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第一章 理想は遙か遠くにありて
第11話 未知の恐怖
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「どうして。どうして、こんなことになるのよ」
レスティーナは自分の肩を抱きしめた。震えを止めようとしたが、それぐらいでは止まってくれなかった。
「どうして。なんでなの?」
レスティーナがいくら自問してみても、答えは返ってこない。むなしく、誰もいない部屋に響くだけである。
「私は何もしていない。何もしていないのに……」
護衛は砦のあちらこちらに散っている。レスティーナは壁の向こうから聞こえる緊迫した声に、神経をすり減らしていた。最初から余裕はなかったが、兵士の前で強がることはできていた。時間が経つにつれ、そんな気力も無くなっている。
普段の凛とした姿はそこになく、彼女は部屋の片隅で震えていた。近衛兵が見たら、我が目を疑う光景だろう。
気高き金色の王妹殿下、そんな彼女はここには存在しない。
「そうだ、私は『まだ』何もしていない」
その考えに至った時、レスティーナは強く目を見開いた。
「まだ、何もしていないんだ」
レスティーナにとって、今回が王族として与えられた初めての仕事に近い。
父が生きている頃、彼女は離れに隔離されていた。男系に権力が集まっているヴェレリア王家ならまっとうな処遇なのだが、レスティーナは自らに流れるヴェレリア王家の血の薄さ故だと思っていた。自分への卑下が、自分自身を傷つけていた。
「せっかく、兄上が私を認めてくれたのに」
気を強く持とうとも、震えは止まらない。金色の髪が体の震えに合わせて揺れていた。ブロンドは母の血が濃い証しだ。レスティーナに流れる血が、ヴェレリア王家のものが濃いのであったなら、彼女の髪は銀色になっていたはずだった。
ヴェレリア王国の始祖、ヴァレオから受け継がれた銀色の髪に憧れ、自身の髪色に恨みを持って切ってしまったのは何歳の頃だったか。
母が王子でも産んでいれば立場が違っていただろう。物心付く前に急逝した母の墓標にさえ、苛立ちをぶつけそうになる。
子どもの頃に読んだ騎士物語の主人公に憧れた。しかし、それは遠く儚き理想だ。そんな主役にはなれそうにない、とレスティーナは諦めている。
それでも、せめて、自分が生きた証拠を刻みたい。
先代の王である父が急に亡くなったことによって決定していた縁談も立ち消えた。女としての価値も使ってもらえないとしたら自分に何が残るのだろう。
だから、現在の王である兄に今回の仕事を託された時は喜んで快諾した。
そのときはこんな事態になるなんて予想もしていなかった。反乱なんて、予期していなかった。
しかし、レスティーナもここで終わるわけにはいかないのだ。『まだ』、何もしていないのだから。
「私には何もできない。それでも」
もし、囚われたとしても王族の誇りだけは無くしたりしない。恐怖を胸に閉じ込めて立ち上がった。
負けたとしても、王族らしく散ろう。その決意は、足に力を与えてくれた。
扉の奥から聞こえてくる声の質が変わったのをレスティーナが感じたのは、その時だった。
シルクの耳に、これまでとは違う声が届く。歓声と悲鳴。聞いたことのない音に、微笑みそうになる。
「アゼル、よくやってくれた」
緩みそうになる頬を咄嗟に引き締める。まだ、これからが本番だ。シルクがやらなければならないことは、まだまだ多い。
(握力は、まだある。剣は握れる。大丈夫だ)
正直に言えば息はあがり、シルクの限界が近い。シルクの身体能力が、横に並ぶ仲間よりも劣っていることは彼自身重々承知している。
それでも、敵にも味方にも弱い顔を見せるわけにはいかない。
自分は指揮官なのだ。この機会で奮えなければ、強い姿勢を見せなければ、いつ見せるのだ。
「戦線を押し上げる、動けるものはついてこい!」
確実に混乱はシルクの側にまで広がっている。今なら、膠着を解くことができるだろう。
この機を、逃すわけにはいかない。
「動けない者は……いないな。勝機はここだ、いくぞ」
疲れのみえる同僚を鼓舞し、彼らを導くために自ら前に立つ。遅いくる敵兵の初撃を避け、的確に急所をつく。
その感触と、返り血に吐き気を覚えるが、表情には決して出すことなく声を出し続けた。
見るからに華奢で、小柄な彼が見せる奮闘。同年代だというのに上に立つシルクに反感を覚えていた者も、率先してシルクの前に立つようになっていた。
部隊の士気は高い。対して、相手の混乱は大きく広がっている。それに乗じて、シルク達は東門が見える位置まで戻ることができた。
紫の瞳に荒れる戦場の流れが映る。アゼルの姿は見えないが、敵の動きを見れば彼が期待した通りの戦功をあげたことが分かる。
そうなれば、と門に視線を移す。しかし、シルクの期待に反して門に動きはない。
(まだ足りないか)
アゼルは指示の通り、東へ退避しているのだろう。一部、敵兵の流れがそちらに向かっている。
引っかき回された敵兵が元の持ち場へ戻ろうとしている。このまま立て直されたら勝ちの芽はない。
(危険だが、止むを得ない。ここは、動くべきだ)
シルクは今よりもさらに奥へと踏み込むことを決意する。もちろん、守りを重視するが先程とは状況が変わっている。
守り通した場所よりも、今の場所はかなり広くなった。こんな場所では、より広く、周囲を見渡していかなければいかない。疲労の溜まっている兵士達にそれができるだろうか。シルクにも疑念がある。
しかし、より相手を引きつける必要があった。そうしなければ、さらに被害が大きくなるし、辛うじて計算している勝算もゼロになる。
シルクは同時に退却への道筋も模索する。もし、シルクの考えそのものが間違っていたとしたら。自分が関われない事象に関しては確率を全にすることはできない。戦場を放棄する選択もある。
ただ、シルクの考えが少しでも正しければ……ある時がくれば、戦場の景色は一変するはずだ。
その時は急に訪れた。固く閉じられていたはずの東門が、大きく開かれたのだ。
「来た!」
思わず、シルクは歓喜の声をあげる。
扉を開けたくて攻め立てていたはずの反乱兵は、身動きがとれず固まっている。
その目に映ったのは、彼等の足を止めるにふさわしい恐怖だった。
レスティーナは自分の肩を抱きしめた。震えを止めようとしたが、それぐらいでは止まってくれなかった。
「どうして。なんでなの?」
レスティーナがいくら自問してみても、答えは返ってこない。むなしく、誰もいない部屋に響くだけである。
「私は何もしていない。何もしていないのに……」
護衛は砦のあちらこちらに散っている。レスティーナは壁の向こうから聞こえる緊迫した声に、神経をすり減らしていた。最初から余裕はなかったが、兵士の前で強がることはできていた。時間が経つにつれ、そんな気力も無くなっている。
普段の凛とした姿はそこになく、彼女は部屋の片隅で震えていた。近衛兵が見たら、我が目を疑う光景だろう。
気高き金色の王妹殿下、そんな彼女はここには存在しない。
「そうだ、私は『まだ』何もしていない」
その考えに至った時、レスティーナは強く目を見開いた。
「まだ、何もしていないんだ」
レスティーナにとって、今回が王族として与えられた初めての仕事に近い。
父が生きている頃、彼女は離れに隔離されていた。男系に権力が集まっているヴェレリア王家ならまっとうな処遇なのだが、レスティーナは自らに流れるヴェレリア王家の血の薄さ故だと思っていた。自分への卑下が、自分自身を傷つけていた。
「せっかく、兄上が私を認めてくれたのに」
気を強く持とうとも、震えは止まらない。金色の髪が体の震えに合わせて揺れていた。ブロンドは母の血が濃い証しだ。レスティーナに流れる血が、ヴェレリア王家のものが濃いのであったなら、彼女の髪は銀色になっていたはずだった。
ヴェレリア王国の始祖、ヴァレオから受け継がれた銀色の髪に憧れ、自身の髪色に恨みを持って切ってしまったのは何歳の頃だったか。
母が王子でも産んでいれば立場が違っていただろう。物心付く前に急逝した母の墓標にさえ、苛立ちをぶつけそうになる。
子どもの頃に読んだ騎士物語の主人公に憧れた。しかし、それは遠く儚き理想だ。そんな主役にはなれそうにない、とレスティーナは諦めている。
それでも、せめて、自分が生きた証拠を刻みたい。
先代の王である父が急に亡くなったことによって決定していた縁談も立ち消えた。女としての価値も使ってもらえないとしたら自分に何が残るのだろう。
だから、現在の王である兄に今回の仕事を託された時は喜んで快諾した。
そのときはこんな事態になるなんて予想もしていなかった。反乱なんて、予期していなかった。
しかし、レスティーナもここで終わるわけにはいかないのだ。『まだ』、何もしていないのだから。
「私には何もできない。それでも」
もし、囚われたとしても王族の誇りだけは無くしたりしない。恐怖を胸に閉じ込めて立ち上がった。
負けたとしても、王族らしく散ろう。その決意は、足に力を与えてくれた。
扉の奥から聞こえてくる声の質が変わったのをレスティーナが感じたのは、その時だった。
シルクの耳に、これまでとは違う声が届く。歓声と悲鳴。聞いたことのない音に、微笑みそうになる。
「アゼル、よくやってくれた」
緩みそうになる頬を咄嗟に引き締める。まだ、これからが本番だ。シルクがやらなければならないことは、まだまだ多い。
(握力は、まだある。剣は握れる。大丈夫だ)
正直に言えば息はあがり、シルクの限界が近い。シルクの身体能力が、横に並ぶ仲間よりも劣っていることは彼自身重々承知している。
それでも、敵にも味方にも弱い顔を見せるわけにはいかない。
自分は指揮官なのだ。この機会で奮えなければ、強い姿勢を見せなければ、いつ見せるのだ。
「戦線を押し上げる、動けるものはついてこい!」
確実に混乱はシルクの側にまで広がっている。今なら、膠着を解くことができるだろう。
この機を、逃すわけにはいかない。
「動けない者は……いないな。勝機はここだ、いくぞ」
疲れのみえる同僚を鼓舞し、彼らを導くために自ら前に立つ。遅いくる敵兵の初撃を避け、的確に急所をつく。
その感触と、返り血に吐き気を覚えるが、表情には決して出すことなく声を出し続けた。
見るからに華奢で、小柄な彼が見せる奮闘。同年代だというのに上に立つシルクに反感を覚えていた者も、率先してシルクの前に立つようになっていた。
部隊の士気は高い。対して、相手の混乱は大きく広がっている。それに乗じて、シルク達は東門が見える位置まで戻ることができた。
紫の瞳に荒れる戦場の流れが映る。アゼルの姿は見えないが、敵の動きを見れば彼が期待した通りの戦功をあげたことが分かる。
そうなれば、と門に視線を移す。しかし、シルクの期待に反して門に動きはない。
(まだ足りないか)
アゼルは指示の通り、東へ退避しているのだろう。一部、敵兵の流れがそちらに向かっている。
引っかき回された敵兵が元の持ち場へ戻ろうとしている。このまま立て直されたら勝ちの芽はない。
(危険だが、止むを得ない。ここは、動くべきだ)
シルクは今よりもさらに奥へと踏み込むことを決意する。もちろん、守りを重視するが先程とは状況が変わっている。
守り通した場所よりも、今の場所はかなり広くなった。こんな場所では、より広く、周囲を見渡していかなければいかない。疲労の溜まっている兵士達にそれができるだろうか。シルクにも疑念がある。
しかし、より相手を引きつける必要があった。そうしなければ、さらに被害が大きくなるし、辛うじて計算している勝算もゼロになる。
シルクは同時に退却への道筋も模索する。もし、シルクの考えそのものが間違っていたとしたら。自分が関われない事象に関しては確率を全にすることはできない。戦場を放棄する選択もある。
ただ、シルクの考えが少しでも正しければ……ある時がくれば、戦場の景色は一変するはずだ。
その時は急に訪れた。固く閉じられていたはずの東門が、大きく開かれたのだ。
「来た!」
思わず、シルクは歓喜の声をあげる。
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その目に映ったのは、彼等の足を止めるにふさわしい恐怖だった。
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