魔王の娘(6歳)は勇者が欲しい

わたちょ

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魔王の娘のお泊り 前

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「勇者様。お邪魔します」
 魔王が勇者の家を破壊してから三週間後、魔王の娘であるマーナが勇者の家に泊まりに来ていた。二週間前に遊びに来て泊まりに来たいと伝えてきたマーナに勇者は冷や汗を流しながら頷いたのだったが、今日もまた冷や汗を流していた。
 魔王が壊した家は壁を直し、テーブルやいすなどは新しく買い替えていた。魔王からの金など怖くて使えるかとも思ったが、そのままでは絶対に殺されると思い有難く使わせていただいている。なんとかまともな家にまでは格上げで来ていててこれなら魔王も文句は言ってこないだろうと思っているがでも何か言ってくるのではといもしないのにドキドキしていた。
 いらっしゃいとマーナを上げながら勇者はきょろきょろと周りを見る。やはり何処にもいない。いるのは勇者様の家にお泊りできるなんて嬉しいですとにこにこ笑うマーナだけだった。それでも背には冷たいものが流れ、どくどくと鼓動は跳ねている。
 今までもマーナを何度か家に招いていたが、こないだの魔王のせいか緊張感が全く違った。二週間前を家が壊れていたので別の所であったのだった。
「お泊りだけど、……何かいるものとかあるかな」
 マーナに不便な思いをさせてはいけないだろうと勇者は聞いた。いいえと彼女の首が横に振られる。
「ここに勇者様がいますから、マーナはそれだけでいいです。今日と明日ずっと勇者様の傍にいられるなんてマーナは幸せ者です」
 ふふっと愛らしく笑い、頬を赤く染めるマーナ。
 思わずどきりとするほどの可愛らしさがある。
 せめてもう少し年の差がなければ勇者にも嬉しい展開だったのだろうが、残念なことに年の差はありすぎるほどにあった。マーナなどまだただの子供の年である。そっかと勇者の頬は引き攣っていた。マーナと魔王があの威圧感たっぷりの声で嘆いている姿が浮かんだ。
「泊りって言っても俺んち何にもないけど大丈夫」
「はい。傍にいるだけで楽しいです。でもできれば勇者様とたくさんお話ししたいです。お話ししていただけますか」
 ことりと子首を傾けてマーナが聞く。勇者は負けたと思った。あれこれ言えばやっぱり退屈だと思うからとマーナが泊まるのを思いとどまってくれないかと思っていたがそんなことはなさそうだった。諦めてたくさん話そうかと笑いかける。子供の頬は赤くなって満面の笑みを浮かべていた。
 どうぞと勇者はマーナを椅子に進めて、自らもその正面に座っていた。
 何の話をしようかと問いかければマーナはそうですねと一度下を向いて、すぐに勇者を見ていた。
「では、勇者様の好みのタイプが聞きたいですわ」
「え?」
 真っ直ぐに見つめられ問われた言葉に勇者は固まった。何てと首を傾けてしまえば、もう一度同じことを言われて……。
「好みのタイプってえっと……」
「女性のタイプですわ。どんな子が好きになるとかそう言うのをお聞きしたいです」
 逃げるように目が泳いだ。そんな勇者にマーナは畳みかけてくる。うぇと変な声がでて勇者の目は回る。なんでそんなと問いが出てしまえば当然ですとマーナは少し頬を赤くしながらも声を荒げていた。
「だって私は勇者様が好きなんですもの。勇者様の婚約者としても勇者様の好みのタイプはちゃんと知っておきたいです。それで勇者様に好きになってもらえる女の子になれたらと……」
 最初ははっきりとした言葉だったのがだんだんとマーナの声は小さくなっていき、最後の方はほぼ聴き取れなくなっていた。手を組み替えながらマーナの目は少しそれてちらちらと勇者を見てくる。
 可愛い女の子にこんなこと言われたら赤面するようなシーンだが、勇者は青ざめるだけであった。後ろで魔王が睨んでくる幻影が見える。気が遠くなりそうだが、どきどきと不安そうなまなざしで見つめてくるマーナに何も言わないわけにもいかなかった。
 えっととためらいがちに勇者は言葉を紡ぐ。
「俺好きなタイプとかはよく分からないんだよね。こうこんな子が好きっていうタイプは今の所ないかな。好きになった人とかもいないし……
 だからあんまりうまく答えられないんだけど、今のマーナちゃんも充分好きかな。別に俺に好かれようって何か変える必要はないよ」
 最後何とか笑いかけてみたが、マーナの様子は芳しいものではなかった。そうですかとしょんぼりと肩を落としていて、これじゃだめなのかと勇者は女の子の難しさに泣きそうになる。色々と考えて次の言葉が出ていた。
「でも、そうだな。マーナちゃんはもう少し子供らしくてもいいんじゃないかなって思うよ。子供は子供らしくあった方がやっぱりいいと思うからさ」
 もう俺にはこれぐらいしか言えることはない。誰か正解を教えてくれとそんな気持ちで口にした言葉。その言葉にマーナの目がぱちくりと見開いていた。不満そうだった顔が一旦なくなって勇者を見る。
 おっと勇者の心は上にあがった。俺いいこといった。これで大丈夫かとマーナを見つめるが、マーナの顔はまた一つしおれていく。
「でも私は勇者様の婚約者ですから、子供じゃなくて婚約者として好きになって欲しいです」
 小さくとがった子供の口。むうと不満そうな姿。勇者の方が不思議そうに目を瞬かせた。子首を傾けてマーナを見つめる。
「あーー、よくわかんないけど、でも俺はその人がその人のままいられることの方が好きだから、何かを我慢して傍にいられるよりも自由に笑ってもらえる方がいいな」
 偽りのない言葉が勇者からは出て、マーナに向けてほほ笑む。左右違う色の瞳が大きく揺れて勇者を映した。
 瞳の中の勇者は揺れている。ふへへとマーナの口元が緩んでいた。
「少し考えてみますね……」

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