ナナイの青春生存戦略

しぼりたて柑橘類

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55.腰を据えた方がいい

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 しばらくして泣き止んだユーは、赤い瞼を擦りつつ顔を上げた。


 「……二人ともありがとうだゆー。ちょっと落ち着いたゆー」

 「ええ。大丈夫ですよ、ユーちゃん。私たちも乱暴に引き止めてすみませんでした。ユーちゃんが居なくなると思って焦ってしまったんです」

 「……ああ、すまん。悪かった」

 「ぼくが悪いゆー……ナナイとコズハが聞かないのをいいことになんにも喋って来なかったぼくが一番悪いゆー……」

 「そんなことはありませんよ。私たちのことを想って話さないでいてくれたのですよね?」

 「そうだゆー……だけど話自体が複雑だし長くなるし……きっと話し合っても解決はできないはずなんだゆー……これ以上話して二人を危険な目には会わせたくないゆー……」


 ユーは服の裾を強く握った。


 「……ユーちゃん」


 ユーだけでなく、今度はコズハまでうなだれた。このままでは埒が明かない。

 痺れを切らした俺は軽く床を叩き、二人の視線を集めた。


 「これじゃ堂々巡りだ。来い、話を整理するぞ」


 そう言って、二人をダイニングテーブルに掛けさせた。

 
 「ゆ?」


 それぞれの目の前にマグカップを置き、ケトルとスティック飲料を持ってきた。
 

 「紅茶、コーヒー、ココア、抹茶ラテの中から好きなもん選べ」


 コズハとユーは目を丸くして、眉をひそめた。


 「な、なんで飲み物の準備なんかするんだゆー?ふ、風習的な何かなのかゆー?」


 ユーと目が合ったコズハは首を横に振った。


 「何がどうしたのですかナナイ君。なんだかすごい気合いですが。私は紅茶に角砂糖四つと牛乳多めで。よく冷ましてください」
 
 「ゆ、ゆー!?じ、じゃあぼくはマッチャラテ?お願いするゆー……」

 「ああ。わかった」


 俺は必要なものを冷蔵庫やら戸棚から引っ張り出して、テーブルの上でかき混ぜた。


 「……ところで、本当にどうして飲み物を準備しているのですか?」

 「腰据えて話した方がいいだろ。だって長くなるんだろ?」


 紅茶と抹茶ラテ、俺用のコーヒーを置いて椅子に座った。


 「は、話聞いてたかゆー?そもそも話し合ったところで解決はできないから、話しても仕方ないって言ったじゃないかゆー」

 「それがどうした」

 「ゆ?」

 「はい?」

 「俺らには知る権利がある。話す意味ねえとか、俺らが危険になるとか知ったこっちゃねえ。俺らはお前がなんで言い渋ってんのかが知りてえんだよ」

 「……ナナイ」

 「さっさと責任を取れ、俺は今コズハ並に好奇心が湧いてるんだよ。このままじゃ、おちおち寝れやしねえ」


 そう言ってコーヒーを一口飲んだ。混ぜるのを忘れていて味がしない。しかしここで口を離してはならない。意地を通そうとする人間として、格好がつかないからだ。

 俺はユーに目を合わないように、しばらく飲むふりを続けていると頬をつつかれた。

 横に目を向けると、コズハが俺にスプーンを突きつけていた。


 「ナナイ君は本当に素直じゃないですね。悪態をつかなくてもいいでは無いですか」

 「あ?なんだよ。別にそんなことはねえよ。」

 「ユーちゃんは嫌なことはきちんと嫌だと言えます。そんなに警戒するのは逆に失礼ですよ。はい、スプーンです」

    「……ありがとよ」


 コズハに手向けられたスプーンでコップを混ぜつつ、視線をユーに向ける。目を腫らしたユーはどうしてか、頬を緩ませていた。

 
 「卑怯だろ、人の心を読むのは」

 「読んでないゆー。ナナイは分かりやすくてぼくは嬉しいゆー」

 「余計なこと言うんじゃねぇ!!」


 ユーは歯を見せて笑ってみせたが、顔の奥の方はやや固かった。みるみるうちに表情は硬化し、顔は鈍色になった。


 「ナナイが見かけた白い髪の人だけど、ぼくの星から来た奴で間違いないゆー」


 つとめて無機質に、淡々と、告げてくる。


 「ぼくを追って、ぼくを探しに来たんだゆー」


 まるで最初から全部知っていたかのようにユーは話した。一体ユーはどんな爆弾を抱えているのだろうか。知りたいだなんて言った手前情けな気限りだが、立ちはだかる不可思議を前に動揺が隠せない。

 苦し紛れに視線を動かすと、コズハのまばたきが明らかに増えていた。


 「あの、ユーちゃんはどうして追われているのですか?そこまで言うなら……きっと確信があるのですよね?」


 問いかけられ、ユーは静かに頷いた。


 「これに対しては……ぼくが最初に地球に来た顛末から語ることにするゆー」


 少し目線を上げつつ呟く。遠い彼方の何かに、思いを寄せている感じがした。


 「そういや、お前がちゃんとは聞いてねえな。確か雑木林でコズハが倒れてた時以来か?」

 「私に黙ってそんな話を?」


 何気なく返すと、コズハが血相を変えて睨みつけてきた。


 「悪かったって。話す機会無かったんだよ」


 少々身じろいだが、ユーは話を続けた。

 
 「……ぼくがこの星に最初に来たのはほんのつい最近のことだったんだゆー」

 「つい最近……と言うといつ頃のことですか?」
 
 「地球暦にはあんまり詳しくないから正確には言えないんだけど……コズハやナナイにとってはざっと十年前だと思うゆー」

 「十年前、ですか」
 

 コズハは噛み締めるように反復した。

 十年前と言えば、俺がこの街に越してきたあたりの頃である。小さすぎてもはや記憶は曖昧だ。コズハに引き回されていた思い出しかない。やはり俺はユーの知っている『和唐ナナイ』では無いのかもしれない。……いや、余計なことを考えるのは後でだ。

 疑問を意識の外に追いやるためにも、俺はユーに尋ねた


 「で、その時は何しに来てたんだ?観光……とかじゃねえよな?」

 「……それは」


 ユーは少しだけ言い淀み、一息ついた。そして、迷いを振り払うように俺の目を見て言った。


 「……ぼくはその時、地球に不時着したんだゆー」

 「……そうですか」

 
 コズハはユーから視線を逸らした。
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