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鍛錬の先に
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視界が闇に閉ざされた中での戦闘。カイにとっては初めてのことだった。
ヴァリス戦で必ず起こる状況、しかし彼にとっても見えない恐怖は計り知れないものだった。
どこから来るかわからない攻撃、どこにいるかもわからない相手、見えないというハンデは思っていた以上に重いものだった。
訓練用に渡された木刀は何度も空を切り、当たってもかすれていることがほとんどだった。
「私に追いつけないようではあの怪物は倒せませんよ?」
その言葉とともに後頭部に衝撃が走る。
「いって……ホントに手加減してるんですよね?」
「あら、疑っているのかしら?娘の方が手加減できないのはあなたが一番知っているでしょう」
カイの中で思い出される記憶。花蓮は母を越えるべく島内のあらゆる決闘場に姿を現しては相手が誰であろうと手に持つ杖で倒してきた。それを考えれば母親である栞の手加減された攻撃など些細なものでしかなかった。
「…………そうだな、あいつと比べればまだ優しい方ですね。いってぇ……どうなってんですかその杖」
後頭部を抑えながら座り込むカイ。
「選定の中で戦えるようにと杖に細工を仕込むのが伝統なのよ。私のは通常より重く作ることで強い衝撃を与えることができるの。その代わり花蓮みたいなスマートな戦い方はできないけれどね」
よく見ると栞の杖は金属で太く作られており見るからに重量のある杖に見えた。
しばらく稽古を続けていると、玄関の方から音がした。
「第一の選定は終了いたしました。第二の選定をお願いします」
港で聞いたあの声だった。
「あら、もうそんな時間なの?すぐに準備するから、お客様にはお待ちいただくよう伝えなさい」
「はい、お母さま」
花蓮はそのままいなくなっていった。そしてしばらくするとまた戻ってきた。
客人は別の広間にいると伝え、カイたちがいる広間を横切ろうとしたとき栞が口を開く。
「なら私の代わりにこの子に闇の中の戦い方を教えてあげて。コツは少しずつつかんできてるみたいだからあとはあなたでも問題ないでしょう」
「わかりました。私は手加減は一切しませんから、それだけは気を付けてください」
「わかってるよ、それだけは骨身にしみてんだ」
「光栄の限りです」
そして交代して稽古が継続された。
木刀は空を切り、逆に杖の一撃はカイに当たり続け。
何度もそれが続いたときにカイに変化があった。
攻撃が当たったのだ。それも一回や二回ではなく、何度も。
「かすっている状態……でも成長ですね」
「いつもこんな状態で戦ってたのか。改めてお前の強さを実感したよ」
「暗闇の中での戦いも悪くはないでしょう?」
「だな」
二人の会話を遠くから聞きただ茫然とするしかないタリアの姿。
だが口を開いたのはタリアだった。
「そろそろラウスに帰らないとヴァリスが動き出すかもしれないよ!」
その声に二人は驚いていた。しかしすぐに表情を変え向き直った。
「これであの道具は使えるようになる。もうこれ以上街を破壊させてなるものか」
「私たちも遠くから応援しています。怪物を倒してまた戻ってきてくださいね。ここは様々なものが眠っている地でもありますから」
「おう、必ず倒してきてやるぜ!」
「倒して街の復興を早めさせないとね!」
三人で談笑している中、栞がやや疲れた顔で広間へ戻ってきた。
「あら、楽しそうね。稽古の方はどうかしら」
「もう私と互角に戦えるほどに成長しました。視覚に頼らない戦いの心得はもう体得できているとみていいかと」
ならいいわ、とほほ笑んでいる栞。
「あなたたちはそもそも選定から外れて”価値”の付与がなされていない状態ですから、いつでも帰ることができますよ。それでいいですよね?お母さま」
「そうね。仮につけるとしても生かして帰すつもりよ。大陸側は連絡船をよくよこすのだけど帰還率の低さから回収の連絡船は出ないのが難点ね」
「ここに大きい船を扱える人はいないんですか?」
タリアが問う。
「いるにはいるけれど、向こうの港が解放してくれるとはとても思えないわ。大陸の知識があって着岸できそうな場所を知ってそうな船乗りなら一人知っているけれど」
「船乗り自体は何人かいるんですか?」
「ええ、ここは島よ。漁師が多いのよ、大陸まで行くことがないだけで海に関してはとても強いところよ」
「つまり俺らは生きてても帰る術がないって言うのか?」
「運がよければ大陸からの連絡船に乗り込めば帰れるわ。それ以外は少し厳しいわね」
そうか、と頭を抱えるカイ。
もうヴァリスが目覚めるまで時間がない。
その中でどう急いで帰るかだけを考えていた。
すると遠くから汽笛の音が聞こえた。
「おや、今日はずいぶんと早い時間に来ますね。選定で出ないといけないので、もしよければ一緒にどうですか?」
カイは喜んだ。足止めを食らうと思いきや運よく船が来たのだから。
三人は港に向かった。
港へ向かうと最初に来た時のように船員が船から降り選定を待っていた。
その中でも花蓮はこういった。
「船長さんに伝えられる人がいましたらお伝えください。今回は帰還者が二人います」
そういってタリアとカイを先頭に連れ出す。
察したカイは船に乗り込み、それに気づいたタリアも船に乗り込んだ。
「あなた方の旅路に、溢れんばかりの呪いと祝福を」
花蓮はそうつぶやいた後、選定に取り掛かった。
船は二人を乗せた後出航し、大陸へと戻っていった。
眠り続けいつ動き出すかわからないヴァリスのもとへ。
ヴァリス戦で必ず起こる状況、しかし彼にとっても見えない恐怖は計り知れないものだった。
どこから来るかわからない攻撃、どこにいるかもわからない相手、見えないというハンデは思っていた以上に重いものだった。
訓練用に渡された木刀は何度も空を切り、当たってもかすれていることがほとんどだった。
「私に追いつけないようではあの怪物は倒せませんよ?」
その言葉とともに後頭部に衝撃が走る。
「いって……ホントに手加減してるんですよね?」
「あら、疑っているのかしら?娘の方が手加減できないのはあなたが一番知っているでしょう」
カイの中で思い出される記憶。花蓮は母を越えるべく島内のあらゆる決闘場に姿を現しては相手が誰であろうと手に持つ杖で倒してきた。それを考えれば母親である栞の手加減された攻撃など些細なものでしかなかった。
「…………そうだな、あいつと比べればまだ優しい方ですね。いってぇ……どうなってんですかその杖」
後頭部を抑えながら座り込むカイ。
「選定の中で戦えるようにと杖に細工を仕込むのが伝統なのよ。私のは通常より重く作ることで強い衝撃を与えることができるの。その代わり花蓮みたいなスマートな戦い方はできないけれどね」
よく見ると栞の杖は金属で太く作られており見るからに重量のある杖に見えた。
しばらく稽古を続けていると、玄関の方から音がした。
「第一の選定は終了いたしました。第二の選定をお願いします」
港で聞いたあの声だった。
「あら、もうそんな時間なの?すぐに準備するから、お客様にはお待ちいただくよう伝えなさい」
「はい、お母さま」
花蓮はそのままいなくなっていった。そしてしばらくするとまた戻ってきた。
客人は別の広間にいると伝え、カイたちがいる広間を横切ろうとしたとき栞が口を開く。
「なら私の代わりにこの子に闇の中の戦い方を教えてあげて。コツは少しずつつかんできてるみたいだからあとはあなたでも問題ないでしょう」
「わかりました。私は手加減は一切しませんから、それだけは気を付けてください」
「わかってるよ、それだけは骨身にしみてんだ」
「光栄の限りです」
そして交代して稽古が継続された。
木刀は空を切り、逆に杖の一撃はカイに当たり続け。
何度もそれが続いたときにカイに変化があった。
攻撃が当たったのだ。それも一回や二回ではなく、何度も。
「かすっている状態……でも成長ですね」
「いつもこんな状態で戦ってたのか。改めてお前の強さを実感したよ」
「暗闇の中での戦いも悪くはないでしょう?」
「だな」
二人の会話を遠くから聞きただ茫然とするしかないタリアの姿。
だが口を開いたのはタリアだった。
「そろそろラウスに帰らないとヴァリスが動き出すかもしれないよ!」
その声に二人は驚いていた。しかしすぐに表情を変え向き直った。
「これであの道具は使えるようになる。もうこれ以上街を破壊させてなるものか」
「私たちも遠くから応援しています。怪物を倒してまた戻ってきてくださいね。ここは様々なものが眠っている地でもありますから」
「おう、必ず倒してきてやるぜ!」
「倒して街の復興を早めさせないとね!」
三人で談笑している中、栞がやや疲れた顔で広間へ戻ってきた。
「あら、楽しそうね。稽古の方はどうかしら」
「もう私と互角に戦えるほどに成長しました。視覚に頼らない戦いの心得はもう体得できているとみていいかと」
ならいいわ、とほほ笑んでいる栞。
「あなたたちはそもそも選定から外れて”価値”の付与がなされていない状態ですから、いつでも帰ることができますよ。それでいいですよね?お母さま」
「そうね。仮につけるとしても生かして帰すつもりよ。大陸側は連絡船をよくよこすのだけど帰還率の低さから回収の連絡船は出ないのが難点ね」
「ここに大きい船を扱える人はいないんですか?」
タリアが問う。
「いるにはいるけれど、向こうの港が解放してくれるとはとても思えないわ。大陸の知識があって着岸できそうな場所を知ってそうな船乗りなら一人知っているけれど」
「船乗り自体は何人かいるんですか?」
「ええ、ここは島よ。漁師が多いのよ、大陸まで行くことがないだけで海に関してはとても強いところよ」
「つまり俺らは生きてても帰る術がないって言うのか?」
「運がよければ大陸からの連絡船に乗り込めば帰れるわ。それ以外は少し厳しいわね」
そうか、と頭を抱えるカイ。
もうヴァリスが目覚めるまで時間がない。
その中でどう急いで帰るかだけを考えていた。
すると遠くから汽笛の音が聞こえた。
「おや、今日はずいぶんと早い時間に来ますね。選定で出ないといけないので、もしよければ一緒にどうですか?」
カイは喜んだ。足止めを食らうと思いきや運よく船が来たのだから。
三人は港に向かった。
港へ向かうと最初に来た時のように船員が船から降り選定を待っていた。
その中でも花蓮はこういった。
「船長さんに伝えられる人がいましたらお伝えください。今回は帰還者が二人います」
そういってタリアとカイを先頭に連れ出す。
察したカイは船に乗り込み、それに気づいたタリアも船に乗り込んだ。
「あなた方の旅路に、溢れんばかりの呪いと祝福を」
花蓮はそうつぶやいた後、選定に取り掛かった。
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