颶風院姫燐はヤリサーの姫であるッ!

小野山由高

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第2部「因縁! ヤリサーの姫とヤリマン狩り編!!」

13本目「復活! 古代の戦士!!(前編)」

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 ある週末の夕方――



「他の人たちはもう集まってるんですか?」

「おう、先に行って始めてると思うぞ」



 僕と本多先輩、そして姫先輩の3人は大学から『くあどりが』へと向かっていた。
 今日はサークル活動もそこそこに、飲み会をやろうということになっているのだ。
 僕らは講義の関係でちょっと遅くなってしまったが、どうやら他の人は先に店に集まっているらしい。
 ……馴染みの場所だし、わざわざ大学で集まってから行く必要はないけどね、確かに。大学からも結構近いし。



「楽しみですね~」



 姫先輩もにっこにこだ。
 意外といえば意外なんだけど、姫先輩はお酒が好き&強いらしい。まぁ前回の歓迎会の時のことは僕はあんまり覚えてないんだけど。
 ……今日こそは最後まで起きてるぞー。そしてあわよくば、酔った姫先輩をお持ち帰りして……ぐひひ。



「……」

「新人……」

「――はっ!? な、なにも疚しいことは考えてませんよ!?」



 二人の空気が変わったのを感じ慌てて言い訳するも――
 二人の視線は僕ではなく道の先へと向けられていた。
 そちらを僕も見てみると……。



 ……なんかヤベーヤツがいた。



 多分、高校生……だとは思う。どこかの学校の制服らしきものを来た女子だ。
 大分暖かい季節になってきたというのに、セーター? を着ているのは……まぁいい、きっと寒がりなんだろう。
 問題なのは――
 脱色しすぎてもはや白髪っぽくなっているぼさぼさの髪、真っ黒になっている肌、目の周りにはどこぞの未開の部族のようなメイク。
 極めつけはだ。
 ダボダボの靴下に、身長を数センチは底上げしているであろうブーツ……。
 彼女は、まさか……!?



「……貴女、ヤリマン狩りですわね?」



 姫先輩のシリアスな声で現実に引き戻された。
 そうか、この前の二人組と同じヤリマン狩りか!
 あいつらと同じく槍は持っていないようだが……。



「まずいな、こちらも姫しか動けないぞ」



 相変わらず本多先輩は肝心な時に役に立たない!
 ……いや、普段から槍を持ち歩いている姫先輩の方がおかしいのか……?



「……それにしても面妖な……」



 本多先輩が言っているのは、ヤリマン狩りが立て続けに来たこともあるだろうけどそれ以上に相手の容姿だろう。
 だが僕はの正体を知っている……!



「先輩、アレは――『コギャル』です!」

「こぎゃる?」

「ええ、その中でも特異な存在……あのメイクは間違いありません。ヤツは『ヤマンバ』です!!」



 文献昔のエロ本で見たことがある。
 90年代日本――それまで天下を支配していた『女子大生JD』を駆逐し『女子高生JK』が新たに覇権を握ることになった。
 JKの覇権は2020年代の今になっても続いているわけだが、その礎を築いたのが90年代JK――その中でも中核を担った『コギャル』たちだ。
 ヤツがコギャルなのは間違いない。なぜならば、コギャルの象徴 (※偏見)である『ルーズソックス』を履いているから!
 このコギャルたちの進化形態……ヤマンバ。亜種としてガングロ、汚ギャルなどもいるが……いや、今は割愛しよう。



「まさか現代まで生き残っていたとは……流石の僕も文献でしか見たことがありませんでした」

「むぅ……古代のヤリマンが復活するとは……!」



 僕も驚きだ……! ある意味で感動もしているけど……!!



「それで? 貴女――ゴムはお持ちではないのですか?」



 ともかく、僕にはわからないけど姫先輩たちにはヤマンバがヤリマンであることはわかっているようだ。
 この前のやつらみたいに腰蓑を付けているのか、それともヤリマン狩りと勝手に思っているけどそうではないとか……?
 ヤマンバギャルは姫先輩へと向かって小馬鹿にするような笑みを浮かべる。



「ふーん、――ま、あたしの敵じゃないみたいなー?」



 服の下にゴムを隠しているわけでもなさそうだし、本当に戦う気があるのか……?
 槍を取り出す様子も見えず、かといって友好的な態度とも思えず……姫先輩も少し困惑しているのがわかる。



「ゴム? そんなんいらねーし。
 じゃ――ヤろっか、颶風院パイセン」

「!?」



 ヤマンバが言うと共に、姿
 バカな、瞬間移動なんて漫画じゃあるまいし……!?



「気をつけろ、新人! 俺たちから離れるな!」

「は、はい!」



 ゴム無しで戦えないはずの本多先輩だが、この場から離れる気はないようだ。
 ……ただ観戦するというわけではないだろう。
 本多先輩からしても、ヤマンバがどこに行ったのかわからない以上、迂闊に動けないということなのだと思う。
 姫も既にケースから槍を取り出し、臨戦態勢だ。
 ヤマンバの姿が消えて数十秒……何の動きもない……?



「……あの」



 もしやヤマンバはそのまま逃げたのでは?
 そう思い、姫先輩に声を掛けようとした時だった。



「はっ!」



 姫先輩が槍を振るう。
 同時に、キンッと槍同士がぶつかり合う乾いた音がし……。



「これは……!?」



 僕の足元にごろりと姫が弾いたモノが転がって来た。
 ――それは、『槍』だった。
 先端に幾つものがついた……槍というかもりと言った方が近いだろうか? 漁とかで使うものに僕には見えた。
 これは……姿を消したヤマンバが投げつけて来たってことなのか!?



「むう!? これは――まさか!?」

「本多先輩、何か気付いたんですか!?」

「そこですっ!!」



 本多先輩の気付きと共に、姫先輩が何もなさそうな電柱へと槍を突き入れる。
 ……いや、電柱の陰にチラリとスカートの裾が見えた!
 隠れて槍を投げつけてきたが、飛んできた方向から姫先輩が隠れている場所を暴いたということなのだろうか。
 これで決着がつくか、そう思ったものの……。



「!? いない……!?」



 確かにそこに誰かがいたはずなのに、姫先輩の突きは空振りに終わった。
 ……? 違う!
 まるで漫画のニンジャが使う『変わり身の術』のように、ヤマンバが身に纏っていたはずの制服がその場にはらりと落ちた。



「――お二人とも、わたくしの側から離れないよう」



 突きを放てば一撃必殺だった姫先輩……。
 なのに、今回はそうはならなかった。
 それだけであのヤマンバが、弁慶さんたちとは比較にならないほどのレベルのヤリマンだということが僕にも理解できた。
 姿の見えない相手に姫先輩は警戒を解かず、真剣な声で僕たちへと警告する。
 ……情けない……! 姫先輩にだけ任せて何もできないなんて……!!



「姫、気を付けろ。こいつは只者ではないぞ」

「ええ。承知しておりますとも」

「本多先輩、さっき一体何に気付いたんですか?」



 相手の攻撃 (?)で中断されたけど、本多先輩は相手に心当たりがあるような感じだった。
 うむ、と頷き本多先輩が続ける。



「かつて、闇に紛れ標的を仕留める『闇』のヤリマン一族がいると聞いたことがある――」



 …………突っ込めばいいのか?



「ヤツはその末裔なのだろう。そう考えれば、あの面妖な風体にも納得がいく」



 …………納得できるかな?
 でも、全身日焼けで真っ黒になった身体は、夜の闇に溶け込むことを目的としていると言われたら……まぁそうなのかも? って感じではある。現代日本みたいに街中ではそこまで溶け込める気はしないけど。
 本多先輩の話はまだ続く。



「そして、この投槍による攻撃……間違いない。
 『エンコウの番山ばんやま』――表舞台から消えたと思ったら、ヤリマン狩りに身をやつしていたか……!」
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