魔王の娘(6歳)は勇者が欲しい

わたちょ

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魔王、襲来

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 勇者の生活というのは大変質素でまた忙しいものだった。
 魔王軍との戦いが終結したとはいえ、それまでの戦いで傷ついた建物や人、大地はすぐに治るものでもなく、勇者は毎日朝早く起きては周辺の町の復旧を手伝いに行く。丸太を運び建物を直し、田畑を耕して植物を育てられる大地にする。険しい山に入ってはそこでしか取れない薬草を取ってきて町の医療所に渡す。
 そうやって一日の殆どの時間を世のため人のためにと消化しながら、魔王軍との戦いの間、魔物からとれた素材を売って貯めていたわずかな資金と町の者から時折恵んでもらえる食材を頼りに暮らしている。
 当然そんな生活では小さな贅沢一つできず、勇者の家は小さく、ベッド一つさえ壊れかけのものだった。魔王退治のための立派な剣はあるもののそれ以外はどれも使い古していつ壊れるか分からないようなものばかり。
 世界を救うために戦った勇者としても人としてもどうかと思うような家に日もどっぷりとくれた夜更けに勇者は帰ってくる。
 そして夕飯を食べるとベッドに即座に横になって眠り一日を終えるのだが、

 今日の勇者はそうはいかなかった。


 なんと勇者が疲れた体を引きずって帰ってきたその家に恐るべき存在感を放つ男。大きな体、長く黒い髪、見るだけで恐ろしい固く鋭い角。威圧感たっぷりの魔王がいたのだ。
 ぎゃあと叫んでしまった勇者は悪くないだろう。
「なんでここにいるんだ」
 剣を手にしながら勇者が叫ぶ。気圧されそうなオーラにも負けじと魔王をにらむ。魔王はぎろりと勇者を睨んだ。そして……
「勇者よ。私が最も大切にするものが何かわかるか」
 そんなことを問いかけてきたのだった。はっと警戒していたはずの勇者から間抜けな声が出ていく。なんでそんなことと少し疲れた目で見てしまう。魔王は良いから答えろとやたらとよく、そして威圧ある声で問う。
 昔の勇者ならそんなの知るわけないだろうと答えるところだが、今はもう知っていた。
「娘のマーナちゃんじゃないのかよ」
「そうだ‼ そうだとも! あの子こそが私が最も大切にする私の宝物なんだ」
 勇者が答えると同時魔王はそれはもう大きな声をだした。お前そんな声も出せたのと思うほどの声だ。いつもと変わらない仏頂面の筈なのにそれ以外の何かに見えてくるほどの声。だからこそ私はと魔王は勇者をその鋭き眼で見る。
「あの子の願いは全てかなえてあげたいのだ。それがどんなことであれ。たとえ、たとえ」
 押されている勇者は言葉も挟めない。何だと言うのだと魔王を見ることしかできない場所で魔王は言おうとした言葉を一度飲み込んでいた。仏頂面だ。目の位置から眉の位置。口の位置。何一つ変わらずぴくりとも動かない。
 動かない癖に喉の奥で言葉を噛みしめ葛藤しているのが伝わってくる。
 ふうううううううと深い吐息が魔王から出てくる。魔王の吐息は冷たくてあたりが凍るんじゃないかとそう思えた。実際勇者の足はかじかみ指先が痛い。満足に動けなくなる中、魔王の口が開く。
「お前の家に泊まりたいと言うろくでもない願いだとしてもだ」
「はあいいいいいいいい?」
勇者からは寒さも忘れた驚きの声がでた。

「いいか。今度マーナから直々にその旨が伝えられる筈だ。お前ごときが断るなど断じて許さぬ。
 マーナが泊まりに来る日までこのぼろ家をどうにかしておくことだな。分かったらこれを受け取れ」
 バンと剛速球で何かが投げつけられた。勇者がそれを受け止めることはできず、壁が破壊される。ではと魔王は勇者が反応する前に消えていた。
 

 恐る恐る勇者が壊れた壁を見ると、木片の中に紛れて大量の小判が落ちていた。

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