魔王の娘(6歳)は勇者が欲しい

わたちょ

文字の大きさ
38 / 44

魔王の娘と平和の式典

しおりを挟む
魔王の娘と平和の式典

「お疲れ様です。勇者様にお父様」
「うん。お疲れ様。退屈じゃなかったかな大丈夫」
「はい。勇者様が凄く格好良かったので見ているだけで楽しかったです。お父様もとても格好良かったです」
式典が終わった後、勇者と魔王の二人はすぐにマーナが待つ部屋へと来ていた。二人を出迎えたマーナがにこにこと幸せそうに笑っていて、勇者は優しく微笑みかけるが、魔王の仏頂面は変わらなかった。眉間一つ動かない中で、魔王はマーナの言葉に頷き、そしてでは帰ろうと手を伸ばしていた。
 差し出された手をマーナがじっと見つめる。
 えっと言ったのはマーナではなく勇者や斧使いであった。
「まさかもう帰るのかよ。折角来たんだから屋台ぐらい楽しんでいけよ。マーナちゃんだって魔王と一緒に回れるの楽しみにしていたのに」
「なに」
「そうですよ。一緒に出掛けるなんてめったにないんでしょう。それなら楽しんでいってあげないと」
 勇者の言葉に眉を寄せた魔王。すかさず斧使いが援護する。じっと見上げていたマーナが駄目とその目元を潤ませていた。お父様と悲し気な声が出ていく。
 ぐっと魔王の喉がなる。
 娘を溺愛し、娘の一言で進撃を取りやめてしまうような魔王にとってその攻撃は何よりも大きい防護などしようもないものであった。
 分かったと魔王の口から絞り出すような声が聞こえてマーナの目が輝く。華が開くように満面の笑顔になるマーナに良かったねと勇者と斧使いがそれぞれ声を掛けてじゃあ行こうかと魔王とマーナの二人に言っていた。
 はいとマーナが二人の傍まできて魔王に手を伸ばす。行きましょうと娘が笑うのに魔王が嫌だと言えるはずもない。
 ああと差し出されるマーナの小さな手を取っていた。


 町の中を勇者とマーナ、斧使いに魔王というはたから見ると大変奇妙な組み合わせの一行が歩いていた。魔王の視線は先ほどからあちこちに動いて回り待ちの中の色々なものを見ていた。その中でもやはり飾り付けられた屋台には目がいき、ずっと見ている。
 楽しんでいるようにも思えなくはないが、魔王の顔は変わらない。
 町の中を探索できて喜んでいるのか、もしくは呆れているのかどちらとも取れそうな顔で、勇者も斧使いも判断に困っていた。マーナがお父様とてもはしゃいでいますと言っても信じられないぐらいだった。
「よくマーナちゃんって魔王の機嫌分かるよな。俺一生かかっても分からない気がするのに」
「あれでいてお父様って案外単純なんですよ。自分が知らない事にはそれがどんなことでも知ろうとしますし、興味が出た対象はじっと見つめているからすぐに分かりますし」
「そうなんだ」
 二人の眼差しが魔王を見つめる。魔王は歩きながら屋台を一瞬真顔で見ていたかと思うとすぐに違う場所を見ている。分かるかとアイコンタクトを取りながらどちらも首を振っている。
「家屋ってやっぱりすごいものなんだね。あ、そう言えば今日はスイレイ君こなかったんだね。てっきり三人で来るかと思ってたんだけど」
「あ、スイレイは今日ちょっと用事がありまして。でもたいしたことじゃないので大丈夫ですわ。
 それより勇者様、、ほらあれお父様が気になっているようなので助けてあげてください。お店の人、委縮しているみたいで」
 ひとしきり感心した勇者はその後引っ掛かりそれで後から聞こうと思っていたことを思い出した。
 残り時刻を聞いたマーナの声が若干震えたもののすぐに笑って答え、そして魔王を指さしていた。魔王はじっと屋台の中を見ている。ああ、と勇者が動く前にマーナが動いていて、これはねと魔王に教える。
 魔王は静かに腰の丈ほどまでしかないマーナを見下ろしそしてその頭をなでていた。
 ありがとうと低くいかつい声が言うが、いつもよりかは若干可愛いものだろうか。ではあれはと魔王の指は別の屋台を指さしてマーナが答えていた。
 去年の収穫祭や夏祭りの時に話した内容とほぼ同じである。魔王とマーナの近くまで着ながらも二人は微笑ましいなと会話に割って入ることはしなかった。にこにことマーナが魔王に教えている。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

理想の男性(ヒト)は、お祖父さま

たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。 そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室? 王太子はまったく好みじゃない。 彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。 彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。 そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった! 彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。 そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。 恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。 この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?  ◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。 本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。 R-Kingdom_1 他サイトでも掲載しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました

もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!

「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」

透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。 そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。 最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。 仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕! ---

王宮に薬を届けに行ったなら

佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。 カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。 この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。 慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。 弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。 「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」 驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。 「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」 ※ベリーズカフェにも掲載中です。そちらではラナの設定が変わっています。(貴族→庶民)それにより、内容も少し変更しておりますのであわせてお楽しみください。

やけに居心地がいいと思ったら、私のための愛の巣でした。~いつの間にか約束された精霊婚~

小桜
恋愛
ルディエル・アレンフォードは森に住む麗しの精霊守。 そんな彼が、いよいよ伴侶を迎えようと準備を始めているらしい。 幼馴染という関係に甘んじていたネネリア・ソルシェは、密かにショックを受けていた。 そろそろ彼との関係も終わらせなければならないけれど、ルディエルも精霊達もネネリアだけに優しくて――? 「大丈夫。ずっと居たいと思えるような場所にしてみせるから」 鈍感なネネリアと、一途で奥手なルディエル。 精霊に導かれた恋は、本人だけが気づかない。

女の子がほとんど産まれない国に転生しました。

さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。 100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳 そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。 当面は2日に1話更新予定!

処理中です...