魔王の娘(6歳)は勇者が欲しい

わたちょ

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勇者と斧使い

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 平和の式典があった夜。魔王とマーナが帰った後、勇者と斧使いの二人は勇者の家で二人酒を飲んでいた。時折二人で飲むときがあった。つまみを取りながらちまちま飲んでいく中で、なあと斧使いが少し神妙な顔つきで話だした。
「勇者さ、ちょっと聞きてえことがあるんだけど」
「ん、どうかしたか」
 グラスを傾けていた勇者は眉をわずかによせて、離したグラスを机の上に置く。真剣な姿になった勇者に最初に話しかけた斧使いはほんの少しだけ頬を掻いた。
「いや、……マーナちゃんのことどう思ってんのかなって、それだけなんだけど」
「え、どうって」
「婚約者だろう。好きか嫌いかってこと」
 言わせんなよなんて苦笑して斧使いは酒をあおるように飲んだ。その後にじっと勇者を見る。問われた勇者は少しの間その口を間抜けな形に開いていた。
 ええとそんな戸惑った声が聞こえ、勇者の目が左右を彷徨っていた。困ったように小さく口元を歪ませて笑って言うる。
「そりゃあまあ好きだけど。婚約とかはあんまり……。普通の好きだよ。マーナちゃんともまずは友達でいようって話したし……」
「あ? でもこないだ婚約者だって嬉しげだったぞ」
 だからまあ、今はそんな事と勇者が口にする中で斧使いは首を傾けていた。何かを思い出すように目を眇めて上をの方を睨む。勇者は一瞬驚いた顔をしたもののすぐに何かを思い出して頬をまた掻いていた。
「……ああ、そう言えばあの時告白みたいなことされたっけ」
「どうすんだ」
 困ったなと笑う。じっと見てくる斧使いから目をそらしながら勇者は置いたグラスを一度手に取っていた。所在無さげに揺らして一口だけ含む。何かを飲み込んでからまた曖昧に笑った。
「どうするってまあ、なるようになるしかないんじゃないかな」
 へらへらとそんな風に笑うのに斧使いからはため息が落ちる。咎めるような目が勇者を見ていた
「お前、そういう所なんだよな」
 頬を掻くものの勇者からは反論の声は出ない。どころかごめんねなんて声が出ていた。ますます深いため息が斧使いから出た。
「姫さんたちと合わせるのも避けてるし」
「分かる」
「分かるぜ、なんかあれば姫さんたちは呼ばずにすぐ俺呼ぶだろう。女の子なんだからおんなじ女の子同士がいいかもしれないのに」
「うーーん。あの三人とマーナちゃん相性悪いみたいなんだよね。 とは喧嘩しちゃったみたいだし、の方もあんまりマーナちゃんの事よく思ってないし」
「まあな」
 頷きつつも斧使いはまだ呆れた顔をしていて、斧使いが酒を煽る横で勇者はまた所在無さげにしている。グラスが手の中で揺れていて、何度か机の上に置き直しているが、暫くすると再び手にしていた。
「あの三人のことどうするつもりだ」
「どうするって……」
 勇者の目が揺れる。何のことだなんて聞く声は震えてはいないものの弱弱しくて椅子が少し音を立てていた。
「とぼけんなよ。あの三人がお前の事好きなの知ってんだろ」
「ああ……。嫌なこと聞くよな」
「お前がいつまでも逃げてるからだ」
 ヘラりと笑って勇者は軽く拒絶したつもりでいたが、斧使いはそんなことは気にしてくれず勇者が聞かれたくないことを聞いてきていた。情けない声が出て勇者は深く息を吐きだしていた。
「どうしたらいいと思う」
「俺に聞くなよ」
 吐きだした後、情けなく問いかける声。斧使いはそれをすぐさま切り捨てていた。
「だってアバンディがそんな話してくるから。
……もしかしてマーナちゃんの味方」
 泳いでいた目が斧使いを一瞬だけ見る。斧使いはすぐにため息をついていた。バーカーという言葉と共に斧使いはもう一度酒を煽っていた。
「俺はどっちの味方でもねえ。あいつらとはずっと苦しい戦いを共に耐えてきた情がある。マーナちゃんはまあ、敵の娘だったとしてもあの年で俺たちに余計な迷惑かけないよう我慢しようとしてるところ見ると何とかしてやりたくはなる。
 だからどっちの味方でもない。
 それに俺がどうこうできることでもないからな。お前の気持ち一つの問題だろう。
 しいていうならお前の味方だ。このままだとお前どっちも悲しませて中途半端に全部終わっちまうぞ。そうなって傷つく中にはお前もいる」
 勇者の目が軽く見開かれていた。乾いた笑い声が出ている。
「……優しいよな。アバンディは」
 はあと口からでていくそれは諦めの何かだ。そして勇者は机の上をぼんやりと見つめた。
「……おれはさ、駄目なんだよ。誰かを好きになるとかできないんだ」
 勇者の声がむなしく聞こえる。斧使いはそんな勇者もじっと見ていてそれでまた息を吐きだしていた。知っていると言いながらそれでもと言っていた。
「お前は妻家になれると思ったんだ」
「は?」
 疲れたようだった勇者が驚いた顔で斧使いを見た。何を言っているんだとその目は見開いている。
「すぐに間違っているって気付いたけどな。
でも結婚したら妻を大事にするだろうから愛妻家になれるんじゃないかって思ったりもしたんだよ。けどよくよく考えてみるとお前は全部を大事にしようとするから、そこに妻とか関係なくてそれって愛妻家とは言わないんだろうなって。きっと大切にされても幸せにはなれないんだろうなって……」
「……みんなを大切にするのって駄目なのか」
 斧使いが訥々と語る。暗い顔をした勇者は俯いて小さな声を吐きだしていた。隣にいないと聞き取れないぐらいに小さな声だ。
「だめじゃないだろう。すごい事だよ。でも幸せにできない奴も出てくるって話。今さらだけど俺の母さんもそうだったんだろうな」
「……」
 ゆっくりと首を振る影が机の上に映った。その影を勇者は眺める。ぎゅっと唇を噛みしめる姿を見ながら斧使いは言葉を告げる
「どうするか慎重に考えた方がいい」
 そうなんだろうけどなという勇者の声は羽虫のように小さく聞き取れるようなものではなくなっていた。
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