28 / 44
魔王の娘と村
しおりを挟む
「じゃあ、みんなはここで。また夕方に迎えに来てください」
にっこりとマーナは笑って従者たちに伝えていた。勇者のすむ村の外れ、人がいない場所だ。初めのころこそ勇者の家の前まで従者に送ってもらっていたが、村の人間が恐れているのが伝わってきて早いうちから一人で行くようになっていた。
従者たちは最後まで送っていくと嫌がっていたし、魔王もいい顔はしなかったもののお願いですとマーナが頼めば簡単に許してくれていた。父親という生き物は娘にはどうしたって強くなれないのだった。そして村の中を勇者の家まで一人で歩く。
マーナが歩いていると村の人はみんな家の中に隠れるか、そっぽを向いてマーナから遠のいていく。あからさまに恐れられさけられているものの何かされるわけではないのでマーナは気にしないようにしていた。
自分の存在が悪いのだと言う事はちゃんと分かっているから。それでも勇者の元へ向かうマーナはその途中はてと首を傾けていた。
村はいつもと変わらない。変わらないけど何かがいつもと違っていた。みんな恐れるようにマーナを見ている。その中には子供たちもいて、マーナは何が違うのか気付いた。
村の中にいる子供たちの手の中に見慣れぬものが握りしめられているのだ。祭りでみた明かりにも似ているがそれよりは少し小さい。それを子供たち全員が握りしめている。
何かあるのだろうかとマーナは首を傾けながら早足で歩く。村を一人で歩く時間はなるべく最小限に済ませるようにしていた。後で勇者様に聞こう。そう考えて一旦気にしないことにした。
そうだったけどマーナの足は途中で止まっていた。
ちょっとあんたと村人に呼び止められたからだ。呼び止めたのは恰幅の良い女の人だった。女の人は顔を青褪めマーナを睨みながら、こっちへおいでと手招きしていた。なにかしてしまったか。されるのか。悪い考えを咄嗟に頭の中回らせながらマーナは躊躇い勇者の家までの道を見た。
勇者の姿は見えない。逃げた方がいいのか。でもここで逃げたら何か言われてしまうのでは。
女が呼ぶ。迷った末マーナは女の元へ近づいていた。
なんでしょうかと微笑む。女はマーナをじっと見下ろしていた。荒い呼吸をしていて、落ち着けと言い聞かすように深呼吸をしようとしていた。二回三回やってもうまくいかなかったが四回目でうまくいって七回目までしてからこれと女はマーナの元に手を差し出していた。
その手の中にはマーナが不思議に思った子供たちが手にしていたものが握りしめられている。
まるで渡すようなそのしぐさにマーナは首を傾ける。これはと自然と聞いてしまって。ランプだよと女は答えた。受け取ってくれと言われてますますマーナは混乱した。何でと声が出るのに女はそう言う日なんだとぶっきらぼうに答える。
「そう言う日」
「ああ、これから日が落ちるのが早くなっていくからね、子供たちが無事に家に帰ってくるようにって祈りの灯りをあげる日なんだ。
あんたは魔物だけど子供だからね。やるよ」
大きな目が見開いて何度も瞬きをしてしまった。数分固まってからもう一度マーナはどうしてと呟いている。何で私にと女を呆然と見上げる。驚愕し過ぎて動かなくなったマーナを前にして女は仕方ないだろうと言っていた。
「勇者様にあそこまで言われたら……」
「勇者様……」
「ああ、勇者様が何か月か前ぐらいから魔族の子供にだけでも普通に接してあげてほしいってお願いしてきてたんだ。魔族を恐れる気持ちも許せない気持ちも分かる。だからっていつまでも怯えたり、怒りを向けたりしているだけでは折角戦争がなくなっても平和にはならない。またいつか同じことが繰り返されるだけ。だからここは新たな関係を模索してほしい。
無理と言われるのは分かる。でもせめて子供たちとだけは頼む。魔族の子供だろうと子供は争いに何も関係ない。争いで苦しめるようなことはなくしてあげて欲しいんだって。
始めはねそんなこと言われてもって思ってたけど、ずっと私たちになんか頭を下げてくるあの子の姿見てたらね……。子供に罪はないっていうのは分かることでもあるからね。
恐ろしいは恐ろしいけど、少しはこっちから歩み寄らないといけないのかねって。だからほら。受け取っておくれ」
マーナの手の中に小さなランプが転がる。もう一つマッチの箱も手のひらに落ちた。勇者様の元に返れるようにねなんて言って女の人はすぐさまマーナの元を離れていく。ごめんねなんて言われているのにマーナは一拍遅れてから顔を上げていた。
喉を詰まらせながらそれでも言葉を口にしていた。
ありがとうと。そう言っていた。
女の人の口元がわずかに歪んだように笑って、少し手を振って去っていく。
その姿を最後まで見送ってからマーナはランプをぎゅっと握りしめていた。一歩勇者の家へと歩いていく。何んだが胸がやたらと熱く一杯になっていた。
叫び出したいようなそんな衝動の中で勇者の顔がマーナの中にパンパンに膨れ上がっていて、ああとマーナは思った。
勇者様にすぐに会いたい。会ってお礼を言ってそれで、それで、
好きって言いたいってそう胸の中に広がっている。
ああ好きだと思った。勇者様が好きだとマーナは感じていた。
掛けるように勇者の家に行ってノックも忘れて扉を開ける。驚いた勇者はマーナの手の中にあるものを見てもっと驚いては自分が手にしていたものを見ていた。
にっこりとマーナは笑って従者たちに伝えていた。勇者のすむ村の外れ、人がいない場所だ。初めのころこそ勇者の家の前まで従者に送ってもらっていたが、村の人間が恐れているのが伝わってきて早いうちから一人で行くようになっていた。
従者たちは最後まで送っていくと嫌がっていたし、魔王もいい顔はしなかったもののお願いですとマーナが頼めば簡単に許してくれていた。父親という生き物は娘にはどうしたって強くなれないのだった。そして村の中を勇者の家まで一人で歩く。
マーナが歩いていると村の人はみんな家の中に隠れるか、そっぽを向いてマーナから遠のいていく。あからさまに恐れられさけられているものの何かされるわけではないのでマーナは気にしないようにしていた。
自分の存在が悪いのだと言う事はちゃんと分かっているから。それでも勇者の元へ向かうマーナはその途中はてと首を傾けていた。
村はいつもと変わらない。変わらないけど何かがいつもと違っていた。みんな恐れるようにマーナを見ている。その中には子供たちもいて、マーナは何が違うのか気付いた。
村の中にいる子供たちの手の中に見慣れぬものが握りしめられているのだ。祭りでみた明かりにも似ているがそれよりは少し小さい。それを子供たち全員が握りしめている。
何かあるのだろうかとマーナは首を傾けながら早足で歩く。村を一人で歩く時間はなるべく最小限に済ませるようにしていた。後で勇者様に聞こう。そう考えて一旦気にしないことにした。
そうだったけどマーナの足は途中で止まっていた。
ちょっとあんたと村人に呼び止められたからだ。呼び止めたのは恰幅の良い女の人だった。女の人は顔を青褪めマーナを睨みながら、こっちへおいでと手招きしていた。なにかしてしまったか。されるのか。悪い考えを咄嗟に頭の中回らせながらマーナは躊躇い勇者の家までの道を見た。
勇者の姿は見えない。逃げた方がいいのか。でもここで逃げたら何か言われてしまうのでは。
女が呼ぶ。迷った末マーナは女の元へ近づいていた。
なんでしょうかと微笑む。女はマーナをじっと見下ろしていた。荒い呼吸をしていて、落ち着けと言い聞かすように深呼吸をしようとしていた。二回三回やってもうまくいかなかったが四回目でうまくいって七回目までしてからこれと女はマーナの元に手を差し出していた。
その手の中にはマーナが不思議に思った子供たちが手にしていたものが握りしめられている。
まるで渡すようなそのしぐさにマーナは首を傾ける。これはと自然と聞いてしまって。ランプだよと女は答えた。受け取ってくれと言われてますますマーナは混乱した。何でと声が出るのに女はそう言う日なんだとぶっきらぼうに答える。
「そう言う日」
「ああ、これから日が落ちるのが早くなっていくからね、子供たちが無事に家に帰ってくるようにって祈りの灯りをあげる日なんだ。
あんたは魔物だけど子供だからね。やるよ」
大きな目が見開いて何度も瞬きをしてしまった。数分固まってからもう一度マーナはどうしてと呟いている。何で私にと女を呆然と見上げる。驚愕し過ぎて動かなくなったマーナを前にして女は仕方ないだろうと言っていた。
「勇者様にあそこまで言われたら……」
「勇者様……」
「ああ、勇者様が何か月か前ぐらいから魔族の子供にだけでも普通に接してあげてほしいってお願いしてきてたんだ。魔族を恐れる気持ちも許せない気持ちも分かる。だからっていつまでも怯えたり、怒りを向けたりしているだけでは折角戦争がなくなっても平和にはならない。またいつか同じことが繰り返されるだけ。だからここは新たな関係を模索してほしい。
無理と言われるのは分かる。でもせめて子供たちとだけは頼む。魔族の子供だろうと子供は争いに何も関係ない。争いで苦しめるようなことはなくしてあげて欲しいんだって。
始めはねそんなこと言われてもって思ってたけど、ずっと私たちになんか頭を下げてくるあの子の姿見てたらね……。子供に罪はないっていうのは分かることでもあるからね。
恐ろしいは恐ろしいけど、少しはこっちから歩み寄らないといけないのかねって。だからほら。受け取っておくれ」
マーナの手の中に小さなランプが転がる。もう一つマッチの箱も手のひらに落ちた。勇者様の元に返れるようにねなんて言って女の人はすぐさまマーナの元を離れていく。ごめんねなんて言われているのにマーナは一拍遅れてから顔を上げていた。
喉を詰まらせながらそれでも言葉を口にしていた。
ありがとうと。そう言っていた。
女の人の口元がわずかに歪んだように笑って、少し手を振って去っていく。
その姿を最後まで見送ってからマーナはランプをぎゅっと握りしめていた。一歩勇者の家へと歩いていく。何んだが胸がやたらと熱く一杯になっていた。
叫び出したいようなそんな衝動の中で勇者の顔がマーナの中にパンパンに膨れ上がっていて、ああとマーナは思った。
勇者様にすぐに会いたい。会ってお礼を言ってそれで、それで、
好きって言いたいってそう胸の中に広がっている。
ああ好きだと思った。勇者様が好きだとマーナは感じていた。
掛けるように勇者の家に行ってノックも忘れて扉を開ける。驚いた勇者はマーナの手の中にあるものを見てもっと驚いては自分が手にしていたものを見ていた。
0
あなたにおすすめの小説
理想の男性(ヒト)は、お祖父さま
たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。
そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室?
王太子はまったく好みじゃない。
彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。
彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。
そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった!
彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。
そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。
恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。
この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?
◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。
本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。
R-Kingdom_1
他サイトでも掲載しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました
もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!
「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」
透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。
そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。
最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。
仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕!
---
王宮に薬を届けに行ったなら
佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。
カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。
この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。
慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。
弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。
「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」
驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。
「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」
※ベリーズカフェにも掲載中です。そちらではラナの設定が変わっています。(貴族→庶民)それにより、内容も少し変更しておりますのであわせてお楽しみください。
やけに居心地がいいと思ったら、私のための愛の巣でした。~いつの間にか約束された精霊婚~
小桜
恋愛
ルディエル・アレンフォードは森に住む麗しの精霊守。
そんな彼が、いよいよ伴侶を迎えようと準備を始めているらしい。
幼馴染という関係に甘んじていたネネリア・ソルシェは、密かにショックを受けていた。
そろそろ彼との関係も終わらせなければならないけれど、ルディエルも精霊達もネネリアだけに優しくて――?
「大丈夫。ずっと居たいと思えるような場所にしてみせるから」
鈍感なネネリアと、一途で奥手なルディエル。
精霊に導かれた恋は、本人だけが気づかない。
女の子がほとんど産まれない国に転生しました。
さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。
100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳
そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。
当面は2日に1話更新予定!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる