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第2部「因縁! ヤリサーの姫とヤリマン狩り編!!」
11本目「卑劣! 姫を狙う影!!(後編)」
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姫先輩の後ろから、突如現れたもう一人のヤリマンが襲い掛かる!
「姫先輩、危ない!」
試合で口出しするのはどうなんだろうという考えはなかった。
相手が二人がかり、しかも騙し討ちをしてくるような奴らだ。卑怯とは言わせない。
「……っ」
しかし、僕の心配は杞憂に終わった。
後ろを振り返ることもなく姫先輩はその場から横へと大きく跳び、背後からの一撃を回避。
素早く向き直り相手二人を視界へと収めるように立ち回っていた。
「むぅ……先程からの違和感はこれだったか……」
本多先輩が唸る。
何か妙な感じがすると言っていたのは、きっと隠れていたもう一人のことだったのだろう。
「あの隠れていた男、ヤリの気配を上手く隠していたな……」
突っ込まないぞー。
「ふふふ……なるほど、二人組でしたか」
「くくく……今のをかわすとは、やはりヤる……!」
「ききき……こいつは狩り甲斐のある相手だぜぇ……!」
しかし、状況はあまり良くない。
姫先輩がいくら強いと言っても、一対二――よっぽどの実力差が開いていない限り、こういう時は人数が少ない方が圧倒的に不利だ。
そして最初の男は押されがちだったとは言え、姫先輩相手に瞬殺されない程度の実力はあったようだ。
……このままでは拙いのではないか。
「――そうか、あいつらが噂の『ヤリマン狩り』か!」
相変わらず字面だけ見ると酷い。
「有名なヤツらなんですか?」
「ああ。二人組でヤリマンを狙う卑劣なヤツらだ。まさかここで姫を狙ってやってくるとは……」
ほんとヤリマンは無法すぎるな……。
「二人組のヤリマン狩り――間違いない、ヤツらは『ヤリ逃げのレイイチ』と『ヤリ捨てのジミー』だ!」
「ほんと最低ですね」
二人そろってそこそこ売れそうなホストな見た目だけに、特に。
何にしても相手は二人、しかもあほらしいけどそれなりに名が通っている相手らしい。
「本多先輩! 加勢しないと!」
相手が二人なのだから加勢だって許されるだろう。
しかし、本多先輩は腕組みしたまま不動の構えを解かない。
「ヤリを持たずに加勢するのは、ヤリマンの仁義に反する」
……複数で一人を囲むよりもタブーなのか。
「こんな時のためにゴムがあるのでは?」
「俺はゴムは使わない派だ!!」
二重の意味で最低っすね!
とはいえ、ここから部室まで槍を取りに行くには距離がありすぎて間に合わない……!
僕もゴムは当然持っていない。
別のゴムなら財布の中に常に忍ばせているけど!
…………ずっと前から入れっぱなしだけど、こっちのゴムって消費期限とかあるのかな? 誰か教えて。
頼りにならない僕らを他所に、姫先輩とヤリマン狩りとの戦いは続く。
……が、ここで再び意外な展開となった。
一対二であるにも関わらず、姫先輩が変わらず押しているのだ。
しかも、優雅な笑みすら浮かべているくらいだ。まだまだ姫先輩に余力があることが僕にもわかる。
「くっ……こんなバカな!?」
最初の男 (多分『レイイチ』?)の顔に焦りが見える。
そりゃそうだろう、二人がかりであっても姫先輩へとただの一撃も有効打を与えられていないのだから。
反対に二人の方が攻撃の隙を突かれてしまっているくらいだ。
「本多先輩、これは……?」
「おう、ヤリマン狩りには驚かされたが、姫の敵ではないということだな」
そっすか……。
まぁでもその通りなんだろう、というかそうとしか言いようがないか。
二人同時であっても問題がないくらい、姫先輩とヤリマン狩りの二人との実力差が開いている――そういうことだ。
最初に一対一で戦っていた時に食い下がれていたのも、不意打ちの隙を作るために防御と回避にのみ徹していたからに過ぎないんじゃないかな。
頼みの綱の不意打ちが失敗に終わり、真正面から戦わなければならなくなったことでお互いに攻め合いになるが、姫先輩の方が圧倒的に格上なので押されている……って感じか。
「これならどうだっ!?」
不意打ち男 (暫定ジミー)が前に出てレイイチを隠すようにして攻める。
それと同時に、レイイチが到底当たらない距離から槍を振り回す。
すると、槍がバラバラになりまるで鞭のようにしなり、ジミーを壁として死角から姫先輩へと襲い掛かる!
パーツを結ぶ紐がゴムのような性質を持っているのだろう、元からリーチの長い槍が更に長いリーチを手に入れた形だ。
「あら?」
だが流石に距離が遠い。
レイイチの槍は姫先輩に届かず――いや、これが目的か!?
鞭のように槍が、姫先輩の槍へと絡みついている。
姫先輩の槍を封じつつ、ジミーが攻撃をするという作戦か。
「あんなのありなんですか!?」
「ありだ!!」
ありなのか!
このままじゃ姫先輩の槍が封じられてしまう……!
――と思った僕はまだまだ甘かった。
姫先輩の力量を全然わかっていなかったとすぐに思い知らされる。
「えいっ」
「うおっ!?」
姫先輩は慌てることなく、自分の槍へと膝を叩き込んで勢いよく槍を跳ね上げる。
予想以上のパワーに引っ張られ、レイイチの方が自分の槍を手放してしまった。
そして、跳ね上げた槍をそのまま叩き落すようにし、向かってきていたジミーの頭へと叩きつける!
止まらず、背後にいるレイイチへと向かってゴムを巻きつけたまま渾身の突きを放つ!
「……すげー……」
それしか言葉が出ない。
僕からしてみたら絶体絶命のピンチだとしか思えなかったのに、あっという間に逆転してしまった。
突きを食らったレイイチは吹っ飛ばされピクリとも動かない――まぁ弁慶さんが生きてたくらいだし、きっと生きてるだろう。うん。
「く、くそっ!? ここまでの手練れだとは聞いていないぞ!?」
頭をはたかれただけのジミーはまだ無事だ――が、もはや戦意は全くないようで、姫先輩から距離を取ろうとする。
……槍の形状の都合上、連続で近い位置にいる相手を突くのはちょっと難しい。
姫先輩が槍を引いたのとタイミングを上手く合わせてジミーは距離を取ってしまう。
――それも無駄な足掻きに終わり、哀れレイイチと同じ運命を辿ることになったのであった……。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
気絶したヤリマン狩りの二人は、ようやく駆け付けて来た警備員につまみだされ、一件落着となった。
「ちょうど良い運動になりましたね」
姫先輩は余裕の表情だ。
……強いのは知っていたつもりだけど、ちょっと僕の想像をはるかに上回る強さだった。
でも不思議と『怖い』とかそういう感情は湧いてこない。
それはやはり彼女の美しさ――容姿だけでなく槍を揮う所作までも――によるものなのだろうと思う。
達人の演舞を見ているかのような……ちょっとハラハラするところもあったけど、ドキドキの方が大きい。
「流石姫だな。あの程度ならば手助けも不要か」
……そもそも本多先輩、手助けするための槍持ってなかったじゃん……まぁ僕もだけど。
「そうだわ。お二人とも時間はありますか?」
「おう、俺は暇だぞ」
「ぼ、僕も次の講義まで時間あるので大丈夫です!」
「ふふ、それなら折角出会えたのだし、少しお茶していきませんか?」
ものすごく魅力的な提案だ。
……本多先輩の存在が邪魔なような、いきなり一対一で姫先輩とお茶するのはハードルが高いような……。
「良かった。それでは、まいりましょう」
……ま、何にしても姫先輩と親交を深めるいい機会には違いない。
僕たちはさっきまでの変質者たちのことをすっぱりと忘れ、大学生らしく過ごすのであった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「ふん、あの程度じゃ相手にもならないか。
まぁいい……やつらはヤリマン狩りの中では最弱――次の刺客はそう簡単に下せると思うなよ、颶風院姫燐!」
「姫先輩、危ない!」
試合で口出しするのはどうなんだろうという考えはなかった。
相手が二人がかり、しかも騙し討ちをしてくるような奴らだ。卑怯とは言わせない。
「……っ」
しかし、僕の心配は杞憂に終わった。
後ろを振り返ることもなく姫先輩はその場から横へと大きく跳び、背後からの一撃を回避。
素早く向き直り相手二人を視界へと収めるように立ち回っていた。
「むぅ……先程からの違和感はこれだったか……」
本多先輩が唸る。
何か妙な感じがすると言っていたのは、きっと隠れていたもう一人のことだったのだろう。
「あの隠れていた男、ヤリの気配を上手く隠していたな……」
突っ込まないぞー。
「ふふふ……なるほど、二人組でしたか」
「くくく……今のをかわすとは、やはりヤる……!」
「ききき……こいつは狩り甲斐のある相手だぜぇ……!」
しかし、状況はあまり良くない。
姫先輩がいくら強いと言っても、一対二――よっぽどの実力差が開いていない限り、こういう時は人数が少ない方が圧倒的に不利だ。
そして最初の男は押されがちだったとは言え、姫先輩相手に瞬殺されない程度の実力はあったようだ。
……このままでは拙いのではないか。
「――そうか、あいつらが噂の『ヤリマン狩り』か!」
相変わらず字面だけ見ると酷い。
「有名なヤツらなんですか?」
「ああ。二人組でヤリマンを狙う卑劣なヤツらだ。まさかここで姫を狙ってやってくるとは……」
ほんとヤリマンは無法すぎるな……。
「二人組のヤリマン狩り――間違いない、ヤツらは『ヤリ逃げのレイイチ』と『ヤリ捨てのジミー』だ!」
「ほんと最低ですね」
二人そろってそこそこ売れそうなホストな見た目だけに、特に。
何にしても相手は二人、しかもあほらしいけどそれなりに名が通っている相手らしい。
「本多先輩! 加勢しないと!」
相手が二人なのだから加勢だって許されるだろう。
しかし、本多先輩は腕組みしたまま不動の構えを解かない。
「ヤリを持たずに加勢するのは、ヤリマンの仁義に反する」
……複数で一人を囲むよりもタブーなのか。
「こんな時のためにゴムがあるのでは?」
「俺はゴムは使わない派だ!!」
二重の意味で最低っすね!
とはいえ、ここから部室まで槍を取りに行くには距離がありすぎて間に合わない……!
僕もゴムは当然持っていない。
別のゴムなら財布の中に常に忍ばせているけど!
…………ずっと前から入れっぱなしだけど、こっちのゴムって消費期限とかあるのかな? 誰か教えて。
頼りにならない僕らを他所に、姫先輩とヤリマン狩りとの戦いは続く。
……が、ここで再び意外な展開となった。
一対二であるにも関わらず、姫先輩が変わらず押しているのだ。
しかも、優雅な笑みすら浮かべているくらいだ。まだまだ姫先輩に余力があることが僕にもわかる。
「くっ……こんなバカな!?」
最初の男 (多分『レイイチ』?)の顔に焦りが見える。
そりゃそうだろう、二人がかりであっても姫先輩へとただの一撃も有効打を与えられていないのだから。
反対に二人の方が攻撃の隙を突かれてしまっているくらいだ。
「本多先輩、これは……?」
「おう、ヤリマン狩りには驚かされたが、姫の敵ではないということだな」
そっすか……。
まぁでもその通りなんだろう、というかそうとしか言いようがないか。
二人同時であっても問題がないくらい、姫先輩とヤリマン狩りの二人との実力差が開いている――そういうことだ。
最初に一対一で戦っていた時に食い下がれていたのも、不意打ちの隙を作るために防御と回避にのみ徹していたからに過ぎないんじゃないかな。
頼みの綱の不意打ちが失敗に終わり、真正面から戦わなければならなくなったことでお互いに攻め合いになるが、姫先輩の方が圧倒的に格上なので押されている……って感じか。
「これならどうだっ!?」
不意打ち男 (暫定ジミー)が前に出てレイイチを隠すようにして攻める。
それと同時に、レイイチが到底当たらない距離から槍を振り回す。
すると、槍がバラバラになりまるで鞭のようにしなり、ジミーを壁として死角から姫先輩へと襲い掛かる!
パーツを結ぶ紐がゴムのような性質を持っているのだろう、元からリーチの長い槍が更に長いリーチを手に入れた形だ。
「あら?」
だが流石に距離が遠い。
レイイチの槍は姫先輩に届かず――いや、これが目的か!?
鞭のように槍が、姫先輩の槍へと絡みついている。
姫先輩の槍を封じつつ、ジミーが攻撃をするという作戦か。
「あんなのありなんですか!?」
「ありだ!!」
ありなのか!
このままじゃ姫先輩の槍が封じられてしまう……!
――と思った僕はまだまだ甘かった。
姫先輩の力量を全然わかっていなかったとすぐに思い知らされる。
「えいっ」
「うおっ!?」
姫先輩は慌てることなく、自分の槍へと膝を叩き込んで勢いよく槍を跳ね上げる。
予想以上のパワーに引っ張られ、レイイチの方が自分の槍を手放してしまった。
そして、跳ね上げた槍をそのまま叩き落すようにし、向かってきていたジミーの頭へと叩きつける!
止まらず、背後にいるレイイチへと向かってゴムを巻きつけたまま渾身の突きを放つ!
「……すげー……」
それしか言葉が出ない。
僕からしてみたら絶体絶命のピンチだとしか思えなかったのに、あっという間に逆転してしまった。
突きを食らったレイイチは吹っ飛ばされピクリとも動かない――まぁ弁慶さんが生きてたくらいだし、きっと生きてるだろう。うん。
「く、くそっ!? ここまでの手練れだとは聞いていないぞ!?」
頭をはたかれただけのジミーはまだ無事だ――が、もはや戦意は全くないようで、姫先輩から距離を取ろうとする。
……槍の形状の都合上、連続で近い位置にいる相手を突くのはちょっと難しい。
姫先輩が槍を引いたのとタイミングを上手く合わせてジミーは距離を取ってしまう。
――それも無駄な足掻きに終わり、哀れレイイチと同じ運命を辿ることになったのであった……。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
気絶したヤリマン狩りの二人は、ようやく駆け付けて来た警備員につまみだされ、一件落着となった。
「ちょうど良い運動になりましたね」
姫先輩は余裕の表情だ。
……強いのは知っていたつもりだけど、ちょっと僕の想像をはるかに上回る強さだった。
でも不思議と『怖い』とかそういう感情は湧いてこない。
それはやはり彼女の美しさ――容姿だけでなく槍を揮う所作までも――によるものなのだろうと思う。
達人の演舞を見ているかのような……ちょっとハラハラするところもあったけど、ドキドキの方が大きい。
「流石姫だな。あの程度ならば手助けも不要か」
……そもそも本多先輩、手助けするための槍持ってなかったじゃん……まぁ僕もだけど。
「そうだわ。お二人とも時間はありますか?」
「おう、俺は暇だぞ」
「ぼ、僕も次の講義まで時間あるので大丈夫です!」
「ふふ、それなら折角出会えたのだし、少しお茶していきませんか?」
ものすごく魅力的な提案だ。
……本多先輩の存在が邪魔なような、いきなり一対一で姫先輩とお茶するのはハードルが高いような……。
「良かった。それでは、まいりましょう」
……ま、何にしても姫先輩と親交を深めるいい機会には違いない。
僕たちはさっきまでの変質者たちのことをすっぱりと忘れ、大学生らしく過ごすのであった。
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