覇気が立ち上った。
「ハァアアッ!」
裂帛の気合いとともに、漆黒の覇気が巨大な黒炎に昇華した。
(ごめん、クロトー姉さん。約束を破りますッ!)
アトロポスは<蒼龍神刀>に装着されている天龍の宝玉を見据えると、燃えさかる黒炎の覇気を一気に流し込んだ。黄色い宝玉が漆黒に変わっていき、闇色の光輝を放ち始めた。
(これで、私の攻撃力を二十倍に高められるはず……!)
天龍の宝玉について説明したドゥリンの言葉を思い出すと、アトロポスは口元に小さく笑みを浮かべた。
「<蒼龍神刀>の真の力を、見せてあげるわッ!」
アトロポスは<蒼龍神刀>を上段に構えた。そして、すべての覇気を<蒼龍神刀>に流し込んだ。
ブルー・ダイヤモンドの刀身が黒炎を吸収し、漆黒の光輝を纏った。その光輝が爆発的に増大し、周囲の大気を巻き込みながら壮絶な螺旋状の奔流と化した。
「ハァアアッ!」
激烈な気合いとともに、アトロポスは<蒼龍神刀>を一気に振り抜いた。
超絶な覇気の奔流が暴風龍の如き大渦動となって、魔獣の群れめがけて襲いかかった。
「異常発生だとッ!?」
『風魔の谷』から戻ってきたという若い冒険者の報告を聞き、アイザックは思わず身を乗り出して叫んだ。受付嬢のミランダが案内してきたその冒険者は、土色の顔をしており、疲労困憊のあまり今にも倒れそうに見えた。通常はニザンかかるところを、馬をダメにする覚悟で一ザンで駆けてきたと聞き、アイザックはその情報の信憑性を高く評価した。
「名前とクラスを言え!」
「ランクDパーティ<紅神楽>の弓士クラスDで、メルビンです。『風魔の谷』の二階層に、百体を超えるゴブリンが発生し、死者、重傷者が多数います!」
本来、クラスD冒険者がギルドマスターと直接話をする機会はほとんどない。メルビンは疲労と緊張で、意識を保つのがやっとであった。
「二階層に百体を超えるゴブリンだと? 三階層以降はどうなっている?」
「分かりません。僕はこの件をギルマスに報告するように依頼されて、先にダンジョンを出て来たので……」
そう告げると、メルビンはミランダが差し出してくれた水を一気に呷った。
「ランクDパーティと言ったな? 他のメンバーはどうした? 一緒に逃げなかったのか?」
F級魔獣とは言え、百体ものゴブリンに襲われたらランクDではひとたまりもないと思い、アイザックがメルビンに訊ねた。
「負傷者の救護に当たっています。二階層のゴブリンたちはすべて倒したので……」
「倒しただと……? 百体を超えるゴブリンをか?」
ランクDパーティには不可能だと思い、驚愕してアイザックは訊ねた。
「はい、臨時で組んだメンバーがクラスAなので……」
「臨時のクラスAだと!? まさか、ローズかッ?」
クラスD以下の冒険者と四人以上のパーティを組んでダンジョンに入れと命じた少女の顔を思い出して、アイザックが訊ねた。
「はい、彼女が一人でゴブリンたちを倒してくれました」
アイザックの口からローズの名前が出たことに驚きながら、メルビンが告げた。
「アイザック、ギルドマスターの名前で最優先特別発令を出しなさい。クラスB以上の冒険者を集めて、『風魔の谷』に向かわせるのよ!」
アイザックの隣に座っていたクロトーが真剣な表情で告げた。最優先特別発令は、緊急時にギルドが発する強制命令で、すべての依頼に優先する。これが出されると、冒険者は現在遂行中の依頼を中断してでもこの特別発令に従う義務があった。
「分かった! ミランダ、すぐに下に戻り、最優先特別発令を発布してクラスB以上の冒険者を『風魔の谷』に向かわせろ! それから、姐御! 頼むッ!」
「分かってる! 先に向かうわ! レオンハルト、一緒に来なさい!」
ウェーブのかかった長い黒髪を揺らして席を立つと、クロトーはメルビンの隣りに座っていた『焔星』に向かって告げた。
「ローズがいれば大丈夫だと思うけど……。まあ、付き合ってあげるよ」
おどけた口調でそう言うとレオンハルトは席を立った。だが、その碧眼は笑っていなかった。彼にも事態の深刻さが十分に理解されていたのだ。
クロトーとレオンハルトはアイザックに頷くと、急いでギルドマスター室を後にした。それを見送りながら、アイザックは胸の内で思った。
(ローズ、無茶するなよ。姐御たちが行くまで、絶対に下層には下りるなよ)
その目的は二つあり、一つは冒険者たちを救出するために管理事務所から男手を借りるためだった。その際、入場者リストを持って来てもらうように念を押した。そのリストがあれば、ダンジョンに入っている冒険者の正確な人数が分かるからだ。
もう一つは、メルビンにそのまま冒険者ギルド・ザルーエク支部に戻ってもらい、アイザックにこの事態を報告してもらうためだった。原因を調査するにせよ、冒険者たちを助けるにせよ、アトロポスたちだけでは不可能だからだ。応援に来てもらう冒険者には、必ず上級回復ポーションと上級魔力回復ポーションを持ってきてもらうように依頼することも忘れなかった。
「そんな……!」
一階層に向かったメルビンと別れた後、アトロポスはギルバート、デビット、ノーマを連れて最初の目的地であった場所に移動した。ノーマは、そこでゴブリンたちに凌辱されて意識を失っている女性を見ると、愕然とした表情で言葉を失った。
その女性の下腹部からは血と白濁が内股を伝って流れ落ち、白い乳房にはいくつもの鋭い爪痕による裂傷と痣が刻まれていた。
「ひどい……」
蒼白な表情で呟いたノーマの肩に、アトロポスは力づけるように手を置きながら告げた。
「お願い、ノーマ。彼女にハイヒールをかけてあげて……」
「うん……分かった……」
蒼白な表情で頷くと、ノーマはその女性に両手を翳した。ノーマの手の平から光輝が溢れ、その女性の体を包み込みながら広がっていった。それに伴い、女性の体から切り傷が塞がれ、痣が消え、流血が止まっていった。
「これで大丈夫だと思う……。後は意識が戻ってくれれば……」
額に浮かんだ汗を拭いながら、ノームが肩で息をしながら告げた。術士クラスDの彼女にとっては、ハイヒールによる魔力の消耗が大きいようだった。
「彼らにもかけられる?」
女性の横に寝かせている三人の男性冒険者を見ながら、アトロポスが訊ねた。
「ごめん、三人は無理……。あと一人くらいなら……」
そう告げると、ノームは一番傷が深い男性の横に膝立ちになり、彼の腹部に両手を翳した。ゴブリンの爪で腹膜ごと抉り取られていた傷が光輝に包まれると、周囲の肉が盛り上がりながら徐々に傷を塞いでいった。
「これで……大丈夫……」
ノーマの上半身から力が抜け、アトロポスの方に倒れ込んできた。アトロポスは慌てて彼女を支えながら叫んだ。
「ノーマ!」
「ごめ……魔力切れ……」
囁くような声でそう告げると、ノーマはアトロポスの腕の中で意識を失った。
「術士クラスDの魔力では、ハイヒール一回でもきついんだ。これでもノーマはがんばったんだ。悪く思わないでやってくれ」
ギルバートがアトロポスの腕からノーマを引き取ると、ゆっくりと地面に寝かせた。
「ごめん、ノーマ……。無理させちゃったのね……」
ノーマの顔にかかった前髪を優しく書き上がると、アトロポスはギルバートを振り向いて言った。
「ゴブリン・キングとゴブリン・エンペラーがいたわ。B級魔獣のゴブリン・キングはまだしも、A級のゴブリン・エンペラーが二階層にいたことは異常だと思う」
「キングとエンペラーだと!? どの辺にいたんだ? 早く逃げないとやばいぞッ!」
アトロポスの言葉に、デビットが焦燥にかられた声で叫んだ。
「倒したから、大丈夫よ。この階層にはもう、一匹のゴブリンもいないわ」
「た、倒したッ!? ゴブリン・エンペラーを?」
「エンペラーやキングだけじゃなく、百を超えるゴブリンたちを一人で倒したのか!?」
アトロポスの言葉を聞き、ギルバートたちは驚きのあまり目を見開いてアトロポスを見つめた。
「そんなことよりも、中層にいるはずのゴブリン・エンペラーやキングが、この二階層にいたことの方が問題だと思う。奴らがここにいるということは、中層には何がいるの?」
「……! まさか……?」
アトロポスの言いたいことを理解して、ギルバートが愕然とした。
「もし、ゴブリン・エンペラーが中層から逃げて来たとしたら?」
ゾクッ……!
アトロポスのうなじを悪寒が逆撫でた。
「な、何……?」
「な、何だ?」
「こ、これって……?」
ズンッっと腹の底に響くような音が三人の鼓膜を震わせた。
ギィガァアアア……!
ガァアアア……ッ!
グゥガァアアア……!
次の瞬間、大気を震撼させる凄まじい咆吼が周囲を席巻した。
「ま、魔獣……か?」
「こ、こんなの……嘘だろ……?」
ギルバートとデビットが蒼白な表情で震えながら呟いた。
「エンペラーやキング並みの魔力が……十以上も……」
二階層の最奥……三階層に繋がる洞窟から、多数の魔獣たちが一斉に姿を現したのだ。
「ス、異常発生……!?」
「ま、間違いないッ! スタンビートだッ! 逃げるぞッ!」
デビットが告げた言葉に頷くと、ギルバートがアトロポスに叫んだ。
「私が足止めをしますッ! その間にノーマと女性を連れて、ダンジョンの外へッ!」
「この三人はどうする?」
「手が足りませんッ! このまま、ここに……! 私が護りますッ!」
<蒼龍神刀>を抜きながら、アトロポスが告げた。
「ローズ……! 分かった! 行くぞ、デビットッ!」
ギルバートは無理だと言いかけたが、アトロポスの眼を見ると、言われたとおりノーマを背中に背負った。アトロポスの黒瞳には、理不尽な運命に逆らおうとする熾烈な意志が燃えていた。
「ローズ、これが終わったら、また飲みに行くぞッ!
ノーマを背負いながら、ギルバートがニヤリと笑いながら告げた。
「ギルバートさん……。ハイッ、絶対にッ!」
それがギルバートなりの激励であることを理解し、アトロポスは満面の笑みを浮かべて答えた。
「今度は口説くから楽しみにしていろよ!」
自分の上着を女性に羽織らせてから背負うと、デビットが片目を瞑ってアトロポスに言った。
「ハイッ、格好よく口説いてくださいね、デビットさん!」
「任せとけッ!」
笑顔でそう告げると、デビットはギルバートと頷き合い、一階層へ続く通路に向かって走り出した。
その後ろ姿を見送ると、アトロポスは真剣な表情を浮かべて魔獣たちを見据えた。
(さっきより増えてる……。二十以上いるわね)
感じられる魔力量からは、そのすべてがB級以上の魔獣だと思われた。距離はまだ四、五百メッツェくらいあった。
(散けられると面倒だわ。一気に行くわよッ!)
アトロポスの全身から漆黒の覇気が立ち上った。
「ハァアアッ!」
裂帛の気合いとともに、漆黒の覇気が巨大な黒炎に昇華した。
(ごめん、クロトー姉さん。約束を破りますッ!)
アトロポスは<蒼龍神刀>に装着されている天龍の宝玉を見据えると、燃えさかる黒炎の覇気を一気に流し込んだ。黄色い宝玉が漆黒に変わっていき、闇色の光輝を放ち始めた。
(これで、私の攻撃力を二十倍に高められるはず……!)
天龍の宝玉について説明したドゥリンの言葉を思い出すと、アトロポスは口元に小さく笑みを浮かべた。
「<蒼龍神刀>の真の力を、見せてあげるわッ!」
アトロポスは<蒼龍神刀>を上段に構えた。そして、すべての覇気を<蒼龍神刀>に流し込んだ。
ブルー・ダイヤモンドの刀身が黒炎を吸収し、漆黒の光輝を纏った。その光輝が爆発的に増大し、周囲の大気を巻き込みながら壮絶な螺旋状の奔流と化した。
「ハァアアッ!」
激烈な気合いとともに、アトロポスは<蒼龍神刀>を一気に振り抜いた。
超絶な覇気の奔流が暴風龍の如き大渦動となって、魔獣の群れめがけて襲いかかった。
「異常発生だとッ!?」
『風魔の谷』から戻ってきたという若い冒険者の報告を聞き、アイザックは思わず身を乗り出して叫んだ。受付嬢のミランダが案内してきたその冒険者は、土色の顔をしており、疲労困憊のあまり今にも倒れそうに見えた。通常はニザンかかるところを、馬をダメにする覚悟で一ザンで駆けてきたと聞き、アイザックはその情報の信憑性を高く評価した。
「名前とクラスを言え!」
「ランクDパーティ<紅神楽>の弓士クラスDで、メルビンです。『風魔の谷』の二階層に、百体を超えるゴブリンが発生し、死者、重傷者が多数います!」
本来、クラスD冒険者がギルドマスターと直接話をする機会はほとんどない。メルビンは疲労と緊張で、意識を保つのがやっとであった。
「二階層に百体を超えるゴブリンだと? 三階層以降はどうなっている?」
「分かりません。僕はこの件をギルマスに報告するように依頼されて、先にダンジョンを出て来たので……」
そう告げると、メルビンはミランダが差し出してくれた水を一気に呷った。
「ランクDパーティと言ったな? 他のメンバーはどうした? 一緒に逃げなかったのか?」
F級魔獣とは言え、百体ものゴブリンに襲われたらランクDではひとたまりもないと思い、アイザックがメルビンに訊ねた。
「負傷者の救護に当たっています。二階層のゴブリンたちはすべて倒したので……」
「倒しただと……? 百体を超えるゴブリンをか?」
ランクDパーティには不可能だと思い、驚愕してアイザックは訊ねた。
「はい、臨時で組んだメンバーがクラスAなので……」
「臨時のクラスAだと!? まさか、ローズかッ?」
クラスD以下の冒険者と四人以上のパーティを組んでダンジョンに入れと命じた少女の顔を思い出して、アイザックが訊ねた。
「はい、彼女が一人でゴブリンたちを倒してくれました」
アイザックの口からローズの名前が出たことに驚きながら、メルビンが告げた。
「アイザック、ギルドマスターの名前で最優先特別発令を出しなさい。クラスB以上の冒険者を集めて、『風魔の谷』に向かわせるのよ!」
アイザックの隣に座っていたクロトーが真剣な表情で告げた。最優先特別発令は、緊急時にギルドが発する強制命令で、すべての依頼に優先する。これが出されると、冒険者は現在遂行中の依頼を中断してでもこの特別発令に従う義務があった。
「分かった! ミランダ、すぐに下に戻り、最優先特別発令を発布してクラスB以上の冒険者を『風魔の谷』に向かわせろ! それから、姐御! 頼むッ!」
「分かってる! 先に向かうわ! レオンハルト、一緒に来なさい!」
ウェーブのかかった長い黒髪を揺らして席を立つと、クロトーはメルビンの隣りに座っていた『焔星』に向かって告げた。
「ローズがいれば大丈夫だと思うけど……。まあ、付き合ってあげるよ」
おどけた口調でそう言うとレオンハルトは席を立った。だが、その碧眼は笑っていなかった。彼にも事態の深刻さが十分に理解されていたのだ。
クロトーとレオンハルトはアイザックに頷くと、急いでギルドマスター室を後にした。それを見送りながら、アイザックは胸の内で思った。
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