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2.黄金の夜鳴鶯
素直な心意気
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翌日の早朝、ドーラはクララの施術を行うための準備を行なっていた。
「フェイスタオル良し、マッサージオイル良し、お湯も良し」
ついでに自分の手の爪を確認した。複雑な器具を使わないハンドオイルマッサージ。だからこそ、施術師自身の身体には十分気をつけていなければならない。
すべての準備が整ったあとアロマキャンドルを焚き、手を温めながらクララの到着を待った。
少しするとクララとアリーナが施術室にやってきた。アリーナは普段から早く起きているせいか元気だったけども、クララはすごく眠そうだった。
「おはようございます、クララさん」
ドーラが声をかけるとええ、と眠たそうな声をしていたが、しっかりと返答があった。
「お嬢さまはこの施術を楽しみにしすぎて、昨日はあまりよく眠れなかったのですよね」
アリーナはくすくすと笑いながら、主人の上着を剥いでいく。クシュンとくしゃみをしたが、急に寒くなったからだけで慢性的なものではないだろう。
クララを施術用ベッドにうつ伏せに寝てもらったあと、タオルを何枚か彼女の肩やお腹の下におき、マッサージを開始した。
まず、マッサージオイルを少量手にとり軽く温めたあと、両手になじませて背中、背骨を下から上にほぐしていく。その次に肩甲骨の裏側を押していく。
「どうですか?」
途中でクララの反応を確認するのも忘れない。どうやら気持ちよかったみたいで、気持ち良いです、と返ってくる。そんな彼女を見ながら横目でアリーナを見ると自分も受けたそうにしている。分かりやすい彼女の表情を見るとドーラもなぜか安心する。
しばらく肩や腕もほぐしていくと、クララはかなり気持ち良さそうで、気づいたときには寝てしまっていた。
「さあ、終わりですよ」
施術が終わり、声をかけると本当ですか、と眠たそうに返事をするクララ。マッサージオイルは肌に優しいものしか使わないから、拭き取りもいらない。アロマキャンドルの香りがよく、日ごろの疲れから座りながら寝ていたアリーナを起こして、脇に置いてあった上着をクララに羽織らせている間に、作業室でハーブティーを淹れて戻ってきた。
「ほぐしてもらうとやっぱり気持ちいいものですね」
クララは満足そうに言う。貴族らしくお抱えのマッサージ師を雇っているようで、ときどきほぐしてもらっているようだ。しかも、そのマッサージ師はかなり手練れなようでクララにきちんと『気持ち良さ』を提供できている。専門家である彼もしくは彼女のその腕前と似たようなものを自分が提供できたのにホッとすると同時に、もっとよいものを提供できるように勉強していかなきゃと思いなおした。
「そう言っていただけて嬉しいです」
ハーブティーを飲みながら、普段の生活やドレスの仕立てなどについて話しているとミールが朝食を籠に入れて持ってきてくれた。今朝はベーコンや炒り卵、野菜をパンに挟んだものが一口サイズに切られ、ピックで留められていた。なので、食べやすく、クララたちも美味しそうに食べてくれた。
「そういえば明日の午後、エルスオング大公国にある精油の原料になる植物の栽培場に行く予定なんですが、一緒に行ってみますか?」
食事が終わったときにそうクララに尋ねると二人とも目を輝かせて行きたいです、と即答した。まだ調香師になる夢を捨ててないのだろう。
もちろんその心意気は褒めたいところだ。
「では、クララさんと私、ミールの分の昼食をバスケットに詰めていただけますか?」
フェオドーラはアリーナに食事の準備をするようお願いをした。普段はアリーナが苦手だと分かっているからミールが全て準備していただけに驚きの表情を返された。
「もし昼食の準備をしていただけるならば、先ほどクララさんに行った施術をアリーナさんにもさせていただきますよ?」
ドーラの真意に気づいたアリーナは勢いよくはい、と答えた。よほど施術を受けたかったのだろう。クララも苦笑いしているが、受けさせることに異論はないようだ。
朝食後、ドーラはいつもどおり開店の準備をしはじめたとき、珍しくクララは店舗部分にいた。
「どうされたのですか?」
普段なら上の客室で過ごしていることの多い彼女が残っている。
「あの、よければなのですが、なにか本をお借りできませんでしょうか」
おずおずと問いかけられたのは本を借りたいという願い。多分、実家からここでもできるような趣味のものは持ってきているのだろうが、それをするわけでもなく、ここにある本を読みたいと願っている。
ドーラはふうとひと呼吸いれて、わかりましたと答える。作業室の棚に入れてある何冊かの本のうち、指の一関節くらいの厚さ、彼女が手を広げたときの親指から小指までの長さくらいの大きさの本を取って、クララに渡した。そこには『アロマ入門書』とわかりやすく題名が書かれている。
「これはかなり初心者向けの本です。まずはこれを理解するところから始めましょう」
私も最初はこの本にお世話になりましたよ、そう告げて渡すと嬉しそうな顔をさたクララ。ドーラはそれを見て、なんとなくだったけど、この子は何かなしとげるのではないかと思ってしまう。
表情には出さなかったものの、では、また夕方に、少しだけ上機嫌にそう言ってドーラは店先に戻った。
「フェイスタオル良し、マッサージオイル良し、お湯も良し」
ついでに自分の手の爪を確認した。複雑な器具を使わないハンドオイルマッサージ。だからこそ、施術師自身の身体には十分気をつけていなければならない。
すべての準備が整ったあとアロマキャンドルを焚き、手を温めながらクララの到着を待った。
少しするとクララとアリーナが施術室にやってきた。アリーナは普段から早く起きているせいか元気だったけども、クララはすごく眠そうだった。
「おはようございます、クララさん」
ドーラが声をかけるとええ、と眠たそうな声をしていたが、しっかりと返答があった。
「お嬢さまはこの施術を楽しみにしすぎて、昨日はあまりよく眠れなかったのですよね」
アリーナはくすくすと笑いながら、主人の上着を剥いでいく。クシュンとくしゃみをしたが、急に寒くなったからだけで慢性的なものではないだろう。
クララを施術用ベッドにうつ伏せに寝てもらったあと、タオルを何枚か彼女の肩やお腹の下におき、マッサージを開始した。
まず、マッサージオイルを少量手にとり軽く温めたあと、両手になじませて背中、背骨を下から上にほぐしていく。その次に肩甲骨の裏側を押していく。
「どうですか?」
途中でクララの反応を確認するのも忘れない。どうやら気持ちよかったみたいで、気持ち良いです、と返ってくる。そんな彼女を見ながら横目でアリーナを見ると自分も受けたそうにしている。分かりやすい彼女の表情を見るとドーラもなぜか安心する。
しばらく肩や腕もほぐしていくと、クララはかなり気持ち良さそうで、気づいたときには寝てしまっていた。
「さあ、終わりですよ」
施術が終わり、声をかけると本当ですか、と眠たそうに返事をするクララ。マッサージオイルは肌に優しいものしか使わないから、拭き取りもいらない。アロマキャンドルの香りがよく、日ごろの疲れから座りながら寝ていたアリーナを起こして、脇に置いてあった上着をクララに羽織らせている間に、作業室でハーブティーを淹れて戻ってきた。
「ほぐしてもらうとやっぱり気持ちいいものですね」
クララは満足そうに言う。貴族らしくお抱えのマッサージ師を雇っているようで、ときどきほぐしてもらっているようだ。しかも、そのマッサージ師はかなり手練れなようでクララにきちんと『気持ち良さ』を提供できている。専門家である彼もしくは彼女のその腕前と似たようなものを自分が提供できたのにホッとすると同時に、もっとよいものを提供できるように勉強していかなきゃと思いなおした。
「そう言っていただけて嬉しいです」
ハーブティーを飲みながら、普段の生活やドレスの仕立てなどについて話しているとミールが朝食を籠に入れて持ってきてくれた。今朝はベーコンや炒り卵、野菜をパンに挟んだものが一口サイズに切られ、ピックで留められていた。なので、食べやすく、クララたちも美味しそうに食べてくれた。
「そういえば明日の午後、エルスオング大公国にある精油の原料になる植物の栽培場に行く予定なんですが、一緒に行ってみますか?」
食事が終わったときにそうクララに尋ねると二人とも目を輝かせて行きたいです、と即答した。まだ調香師になる夢を捨ててないのだろう。
もちろんその心意気は褒めたいところだ。
「では、クララさんと私、ミールの分の昼食をバスケットに詰めていただけますか?」
フェオドーラはアリーナに食事の準備をするようお願いをした。普段はアリーナが苦手だと分かっているからミールが全て準備していただけに驚きの表情を返された。
「もし昼食の準備をしていただけるならば、先ほどクララさんに行った施術をアリーナさんにもさせていただきますよ?」
ドーラの真意に気づいたアリーナは勢いよくはい、と答えた。よほど施術を受けたかったのだろう。クララも苦笑いしているが、受けさせることに異論はないようだ。
朝食後、ドーラはいつもどおり開店の準備をしはじめたとき、珍しくクララは店舗部分にいた。
「どうされたのですか?」
普段なら上の客室で過ごしていることの多い彼女が残っている。
「あの、よければなのですが、なにか本をお借りできませんでしょうか」
おずおずと問いかけられたのは本を借りたいという願い。多分、実家からここでもできるような趣味のものは持ってきているのだろうが、それをするわけでもなく、ここにある本を読みたいと願っている。
ドーラはふうとひと呼吸いれて、わかりましたと答える。作業室の棚に入れてある何冊かの本のうち、指の一関節くらいの厚さ、彼女が手を広げたときの親指から小指までの長さくらいの大きさの本を取って、クララに渡した。そこには『アロマ入門書』とわかりやすく題名が書かれている。
「これはかなり初心者向けの本です。まずはこれを理解するところから始めましょう」
私も最初はこの本にお世話になりましたよ、そう告げて渡すと嬉しそうな顔をさたクララ。ドーラはそれを見て、なんとなくだったけど、この子は何かなしとげるのではないかと思ってしまう。
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