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闇に消えた虚ろな声
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───グラット。
それは経営で優劣が決まるアトラスにおいて完全に落ちぶれたものたちが集う一つの””街””だった。
盗み、殺し、金になりそうなことは何でもやる。表舞台の経営者と違い線引きが甘いのだ。
彼らは市街地にいる富裕層が来ることを待ち望み、来れば獲物を見つけた獣のごとく襲い掛かる。
故に───この地は忌避されている。
市街地と雰囲気は打って変わってすべてが暗く、薄汚れていた。灰色の世界をしており誰もがグラットで成り上がろうと餌を求める目をしていた。
カイはそんな住民をしり目にどんどんと歩き進めていく。
「おいお前、金あるだろ。ちょっとよこせよ」
突然の声。若い男がカイに絡む。
「悪い、今持ち合わせはこれしかない」
そういって少しの小銭と食料を差し出す。
「お前身なりからして市街地から来てんだろ。隠し持ってんじゃねえだろうな?」
「間違っちゃいねえよ。だけどな、俺は市街地を経由してきただけだ」
「経由だ?」
「そうだ。もしこの少ししかないものを奪ってさらに奪おうというなら俺もこの剣を抜かざるを得ない。面倒だろ?死体が増えるのは」
カイは背中に携えてある大剣に手を伸ばす。
「こっちからすりゃ売る臓器増えて楽ってもんだぜ。だがお前の気概は気に入った。金はもらうがいいこと教えてやるよ。実はな、ここをさらに奥に行くと化け物の村が存在するんだ。市街地の奴らはルーヴェンって呼んでるらしいけどな。こっちの言い方だとネビュラだ」
「いってみるよ、ありがとう。化け物ってのは?」
質問を投げかけるカイ。
「ああ、市街地の一等地に研究施設があるらしくてな。そこでシュテルンの研究をしてると同時に人体実験をしてるマジのイカれた研究者がいたってよ。んでその化け物はその実験の産物らしいぜ」
「この国らしいな。その金は情報料として受け取ってくれ」
礼を言いつつ立ち去ろうとするカイ。
それにつられ若い男も別れようとする。その時に一言だけこう伝えた。
”言葉を話さない村の長がいる。ソイツがすべて知っている”
それを聞いたカイは疑問を浮かべつつグラットの奥地、ルーヴェンともネビュラとも呼べる場所へと向かった。
それらしい村へたどり着くと不気味さは一層増し、さらに灰色の影を落とし込む。
「お前見ない顔だな、どこから来た?」
突然、大柄の獣と見まごう男に話しかけられる。
「そりゃ初めてだからな。ラウスから吹っ飛ばされてここの商人……確かセレナに連れてこられた」
淡々と返すカイ。
「そうか。ということは一度市街地にいってるんだな。とりあえず入れ、我々は争う意志はない」
「オレだって争う意志はねえよ」
「ただ、あの女研究者だけは許せないがな」
カイは素直に疑問をぶつけた。
「誰の事なんだ?」
男は神妙な面持ちでこう返す。
「確かアーデルハイトと言ったか。シュテルンとの融合実験で我々を生み出し続けた。今は知らないがもし生きているなら我々と同じ存在がどこかに産み落とされ続けることになるだろう」
村の中心地へ案内しながらの説明、村は生活に必要な最低限のものしかそろっておらず活気があるとはとてもいえる状況ではなかった。
「随分と……殺風景だな」
カイはボソリとつぶやく。
「生きることしか出来ないからな。こうなってしまうのだ」
男は淡々と返した
そうか、と一言こぼし、現状を見つめる。
ただ生きるために備えられた設備、それこそ寝食ができればそれでいいような場所だった。
「いいのか?こんな環境で」
思わず言葉が漏れる。
「いいんだ。我々はスラムですら生きていくのがやっとだ」
男は遠くを見つめながらそう答える。その時カイのポケットが振動した。
気づいたカイはポケットの中に手を入れるとラジオで使った鉱石が震えていた。
「ラジオに使ってたはずの鉱石がなくなってるから何かと思えば……」
聞き覚えのある声。セレナがラジオに入っていたはずの鉱石がないことに気づき連絡をしてきたのだ。
「今頃驚いてる頃でしょうね。実は送るだけなら鉱石だけでもいいのよ、とりあえず返しに来てくれる?場所は伝えるから」
カイは応答したが声は届いていない。本当に声を送ることしかできないようだ。
「なるほど、時渡りの技術か。少し貸してくれ」
男はカイから鉱石を借りると何か細工をした。
「最低限しかないとは言えどこれくらいはできる。喋ってみろ。相手が驚くぞ」
カイは声を出す。
「聞こえてるか?今変わった村にいるんだ。こっちに来てくれないか?」
鉱石の向こう側から驚いた声が返ってくる。
「え?どうやって返してるの?……まあいいわ。村って?まずどこにいるの?」
「グラット。さらにその奥のネビュラにいる」
「危ないところにいるわね。用があるなら向かうけれど、どうかしたの?」
「とりあえず来てくれ。話を聞きたいのもあるんだ」
しばらく考え込んだ後、「わかったわ。向かうから待ってなさい」と一言残し通信が途絶えた。
「すごいなこれ。どうやったんだ?」
「この時代じゃロストテクノロジーだ。君に教えたところできっと理解できないだろう」
とりあえず飯でもどうだ、と男はカイを食事ができるところまで連れて行き、事情を話す。
───その事情は、アトラスの闇を象徴するものでもあった。
それは経営で優劣が決まるアトラスにおいて完全に落ちぶれたものたちが集う一つの””街””だった。
盗み、殺し、金になりそうなことは何でもやる。表舞台の経営者と違い線引きが甘いのだ。
彼らは市街地にいる富裕層が来ることを待ち望み、来れば獲物を見つけた獣のごとく襲い掛かる。
故に───この地は忌避されている。
市街地と雰囲気は打って変わってすべてが暗く、薄汚れていた。灰色の世界をしており誰もがグラットで成り上がろうと餌を求める目をしていた。
カイはそんな住民をしり目にどんどんと歩き進めていく。
「おいお前、金あるだろ。ちょっとよこせよ」
突然の声。若い男がカイに絡む。
「悪い、今持ち合わせはこれしかない」
そういって少しの小銭と食料を差し出す。
「お前身なりからして市街地から来てんだろ。隠し持ってんじゃねえだろうな?」
「間違っちゃいねえよ。だけどな、俺は市街地を経由してきただけだ」
「経由だ?」
「そうだ。もしこの少ししかないものを奪ってさらに奪おうというなら俺もこの剣を抜かざるを得ない。面倒だろ?死体が増えるのは」
カイは背中に携えてある大剣に手を伸ばす。
「こっちからすりゃ売る臓器増えて楽ってもんだぜ。だがお前の気概は気に入った。金はもらうがいいこと教えてやるよ。実はな、ここをさらに奥に行くと化け物の村が存在するんだ。市街地の奴らはルーヴェンって呼んでるらしいけどな。こっちの言い方だとネビュラだ」
「いってみるよ、ありがとう。化け物ってのは?」
質問を投げかけるカイ。
「ああ、市街地の一等地に研究施設があるらしくてな。そこでシュテルンの研究をしてると同時に人体実験をしてるマジのイカれた研究者がいたってよ。んでその化け物はその実験の産物らしいぜ」
「この国らしいな。その金は情報料として受け取ってくれ」
礼を言いつつ立ち去ろうとするカイ。
それにつられ若い男も別れようとする。その時に一言だけこう伝えた。
”言葉を話さない村の長がいる。ソイツがすべて知っている”
それを聞いたカイは疑問を浮かべつつグラットの奥地、ルーヴェンともネビュラとも呼べる場所へと向かった。
それらしい村へたどり着くと不気味さは一層増し、さらに灰色の影を落とし込む。
「お前見ない顔だな、どこから来た?」
突然、大柄の獣と見まごう男に話しかけられる。
「そりゃ初めてだからな。ラウスから吹っ飛ばされてここの商人……確かセレナに連れてこられた」
淡々と返すカイ。
「そうか。ということは一度市街地にいってるんだな。とりあえず入れ、我々は争う意志はない」
「オレだって争う意志はねえよ」
「ただ、あの女研究者だけは許せないがな」
カイは素直に疑問をぶつけた。
「誰の事なんだ?」
男は神妙な面持ちでこう返す。
「確かアーデルハイトと言ったか。シュテルンとの融合実験で我々を生み出し続けた。今は知らないがもし生きているなら我々と同じ存在がどこかに産み落とされ続けることになるだろう」
村の中心地へ案内しながらの説明、村は生活に必要な最低限のものしかそろっておらず活気があるとはとてもいえる状況ではなかった。
「随分と……殺風景だな」
カイはボソリとつぶやく。
「生きることしか出来ないからな。こうなってしまうのだ」
男は淡々と返した
そうか、と一言こぼし、現状を見つめる。
ただ生きるために備えられた設備、それこそ寝食ができればそれでいいような場所だった。
「いいのか?こんな環境で」
思わず言葉が漏れる。
「いいんだ。我々はスラムですら生きていくのがやっとだ」
男は遠くを見つめながらそう答える。その時カイのポケットが振動した。
気づいたカイはポケットの中に手を入れるとラジオで使った鉱石が震えていた。
「ラジオに使ってたはずの鉱石がなくなってるから何かと思えば……」
聞き覚えのある声。セレナがラジオに入っていたはずの鉱石がないことに気づき連絡をしてきたのだ。
「今頃驚いてる頃でしょうね。実は送るだけなら鉱石だけでもいいのよ、とりあえず返しに来てくれる?場所は伝えるから」
カイは応答したが声は届いていない。本当に声を送ることしかできないようだ。
「なるほど、時渡りの技術か。少し貸してくれ」
男はカイから鉱石を借りると何か細工をした。
「最低限しかないとは言えどこれくらいはできる。喋ってみろ。相手が驚くぞ」
カイは声を出す。
「聞こえてるか?今変わった村にいるんだ。こっちに来てくれないか?」
鉱石の向こう側から驚いた声が返ってくる。
「え?どうやって返してるの?……まあいいわ。村って?まずどこにいるの?」
「グラット。さらにその奥のネビュラにいる」
「危ないところにいるわね。用があるなら向かうけれど、どうかしたの?」
「とりあえず来てくれ。話を聞きたいのもあるんだ」
しばらく考え込んだ後、「わかったわ。向かうから待ってなさい」と一言残し通信が途絶えた。
「すごいなこれ。どうやったんだ?」
「この時代じゃロストテクノロジーだ。君に教えたところできっと理解できないだろう」
とりあえず飯でもどうだ、と男はカイを食事ができるところまで連れて行き、事情を話す。
───その事情は、アトラスの闇を象徴するものでもあった。
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