9 / 44
魔王、襲来
しおりを挟む
勇者の生活というのは大変質素でまた忙しいものだった。
魔王軍との戦いが終結したとはいえ、それまでの戦いで傷ついた建物や人、大地はすぐに治るものでもなく、勇者は毎日朝早く起きては周辺の町の復旧を手伝いに行く。丸太を運び建物を直し、田畑を耕して植物を育てられる大地にする。険しい山に入ってはそこでしか取れない薬草を取ってきて町の医療所に渡す。
そうやって一日の殆どの時間を世のため人のためにと消化しながら、魔王軍との戦いの間、魔物からとれた素材を売って貯めていたわずかな資金と町の者から時折恵んでもらえる食材を頼りに暮らしている。
当然そんな生活では小さな贅沢一つできず、勇者の家は小さく、ベッド一つさえ壊れかけのものだった。魔王退治のための立派な剣はあるもののそれ以外はどれも使い古していつ壊れるか分からないようなものばかり。
世界を救うために戦った勇者としても人としてもどうかと思うような家に日もどっぷりとくれた夜更けに勇者は帰ってくる。
そして夕飯を食べるとベッドに即座に横になって眠り一日を終えるのだが、
今日の勇者はそうはいかなかった。
なんと勇者が疲れた体を引きずって帰ってきたその家に恐るべき存在感を放つ男。大きな体、長く黒い髪、見るだけで恐ろしい固く鋭い角。威圧感たっぷりの魔王がいたのだ。
ぎゃあと叫んでしまった勇者は悪くないだろう。
「なんでここにいるんだ」
剣を手にしながら勇者が叫ぶ。気圧されそうなオーラにも負けじと魔王をにらむ。魔王はぎろりと勇者を睨んだ。そして……
「勇者よ。私が最も大切にするものが何かわかるか」
そんなことを問いかけてきたのだった。はっと警戒していたはずの勇者から間抜けな声が出ていく。なんでそんなことと少し疲れた目で見てしまう。魔王は良いから答えろとやたらとよく、そして威圧ある声で問う。
昔の勇者ならそんなの知るわけないだろうと答えるところだが、今はもう知っていた。
「娘のマーナちゃんじゃないのかよ」
「そうだ‼ そうだとも! あの子こそが私が最も大切にする私の宝物なんだ」
勇者が答えると同時魔王はそれはもう大きな声をだした。お前そんな声も出せたのと思うほどの声だ。いつもと変わらない仏頂面の筈なのにそれ以外の何かに見えてくるほどの声。だからこそ私はと魔王は勇者をその鋭き眼で見る。
「あの子の願いは全てかなえてあげたいのだ。それがどんなことであれ。たとえ、たとえ」
押されている勇者は言葉も挟めない。何だと言うのだと魔王を見ることしかできない場所で魔王は言おうとした言葉を一度飲み込んでいた。仏頂面だ。目の位置から眉の位置。口の位置。何一つ変わらずぴくりとも動かない。
動かない癖に喉の奥で言葉を噛みしめ葛藤しているのが伝わってくる。
ふうううううううと深い吐息が魔王から出てくる。魔王の吐息は冷たくてあたりが凍るんじゃないかとそう思えた。実際勇者の足はかじかみ指先が痛い。満足に動けなくなる中、魔王の口が開く。
「お前の家に泊まりたいと言うろくでもない願いだとしてもだ」
「はあいいいいいいいい?」
勇者からは寒さも忘れた驚きの声がでた。
「いいか。今度マーナから直々にその旨が伝えられる筈だ。お前ごときが断るなど断じて許さぬ。
マーナが泊まりに来る日までこのぼろ家をどうにかしておくことだな。分かったらこれを受け取れ」
バンと剛速球で何かが投げつけられた。勇者がそれを受け止めることはできず、壁が破壊される。ではと魔王は勇者が反応する前に消えていた。
恐る恐る勇者が壊れた壁を見ると、木片の中に紛れて大量の小判が落ちていた。
魔王軍との戦いが終結したとはいえ、それまでの戦いで傷ついた建物や人、大地はすぐに治るものでもなく、勇者は毎日朝早く起きては周辺の町の復旧を手伝いに行く。丸太を運び建物を直し、田畑を耕して植物を育てられる大地にする。険しい山に入ってはそこでしか取れない薬草を取ってきて町の医療所に渡す。
そうやって一日の殆どの時間を世のため人のためにと消化しながら、魔王軍との戦いの間、魔物からとれた素材を売って貯めていたわずかな資金と町の者から時折恵んでもらえる食材を頼りに暮らしている。
当然そんな生活では小さな贅沢一つできず、勇者の家は小さく、ベッド一つさえ壊れかけのものだった。魔王退治のための立派な剣はあるもののそれ以外はどれも使い古していつ壊れるか分からないようなものばかり。
世界を救うために戦った勇者としても人としてもどうかと思うような家に日もどっぷりとくれた夜更けに勇者は帰ってくる。
そして夕飯を食べるとベッドに即座に横になって眠り一日を終えるのだが、
今日の勇者はそうはいかなかった。
なんと勇者が疲れた体を引きずって帰ってきたその家に恐るべき存在感を放つ男。大きな体、長く黒い髪、見るだけで恐ろしい固く鋭い角。威圧感たっぷりの魔王がいたのだ。
ぎゃあと叫んでしまった勇者は悪くないだろう。
「なんでここにいるんだ」
剣を手にしながら勇者が叫ぶ。気圧されそうなオーラにも負けじと魔王をにらむ。魔王はぎろりと勇者を睨んだ。そして……
「勇者よ。私が最も大切にするものが何かわかるか」
そんなことを問いかけてきたのだった。はっと警戒していたはずの勇者から間抜けな声が出ていく。なんでそんなことと少し疲れた目で見てしまう。魔王は良いから答えろとやたらとよく、そして威圧ある声で問う。
昔の勇者ならそんなの知るわけないだろうと答えるところだが、今はもう知っていた。
「娘のマーナちゃんじゃないのかよ」
「そうだ‼ そうだとも! あの子こそが私が最も大切にする私の宝物なんだ」
勇者が答えると同時魔王はそれはもう大きな声をだした。お前そんな声も出せたのと思うほどの声だ。いつもと変わらない仏頂面の筈なのにそれ以外の何かに見えてくるほどの声。だからこそ私はと魔王は勇者をその鋭き眼で見る。
「あの子の願いは全てかなえてあげたいのだ。それがどんなことであれ。たとえ、たとえ」
押されている勇者は言葉も挟めない。何だと言うのだと魔王を見ることしかできない場所で魔王は言おうとした言葉を一度飲み込んでいた。仏頂面だ。目の位置から眉の位置。口の位置。何一つ変わらずぴくりとも動かない。
動かない癖に喉の奥で言葉を噛みしめ葛藤しているのが伝わってくる。
ふうううううううと深い吐息が魔王から出てくる。魔王の吐息は冷たくてあたりが凍るんじゃないかとそう思えた。実際勇者の足はかじかみ指先が痛い。満足に動けなくなる中、魔王の口が開く。
「お前の家に泊まりたいと言うろくでもない願いだとしてもだ」
「はあいいいいいいいい?」
勇者からは寒さも忘れた驚きの声がでた。
「いいか。今度マーナから直々にその旨が伝えられる筈だ。お前ごときが断るなど断じて許さぬ。
マーナが泊まりに来る日までこのぼろ家をどうにかしておくことだな。分かったらこれを受け取れ」
バンと剛速球で何かが投げつけられた。勇者がそれを受け止めることはできず、壁が破壊される。ではと魔王は勇者が反応する前に消えていた。
恐る恐る勇者が壊れた壁を見ると、木片の中に紛れて大量の小判が落ちていた。
0
あなたにおすすめの小説
理想の男性(ヒト)は、お祖父さま
たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。
そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室?
王太子はまったく好みじゃない。
彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。
彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。
そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった!
彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。
そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。
恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。
この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?
◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。
本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。
R-Kingdom_1
他サイトでも掲載しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました
もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!
「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」
透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。
そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。
最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。
仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕!
---
王宮に薬を届けに行ったなら
佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。
カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。
この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。
慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。
弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。
「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」
驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。
「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」
※ベリーズカフェにも掲載中です。そちらではラナの設定が変わっています。(貴族→庶民)それにより、内容も少し変更しておりますのであわせてお楽しみください。
やけに居心地がいいと思ったら、私のための愛の巣でした。~いつの間にか約束された精霊婚~
小桜
恋愛
ルディエル・アレンフォードは森に住む麗しの精霊守。
そんな彼が、いよいよ伴侶を迎えようと準備を始めているらしい。
幼馴染という関係に甘んじていたネネリア・ソルシェは、密かにショックを受けていた。
そろそろ彼との関係も終わらせなければならないけれど、ルディエルも精霊達もネネリアだけに優しくて――?
「大丈夫。ずっと居たいと思えるような場所にしてみせるから」
鈍感なネネリアと、一途で奥手なルディエル。
精霊に導かれた恋は、本人だけが気づかない。
女の子がほとんど産まれない国に転生しました。
さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。
100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳
そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。
当面は2日に1話更新予定!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる