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38.これでは寄り付かない
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うちの高校は最近の学校にしては珍しく、屋上が解放されている。しかし、あまり人は寄り付かない。
原因は外周をぐるりと囲うフェンスにある。定期点検はされ適宜補修はされているらしいが、そんなことより見栄えが悪いのだ。長い間風雨に晒されたことにより、劣化した塗装が床一面に細かくちらばっている。こんな場所で飯を食うなど、フェンスをおかずにしているようなものだ。
そのため見晴らしも風通しもいいのだが人は少なく、中央に設置されたベンチから離れれば離れるほど人は少なくなる。
しかしコズハはこの劣悪な環境をえらく気に入っており、俺はフェンスを食べることを恐怖しながら昼食を摂っている。
かくして昼休み、俺とユーはコズハに手を引かれながら人もまばらな屋上へとやってきた。
「お二人共、こちらです。幸いベンチには誰も座っていませんし、三人で占拠してしまいましょう」
「幸いどころか、俺ら以外がここに座ってたとこ見たことねえんだけど」
俺の言葉にコズハは少しだけむくれた。
「……物は言いようとの言葉を、ご存知無いのですか。ナナイ君の言い方に合わせますと『隠れ家的名店』は『アンチテーゼ大衆食堂』になりますが」
「紛れもねえ事実だ。先週お前がここでカレー食った時、風吹いてカラースプレーかけたみてえになってたの忘れたとは言わせねえぞ」
「あれは悲しい事件だったゆー……そういうことだからみんなここを避けてるんじゃないかゆー?」
「カレーに関しては私のスプーン捌きでどうにかしたのですから、掘り返さずとも良いでしょう?」
ため息を一つ吐いて、コズハは一人ベンチに腰かける。そして、俺らを見上げつつ続けた。
「本題に戻りましょう。今日の肝試しのお話はあまり人のいるところではしたくなかったのです。内容的に誤解を生みそうでしたから」
「どういうことだゆー?」
「なんか熱ある気がするわ、帰るぞ俺は」
首を傾げるユーに反し、危機感を覚えた俺は一足先に踵を返した。しかし抜群の反応速度で、コズハが俺の袖を引っ張ってくる。肝試しは早くも始まっているのかもしれない。
コズハは俺の方を見上げつつ、首を傾げた。
「どうしたのですか?まだ計画すらお話していないのですが」
「お前が誤解させそうだなーとか認知してるほど危険ってことだろ。嫌だぞ俺はそんな肝試し」
「ナナイ君も私が怖がりなのは理解されているでしょう?大して危険性は高くありませんよ」
「……お前幽霊にビビったとしても、幽霊に向かっていくだろ」
「当たり前です。分からないから怖いのですから、一刻も早く知る必要があります」
「祟られたられたくねえし、そもそも肝試し自体やりたくねえから肝試し自体無かったってことにしねえ?」
「子供のように駄々をこねないでください。私だって怖いのですよ」
「じゃあそもそも肝試しやるなよ!それもこんな春先に!」
「……ゆ?」
腕を組んだユーは顔をしかめつつ、俺とコズハの顔を交互に覗き込んだ。
「『キモダメシ』って単なる度胸試しのことじゃないのかゆー?さっきから幽霊とか何とか言ってるけどなんの関連があるんだゆー?」
なるほど、ユーは文字を額面通り受け取ったようだ。それなら分かりにくい言葉だろう。俺は少し頭をひねってから答えた。
「肝試しっつーのは、まあ度胸試しなんだが暗いとことか不気味なところを探索するんだ。
だが、コズハが言ってるやつは『幽霊ハント』みてえな意味に近い」
「……ゆ?」
「そうです。そして日本では昔から肝試しなどの死後の人の安息を妨げる行為はタブーとされてきました。よってそのタブーを犯すと幽霊含め化生に祟られるという集団意識があるのです」
「ゆー??」
ユーは頭を抱えて目を回した。よほど混乱しているらしい。
「尚更どうしてそんなことをするんだゆー?文化的タブーは……その、あんまり破るべきじゃないと思うゆー」
ユーの問いかけに、俺らは顔を突き合わせた。こう問われた時、コズハが言う言葉を俺は知っている。
「『単なる好奇心』です」
「『単なる好奇心』……だろ?」
ほぼ同時に口に出した。昔から、コズハの口癖だ。最終的な行動原理になるのは好奇心、これが揺らぐことは無い。崇高な目的でも極悪な目的でもない。ただ好奇心がコズハを突き動かしているらしい。
だが、今回ばかりは道徳的によろしくない気がするのだ。
「だがなコズハ、お前が警戒してるってことは墓とか禁足地とかのきちんとリスクのあるところだろ?そういうところはやられて不快な人もいるからやめておけっつってんだよ」
俺がそう言うと、コズハは首を傾げた。
「……?そんな危険なところではありませんよ。そもそもナナイ君以外の人様に迷惑をおかけする訳には行きませんので」
「えっ、違うのか?
……まあそうだったとしても、やりたくねえことには変わりねえんだが」
「今回ばかりは、そちらもカバーしていますよ。ナナイ君」
コズハはきっぱりと言った。
「……なに?」
「ナナイ君も私のお話を聞けば、きっとやりたくなるに違いありません、と言ったのです」
「ど、どういう意味だ?」
俺の頭の中は疑問符で埋め尽くされた。
こんなに夢も目標もない人間が、やりたくなる肝試しだとコズハは言っている。
逃避的な動機では無くてきちんとプラスらしい言い方。それでいて、コズハもわかるようなものということだ。コズハやユーの安全を守る以外で、俺が無条件でやらざるを得ないと思えるようなもの。
例えば、やった方がコズハやユーが幸せになることとかか?あるいは人助けかなにかに関連することか?それか……。
「両方やで」
「「──っ!?」」
耳元で囁かれた関西弁。俺は反射的に飛び退いてベンチの後ろに隠れた。
「そないに驚かんでええやろ。先生やで?」
ベンチの隙間から、白衣の裾がゆらゆら揺れているのが見えた。
原因は外周をぐるりと囲うフェンスにある。定期点検はされ適宜補修はされているらしいが、そんなことより見栄えが悪いのだ。長い間風雨に晒されたことにより、劣化した塗装が床一面に細かくちらばっている。こんな場所で飯を食うなど、フェンスをおかずにしているようなものだ。
そのため見晴らしも風通しもいいのだが人は少なく、中央に設置されたベンチから離れれば離れるほど人は少なくなる。
しかしコズハはこの劣悪な環境をえらく気に入っており、俺はフェンスを食べることを恐怖しながら昼食を摂っている。
かくして昼休み、俺とユーはコズハに手を引かれながら人もまばらな屋上へとやってきた。
「お二人共、こちらです。幸いベンチには誰も座っていませんし、三人で占拠してしまいましょう」
「幸いどころか、俺ら以外がここに座ってたとこ見たことねえんだけど」
俺の言葉にコズハは少しだけむくれた。
「……物は言いようとの言葉を、ご存知無いのですか。ナナイ君の言い方に合わせますと『隠れ家的名店』は『アンチテーゼ大衆食堂』になりますが」
「紛れもねえ事実だ。先週お前がここでカレー食った時、風吹いてカラースプレーかけたみてえになってたの忘れたとは言わせねえぞ」
「あれは悲しい事件だったゆー……そういうことだからみんなここを避けてるんじゃないかゆー?」
「カレーに関しては私のスプーン捌きでどうにかしたのですから、掘り返さずとも良いでしょう?」
ため息を一つ吐いて、コズハは一人ベンチに腰かける。そして、俺らを見上げつつ続けた。
「本題に戻りましょう。今日の肝試しのお話はあまり人のいるところではしたくなかったのです。内容的に誤解を生みそうでしたから」
「どういうことだゆー?」
「なんか熱ある気がするわ、帰るぞ俺は」
首を傾げるユーに反し、危機感を覚えた俺は一足先に踵を返した。しかし抜群の反応速度で、コズハが俺の袖を引っ張ってくる。肝試しは早くも始まっているのかもしれない。
コズハは俺の方を見上げつつ、首を傾げた。
「どうしたのですか?まだ計画すらお話していないのですが」
「お前が誤解させそうだなーとか認知してるほど危険ってことだろ。嫌だぞ俺はそんな肝試し」
「ナナイ君も私が怖がりなのは理解されているでしょう?大して危険性は高くありませんよ」
「……お前幽霊にビビったとしても、幽霊に向かっていくだろ」
「当たり前です。分からないから怖いのですから、一刻も早く知る必要があります」
「祟られたられたくねえし、そもそも肝試し自体やりたくねえから肝試し自体無かったってことにしねえ?」
「子供のように駄々をこねないでください。私だって怖いのですよ」
「じゃあそもそも肝試しやるなよ!それもこんな春先に!」
「……ゆ?」
腕を組んだユーは顔をしかめつつ、俺とコズハの顔を交互に覗き込んだ。
「『キモダメシ』って単なる度胸試しのことじゃないのかゆー?さっきから幽霊とか何とか言ってるけどなんの関連があるんだゆー?」
なるほど、ユーは文字を額面通り受け取ったようだ。それなら分かりにくい言葉だろう。俺は少し頭をひねってから答えた。
「肝試しっつーのは、まあ度胸試しなんだが暗いとことか不気味なところを探索するんだ。
だが、コズハが言ってるやつは『幽霊ハント』みてえな意味に近い」
「……ゆ?」
「そうです。そして日本では昔から肝試しなどの死後の人の安息を妨げる行為はタブーとされてきました。よってそのタブーを犯すと幽霊含め化生に祟られるという集団意識があるのです」
「ゆー??」
ユーは頭を抱えて目を回した。よほど混乱しているらしい。
「尚更どうしてそんなことをするんだゆー?文化的タブーは……その、あんまり破るべきじゃないと思うゆー」
ユーの問いかけに、俺らは顔を突き合わせた。こう問われた時、コズハが言う言葉を俺は知っている。
「『単なる好奇心』です」
「『単なる好奇心』……だろ?」
ほぼ同時に口に出した。昔から、コズハの口癖だ。最終的な行動原理になるのは好奇心、これが揺らぐことは無い。崇高な目的でも極悪な目的でもない。ただ好奇心がコズハを突き動かしているらしい。
だが、今回ばかりは道徳的によろしくない気がするのだ。
「だがなコズハ、お前が警戒してるってことは墓とか禁足地とかのきちんとリスクのあるところだろ?そういうところはやられて不快な人もいるからやめておけっつってんだよ」
俺がそう言うと、コズハは首を傾げた。
「……?そんな危険なところではありませんよ。そもそもナナイ君以外の人様に迷惑をおかけする訳には行きませんので」
「えっ、違うのか?
……まあそうだったとしても、やりたくねえことには変わりねえんだが」
「今回ばかりは、そちらもカバーしていますよ。ナナイ君」
コズハはきっぱりと言った。
「……なに?」
「ナナイ君も私のお話を聞けば、きっとやりたくなるに違いありません、と言ったのです」
「ど、どういう意味だ?」
俺の頭の中は疑問符で埋め尽くされた。
こんなに夢も目標もない人間が、やりたくなる肝試しだとコズハは言っている。
逃避的な動機では無くてきちんとプラスらしい言い方。それでいて、コズハもわかるようなものということだ。コズハやユーの安全を守る以外で、俺が無条件でやらざるを得ないと思えるようなもの。
例えば、やった方がコズハやユーが幸せになることとかか?あるいは人助けかなにかに関連することか?それか……。
「両方やで」
「「──っ!?」」
耳元で囁かれた関西弁。俺は反射的に飛び退いてベンチの後ろに隠れた。
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