ナナイの青春生存戦略

しぼりたて柑橘類

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23.どちらも大して変わりはしない

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 部屋から顔を出した寝巻きコズハに、ユーは目を輝かせた。


 「コズハ、めちゃくちゃ可愛いじゃないかゆー!てっきり機能的な服しか着ないかと思ってたゆー」

 「失敬な、私は寝る時いつもこの格好です。ですよね、ナナイ君」

 「ああ。メガネも外さねえでよく眠れるよな」

 「そこじゃないでしょう。不心得者」


 冗談はさておき、部屋の主はラフだが見栄えの良い格好で俺らを歓迎した。丸ぶちの大きなメガネだけはそのままに長い髪を後ろで一本の三つ編みにし、フリルの着いた薄ピンクのネグリジェを着ている。
 
 朝は必要に駆られて起こしているので気にならなかったが、正直ものすごい格好だ。とてもこれから寝入る人間の服装とは思えない。末端がレースになっている上に、表面は蛍光灯に当てられててらてらと輝いている。加えて髪の毛は風呂に入ったあと、自分で結い直したのだろう。少々歪だったが、服装も相まって深窓の令嬢といった雰囲気だ。


 「さあさあ、廊下でお話すると響きますよ。おふたりとも私の部屋に」
 
 
 髪長姫に招かれるがまま、意気揚々とユーはコズハの部屋に足を踏み入れた。


 「お邪魔しま……!」


 そして、口を開けたまま固まった。
 
 果たしてそんなおぞましいものなどあったかと見回すと、俺の視界に飛び込んできたのは壁にかけられたホワイトボード。その白い面を埋め尽くすように、例の雑木林の俯瞰図と、ピン留めされた無数の写真の数々だ。その中には、ユーのUFOが落ちていると思わしきところに赤くバツが着いている。とんだサイコホラーだ。

 しくった、忘れていた。コズハは直近の獲物の探索情報をマッピングしているのだ。これを見たユーがどう思うかだなんて、考えるまでもない。


 「……なんで」


 ユーは口を微かに動かした。俺が弁明するより遥かに早く、ユーはコズハの猟奇的な様を目の当たりにしたのだ。

 そして、

 
 「なんであんなに可愛い服着ててこの内装なんだゆー!?」
 
 
 そう叫んでから、部屋の収納に飛びついた。何から何まで予想を裏切ってくれたユーはガラス棚を指さして、目を輝かせた。


 「こ、これコズハの趣味かゆー!?すごい量だゆー!」


 そう言って、棚に飾ってあるSF小説やソフビ人形たちを眺めた。
 

 「……っ」


 息を呑んだコズハはひとたび震え上がると、目にも止まらぬ超高速でユーに接近し、その両手をがっしりと包んだ。


 「ゆ!?」


 
 めいっぱいに目を開けてユーに接近すると、


 「……ご存知なのですか。この棚に置かれたキャラクターたちを」
 

 コズハは一切目を逸らさず、表情も変えることのないまま、少しずつ顔を近付けながら問いかけた。先程までの優雅さをかなぐり捨てたその様はもはや尋問の鬼。


 「……っ!!……っ!!!」


 詰められたユーは顔を引き攣らせながら首を横に振るばかりだ。一切表情を変えないまま、物も言わずに迫ってくるのだから怖いに決まっている。


 「……」


 数秒間ユーの顔を覗き込んだ後、コズハはパッと手を離した。
 
 
 「……ゆ、ゆー?」

 「なんだ、ご存知なかったのですか。帰りの際にも続けて、またしてもとんだ失礼を……」

 「ゆ、ゆ、ゆーっ……!」

 「え、えーっと……その、ユースティンさん……?」

 
 ユーは怖気付くあまりに部屋の隅に身を寄せて震えている。だが何故こんなにも怯えているか分からないので、困り果てたコズハは半泣きになっているユーの前であたふたと手を動かした。ユーはその一挙手一投足に怯えているので、凄まじい勢いで部屋の隅に縮こまる。コズハに追い詰められるその様は弱々しいエノキタケのようだ。

 さすがに二人では収拾がつかなそうなので、俺は仲介に入ることにした。


 「ユー。すまねえな、こいつ好きな物の話になると周りが見えなくなるんだ。その後ろにあるやつ、コズハの好きな特撮もののフィギュアなんだよ」

 「と、トクサツ……?それってなんだゆー?」

 「ナナイ君、それでは私が特殊撮影技術マニアのような表現になってしまうでしょう。私が好きなのはSFに主眼が置かれたモンスター、アドベンチャー作品なのです」

 「もっとわかんなくなってきたゆー……アニメとはまた違うのかゆー?」

 「そういった媒体も悪くありませんが説明には適切ではないでしょうね……ううむ。好きな物だと言うのに筆舌に尽くし難いとはこんなにも歯痒いものなのですね」
 
 「ゆー?」


 ユーは分からないことが多すぎたようで、目を回し始めた。ただでさえコズハの言い回しが難解なのもあるが、コズハもコズハで話したいことが多すぎるようでどこから手をつけたらいいものか分からないのだろう。


 「ううむ、困りましたね……おや」


 頭を捻っていたコズハの目線が、棚のソフビ人形に止まった。
 

 「そうですね。この子たちを例に作品の良さをお伝えしましょうか」


 そう言ってガラスケースを開けたコズハは、ソフビ人形を2体取り出した。どちらも極彩色で塗られていてどちらもトゲトゲしい見た目をしている。
 
 コズハはユーの前にぺたんと正座すると、床の上に人形を立たせて並べた。そして一体ごとに手のひらを向けて、丁寧に紹介を始めた。
 

 「さて、この青くてトゲトゲしているのが『ガバラ』くんです。
 元々氷河期に地球を支配していた種族の生き残りで、彼はクレバスに落ちて南極の氷に閉じ込められていたのです。それが地球温暖化のせいで永遠の眠りから覚め、地球を自身の住みやすい氷河期に戻すために現代で奮闘します」

 「へぇーゴツゴツしてて凶暴そうだけど、殊勝な心がけだゆー」

 「まあ、その過程で各国の首都を氷漬けにしますが」

 「とんだ荒くれ者だゆー!!」

 「そうですね。ですがこの子が出てくる映画はいつも、地球温暖化と過度な開拓への警鐘を同時にしてくれるのです。日本の特撮界のレジェンドでして、未だにシリーズとして根強い人気があるのですよ」
 
 「そうなのかゆー……こっちの黄色いのはなんなんだゆー?あんまり強そうではないゆー」
 
 「ああ、こちらの大きな耳で黄色いスーツを着ているのが『クフロネ星人』さんです。展示されたカンガルーに一目惚れして、最終的には日本中の動物園を壊滅させようとしました」

 「……頭脳を持った種族として破綻してないかゆー?」

 「そんなことはありませんよ。彼はカンガルーと心を通わせ、その個体のカンガルー柄に惹かれたのですから。彼のエピソードは涙無しでは語れません」

 「そうか……そうなのかゆー」

 「ええ。今知っていただいたように、ここにずらりと並べられた怪獣たちにも、異星人たちにもそれぞれ自我があって、バックボーンがあって、目的があります」


 そこまで言ったコズハはおもむろに立ち上がった。さらに、自分の胸に手を置いて仁王立ちになってユーの目をしかと見つめた。


 「最後に、私は西上コズハ。高校一年生でナナイ君の幼なじみで、普遍的な超常現象と私が知らない森羅万象を追い求めています。そして……」

 
 言い留まり、息を吐き、目を瞑る。珍しくコズハの顔からは迷いが感じられた。
 
 やがて、目を開いたコズハはユーに向けて手のひらを差し伸べた。


 「ユースティンさん、あなたの友になりたい女です」


 ユーの目をただ真っ直ぐに見つめ、コズハは静かに伝えた。あまりにも格式ばって、あまりにも真摯に向けられたコズハの友人宣言。


 「……!」

 
 身震いをしたユーの顔は僅かに緩んだが、すぐに顔を歪めて目を逸らした。よく見ると、口がへの字に曲がっている。どうやら、下唇を噛んで平静さを保とうとしているらしい。

 未だ手を伸ばしたままのコズハに、眉をしかめたユーは口を開いた。


 「コズハ、もしもぼくが宇宙人って言ったら……どうするゆー……?」

 
 恐る恐る、ユーが尋ねた。
 コズハはわざとらしく顔をしかめると、腕を組んで考えるふりを、そしてなにか閃いたようにぱちっと目を見開いた。


 「『とっくに知っていましたよ』と言うでしょうね」

 「ゆー!!!」


 泣きじゃくるユーに抱きつかれたコズハの顔は、今までで一番綻んでいた。
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