友人に裏切られて勇者にならざるを得なくなったけど、まだ交渉の余地はあるよね?

しぼりたて柑橘類

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四章RL:探り当てし交渉の地

八話:一方その頃

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 時は少しさかのぼり、森の中。
 ローレルたちを見送ったガーベラは、静かに剣を抜いた。


 「さて、邪魔者は去った。真剣勝負と参ろうか」

 「邪魔者? 私とローレルの再会に水を差したウジ虫がよく言うよ」


 冷ややかにリンは睨む。
 その圧に押され、ガーベラの刀を握る手に力が入った。生唾を飲み込み構えを直す。
 リンはしゃがみこみ、ため息をつく。


  「あーあ……せっかく詰ませられるところだったのに。せっかくあと一歩だったのに。手を伸ばせば……手に入ったのに……」   

  「もう良いであろう? 仕方が無いことではないか」
 

  空を仰ぐリンに、薄ら笑いでガーベラは言う。リンは目だけ動かして凄んだ。


 「お前ごときに何が分かる」
 
 「そなたは負けたのだ、リン」

 「やめろ……」

 「ローレル殿の戦略に、知力に、幸運に」

 「やめろッ……」

 「それがしの機転と計算外の行動に」

 「やめろッッ!!」

 「そして……相棒のゼラ殿に」


 リンはうろたえ、両手で顔を覆った。その呼吸は荒く、


 「……もういい。もういいよ、分かった」


  リンはゆっくりと立ち上がった。剣を引き抜き、頭を振って息を吐く。


 「これからは、一匹ずつ確実に潰すからね。まずは君だよ、ガーベラ」

 「これはこれは、わざわざ名指しでご指名とは。戦々恐々、恐悦至極」


 不敵にそう言ってからかう。リンは無表情のまま青筋を浮かべた。
  一歩一歩、地面を踏みしめるように歩いてリンは近づいてくる。


 「まずその邪魔な腕を落とす。次に逃げれないように足だね。ウジのようになったら、そのまま餓死してもらおうか」

 「そうそう、思い出したのだが。そなたには我が部下の遊撃兵に拷問をした容疑もある。そなたさえ良ければ三食昼寝付きの別荘暮らしを保証しよう」

 「いや……ローレルを真似した汚らわしい口先からだ」

 
 リンは剣を肩より上に構えて引き、ガーベラの間合いに飛び込む。その目はまっすぐガーベラの口を捉える。
 

 「冗談だ。 そなたらを魔王国は歓迎せんよ」

 「笑わせないでくれる? そのくらい押し通るから」

 
 リンの腕が伸びる! ガーベラの口に炸裂するまさにその瞬間、


 「──ッ!!」


 リンは腕を引っ込めた反動でひるがえる。数度空中でひねり、片膝着いて着地する。その頬には一筋の切り傷がついていた。


 「……『回葬かいそう』。納刀する際に生じる無為自然の斬撃を、こうも見事にかわされるとは……そなたいるな?」
    

 そう言うとわずかにガーベラの腕の位相がズレた。ブレた像はその形をハッキリとさせながら増えていく。
 そして同じ動きをトレースする四本のコピーが、本物の腕と平行に並んで浮いた。


「『下り閃 五両』!!」


 その掛け声とともに五本の腕が切り上げを行い、五筋の斬撃が地を走る。その斬撃は広がってから旋回し、リンの方へとまっすぐ進み続ける。


「気持ち悪いね。その技……まさか腕を分身させて斬撃を増やすだなんて」


 リンが地面に剣を突き刺す。途端に衝撃波が地面を割りながら伝い、斬撃を相殺した。


「そなた、なんだその技は! それがしよりもずっと魔王の幹部らしいではないか!!」

 「……技でもなんでもないよ」


  おもむろにリンは手のひらほどの石を拾い上げ、手に乗せた。
 

 「……ふんっ」


 握り始めると瞬く間にヒビが入り、煙を上げ、そして……。
 拳は完全に握られた。開くと、手のひらに小さな石ころがひとつあるばかり。圧縮されたのだ、強靭な握力によって。

 「私は魔術が見える。少しだけなら使える。だけどそれが霞むくらい、どうしようもないくらい強い力を持っている」


 リンはそう言って剣を握り、その刀身を一往復撫でた。リンの魔術でコーティングされた剣はどす黒く変色していた。


 「これから始めるのは一方的な暴力だから、覚悟してね?」

 
 その顔に先程までの微笑みはなく、ただ獲物を見据えていた。
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