魔王の娘(6歳)は勇者が欲しい

わたちょ

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魔王の娘と収穫祭 後

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「これが収穫祭ですか」
 色違いの目がきらきらと輝いていた。心なしか鼻息も荒く首を左右に振り、目をあっちこっちに動かしてマーナは町の様子を見ていた。町はいつも以上に人にあふれている。町の広場その大通りには出店がおおくだされ、人々が思い思いに楽しんでいる。建物の壁などに綺麗に飾り付けられた蠟燭は夜になると明かりがともされて大変美しい光景を作り出すのだ
 マーナがそんな飾り付けられた町の中を楽しげに見つめる。
 連れてきてよかったなと勇者に微笑む仲間。ああ、と勇者は頷きながらなんだ。やっぱり子供なんだなとそんなことを思っていた。
 そんな中でマーナの目が何かをとらえて、きょとりと瞬きをしていた。あのと後ろを振り向いて勇者を見る。手は一つの屋台に伸びていた。
「あれは何ですか」
「え、あれって、ああ。お面だね」
 マーナの言葉に全員の目が小さな手の先を追った。並ぶ出店の中の一つの店。そこに飾和られていたのは魔物の顔のような造形をした人の顔サイズのものだ。勇者が答える。マーナの首はことりと傾いてお面を見ていた。顔につけるものだよとさらに教えているがいまいちしっくりこないようであった。
「そうだ。買ってみようか」
「え、でも私、あの人間の通貨は……」
「大丈夫だよ。それぐらいは俺が出すから。ほら、行こう。色々あるから何がいいか選んで」
 ほら行こうと手を差し出す勇者。その手をマーナはおずおずと掴んでいた。歩きながらでも魔族にお面は良いんでしょうかと僧侶が首を傾けている。その言葉を聞いてマーナが僧侶を見た。
「魔族とお面に何かあるですか」
「何か……と言うわけではないのですがもともとお面は魔よけのために作られていましたからね。強い魔物のお面を飾ることで魔物が逃げ出すとされているんですよ。後はお面によって顔を隠すことで魔の者に攫われないようにすると言う意味もあったのです」
「そうなんだ……。でもお父様が一番強いから……」
「あーー。そりゃあ、そうだ」
「まあ、最近じゃただの飾りとして使っている人も多いしいいだろう。好きなもの選んでいいから。ほら」
 店の前にまで来てお面を間近で勇者たちは見る。魔物の顔をしたお面は恐ろしいものもあれば子供向けなのかコミカルに作られているものもあった。きょろきょろと飾られているお面をマーナの目が見ていく。その最中、あれ勇者様じゃないですかと勇者が店主に声をかけられていた。
「あ、ああ」
「俺のお店にお面を買いに来てくれたんですか。ありがたいなーー。こちらのお面とかはどうですか。魔物の嫌いなヒイラギの木が使われていて魔よけには最適なんですよ。まあ、勇者様には魔よけなんて必要ないでしょうけど。でもどうですか」
 にこにこと笑みを浮かべて店主は勇者に一つのお面を勧めてきていた。どうぞと差し出されるそれを勇者は拒みつつマーナを見た。仮面を見ていたマーナは今は勇者たちを見てその目をあちくりと瞬いている。ことりと傾く首。魔よけの木と聞いてマーナも嫌いなのではないかと思ったがそうではなさそうだった。
「あーー、俺はいいんで。今日はこの子のを買いに来たから。どれか良いのあった」
 それでもわざわざ買おうとは思わなくて勇者は逃れるためにマーナの方を見ていた。店主から顔をそらして笑いかける。そのしぐさに店主の方もマーナを見てそれで悲鳴のような声を上げていた。
 そのつの魔族じゃ。何で魔族がこんな所にとマーナの頭から生えた角を指さして震える。マーナはぴくりと肩をはねさせたものの分かっていたのかそれだけである。あのね。マーナはこれが欲しいですとお面の一つを淡々と指さしている。
町に入ってから魔族だとマーナを見ては言ってくる声は遠くから聞こえていた。だが勇者たちがいる手前、直接言ってくるものはおらず、当人も気にしていないような態度を取っていたのでなるべく勇者たちもそのような態度を取っていた。だけど今回はさすがにそうとはいかずマーナを伺うように見る。マーナはそんな視線をないものとしてあれですとお面の一つを指さし続けていて……。
 じゃあ、あれを頼むと勇者は店主に告げる。戸惑いながら店主は壁からお面を外して勇者に手渡していた。目は襲われるのを恐れるようにマーナから離れることはなかった。お代を払ってマーナに手渡す。受け取るマーナはにこにこと笑顔だった。
「ありがとうございます。勇者様」
「……うん。じゃあ、その他の所行こうか」
「はい」
 マーナが何も気にせず笑うのに勇者からは何かを言うことはできなかった。それでも気になって勇者はお店から離れたところでマーナに声をかける。
「大丈夫だった」
「大丈夫ですよ。その……こういう反応はなれていますので。私が魔族である以上は仕方のない事ですし勇者様たちもいちいち気にしなくていいですよ」
 マーナは変わらず笑顔だった。マーナの言葉に思い当たることもあって勇者は一度口を閉ざしてしまう。マーナと出かけると大体いつも何で魔族がとそんな声は聞こえていたのだ。まあ、仕方ないよなと思っていたのは勇者も同じだが、ここに来る前のマーナのことを思い出してしまうとどうにももうそうは言ってられない。だからと言って勇者は何んといえばいいのかは分からずにただその小さな頭を見下ろした。
 あーーと声を出してから何とか絞り出した言葉を口にする。それでいいとは思っていないけど、それしかもうなかった。こういうのは勇者は苦手だ。
「子供なんだからそんなに俺らに気を遣わなくてもいいんだよ。嫌なら嫌って言っていいからね。今日は俺が無理矢理連れてきちゃったけどもう帰る」
「いいえ。こんなの初めてでとても楽しいんです。それは本当ですから」
 だから気にしないでくださいとまたマーナが笑う。あそこのお店とか楽しそうですと露天を指さしたその姿は確かにそう思っているようにも見えた。そっかとしか言えない勇者はその後マーナが手にするお面を見た。すぐに指さしたそれは場の雰囲気を変えるためにそうしてくれたものだと言うのはさすがの勇者も分かっている。
「お面それで本当に良かった。急いで決めさせっちゃったし、他の良ければ別の所で買おうか。お面やなら他にもあると思うよ」
 だからそういったけどマーナはその首を横に振っていた。買ったばかりのお面を上に掲げてじっとその目が見る。その後にぎゅっと抱きしめていた。買ったお面は赤く色づけされた魔物面だ。
「大丈夫ですよ。これちょっと勇者さまっぽくて好きです」
 お面を勇者人もよく見えるよう抱え直しながらマーナは笑った。ふふと頬を赤らめるその笑みに勇者は目を点にしてからそのお面を見た。なんとも言えない顔になる。
「ええ。俺こんな顔をしてるかな」
 唇を尖らしてしまう後ろから仲間たちは仮面を覗き込んだ。
「あーー、なんかちょっとわかるかもですね」
「お面って魔物を模してるはずなのにな」
「でも勇者様をみて逃げる魔物も少ないですし、下手な魔物よりも効果あるかもしれませんよ」
 それぞれに仲間たちが口にしていく。勇者の肩が落ちて手が頭をかいていく。そうかなと言いながら勇者はふと昔のことを思い出していた。それは彼が仲間たちと旅していたある日の時の事
「そうかな……。
 そう言えばお面って言えば昔旅の途中で魔よけのお面を作るために素材たくさん集めさせられたことあったよな」
「ああ、そう言えばありましたね」
「あの時は大変だったわ」
「そう言えば皆様あの時もらったお面どうしてますか」
「あーー、なんか俺はその辺の奴に挙げたな。魔よけなんて持ってなくても俺は俺の力でどうにかするしな」
「私は村にあげたわ。子供も多いし少しでも魔よけになるなら」
「俺は多分家に……ってマーナちゃん置いて話してごめんな。分からなくて暇だったよな」
 昔話と言うものは大体花咲かせるものだ。ついついそれにまつわることを思い出しては話が膨らむ。過去のことに思いをはせてしまうので周りが見えがちになるなか、勇者の目が下を見て、それでマーナのことを思い出していた。首を傾けて話を聞いていたマーナは勇者に話しかけられて慌てて首を振っていた。
「あ、いえ、そんなことは……。勇者様がどんな旅をしたのかは興味ありますので」
 そしてもっと聞きたいですと笑う。気を遣っているのもあるだろうが、本当にそう思っているのもあるのだろう姿に勇者は一度頬を掻いていた。
「そんな対したことはしてないけどね。とにかく力をつけるためにも各地を練りあるいて戦い続けてただけだし」
「一度遭難したこともありましたよね」
「ああ、ありましたね」
「路銀が尽きて餓死しそうになった時もあったな」
「勇者が川に流されたこともあったでしょう」
「ああ、変な洞穴の中、一人迷子になったこともあったね」
「そうでしたね。そう言えば途中魔獣にお母さんと間違われていたこともありましたね」
 またもや花咲かせる昔の思い出、だけどそれはなんだか勇者にとっては良くない方向に進んでいて、勇者は目をまん丸くひん剥いて声を上げていあ。
「ちょ、ちょっと待って途中から話変な方になってない」
 せめてもうちょっと格好いい話をと勇者が言う中で、姫様に勇者様方と遠くから誰かが呼ぶ声が聞こえてきた。見ればこの国の兵士たちである。彼らは探しましたよと勇者たちの元に近づいてきている。その姿を見てあっと勇者たち全員顔を見合わせていた。やばいと勇者が呟いて俄然あわただしくなる。
「城に挨拶に来いって話だったんだ。マーナちゃんごめんな。一緒に居られなくて。でもアバンディがいるから、行きたいとこあったらどこでも頼んでいいから。アバンディ、マーナちゃんよろしくな」
「おお、任せとけ」
 じゃあと勇者たちは兵士たちの元に行き、それから彼らとともにどこかへ行っていた。
 いなくなった勇者の後ろ姿を追ってからマーナは残った男を見上げる。斧使いの男だ。その男を見て首を傾けた。
「一緒に行かないの」
「俺は堅苦しいのは苦手だし、大勢の前に出るタイプでもないからな。あーいうのは全部勇者たちがやってくれるんだよ」
「そうなんだ……」
 マーナの目はまた勇者たちが消えた方向を見た。俺たちも行くかと斧使いが聞くのに頷きながら、あのとマーナは声を上げる。どうしたと斧使いが聞いた。
「勇者様とみなさんすごく仲いいんですね」
 聞いたのはそんな事だった。それに斧使いは不思議そうにしながら当然だろうと頷いていた
「ずっと一緒に旅してたからな。苦労掛け合ったし、色んな喜びを分かち合いもした。同じ飯食べて一緒に寝て背中合わせで戦ったんだ。
 仲良くもなるよ。まあ、姫さん方はうまいように仲良くなれなかったみたいだけど……」
 斧使いがマーナを見た。聞いたマーナは俯いてお面を強く抱きしめている。
「どうした嬢ちゃん」
「何でもないです」
 ふるりと首が横に振られたもののその顔が上がることはなかった。


 魔王城。帰ってきた娘を見た魔王の周りの温度は数度下がっていた。周りの魔物がひいと声をあげて去っていく。
「どうした。マーナ嫌なことでもあったか」
 声はいつもと同じように低い。ずっと俯いていたマーナはその声にも首を振った。そしてその数秒後にその顔を上げる。
「そうではないのですが……。お父様私勇者様ともっと親しくなりたいです。
 勇者様の家にお泊りしたいです」
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