ナナイの青春生存戦略

しぼりたて柑橘類

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37.嫌な予感がしてならない

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 4月は第3週。木曜日の朝を迎えた。どうにか乾いた制服を着て、三人横並びで歩く通学路。


 「ふぁぁぁぁ……」

 「ふぁぁゆー……」

 「ふあぁ……っ……」


 あくびをする二人に釣られそうになり、思わず噛み殺す朝。段々と俺ら三人で学校に行くのも慣れてきた。

 コズハが目を擦りながらこちらを見てきた。


 「ナナイ君はともかく、ユーちゃんまで眠そうとは一体どういうことですか?なんだか血色もいいですし……有機的な匂いもします」

 「ぼくの体をより人間らしくなるようアップデートしたせいで、睡眠欲が生まれたんだゆー。
 それと、ノータイムで背中に頭を埋めないで欲しいゆー」

 「ふむ、代謝システム……完成していたのですか」

 「鼻先押し付けてないで話を聞いてくれゆー」


 コズハは、まるで樹液を舐めに来たクワガタのように手の力だけでユーの背中にしがみついている。音もなく、瞬間的に飛びついたのだ。そして、いくらユーが体を揺すっても全然動じない。外国人が見たら忍者だと思うことだろう。

 コズハはそのままユーの体をよじ登り、ユーの首元に抱きつくように腕を絡ませた。


 「良いでは無いですか。気になったことは何から何まで調べるのが私の性。私は皮膚の監修もさせていただきましたし尚のこと再現度が気になるのですよ」

 「かと言って公然な場でベタベタ触るのはどうなんだゆー?」

 「知らないまま、歯がゆい後悔に襲われるより遥かに健全ですからね」

 「全然健全には見えねえけどな」

 「そうだゆー。デリケートな部分をあちこちベタベタ触るのは健全とは程遠いゆー」

 「……健全でないと言えば、何故かユーちゃんの制服からナナイ君の匂いがするのですが」

 
 ユーの顔を後ろから覗き込むように、コズハは体を滑らせた。首元にクナイでも突き立てているのかと、空目した程の迫力があった。


 「……何事ですか?」


 鋭い眼光を向け、囁く。


 「ひ、ひいっ!?」

 
 恐怖ですくみ上がるユーに代わって、俺はコズハの肩を叩いた。


 「何事もねぇよ。雨で宇宙船ぶっ壊れたし制服濡れたからうちで制服洗っただけだ」

 「……つまり、昨日はナナイ君の家にユーちゃんはお泊まりをした……ということですか?」

 
 コズハはユーの右肩に腰かけて首を傾げる。その最中も、コズハの体幹は一切ブレない。反してユーの体は、右に大きく傾いた。


 「そ、そうだゆー……だから右肩に……右肩に体重をかけないで欲しいゆー……!ナナイからもなんか言ってやってくれゆー……!」

 「ああ。昨日ユーがびしょ濡れのまんま転がり込んできてな。風呂に入れた」

 「お風呂に」


 一言呟いたコズハは、ユーの肩から滑り降りつつ片手で掴まった。コズハの顔はほぼ変わってこそいないが、心なしか目に力が入っている気がする。おそらく、怒っている。


 「なんで火に油を注ぐんだゆー!いだだだだだ!肩にぶら下がらないで……!揺れるのもやめてくれゆーっ!!」

 「知らねえよ!そもそもなんで怒ってるんだよ!」

 
 コズハはユーにぶら下がりながら俺の方に首を向けた。


 「どうしてって、ナナイ君の物忘れは日に日に加速しているようですね。こんなにヒントを差し上げているのに分からないのですか?」

 「……すまん、わからん」

 「正解は昨日の夜からナナイ君が私のチャットを未読無視しているからです」

 「ノーヒントじゃねえかよ」

 「幼馴染の揺れる乙女心くらい読み取ってください。私が何度電話をしようとチャットを送ろうと反応しなかったというのに、呑気に自宅でランデブーとは虫酸が校庭を3周せんばかりです」

 「そんなにかよ。って言うかお前昨日チャットなんて送ってきてたか?」


 思い出したようにスマホをカバンから取り出す。いつものように電源ボタンに触れたが、画面が点灯しなかった。一瞬面食らったが、遅れて理解する。


 「……そっか、電源切ってたわ」


 俺はコズハとユーのチャットが延々に終わらなかったので電源を切ってしまっていたのだ。いくらキリがないからといって、そもそも切ったことすら忘れてしまっていては管理している意味が無い。

 コズハは目を丸くしながら、ユーの体からスルスルと降りた。


 「珍しいですね。夜半はいつも枕元に置いていると仰っていたというのに」

 「そりゃ毎日お前らが議論してる通知まで来たら眠れねえからな。一昨日から試しに電源を切ってたんだ」

 「スマホを二日間ぶっ通しで電源切って放置とか、本当に現代っ子ですかナナイ君。正気の沙汰ではありませんよ」

 「そこまで言うか!?」
 
 「控えめに言って異常だと思います。高校生なんてスマホ使いこなしてなんぼなところがあるでは無いですか。
 そうですよねユーちゃん。あなたにもお送りしたのですが」

 「ちょっとぼく宇宙人だから分からないゆー。というかぼくは宇宙船のショートにスマホが巻き込まれて壊れちゃったから不可抗力だゆー」

 「……なるほど。では、仕方ありませんね。仕切り直しましょうか」


 コズハは俺らより数歩先に行って、通学路のど真ん中で仁王立ちした。


 「お昼休み、屋上で説明いたしましょう。西上コズハ主催、『肝試し』の計画を」


 また、ろくでもないことが始まりそうな予感がしてきた。
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