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冬霞の章
幸せを願う
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だが、ある日、目の前で優華にもらったキーホルダーをあの女に壊された。
その時、康太の心の中で今まで張りつめていた糸が切れた音が聞こえた。
(優華、あの時はそう感じていたのか)
覆水盆に返らずとはよく言ったものだ。
あの時は分からなかった、分かっていたのにもかかわらず目を背けていた彼女の感情が、手に取るように分かった。
それからどういう風に行動したのか覚えていない。
気づいた時には病院のベッドに寝ていた。仕事を抜け出してきたのだろうか、それとも休んだのだろうか。両親がともに側にいて、康太の手を握っていた。よく見ると自分の左手には分厚い包帯が巻かれていた。
『康太は何も悪くない』
自分が目覚めた時にそう二人から言われた。
その時、あの学校で何が起こったのか、全てを知ってしまったのだろうと康太には理解できた。そして、自分があの時、どう行動したのか、ということも。
しばらく入院しているうちに、梓さんもやってきた。彼女も康太のことを聞いたらしく、あの時は激高して悪かったと謝った。
『一つだけお願いできませんでしょうか』
彼女からの謝罪は必要なかった康太だが、一つ頼みごとをした。
『それなら、私よりもお母さんの方が適任だわね』
梓さんは康太の頼みごとに微笑んでそう返答した。
二週間後、退院してすぐに転校した。
すでに両親が手続きを取っていてくれたようだった。
全寮制のその学校は自然に囲まれた環境で、今までの思い出も中和してくれるようだった。
しばらくして、あの事件が完全に終息したと聞いた。十人ほどの逮捕と何十人の解雇・懲戒処分。二人が甚大な精神的、肉体的な被害を受けたことへの代償も大きかった。だが、康太はその頃には不思議と冷静にそれを受け入れていた。
その後、時々地元へ戻り、『寺子屋』に通っていた。楓先生と話す時間は穏やかで気持ち良かった。
この頃になっても、ずっと優華の事ばかり考えていた。
今、どこで何をしているのだろうか。
今、どんな奴と付き合っているのだろうか。
いま――――――
やがて、時が流れ、高校三年生になった。
大学入試も終わり、第一志望の大学の合格通知が届いた。迷わずその大学に行くことを決めた。
『優華ちゃんも第一志望の大学に受かったみたいよ』
その日、楓先生からその電話を受けた康太はホッとした。
大学名を聞いた康太は、これで自分たちはもう二度と会うことはないだろう、と思った。
(自分の道を進んでくれ)
その時はそう願わずにはいられなかった。
その時、康太の心の中で今まで張りつめていた糸が切れた音が聞こえた。
(優華、あの時はそう感じていたのか)
覆水盆に返らずとはよく言ったものだ。
あの時は分からなかった、分かっていたのにもかかわらず目を背けていた彼女の感情が、手に取るように分かった。
それからどういう風に行動したのか覚えていない。
気づいた時には病院のベッドに寝ていた。仕事を抜け出してきたのだろうか、それとも休んだのだろうか。両親がともに側にいて、康太の手を握っていた。よく見ると自分の左手には分厚い包帯が巻かれていた。
『康太は何も悪くない』
自分が目覚めた時にそう二人から言われた。
その時、あの学校で何が起こったのか、全てを知ってしまったのだろうと康太には理解できた。そして、自分があの時、どう行動したのか、ということも。
しばらく入院しているうちに、梓さんもやってきた。彼女も康太のことを聞いたらしく、あの時は激高して悪かったと謝った。
『一つだけお願いできませんでしょうか』
彼女からの謝罪は必要なかった康太だが、一つ頼みごとをした。
『それなら、私よりもお母さんの方が適任だわね』
梓さんは康太の頼みごとに微笑んでそう返答した。
二週間後、退院してすぐに転校した。
すでに両親が手続きを取っていてくれたようだった。
全寮制のその学校は自然に囲まれた環境で、今までの思い出も中和してくれるようだった。
しばらくして、あの事件が完全に終息したと聞いた。十人ほどの逮捕と何十人の解雇・懲戒処分。二人が甚大な精神的、肉体的な被害を受けたことへの代償も大きかった。だが、康太はその頃には不思議と冷静にそれを受け入れていた。
その後、時々地元へ戻り、『寺子屋』に通っていた。楓先生と話す時間は穏やかで気持ち良かった。
この頃になっても、ずっと優華の事ばかり考えていた。
今、どこで何をしているのだろうか。
今、どんな奴と付き合っているのだろうか。
いま――――――
やがて、時が流れ、高校三年生になった。
大学入試も終わり、第一志望の大学の合格通知が届いた。迷わずその大学に行くことを決めた。
『優華ちゃんも第一志望の大学に受かったみたいよ』
その日、楓先生からその電話を受けた康太はホッとした。
大学名を聞いた康太は、これで自分たちはもう二度と会うことはないだろう、と思った。
(自分の道を進んでくれ)
その時はそう願わずにはいられなかった。
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