【ブルー・ウィッチ・シリーズ】 復讐の魔女

椎名 将也

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第28章 神に挑む者

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「亜空間砲アルテミスとともに自爆したジョウ=クェーサーの遺体は発見されなかった」
 銀河史では、それが真実のように伝えられていた。

「君の洞察力には敬服する。<テュポーン>のファースト・ファミリーを除いて、私たちの正体を見抜いたのは、君が最初の人間だ」
 ジュピターが重々しく告げた。
「そして、<銀河系最強の魔女>と呼ばれる女性は、私たちの一人娘だ……」
「……!」
 言葉では言い表せない衝撃が、ジェシカを襲った。
(そうだ! テアは、DNAアンドロイド二世だった!)

「彼女……テアは、このことを知っているの?」
 ジェシカが身を乗り出して訊ねた。知っていれば、何という呪われた運命なのか? また、もし知らないとしたら、その事実を告げるべきなのだろうか?

「テアが生まれたのは、第二次DNA戦争が始まる直前だった。DNAアンドロイドの存亡を賭けた闘いに入るにあたって、生まれたばかりの乳児を連れていくことは出来ない。我々は、テアをスクルト博士に預けざるを得なかった」
 スクルト博士とは、DNAアンドロイド理論の創設者であり、ジョウたちを創り出した研究チームのリーダーであった。

(つまり、この事実をテアは知らないのね……)
 暗雲がジェシカの心を覆い尽くした。自分一人に課せられた問題として処理するには、あまりにも大き過ぎるものだった。
「あなたを呼んだのは、他でもないわ。私たちはテアとの再会を望んでいるの。それも、敵味方としてではなく……」
 ソルジャー=スピカが強い愛情を瞳に浮かべながら言った。

「彼女に私たちのプロジェクトを理解して欲しい。そして、出来ることならば協力して欲しいの」
「……。それは、無理だわ……」
 ジェシカが辛そうに告げた。
「何故……?」
「理解は出来るかも知れない……。しかし、彼女は愛する者をあなたたちに殺された……。今の彼女は、ジェイの復讐をすることにしか、自分の存在意義を見出せないわ」

「そのジェイ=マキシアンが、生きているとしたら……?」
 ジュピターが訊ねた。
「えッ? 今、何て……?」
 ジェシカは自分の耳を疑った。
 ジェイは、人工惑星ジオイドをサイコ・ノヴァで消滅させたのだ。サイコ・ノヴァは自分を含め、半径一光年以内にある物体を全て粒子分解してしまう。ジェイが助かる確率など皆無なはずだ。

「私とエマは、君らが言うΣナンバー・ランクα以上の能力を持っている。ジオイドが消滅する瞬間、我々は同調シンクロして彼の体をESPシールドで包み込んだ」
「……!」
「だが、我々が助けられたのは、彼の細胞のかけらだけだった。そこで、私はエマにも内緒で彼のクローンを作るように命じた」
「クローン……?」
 DNAアンドロイド理論を応用すれば、複写人間クローンの製造は可能である。しかし、それは銀河条約で堅く禁じられていた。

「クローンと言っても、それは我々DNAアンドロイドの最新技術スタッフが開発したものだ。従来のクローンのように、本人マスターと別人のようになる代物ではない」
 クローンは、特殊な培養液を満たしたカプセルの中で成長させられる。しかし、人間はその成長の過程に起こる様々な出来事を経験することによって、人格や外見が形成されていく。数十年間の成長をわずか一年あまりで、それも培養カプセルの中で成長させられたクローンが、マスターとまったく同じ人間になることは不可能であった。最悪の場合には、遺伝子情報は同じといえ、外見さえもまったくの別人のように見えることもあった。

「クローンの成長過程において、考えられる限りの記憶パターンを転写していく。特に、ジェイ=マキシアンの場合には、それが可能だった」
「どういう意味?」
「彼は、私が後継者として教育してきた男だからだ」
「何ですってッ?」
 ジュピターの言葉に、ジェシカが驚いて叫んだ。
(ジェイが<テュポーン>だった……?)

「彼にGPS特別犯罪課への潜入を命じたのは、この私だ」
「そんな……、嘘でしょう?」
 自分が信じていた事が、次々と崩壊していく。ジェシカはそんな幻覚にとらわれていた。
「話が横にそれてしまったな。そう言う訳で、私はジェイの人生経験を全てとは言わないが、かなりの部分知っていた。それをもとに記憶パターンを作成し、成長に合わせて転写していく」
 あまりの衝撃に、ジェシカは茫然自失していた。
「私の話が事実であることを証明しよう。アンドロメダ大尉、君をジェイに会わせてあげよう」
 そう告げると、ジュピターがソファから立ち上がった。


 ジェシカは全てを話し終えると、何かを恐れるかのようにシュンの表情を見つめた。
「それで、ジェイに会ったのか?」
 衝撃を抑制しながら、シュンが訊ねた。

「ええ……。でも、彼はまだ完全に覚醒していなかったから、言葉を交わすことは出来なかったわ。まだ、培養カプセルの中に横たわっていた。しかし、あれは間違いなくジェイ=マキシアンよ……」
「何て事だ……。死んだ人間を蘇らせるなんて……。奴らは、神にでもなったつもりなのか?」
 激しい怒りがシュンを襲った。

「シュン、私どうしたらいい? この事をテアに告げるべきかしら?」
 普段は自信に満ちて輝いている黒曜石の瞳が、光を失っていた。ジェシカの不安と苦悩が、そこにありありと映し出されていた。
「話さざるを得ないだろう。しかし、今はダメだ。テアは、<テュポーン>のサイコ・コントロールを受けたロザンナ王女と闘おうとしている。少なくても、その闘いが終わるまでは……」

「そうね……。テアはもう、彼女をサイコ・コントロールから解放できたのかしら?」
 ジェシカがテアと別れてから、既に五日が経っている。
「分からない。しかし、例の二人のAクラス・ESPが同調シンクロすれば、何とかなっている頃だろう」
 シュンは知らなかった。その二人……エレナ=マクドリアとフレア=レイが、既に殺されていることを……。

「結局、MICチップの内容は分からなかったけれど、ブライアン提督の手に渡ることになったのだから、私たちも惑星イリスへ戻りましょう」
「本当に信用していいのか? そのソルジャー=プレアデスを……?」
 シュンが訊ねた。<テュポーン>のファースト・ファミリーである男の手にMICチップを委ねたことが、不安だったのだ。

「いいえ、あんな奴、信用できないわ!」
 ジェシカが激しい怒りを込めて、吐き出すように言った。
「私が信用したのは、エマ=トスカ。テアの実の母親よ!」
「そうか……。彼女の誠意を信じよう。MICチップの内容については、テアに直接聞くことにするか。急いで、惑星イリスに戻るぞ。<ミューズ>と<スピリッツ>で競争だ」
 笑顔を見せて、シュンが言った。

「別々に行けっていう気……?」
 ジェシカがぷうっと、頬を膨らませた。
「だって、二隻あるんだぜ」
 シュンが困惑しながら言った。

「せっかく、愛する恋人が無事に戻ったのよ! 一緒にいてやろうっていう優しさは、あんたにはないの?」
「そんなこと言ったって……」
「<ミューズ>には、<スピリッツ>を自動追跡するように命じてきたわ」
「……!」
 ジェシカの即断に、シュンが驚いた。

「目標変更! 惑星イリスへ最大戦速!」
 ジェシカが有無を言わさず、<スピリッツ>のバイオ・コンピューターに命じる。
 そして、彼女はシュンの方を振り向いた。その瞳に、怒りと哀しみを混在させながら……。
「あなたは、私のパートナーなのよ! 別行動することなんてないわ!」
「お、おい……」
 ジェシカはそう告げると、怒ったように艦橋から出ていった。

「テアも言っていたけれど、パートナーって、どういう意味だ?」
 一人残されたシュンが、呆然と呟いた。ジェシカたちSHの言う『パートナー』が、どれほど重要な意味を持つのか、シュンは知らなかったのである。
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