魔王の娘(6歳)は勇者が欲しい

わたちょ

文字の大きさ
30 / 44

魔王の娘と誕生日 後

しおりを挟む
「な、なんで勇者様が」
 大きく見開いた色違いの瞳。その瞳が大きく揺れて一瞬だけ泣き出しそうになっていた。勇者はそんなマーナを見て気まずげに頬を掻いた。
「スイレイ君にサプライズがしたいって頼まれて。それに俺もマーナちゃんの誕生日祝いたかったから来たんだけど……。
 あ、そうだこれ。プレゼント、なんだけど」
 手にしていたものを勇者が差しだす。綺麗にラッピングされた小さな箱。マーナは物言えずにその箱を受け取っていた。ありがとうと言おうと口が何度も開いているのだが、のどに詰まって言えずにいるのだった。
 小さな肩が小刻みに震えている。
 慌てて勇者はその肩を支えていた。どうしたのと声を掛けては肩や背を撫でている。スイレイも駆け寄って大丈夫といっていた。嬉しくなかったと問われてマーナの首は大きく横に振られた。違うと一杯一杯の声がマーナからでていく、。
「嬉しくて、本当にうれしくって……。勇者様ありがとうございます。勇者様に祝ってもらえるなんて思っていなかったので。ありがとうございます。
 スイレイもありがとう。とっても嬉しい」
「良かった喜んでもらえて」
「なんか、逆に申し訳なくなるんだけど……。喜んでくれてありがとう。これからもよろしね」
 ほっと二人は肩をなでおろしていた。勇者など今にも座り込みそうなほど安心してそれでマーナに微笑みかける。やっとマーナは落ち着いてきていてもう一度ありがとうと口にしていた。手の中の箱が少し歪む。
「あのこれ開けていいですか」
「うん。良いよ。あんまり豪華なものじゃないんだけど……。喜んでもらえると嬉しいかな」
「勇者様がくれたと言うだけで私にとっては宝物です」
 恥ずかしそうに頬を掻く勇者。マーナはすぐに首を振ってそしてプレゼントの中身を見ていた。
マーナの目が見開いてきらきらと輝く。でも次の瞬間にはマーナは首を傾けていた。あのと勇者を見上げる。
「これは何ですか、勇者様」
「あれ、もしかして魔族は使ったりしないのかな。髪をまとめるための道具なんだけど……。背つめ難しいな。そうだ、マーナちゃん少しいいかな」
「はい」
 問いかけたマーナに勇者は驚いていた。えっとマーナを見てからすぐに考え直して頭をかく。どうしようかと悩んだ勇者はマーナにお願いしていた。いいですけどといったマーナの髪に触れて素早い手つきでマーナの髪を結い上げていた。マーナが手にしている髪留めを使い固めていく。
 できたよと笑ってから、あ、でもと勇者は困ったように鼻先をかいた」
「これだとマーナちゃんから見えないかな。ごめんね。俺こういう時どう説明していいかあんまりわからなくて」
「いえ、それはいいんですけど……」
「マーナちゃん凄くかわいいよ。似合っている」
 マーナの手は髪留めに伸びていた。頭についてるそれを撫でていく。スイレイが笑っていてそれなら良かったと安心して微笑んでいた。
「ありがとうございます。勇者様。大切に使わせていただきます」
 うんと頷いてから勇者は異様な殺気に気付いた。恐る恐るそちらを見る。正直見たくはなかった。何が起きているかなんて痛いほど分かっていたから。その場所では魔王がじっと勇者を見ていた。
 無表情。表情の筋肉一つ動いていないが雰囲気としてはにらんでいるように感じる。そんな感じであるがやはり娘には甘い親ばかだ。その場にいた魔族たちを勇者たちの元に行かせないよう押しとどめていた。
「えっと、急にきてごめんなさい。マーナちゃんの誕生日だっているからその……」
 勇者の声は先ほどよりずっととぎれとぎれで言葉を探していた。はあと魔王から出ていく吐息。顔の変化なんて欠片もないくせに相変わらず感情だけ如実に伝わってくる。
 今は呆れていた。
「よくほいほいこちらの世界に来れるものだな。気味が悪くて寝込むぐらいの可愛げでもあったらどうだ」
「え」
 魔王の言葉に勇者の目が丸くなった。
「そりゃあまあ、戦っていたのもあって嫌われてるんだろうなって恐ろしくはあるけど、別に気味が悪いとかは思ったことないけど……。まあ、確かにあっちの世界とは全然違うけど、こっちの世界はこっちの世界でちょっと気になったりするよ」
「……」
「勇者、さま」
 何故か二人が驚いていた。マーナの色違いで大きな目と魔王の冷たい目が勇者を見てくる。はあとまた魔王がため息をついていた。
「折角のマーナの誕生日だ。お前を追い出すようなことはしないからその辺に居ろ。送っていくのも面倒だから泊まって明日は観光でもしてからかえればいい。その方がマーナも喜ぶだろう」
 嫌そうながらそれも周りの魔族たちにそれでいいなと頷かせている魔王。マーナの瞳が輝いてすぐに笑みを作っていた。
「お父様、ありがとうございます」
「……今日は楽しむと言い。私は少々疲れたから休みに行く」
 魔王は椅子から立ち上がって踵を返す。はいとマーナがお辞儀をして、勇者は大丈夫かと声をかけていた。当然とでも言えばいいのか魔王がそれに答えを返すことはなかった。


 喧騒から離れた魔王は一人、足を止めていた。魔王城の廊下。窓の外を見れば見慣れ過ぎた景色が広がっていて魔王はその景色を睨むとそっと息を吐きだしていた。
「……ウィンディーネ。お前は今をどう思っているのだろうな」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

【完】まさかの婚約破棄はあなたの心の声が聞こえたから

えとう蜜夏
恋愛
伯爵令嬢のマーシャはある日不思議なネックレスを手に入れた。それは相手の心が聞こえるという品で、そんなことを信じるつもりは無かった。それに相手とは家同士の婚約だけどお互いに仲も良く、上手くいっていると思っていたつもりだったのに……。よくある婚約破棄のお話です。 ※他サイトに自立も掲載しております 21.5.25ホットランキング入りありがとうございました( ´ ▽ ` )ノ  Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.  ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

処理中です...