友人に裏切られて勇者にならざるを得なくなったけど、まだ交渉の余地はあるよね?

しぼりたて柑橘類

文字の大きさ
23 / 90
二章L:その道は聖女との取り引き

六話:森を抜けるとそこは

しおりを挟む
森を抜けると、そこは一面の焼け野原だった。

 「これが……村?」  

 「村……『だった』ところらしいですね」


 最近まで人のいた村だったのだろう。焼け落ちた民家の残骸が並び、土台がかろうじて残っているばかりだ。しかし風化はしていない。荷車を動かしたあとも残っていた。
 
 風に乗ってまだ焼け焦げた臭いが漂ってくる。この村が燃えたのはつい昨日のことかもしれない。


「……気持ち悪い村ね。なんて言うか人気がないを通り越して生気が無いわ」


 腕を組んで呟いた。たしかにこの村にはおかしなことが多すぎる。集団で夜逃げしたにしても不自然だ。そもそも焼き払う理由もない。村を捨てるほど切羽詰まった人間が、無駄なことをする余裕など無いはずだ。



「近隣に手頃な森があるというのに家畜の一匹もいませんでした。それに……生活した跡がまるで無い」


 この村に入ってから農具や荷車、ありとあらゆる生活用具が一切ないのだ。井戸も鶴瓶のついていただろう屋根は無く、柱の根元だけが井戸の近くに残っていただけだ。
 
 
 「むしろ消したまであるほど無いわね……」

 「リンの両親を殺害し、先程の盗賊を半殺しにした犯人が物資補充のためこの村を襲い、証拠を焼けるだけ焼いた……そんな所でしょうか」


  「そんな奴に追われているだなんて……。リンさん……!」
 


 ゼラは歯を食いしばった。




 「……貴女リンの何なんですか?」 
 

 「何よ……その旦那の浮気相手にカチコミかける奥さんみたいなセリフは……」


 「いいえ。ただ気になっただけですよ。貴女ことある事にリンだけをさん付けで呼んでいますし、先程も何やら意味深に呟いていましたし」

 「待って、降参。 お願いだからその勢いでまくし立てないで」
 
 ゼラは俺の前に手のひらを突き出した。そしてコホンと咳払いをひとつして腕を組む。顔を真っ赤にしながら口を開いた。


 「えっと……えっとね? その……わかる? わかるでしょ? 乙女心をくすぐられたって言うかなんて言うか……ね?」

 「わからないですね」


 「わかりなさいよ!」

  「うーん……もっとダイレクトに言っていだだけるとありがたいのですが」


 「ええっと……/// そ、その……は……はつ……」
 
 「その方が確実に貴女の弱みを握れる」

 「アンタに人の血がちゃんと通ってるか心配になってきたわ。一発ぶん殴らせなさい」

 
 「待ってください。話せば分かります」

 「ええい!問答無用っ!!」 



 胸ぐらを掴んできたゼラを必死になって引き剥がそうとしていると、



 「ブルルルルッ!!」

 俺らのすぐ横で、ビオサが鼻息を鳴らした。

 

 「あっ!アタシの荷物!」

 
 そういったゼラはビオサの方に駆け寄った。間一髪で助かった。最高のタイミングだ、ビオサ。



 お前と出会ったあの時……。
 商人のおっさんが引きつった顔で、

 「あのう……騎士の旦那、悪いことは言いません。こんなじゃじゃ馬乗れたもんじゃ無いですぜ? 」
 
と言っていたのを無視して、お前を買ってよかったと心底思う。
 

 感慨深い気持ちに耽りながら、再びビオサの方を見る。ビオサはゼラの腰の辺りを噛んで、つまみ上げていた。





 「は?」


 前言撤回、とんでもないじゃじゃ馬だったかもしれない。

 「ちょっとビオサ!? アンタどういうつもりよ!」

 「いいじゃないですか。じゃじゃ馬どうし仲良くなさい」

 「きーっ! 誰がじゃじゃ馬よ!!」


 ゼラはビオサに咥えられながらも、じたばたして必死に抵抗する。右に左に揺れ動く姿はなんとも滑稽だ。




  「ちょっとー!? え、まって! このまま突っ込む気!? ぎゃあああああああ!!!!」

 ビオサはゼラを咥えたまま、村の外れの森に突っ込んだ。

 
 「……追うか」 



 幸い獣道はできた。そこを辿れば良いだけだ。顔にあたる木の枝を押しのけて、真っ直ぐに進む。

 すると、急に開けたところに出た。森の中を小川が流れ、分断していたようだ。


 ビオサが座ってリラックスしている横で、少しローブのほつれたゼラが川の向こう岸から手を振ってくる。


 「ローレル! ちょっと来なさい!!」

 「そんな叫ばなくても分かりますよ。貴女言語という言語が全てうるさいので」

  「あーもーうるさいわね!さっさと来なさい!」


  私は川を越えて、ゼラに聞く。

 「なにか見つかりましたか?」

 「ええ……無論よ」


  そう言ってゼラが指さす先を見る。そこには火を焚いた跡と……。

 「このボロ切れは……! 」

 「えぇ……リンさんのマントよ。つまりここにリンさんが来たってことよ」

 「なるほど、確実に近づいてはいるようですね」


   俺がそう言うと、ゼラはビオサにかけていた荷物を背負う。


  「追うわよ! 今のうちに差を詰めなきゃ!」


  「はい。そうしましょうか」
   


 お互い、リンに聞きたいことは山ほどあるようだし……。

  俺たちはビオサの手綱を引いて、魔王国のあるらしい方角へ踏み出した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います

ゆさま
ファンタジー
ベテランオッサン冒険者が、美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされてしまった。生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれて……。 懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

処理中です...