魔王の娘(6歳)は勇者が欲しい

わたちょ

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魔王の襲来

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魔王の襲来


 それが起きたのは夜。勇者が寝ようとしたところだった。
 いきなり感じた人の気配。威圧感たっぷりのおぞましいそれに勇者は飛び跳ねるように起きて身構えた。勇者の目が鋭く睨みつけたその場にいたのは魔王だった。
 大きく見開く勇者の目。ゲッと声が出ていたのに対して突如として現れた魔王は冷え切った眼をして勇者を見ていた。何しに来たと問う勇者を無視して魔王は部屋の中を見渡していた。そして部屋の中にある棚をじっと見る。
 表情には一筋の違いも見えないが睨むような感覚がした。
 おいと勇者が声を掛ける。すっと魔王の視線が勇者に向いた。低い声が勇者を呼ぶ。
「あの棚の中にあるものはなんだ」
「は」
 そして魔王が言ったのは勇者が聞きたい事ではなかった。呆けた声が出ていく。何でそんなことをと思うのに魔王はもう一度あの棚の中身はなんだと聞いていた。
「何って色々はいってるからあんまいえねえけど、普通のものだ。それより何でこんな時間に」
「棚の中のものは捨てろ」
「人の話聞けよ!」
 さすが魔王と言えばいいのか、勇者の話など一つも聞くつもりはないらしく捨てろともう一度言ってくる。そう言われては勇者も簡単に捨てられる筈はない。魔王は怖い。間違いなく怖いけどそれでも勇者は何でと魔王を睨んだ。
「魔除けが入っているだろう。それだけで良いから捨てろ」
「は?」
「本来ならお前の家をマーナがいる間は監視させたいのに魔除けのおかげで全員嫌がってできん。冬の間は寒くてみんな動けないからよかったが今は動けるようになったのだ監視させる」
「俺はされたくないんだけど……。
 そもそも魔よけなんてうちには、あ」
 ほんの少しだが顔をゆがめていた勇者は途中であることに気付いて口を開けていた。あんぐりと開けた口を見て魔王は変な顔をする前に棚の中身を捨てろと自分の要求を告げてくる。じいと見てくる目の圧は強い。
 だが勇者は首を横に振っていた。
「なんだと」
 魔王の声が一段と低くなった気がした。圧も強くなる。だが勇者は負けじと魔王を睨んだ。
「それは捨てられない」
 言いながら勇者は寝ようとしていたベッドから降りて問題の棚に近づいていた。棚を開けあるものを取り出す。魔王の足が一歩後ろに動いた。
「魔除けって多分これのことだろう。なら無理だ」
 勇者が取り出したのは赤いお面だ。マーナに収穫祭の時にあげて、そしてマーナが勇者の家に置いていたもの。勇者の家にあるが持ち主はマーナだ。
 勇者が掲げるのに魔王の足は下がりながら何だとと黒い眼で勇者を睨む。
「これはマーナちゃんのものだから捨てるならマーナちゃんに許可を得てくれ」
 勇者は魔王の圧には負けない強い口調で告げた。魔王の目が見開いて勇者が手にしているお面を見つめる。
「マーナのものだと」
「そうだ。てっか、なんかお前もちょっと嫌そうじゃねえ。え、これってそんな魔物に効くものだったの。でもマーナちゃんは平気そうだったけど。え、もしかしてそんなふりしてくれてたとか。もしかしてこれがあるのきつかったりした。なら捨てた方がいいのか。でもマーナちゃんのものだし」
 勇者は急に慌てだした。後ろに下がる魔王が嫌がっているように思えてお面を手にし、頭を抱える。悩む勇者。魔王はちっと舌打ちを打っていた。
「マーナのものであれば仕方あるまい。勇者それは置いておいてもいい」
「え、でもマーナちゃんが嫌がるなら」
 声は低いままだが魔王が言う。だが勇者はそれに戸惑った顔を見せた。どうした方がいいのかと問うようなその顔に魔王は気にする必要はないと言う。
「マーナは少々特別だ。マーナには魔除けは効かぬ。だからそのまま持っていろ。マーナの者がこの家にあるのは気に入らんが、それは我が城にはおけないからな」
「あ、そうなんだ。分かった」
 ほっとして勇者は棚の中にお面を戻した。あ、そうだと勇者は声を出す。
「マーナちゃんのことで聞きたい事があるんだけど」
 冷たい目が勇者を見る。何だなんてことは言わない。それでもその目は見てくるので勇者は口を開けて聞いていた。
「マーナちゃんに幼馴染がいるんだろう。その子ってこっちに来られない理由とかあるのか」
 ぞっと勇者の背中が震えた。おぞけが走り吐きだしそうになって勇者は身構えた。強烈な恐怖に支配されながらも魔王を真正面から見る。
 魔王の顔は変わらぬ。鉄でできた美しく恐ろしい顔。何故と魔王が聞く。
「その子にマーナちゃん最近は毎回お土産を持っていてあげてるから、それならこっちに連れてきたらって提案したんだけど悲しそうに断られたんだ。だから何か理由があるのかって」
 まるで砂漠に放り出されたかのように乾いた喉。張り付く舌を動かして言葉を紡ぐ。
 背筋を襲う寒さが増した。空気が少し荒々しくなったようなそんな感じがした。
 そうかと魔王から小さな声がでた。はっと表情筋は一ミリたりとも動くことなく鼻で笑う。
「愚かしいな勇者。お前はそんな事すらも分からないのか」
「そんな事って」
「魔族はとりわけ魔力の強いものが多い。中にはその力を使いこなせないものが多くいるのだ。特に幼い子供などは魔力に体がついていけず周りに影響を与えるものも多い。あのこの幼馴染のスイレイもそうだ。
 炎の力が強く周囲を熱で燃やしてしまう可能性があるから私が用意した専用の場所ではないと長時間過ごすこともできない。魔族の子供だと聞けばその可能性ぐらい普通に分かる筈だろう」
 魔王の冷ややかな目が勇者を見てくる。呆れたような声音でそんなことを言われて勇者は呆然と立ち尽くしたがそれでも出ていく一言はある。
「嫌、分かんねえよ。魔族の習性なんて妖精族と同等かそれ以上に秘匿されててこっちの世界で知ってる人なんていないだろう」
 魔王が驚いた顔をした。魔王の顔色なんざそうやすやすと分かるものではないが、分かる。驚いた顔をした。暫く無言が続いた。無言が続いて魔王はではと言った。去ろうとするのに待て待て待て待てと勇者が止める
「ここで行くなよな。それよりその幼馴染の子どうにかなんないのかよ。可哀想だろう子供なのに一か所に居られないとか。マーナちゃんだってその子の事外に連れていてあげたいって思っているだろうし……。
 魔王、お前の力ならその子の力を抑えることだってできるんじゃないか」
 慌てて魔王を捕まえた勇者は問う。魔王に触れる手はとてつもない痛みを感じて震える。だがそんな事ではこの手を離すことはできなかった。
 じっと強く睨む。その目を魔王が見つめた。はあとため息のようなものが出ていた。
「……この世はそんなに甘くない。種類の違う私の力でどうにかしようとしたところでスイレイの体に負荷をかけるだけだ。特に私の魔力は水属性で火属性については優位の属性だ。抑え込もうとしてあの子の魔力そのものを消して殺してしまう可能性がある。
 できるのは生きる環境を整えてあげるだけだ」
「そんな……。なら俺はどうだ」
 低い声には何処か悔しさも混じっていた。それが伝わって勇者は顔を歪めたもののすぐに魔王を見つめ直す。強い目をして魔王に聞く。魔王は驚いた顔をして勇者を見ていた。
「俺の剣の属性は火属性だ。それならどうにかできるかもしれないだろう」
「正気か。貴様の力は聖なる力だろう」
「それでも同じ魔力だ。どうにかできるかもしれない。
 ……マーナちゃんの友達なんだろう。少しは何かをしてあげたいんだ。子供が閉じ込められているなんて可哀想だし……」
 勇者の目が魔王からそらされることはない。その口から言葉を紡ぎながら助けたいんだと一心に告げてくる。だから魔王は応えた
「ふん。良いだろう貴様が何処までやれるか見せてもらおう」
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