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第2部「因縁! ヤリサーの姫とヤリマン狩り編!!」
10本目「卑劣! 姫を狙う影!!(前編)」
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ある日のことだった。
「おう、新人。あそこにいる男を見てみろ」
偶然構内で本多先輩と遭遇し、そのまま一緒に行動している時だ。
……全然興味なかったんだけど、どうやら本多先輩と僕は同じ学科だったらしい。キャンパスは全学年共通なのでばったり、ということはまぁありえるだろう。
「……あのベンチに座ってる男ですか?」
「おう」
我らがヤリ学、比較的新しい学校ということもあってか、『快適性』を最初から考えた作りになっている。
建物間を繋ぐ道は幅広く、要所要所がちょっとした広場っぽくなっていたりベンチがあちこちに置かれていたりする。
ただ散歩するのもなかなか気持ちがいい場所だと思う――まぁ建物間の移動とかに追われてのんびり散歩なんて普段はしないし、時間を潰すなら今時はスマホとかだしねぇ……。
さて、本多先輩が言っている男はというと……。
「…………なんか、怪しげな男ですね……?」
植井先輩よりは売れそうな、黒スーツの男だ。
一見するとベンチに座って休んでいるだけのように見えるが、その『視線』が違う。
まるで周囲の人間を見定めているかのような――ちょっと異質な雰囲気の男だった。
「ヤツの視線をよく見てみろ」
「遠すぎてよくわかりませんが」
視力は悪くはないけど、少し離れた位置の男の視線がどこ向いてるかなんてわかんないよ。
が、言われた通り何とか見てみようとすると……男が見ているのは無差別ではないことが何となくわかってきた。
道行く人……その中でも、女性の方へと集中的に視線は向けられているようだった。
「気付いたか、新人」
よく僕が気付いたことに気付いたなぁ……。
「あの獲物を狙うかのような鋭い眼光――間違いない、ヤツは『ヤリ目』だ」
「ヤリ目!」
言われてみればそうかもしれない。
とはいえ、まさか白昼堂々大学の構内に侵入して獲物を見定めるとか……不審者極まってるな。警備員仕事しろ。
その時、男がぴくっと反応すると共に視線を一方向に定める。
男の視線の先には――
「! 姫先輩……!」
「むう、拙いな……」
姫先輩は今日もお美しいなぁ……。
凛とした佇まい。
男に媚びているわけでもないのに、男の、いや人の視線を引きつけてやまない不思議な魅力がある。
――『気品』とでもいうのだろうか。
一挙手一投足が、僕の贔屓目なしに洗練されているように見える。
姿勢の良さとか所作の優雅さ……ううん、僕なんかの言葉じゃ上手く表現できないな……。
……『お姫様』。
うん、あだ名通り、姫先輩は正しく『お姫様』なのだ。何もかもが。
ただなぁ…………背負ったやたらと長いケース――ヤリだけが異物なんだよなぁ……それさえなければ完璧なのになぁ……。
ともかく、『ヤリ目の男』ははっきりと姫先輩へと狙いを定めている。
向こうから歩いてくる姫先輩もまた、僕たちよりも先に熱視線を送る男の方に気が付いたようで足を止める。
「へぇ……こいつは思った以上の上玉だ」
ゆらり、と男が立ち上がる。
もはや疑いようもない。この男の狙いは姫先輩だ。
「貴方――『ヤリ目』ですわね?」
姫先輩の方は動じることもなく、静かに男へと確認を取る。
…………今更だけど、姫先輩も本多先輩もなんでわかるんだろう……?
姫先輩の確認に、男はにたりと笑みを浮かべる。
「ヤろうぜ……お嬢様。
今この場で、『アオカン』を申し込む!!」
「おまわりさーーーーーん!!!」
やっぱり変質者じゃねーか!!
「落ち着け、新人。一体どうした?」
「どうしたもクソもないですよ!?」
よりによって白昼堂々と青姦とか、ヤベーってレベルじゃねーぞ。
「アオカン――要するにこの場で仕合うということだ。
青空の『アオ』に、ヤリ同士がぶつかり合う際の『カン』と言う音を合わせ、そう呼ばれている」
またヤリ用語かよ……!!
僕の叫びを本多先輩以外は華麗にスルーして、話は進んで行く。
……気が付いたら周囲から人が消えていた。
空気を読んでいるのか、それとも――
「急に奇声を上げたお前から離れていったんだな」
僕だけが悪いのか……?
納得はできないが、話は進む。
「ふふふ、アオカンは構いませんが――」
優雅な笑みを浮かべつつ、姫先輩がカバーから自分の愛槍を取り出す。
「あなた、ゴムはお持ちなのですか? 自らアオカンを申し込んでおきながらゴム無しなんて……マナー違反ですわよ?」
ゴム……。
「わかったわかった、説明しよう」
無言であいつら何言ってんだ? と指さしつつ説明を求める僕に、本多先輩はどっしりと腕組みをしたまま答えてくれた。
「ゴムとは『五六』――携帯用のヤリのことだ。
お前も知っての通り、ヤリは嵩張るからな。気軽に持ち運びするのは難しい」
まぁそれはわかる。
……姫先輩は持ち歩いているみたいだけど。
「そこで、柄の部分を分割して組み立てられるようにしたヤリが開発されたのだ。
柄を5つに分割で『五』、穂先を合わせて『六』――これが『五六』の語源とされている」
語源とされているって……そんな大層な歴史があるのかよ!?
柄と穂が分割できる組み立て式の槍なんてあるのかー……。
「ちなみにだが、組み立て式ということもあり強度にやや不安は残るな。
俺はゴムは使わない派だ!」
字面だけ見たら最低っすね。
さて、僕への解説が完了するのを待っていたかのように、男がくくく……と悪役ばりに笑うと共に、シャツをめくりあげる。
やっぱり変質者だ!!
「むぅ、『ゴムの腰蓑』か」
男の腹に巻かれている、おそらく木製の部品――。
それを解くと、部品同士が組み合わさり一本の槍へと変形した。
なるほど、部品ごとを紐とかで繋いであるのか。『三節棍』とかみたいな感じか!
……ゴムの腰蓑には突っ込まないぞー。
「――それでは、お相手いたしましょう」
男が槍を構えたのに応じ、姫先輩も両手で槍を構える。
「始まるぞ、新人」
「あ、はい……」
大学の構内でおっぱじめちゃうのかー……ヤリサー、いや槍人って無法すぎない?
…………あー、後、薄々わかってたけど、『ヤリ目』ってやっぱりこっちの意味だったのね……。
――あの腰蓑男、なかなかやる!
弁慶さんが一瞬でやられたことからわかる通り、姫先輩は強い。強すぎる。
だというのに、腰蓑男は結構食い下がっている。
「……姫先輩、問題なさそうですね」
けれども、あくまでも『食い下がっている』レベルに過ぎない。
頑張っている方だとは思うけど、次第に追い詰められていっている――姫先輩の攻撃を受けきれなくなっているのは素人目からも明らかだ。
このままなら遠からず決着はつくだろう。もちろん、姫先輩の勝利で。
楽観的な僕に対し、本多先輩は難しい顔をしたままだ。
「むぅ……妙だな……?」
「妙、とは?」
素人の僕にはわからない何かがあるのだろうか。
「確かに姫が優勢なのには違いないが――」
何か心配事があるのだろうか?
ほぼ一方的に姫先輩がそのまま押し続け、やがて腰蓑男の槍を弾き大きな隙を作り出す。
好機と見た姫先輩が力強く踏み込みつつ、弁慶先輩を亡き者にした(※死んでません)必殺の突きを放とうとした時だった。
「ヒャッハー! 貰ったぜぇぇぇぇぇっ!!」
姫先輩の後ろ、植え込みの中からもう一人のヤリマンが飛び出してきた……!!
「おう、新人。あそこにいる男を見てみろ」
偶然構内で本多先輩と遭遇し、そのまま一緒に行動している時だ。
……全然興味なかったんだけど、どうやら本多先輩と僕は同じ学科だったらしい。キャンパスは全学年共通なのでばったり、ということはまぁありえるだろう。
「……あのベンチに座ってる男ですか?」
「おう」
我らがヤリ学、比較的新しい学校ということもあってか、『快適性』を最初から考えた作りになっている。
建物間を繋ぐ道は幅広く、要所要所がちょっとした広場っぽくなっていたりベンチがあちこちに置かれていたりする。
ただ散歩するのもなかなか気持ちがいい場所だと思う――まぁ建物間の移動とかに追われてのんびり散歩なんて普段はしないし、時間を潰すなら今時はスマホとかだしねぇ……。
さて、本多先輩が言っている男はというと……。
「…………なんか、怪しげな男ですね……?」
植井先輩よりは売れそうな、黒スーツの男だ。
一見するとベンチに座って休んでいるだけのように見えるが、その『視線』が違う。
まるで周囲の人間を見定めているかのような――ちょっと異質な雰囲気の男だった。
「ヤツの視線をよく見てみろ」
「遠すぎてよくわかりませんが」
視力は悪くはないけど、少し離れた位置の男の視線がどこ向いてるかなんてわかんないよ。
が、言われた通り何とか見てみようとすると……男が見ているのは無差別ではないことが何となくわかってきた。
道行く人……その中でも、女性の方へと集中的に視線は向けられているようだった。
「気付いたか、新人」
よく僕が気付いたことに気付いたなぁ……。
「あの獲物を狙うかのような鋭い眼光――間違いない、ヤツは『ヤリ目』だ」
「ヤリ目!」
言われてみればそうかもしれない。
とはいえ、まさか白昼堂々大学の構内に侵入して獲物を見定めるとか……不審者極まってるな。警備員仕事しろ。
その時、男がぴくっと反応すると共に視線を一方向に定める。
男の視線の先には――
「! 姫先輩……!」
「むう、拙いな……」
姫先輩は今日もお美しいなぁ……。
凛とした佇まい。
男に媚びているわけでもないのに、男の、いや人の視線を引きつけてやまない不思議な魅力がある。
――『気品』とでもいうのだろうか。
一挙手一投足が、僕の贔屓目なしに洗練されているように見える。
姿勢の良さとか所作の優雅さ……ううん、僕なんかの言葉じゃ上手く表現できないな……。
……『お姫様』。
うん、あだ名通り、姫先輩は正しく『お姫様』なのだ。何もかもが。
ただなぁ…………背負ったやたらと長いケース――ヤリだけが異物なんだよなぁ……それさえなければ完璧なのになぁ……。
ともかく、『ヤリ目の男』ははっきりと姫先輩へと狙いを定めている。
向こうから歩いてくる姫先輩もまた、僕たちよりも先に熱視線を送る男の方に気が付いたようで足を止める。
「へぇ……こいつは思った以上の上玉だ」
ゆらり、と男が立ち上がる。
もはや疑いようもない。この男の狙いは姫先輩だ。
「貴方――『ヤリ目』ですわね?」
姫先輩の方は動じることもなく、静かに男へと確認を取る。
…………今更だけど、姫先輩も本多先輩もなんでわかるんだろう……?
姫先輩の確認に、男はにたりと笑みを浮かべる。
「ヤろうぜ……お嬢様。
今この場で、『アオカン』を申し込む!!」
「おまわりさーーーーーん!!!」
やっぱり変質者じゃねーか!!
「落ち着け、新人。一体どうした?」
「どうしたもクソもないですよ!?」
よりによって白昼堂々と青姦とか、ヤベーってレベルじゃねーぞ。
「アオカン――要するにこの場で仕合うということだ。
青空の『アオ』に、ヤリ同士がぶつかり合う際の『カン』と言う音を合わせ、そう呼ばれている」
またヤリ用語かよ……!!
僕の叫びを本多先輩以外は華麗にスルーして、話は進んで行く。
……気が付いたら周囲から人が消えていた。
空気を読んでいるのか、それとも――
「急に奇声を上げたお前から離れていったんだな」
僕だけが悪いのか……?
納得はできないが、話は進む。
「ふふふ、アオカンは構いませんが――」
優雅な笑みを浮かべつつ、姫先輩がカバーから自分の愛槍を取り出す。
「あなた、ゴムはお持ちなのですか? 自らアオカンを申し込んでおきながらゴム無しなんて……マナー違反ですわよ?」
ゴム……。
「わかったわかった、説明しよう」
無言であいつら何言ってんだ? と指さしつつ説明を求める僕に、本多先輩はどっしりと腕組みをしたまま答えてくれた。
「ゴムとは『五六』――携帯用のヤリのことだ。
お前も知っての通り、ヤリは嵩張るからな。気軽に持ち運びするのは難しい」
まぁそれはわかる。
……姫先輩は持ち歩いているみたいだけど。
「そこで、柄の部分を分割して組み立てられるようにしたヤリが開発されたのだ。
柄を5つに分割で『五』、穂先を合わせて『六』――これが『五六』の語源とされている」
語源とされているって……そんな大層な歴史があるのかよ!?
柄と穂が分割できる組み立て式の槍なんてあるのかー……。
「ちなみにだが、組み立て式ということもあり強度にやや不安は残るな。
俺はゴムは使わない派だ!」
字面だけ見たら最低っすね。
さて、僕への解説が完了するのを待っていたかのように、男がくくく……と悪役ばりに笑うと共に、シャツをめくりあげる。
やっぱり変質者だ!!
「むぅ、『ゴムの腰蓑』か」
男の腹に巻かれている、おそらく木製の部品――。
それを解くと、部品同士が組み合わさり一本の槍へと変形した。
なるほど、部品ごとを紐とかで繋いであるのか。『三節棍』とかみたいな感じか!
……ゴムの腰蓑には突っ込まないぞー。
「――それでは、お相手いたしましょう」
男が槍を構えたのに応じ、姫先輩も両手で槍を構える。
「始まるぞ、新人」
「あ、はい……」
大学の構内でおっぱじめちゃうのかー……ヤリサー、いや槍人って無法すぎない?
…………あー、後、薄々わかってたけど、『ヤリ目』ってやっぱりこっちの意味だったのね……。
――あの腰蓑男、なかなかやる!
弁慶さんが一瞬でやられたことからわかる通り、姫先輩は強い。強すぎる。
だというのに、腰蓑男は結構食い下がっている。
「……姫先輩、問題なさそうですね」
けれども、あくまでも『食い下がっている』レベルに過ぎない。
頑張っている方だとは思うけど、次第に追い詰められていっている――姫先輩の攻撃を受けきれなくなっているのは素人目からも明らかだ。
このままなら遠からず決着はつくだろう。もちろん、姫先輩の勝利で。
楽観的な僕に対し、本多先輩は難しい顔をしたままだ。
「むぅ……妙だな……?」
「妙、とは?」
素人の僕にはわからない何かがあるのだろうか。
「確かに姫が優勢なのには違いないが――」
何か心配事があるのだろうか?
ほぼ一方的に姫先輩がそのまま押し続け、やがて腰蓑男の槍を弾き大きな隙を作り出す。
好機と見た姫先輩が力強く踏み込みつつ、弁慶先輩を亡き者にした(※死んでません)必殺の突きを放とうとした時だった。
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