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序章
しおりを挟む調香師――正式な資格名としては認定調香師。
それは、この世界共通の国家資格でありながらも、最も取得するのが難しいと言われている。
どれくらい難しいかというと、たとえ現役の医師であろうとも合格するのは、ごくわずかなくらい、というくらい。
何故ここまで難しくなったのかというと、香りを扱うために、人に対しての作用――薬理――のみならず、その希少さ――価値――や歴史、扱う上での法律などに精通していなければならないから。
その反面、認定調香師たちはその資格さえ持てば何でもできる、と言っても過言ではない。
日常の生活に欠かせない香り――消臭剤や芳香剤――をはじめ、貴族たちの身だしなみに不可欠な香水や誰もの肌を乾燥から守るハンドクリーム、それらの香りを組み合わせることや有用な成分を混合し、販売することができる。
そして、それらを用いてマッサージや整体、香りによる病状緩和などという目的での医療行為も彼らのみに認められた行為と定められている。
それらを専門に学ぶのには、二つの道が示される。
一つは、各国に国立調香院なる機関に通うこと。しかし、そこに通うための費用が莫大なうえ、卒業しただけでは自動的に与えられるわけではない。
資格を得るための試験、調香師認定試験も非常に難しく、国立調香院の卒業生であっても、合格者は少ないというレベルのものだ。
そして、もう一つの方法は、調香院出身の人たちからすれば、羨ましい環境とみえる。
何故なら、十年以上、現役で働いている第一級認定調香師の元で五年以上修業さえすれば、受験資格を与えられるからだ。
この場合、身内が師匠につく場合が多く、比較的、金銭面の負担が少ない。また、資格を得るためには先ほどの調香院卒業した学生たちと同じ試験を受けなければならないが、合格した後、自分の店を持つ場合でも、その師匠の店を継ぐことが多いので、そう言った意味でも、あまりお金がかからない。
しかし、どちらにしてもその後は同じ。
アロマを使ったマッサージなどを専門に行う癒身師、アロマを使った化粧品の製造や販売、化粧を施す粉黛師、食用ハーブの製造、販売を行う紅茶師など、専門に行う業務によって名前は異なるが、いずれも《認定調香師》の資格がなければこれらの職業に就くことはできない。
それに、これらの職業は全て原価がかかるうえ、成功するかは微妙なところだ。
なので、よっぽどの物好き以外で取得しようと思う者がいるならば、『時間とお金に余裕がある者』しか、手を出すことはできない。そう言った意味でもごくわずかしか取れない資格なのだ。
****************
『伯母さん、こんな感じですか』
幼いころから調香師の伯母、エリザベータ・フレッキの元でフェオドーラ(ドーラ)・ラススヴェーテは、様々なアロマクラフトを作製していた。
彼女はまだ、《ローズの魔女》と呼ばれる伯母の元で学ぶ調香師見習い。
だが、九歳で彼女は持ち前の好奇心で伯母からの教えを次々に自分のものにしていった。
この日、習っていたものもまた、然り。
『ええ、そうね。あなたらしい香りね。でも、この香水、特別な人との逢瀬には――――――を加えてもいいんじゃないのかしら』
最後に習ったのは伯母が最も得意とする香水作り。
だが、伯母の言葉の中で大事な部分が抜け落ちており、あれは何を加えればよかったのだろうか。
伯母に聞くすべもない。
なぜなら。
ドーラの伯母、エリザベータはドーラが調香師認定試験に合格した直後から行方不明になってしまったから。
認定調香師となった彼女は伯母が経営していた総合調香店、『ステルラ』を引き継ぎ、今日もそれを探し続けていた。
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