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砂と氷が交わる場所
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ラウス、壊滅せし。しかして滅亡はせず。
ラウスは都市機能を半分失ったが緊急的にもう一つの都市へ機能を移行させたことで一命をとりとめた。ヴァリスは爆発して以来ずっとそこで眠り続けている。まるで次の行動までのエネルギーを蓄えているかのように。
一方カイはというと、ザラト方面の辺境に飛ばされており砂嵐にむせながら目を覚ますことになった。
「ザラトか……にしてもどこだここ」
場所の確認をしていると遠くに街があることに気づく。
その街へと向かい、情報を得ることを考えていた。
街へ着くと、見慣れない格好の女性が魔石や武器などを高額で取引していた。
カイは気になりその店へと立ち寄った。
棚を見てみるとすべて質がいい。高額なのもうなづける。
商品を見ていると怪訝そうな顔で女性がこう声をかける。
「買うなら買って。買わないなら邪魔だからさっさと帰って」
その声は氷のように冷たく、突き放すようなものだった。
「いや、俺吹き飛ばされてここまで来たんだが」
「吹き飛ばされて?面白い冗談をいうモノね。確かにここじゃ見ない顔だけど」
「そりゃそうだろ。お前だって見ない顔だな。最近来たのか?」
しばらく会話が続く。その中で女性はこういった。
「私はただここを新たな場所だと思って商売してるだけ。チャートの事もあるから」
「チャート?お前アトラスか、そんなところからよくここまで来たな」
「だってここアトラスとの国境付近よ?ラウスからだとザラトを縦断するように飛んできたことになるけれど」
とにかく買わないならさっさとそこをどいて、と一言。
砂塵嵐が舞うこの地域では不釣り合いなビジネススーツ。ハンガーにかけられた高級そうな白いダッフルコート。こんなところにいるのが不思議なくらいだった。
「なんでこんなところにいるんだ?」
思わず声に出る。それを聞いた女性はこう答える。
「あなたが知る必要はどこにもないわ」
冷たい一言だった。カイはそれでも言葉を紡ごうとする。
そんな彼をあしらうかのように女性はこう続ける。
「アトラスに来るなら話は聞いてあげる。あと名前がないと不便でしょ、私はセレナ。素性はすぐにわかるわ」
セレナと名乗った女性はカイに一瞥をくれるでもなく、ただひたすらに資料に目をやっていた。
一通りの確認を終えたのかタブレットから目を上げる。
「そこにいられると邪魔って何度言えばわかるのかしら。もう店は畳むから出てって」
「出てけって言われてもなぁ……」
「あら、行く当てがないならアトラスに来ればいいじゃない。今なら誰が来ても何も言われないわよ」
いそいそと店を閉める準備に取り掛かりながらセレナはそういった。
荷台に荷物を載せ、ハンガーにあるダッフルコートを着用し手綱を握った。
「気が変わらないうちに乗りなさい」
セレナはそういうとカイに少しの猶予を与えた。
ほんの数秒の猶予、それをカイは見逃さなかった。荷台に飛び乗り馬車は進んでいった。
進むにつれ黄色い嵐から白く冷たい嵐へと姿を変えていった。ザラトからアトラスへ向かっている証拠だ。
当然カイはアトラスに対応した服を持っていない。寒さに凍えていると一つ声がした。
「市街地につけばその恰好でも耐えられるから、もう少し辛抱しなさい」
銀世界をただひたすらにまっすぐ進む馬車、先の見えぬ旅路にカイは言葉にできぬ感情を抱いていた。本当にたどり着くのだろうか、ただそれだけを思いながら。
「何か情報を得られる方法はないか?ラウスの状況が知りたい」
不意に何かを思い出したようにカイはセレナにそう問いかける。
「そこに鉱石があるでしょ、それを横の箱に入れればニュースくらいは入るわ」
ありがとう、そう伝えた後鉱石を箱に入れラウスの情報を得ようとした。
「箱を入れただけで何が起こるってんだ……?」
「それ、アトラスに来た時渡りが開発していったものなの。彼らの時代には当然にあって”ラジオ”と呼ばれていたそうよ」
ラジオ、カイたちが生きる時代にはそんなものはなく連絡手段といえば使者を送ったり文通を行うのが主である。時渡りの功績により”新聞”という情報伝達方法も確立している。
鉱石が入った箱は次第にザー、ザーと音を出していた。
どうしていいかわからないでいると「箱のつまみを動かしなさい」とセレナが言う。
それを聞いたカイはつまみを動かす。するとノイズは次第に声へと変わっていった。
「ヴァリスはどうなってる?あの爆発以降動きを止め休眠状態に入っているとみられます」
様々な声が入る。
「エネルギーを貯めているのか……?観察を続けろ!被害はここで抑えるんだ!!」
半壊で済んでいる様子が克明に伝わってくる。
しかしラジオなる装置に初めて触れるカイに、この声たちを信じるのは難しかった。
しかしセレナは氷のようにこう答える。
「ラウス半壊、それもシュテルンによる攻撃で……災難だったわね」
「お前はどうも思わないのか?」
「思うわ。だから災難だったって言ったじゃない。だけれどこれでIFPは我々アトラスのものになるのも時間の問題ね」
なんだそれ、と言い切る前にセレナが静かにするよう伝えた。
気づけば市街地へ入る門の前。
「身分証と通行手形を出せ」
門番は大きな声で伝えると、セレナは知っていたと言わんばかりにふたつの書類を出す。
それを見た門番は再び大きな声で「よし通れ」と言い門を開けた。
しばらく進むとセレナが口を開く
「もう喋っていいわ。あんた一人くらい入ってきたところで今はみんなチャートに釘付けだから」
「なぜここの奴らはチャートに必死なんだ?ただの順位付けだろ?」
カイは口を開くと同時に疑問を口にしていた。
「当然よ。だって一位に輝けば次の主宰になれる、この国を動かせるようになるからよ」
荷馬車を止め再び資料に目を見やる。セレナは見放すように告げる。
「市街地で動くならそのへんのロボットに身分証を発行してもらいなさい。それ以外は別に必要ないけれど、グラット、特にルーヴェンに行くのはやめておいた方がいいわ。狂った研究者の残骸がいる噂もあるから」
おいまてよ、そんな言葉すらも聞き入れることなく去っていった。
去り際に「もう会うことはないかもね」と言い残しどこかへ行ってしまった。
「どうするか……あいつオレが一度ここにきてるの知らないな?といってもこんな窮屈な街にいつづけるのもな…」
悩み果てるカイ。脳裏によぎるグラットの存在。
セレナと名乗った女性が行くことを止めた場所。カイは好奇心に負け、少量の食料を市街地で購入した後グラットへ向かった。
ラウスは都市機能を半分失ったが緊急的にもう一つの都市へ機能を移行させたことで一命をとりとめた。ヴァリスは爆発して以来ずっとそこで眠り続けている。まるで次の行動までのエネルギーを蓄えているかのように。
一方カイはというと、ザラト方面の辺境に飛ばされており砂嵐にむせながら目を覚ますことになった。
「ザラトか……にしてもどこだここ」
場所の確認をしていると遠くに街があることに気づく。
その街へと向かい、情報を得ることを考えていた。
街へ着くと、見慣れない格好の女性が魔石や武器などを高額で取引していた。
カイは気になりその店へと立ち寄った。
棚を見てみるとすべて質がいい。高額なのもうなづける。
商品を見ていると怪訝そうな顔で女性がこう声をかける。
「買うなら買って。買わないなら邪魔だからさっさと帰って」
その声は氷のように冷たく、突き放すようなものだった。
「いや、俺吹き飛ばされてここまで来たんだが」
「吹き飛ばされて?面白い冗談をいうモノね。確かにここじゃ見ない顔だけど」
「そりゃそうだろ。お前だって見ない顔だな。最近来たのか?」
しばらく会話が続く。その中で女性はこういった。
「私はただここを新たな場所だと思って商売してるだけ。チャートの事もあるから」
「チャート?お前アトラスか、そんなところからよくここまで来たな」
「だってここアトラスとの国境付近よ?ラウスからだとザラトを縦断するように飛んできたことになるけれど」
とにかく買わないならさっさとそこをどいて、と一言。
砂塵嵐が舞うこの地域では不釣り合いなビジネススーツ。ハンガーにかけられた高級そうな白いダッフルコート。こんなところにいるのが不思議なくらいだった。
「なんでこんなところにいるんだ?」
思わず声に出る。それを聞いた女性はこう答える。
「あなたが知る必要はどこにもないわ」
冷たい一言だった。カイはそれでも言葉を紡ごうとする。
そんな彼をあしらうかのように女性はこう続ける。
「アトラスに来るなら話は聞いてあげる。あと名前がないと不便でしょ、私はセレナ。素性はすぐにわかるわ」
セレナと名乗った女性はカイに一瞥をくれるでもなく、ただひたすらに資料に目をやっていた。
一通りの確認を終えたのかタブレットから目を上げる。
「そこにいられると邪魔って何度言えばわかるのかしら。もう店は畳むから出てって」
「出てけって言われてもなぁ……」
「あら、行く当てがないならアトラスに来ればいいじゃない。今なら誰が来ても何も言われないわよ」
いそいそと店を閉める準備に取り掛かりながらセレナはそういった。
荷台に荷物を載せ、ハンガーにあるダッフルコートを着用し手綱を握った。
「気が変わらないうちに乗りなさい」
セレナはそういうとカイに少しの猶予を与えた。
ほんの数秒の猶予、それをカイは見逃さなかった。荷台に飛び乗り馬車は進んでいった。
進むにつれ黄色い嵐から白く冷たい嵐へと姿を変えていった。ザラトからアトラスへ向かっている証拠だ。
当然カイはアトラスに対応した服を持っていない。寒さに凍えていると一つ声がした。
「市街地につけばその恰好でも耐えられるから、もう少し辛抱しなさい」
銀世界をただひたすらにまっすぐ進む馬車、先の見えぬ旅路にカイは言葉にできぬ感情を抱いていた。本当にたどり着くのだろうか、ただそれだけを思いながら。
「何か情報を得られる方法はないか?ラウスの状況が知りたい」
不意に何かを思い出したようにカイはセレナにそう問いかける。
「そこに鉱石があるでしょ、それを横の箱に入れればニュースくらいは入るわ」
ありがとう、そう伝えた後鉱石を箱に入れラウスの情報を得ようとした。
「箱を入れただけで何が起こるってんだ……?」
「それ、アトラスに来た時渡りが開発していったものなの。彼らの時代には当然にあって”ラジオ”と呼ばれていたそうよ」
ラジオ、カイたちが生きる時代にはそんなものはなく連絡手段といえば使者を送ったり文通を行うのが主である。時渡りの功績により”新聞”という情報伝達方法も確立している。
鉱石が入った箱は次第にザー、ザーと音を出していた。
どうしていいかわからないでいると「箱のつまみを動かしなさい」とセレナが言う。
それを聞いたカイはつまみを動かす。するとノイズは次第に声へと変わっていった。
「ヴァリスはどうなってる?あの爆発以降動きを止め休眠状態に入っているとみられます」
様々な声が入る。
「エネルギーを貯めているのか……?観察を続けろ!被害はここで抑えるんだ!!」
半壊で済んでいる様子が克明に伝わってくる。
しかしラジオなる装置に初めて触れるカイに、この声たちを信じるのは難しかった。
しかしセレナは氷のようにこう答える。
「ラウス半壊、それもシュテルンによる攻撃で……災難だったわね」
「お前はどうも思わないのか?」
「思うわ。だから災難だったって言ったじゃない。だけれどこれでIFPは我々アトラスのものになるのも時間の問題ね」
なんだそれ、と言い切る前にセレナが静かにするよう伝えた。
気づけば市街地へ入る門の前。
「身分証と通行手形を出せ」
門番は大きな声で伝えると、セレナは知っていたと言わんばかりにふたつの書類を出す。
それを見た門番は再び大きな声で「よし通れ」と言い門を開けた。
しばらく進むとセレナが口を開く
「もう喋っていいわ。あんた一人くらい入ってきたところで今はみんなチャートに釘付けだから」
「なぜここの奴らはチャートに必死なんだ?ただの順位付けだろ?」
カイは口を開くと同時に疑問を口にしていた。
「当然よ。だって一位に輝けば次の主宰になれる、この国を動かせるようになるからよ」
荷馬車を止め再び資料に目を見やる。セレナは見放すように告げる。
「市街地で動くならそのへんのロボットに身分証を発行してもらいなさい。それ以外は別に必要ないけれど、グラット、特にルーヴェンに行くのはやめておいた方がいいわ。狂った研究者の残骸がいる噂もあるから」
おいまてよ、そんな言葉すらも聞き入れることなく去っていった。
去り際に「もう会うことはないかもね」と言い残しどこかへ行ってしまった。
「どうするか……あいつオレが一度ここにきてるの知らないな?といってもこんな窮屈な街にいつづけるのもな…」
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