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二章R:その道は魔女の導き
八話:旅は始まる
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「は、はい! リンさんはご存知じゃなかったでしたっけ? わたしのことを『魔女さん』って呼んでくださっていましたよね?」
「いや……あれは他の人にそう呼ばれてたし、そう呼んだ方がピンとくるかなって思ってそう呼んだだけだよ」
「そ、そうでしたかぁ……」
確かに冷静に考えば、ステラは実験がどうとか言っていた。
しかし本当に名実共に魔女だなんて、夢にも思わなかったのである。
『ヒール』は訓練した聖職者が、神様の加護を橋渡しする形で他人に分け与える能力だ。与えられる人が、神様をちゃんと信じているかどうかで効き目が違う。他にも秘術とかがあるらしいが良くは知らない。
とにかく、加護とは神様の力なのだ。
対する『魔術』はその神様の力を人の力だけで模倣しようという考えで行われている術なのだ。実際どんなものかはよく知らないが、ヒールなどとは原理が違う。
ちなみに国教では邪道として禁じられている。定期的に行われていた魔女狩りでは、どうしてだか魔術を使える人の識別ができていたらしい。
つまり、正直私もよく知らない。ましてその二つにある確執などは、まるっきり分からない。
二つは原理からして別物なのだとはわかるが、常識を超えたすごいことができるならどんどん使えばいいのに……。
少し思い返していると、
「あ、あのう……もしかして抵抗感とかありますぅ……?」
ステラはおずおずと聞いてきた。
「全然ないよ。むしろ見たいな! 魔術ってどんなのだか知らないからさ!」
そう言うとステラの表情が、ぱあっと明るくなった。
「い、良いんですか!? リンさんってかなり……その、敬虔な信徒さんっぽいですし、てっきりお嫌いかと……!」
「たしかに国教では禁止してるけど……私は見てみたいんだ! どんなのか気になるし!」
「それなら……簡単なのやってみますね! 修行の途中なので……少々拍子抜けするかもですが……」
そう言ったステラは私から少し離れ、本棚の方へ両手を向ける。
「あ、危ないので本棚から離れてくださぁい!」
「う、うん。わかった!」
本棚をどうする気なんだろう……。それにやっぱり危ないみたいだ。ひとまず離れた私は成り行きをひっそりと見守る。
「すぅぅぅぅ……ふぅぅゥ……スゥぅぅぅ……フゥゥゥゥ……」
一方ステラは目を閉じて深呼吸を繰り返している。精神統一を図っているのだろうか?肩、腕、首、腰、ありとあらゆる関節から、不必要なこわばりが取れていくようだ。やがて、ステラの体が彫像のような均整さを持った瞬間。
「っ!?」
ステラの髪が、ローブが、バタバタと音を立ててはためきはじめたのだ。今は全くの無風だ。まるでステラの周りにだけ、旋風が巻き起こっているのかと言うほど激しく揺れ続ける。
しかしステラは動じない。ほのかに青白く光るオーラをまとい、姿勢を崩さない。
「──行きます」
静かに、目を開いてそう言った。
「……『鉄拳』ッ!!」
[みしっ……]
ステラがそう叫ぶと、少しだけ木材が軋んだ音がした。もしやと思い近づくと、本棚の先程壊したところの中心がちょっとだけ凹んでいた。
「やった!! 大成功ですっ!!!」
「そ、そうなんだ……や、やったね!!」
飛び跳ねて喜ぶステラ。普通ならステラのことを称えるのだろう。現にステラは触れずに、超常的な力で物体にダメージを与えたのだ。
しかし、なんだか本当に……拍子抜けしてしまった自分が居る。勝手に「もっとすごいんだろうな!」とか「まさかこれで終わりじゃないよね!」とか期待してしまっていた自分がいる。
しかし、
「これで……また一歩妹に近づけました!!」
破顔してそう言うステラを見たら、そんな言葉はどこかに消えた。彼女には私があの時欲しかった言葉を、かけてあげたいと思った。
「すごい……すごいよステラ!! どうやったの!?」
「分かりません! なんでこうなるかとか全然知らないです!それにまだまだ でも……初めて成功しました! 」
「やったねステラ! この調子で頑張ろう!」
「はい! わたし、頑張りますね!よーし頑張るぞー!」
ステラは今まで見た事がないような気合いの入りようで、こぶしを天高く突き上げたのだった。
しかしすぐに、これまでのへにゃへにゃ具合に戻った。興奮してタガが外れていただけだったのだろう。
ステラは心配そうに私を見つめる。
「あ……大事なこと忘れてました……この本とかどうしましょう……」
「それに関しては大丈夫。 村から貰ってきたんだ!」
そう言って馬用の荷車をステラに見せた。
「す、すごいですね!! これなら捨てずに持っていけそうです!」
「悪路の時は私が背負うから大丈夫だよ。安心して全部積んじゃって!」
「ありがとうございますっ……!」
かくして旅支度は整った。あとは……。
「そう言えばステラ。 この子の名前どうしよっか? 何かしら名前が無いと呼びにくいでしょ?」
荷台に乗ったステラに問いかけた。
「え、えぇ……私そういう名前付けたことなくって……き、きっと私より、リンさんの方が上手いから……!」
「プルルルッ! 」
「ひ、ひぇぇ……」
「この子はステラに名前をつけて欲しいってさ。つけてあげなよ」
「え、ええっ……そ、それじゃあ……」
彼はステラの方を少し振り向く。そしてステラの方をじっとみた。
見つめられたステラは、いいアイデアを求めてそこかしこを見回す。そして彼の首の辺りを指さして言った。
「べ、ベイ! ベイちゃんはどう!? 私の故郷の入り江みたいな形に首をそらせるし、栗毛だし!」
彼はしばらく首を傾げた後……。
「プルルッ♪」
上機嫌に首を縦に2回振った。どうやら気に入ってくれたらしい。
「いい名前だね! これからもよろしくね、ベイ!」
「ヒヒンッ」
ベイは短くそう返事した。
かくして、二人と一匹の冒険は幕を開けたのだった。
「いや……あれは他の人にそう呼ばれてたし、そう呼んだ方がピンとくるかなって思ってそう呼んだだけだよ」
「そ、そうでしたかぁ……」
確かに冷静に考えば、ステラは実験がどうとか言っていた。
しかし本当に名実共に魔女だなんて、夢にも思わなかったのである。
『ヒール』は訓練した聖職者が、神様の加護を橋渡しする形で他人に分け与える能力だ。与えられる人が、神様をちゃんと信じているかどうかで効き目が違う。他にも秘術とかがあるらしいが良くは知らない。
とにかく、加護とは神様の力なのだ。
対する『魔術』はその神様の力を人の力だけで模倣しようという考えで行われている術なのだ。実際どんなものかはよく知らないが、ヒールなどとは原理が違う。
ちなみに国教では邪道として禁じられている。定期的に行われていた魔女狩りでは、どうしてだか魔術を使える人の識別ができていたらしい。
つまり、正直私もよく知らない。ましてその二つにある確執などは、まるっきり分からない。
二つは原理からして別物なのだとはわかるが、常識を超えたすごいことができるならどんどん使えばいいのに……。
少し思い返していると、
「あ、あのう……もしかして抵抗感とかありますぅ……?」
ステラはおずおずと聞いてきた。
「全然ないよ。むしろ見たいな! 魔術ってどんなのだか知らないからさ!」
そう言うとステラの表情が、ぱあっと明るくなった。
「い、良いんですか!? リンさんってかなり……その、敬虔な信徒さんっぽいですし、てっきりお嫌いかと……!」
「たしかに国教では禁止してるけど……私は見てみたいんだ! どんなのか気になるし!」
「それなら……簡単なのやってみますね! 修行の途中なので……少々拍子抜けするかもですが……」
そう言ったステラは私から少し離れ、本棚の方へ両手を向ける。
「あ、危ないので本棚から離れてくださぁい!」
「う、うん。わかった!」
本棚をどうする気なんだろう……。それにやっぱり危ないみたいだ。ひとまず離れた私は成り行きをひっそりと見守る。
「すぅぅぅぅ……ふぅぅゥ……スゥぅぅぅ……フゥゥゥゥ……」
一方ステラは目を閉じて深呼吸を繰り返している。精神統一を図っているのだろうか?肩、腕、首、腰、ありとあらゆる関節から、不必要なこわばりが取れていくようだ。やがて、ステラの体が彫像のような均整さを持った瞬間。
「っ!?」
ステラの髪が、ローブが、バタバタと音を立ててはためきはじめたのだ。今は全くの無風だ。まるでステラの周りにだけ、旋風が巻き起こっているのかと言うほど激しく揺れ続ける。
しかしステラは動じない。ほのかに青白く光るオーラをまとい、姿勢を崩さない。
「──行きます」
静かに、目を開いてそう言った。
「……『鉄拳』ッ!!」
[みしっ……]
ステラがそう叫ぶと、少しだけ木材が軋んだ音がした。もしやと思い近づくと、本棚の先程壊したところの中心がちょっとだけ凹んでいた。
「やった!! 大成功ですっ!!!」
「そ、そうなんだ……や、やったね!!」
飛び跳ねて喜ぶステラ。普通ならステラのことを称えるのだろう。現にステラは触れずに、超常的な力で物体にダメージを与えたのだ。
しかし、なんだか本当に……拍子抜けしてしまった自分が居る。勝手に「もっとすごいんだろうな!」とか「まさかこれで終わりじゃないよね!」とか期待してしまっていた自分がいる。
しかし、
「これで……また一歩妹に近づけました!!」
破顔してそう言うステラを見たら、そんな言葉はどこかに消えた。彼女には私があの時欲しかった言葉を、かけてあげたいと思った。
「すごい……すごいよステラ!! どうやったの!?」
「分かりません! なんでこうなるかとか全然知らないです!それにまだまだ でも……初めて成功しました! 」
「やったねステラ! この調子で頑張ろう!」
「はい! わたし、頑張りますね!よーし頑張るぞー!」
ステラは今まで見た事がないような気合いの入りようで、こぶしを天高く突き上げたのだった。
しかしすぐに、これまでのへにゃへにゃ具合に戻った。興奮してタガが外れていただけだったのだろう。
ステラは心配そうに私を見つめる。
「あ……大事なこと忘れてました……この本とかどうしましょう……」
「それに関しては大丈夫。 村から貰ってきたんだ!」
そう言って馬用の荷車をステラに見せた。
「す、すごいですね!! これなら捨てずに持っていけそうです!」
「悪路の時は私が背負うから大丈夫だよ。安心して全部積んじゃって!」
「ありがとうございますっ……!」
かくして旅支度は整った。あとは……。
「そう言えばステラ。 この子の名前どうしよっか? 何かしら名前が無いと呼びにくいでしょ?」
荷台に乗ったステラに問いかけた。
「え、えぇ……私そういう名前付けたことなくって……き、きっと私より、リンさんの方が上手いから……!」
「プルルルッ! 」
「ひ、ひぇぇ……」
「この子はステラに名前をつけて欲しいってさ。つけてあげなよ」
「え、ええっ……そ、それじゃあ……」
彼はステラの方を少し振り向く。そしてステラの方をじっとみた。
見つめられたステラは、いいアイデアを求めてそこかしこを見回す。そして彼の首の辺りを指さして言った。
「べ、ベイ! ベイちゃんはどう!? 私の故郷の入り江みたいな形に首をそらせるし、栗毛だし!」
彼はしばらく首を傾げた後……。
「プルルッ♪」
上機嫌に首を縦に2回振った。どうやら気に入ってくれたらしい。
「いい名前だね! これからもよろしくね、ベイ!」
「ヒヒンッ」
ベイは短くそう返事した。
かくして、二人と一匹の冒険は幕を開けたのだった。
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