友人に裏切られて勇者にならざるを得なくなったけど、まだ交渉の余地はあるよね?

しぼりたて柑橘類

文字の大きさ
78 / 90
四章RL:探り当てし交渉の地

八話:一方その頃

しおりを挟む
 時は少しさかのぼり、森の中。
 ローレルたちを見送ったガーベラは、静かに剣を抜いた。


 「さて、邪魔者は去った。真剣勝負と参ろうか」

 「邪魔者? 私とローレルの再会に水を差したウジ虫がよく言うよ」


 冷ややかにリンは睨む。
 その圧に押され、ガーベラの刀を握る手に力が入った。生唾を飲み込み構えを直す。
 リンはしゃがみこみ、ため息をつく。


  「あーあ……せっかく詰ませられるところだったのに。せっかくあと一歩だったのに。手を伸ばせば……手に入ったのに……」   

  「もう良いであろう? 仕方が無いことではないか」
 

  空を仰ぐリンに、薄ら笑いでガーベラは言う。リンは目だけ動かして凄んだ。


 「お前ごときに何が分かる」
 
 「そなたは負けたのだ、リン」

 「やめろ……」

 「ローレル殿の戦略に、知力に、幸運に」

 「やめろッ……」

 「それがしの機転と計算外の行動に」

 「やめろッッ!!」

 「そして……相棒のゼラ殿に」


 リンはうろたえ、両手で顔を覆った。その呼吸は荒く、


 「……もういい。もういいよ、分かった」


  リンはゆっくりと立ち上がった。剣を引き抜き、頭を振って息を吐く。


 「これからは、一匹ずつ確実に潰すからね。まずは君だよ、ガーベラ」

 「これはこれは、わざわざ名指しでご指名とは。戦々恐々、恐悦至極」


 不敵にそう言ってからかう。リンは無表情のまま青筋を浮かべた。
  一歩一歩、地面を踏みしめるように歩いてリンは近づいてくる。


 「まずその邪魔な腕を落とす。次に逃げれないように足だね。ウジのようになったら、そのまま餓死してもらおうか」

 「そうそう、思い出したのだが。そなたには我が部下の遊撃兵に拷問をした容疑もある。そなたさえ良ければ三食昼寝付きの別荘暮らしを保証しよう」

 「いや……ローレルを真似した汚らわしい口先からだ」

 
 リンは剣を肩より上に構えて引き、ガーベラの間合いに飛び込む。その目はまっすぐガーベラの口を捉える。
 

 「冗談だ。 そなたらを魔王国は歓迎せんよ」

 「笑わせないでくれる? そのくらい押し通るから」

 
 リンの腕が伸びる! ガーベラの口に炸裂するまさにその瞬間、


 「──ッ!!」


 リンは腕を引っ込めた反動でひるがえる。数度空中でひねり、片膝着いて着地する。その頬には一筋の切り傷がついていた。


 「……『回葬かいそう』。納刀する際に生じる無為自然の斬撃を、こうも見事にかわされるとは……そなたいるな?」
    

 そう言うとわずかにガーベラの腕の位相がズレた。ブレた像はその形をハッキリとさせながら増えていく。
 そして同じ動きをトレースする四本のコピーが、本物の腕と平行に並んで浮いた。


「『下り閃 五両』!!」


 その掛け声とともに五本の腕が切り上げを行い、五筋の斬撃が地を走る。その斬撃は広がってから旋回し、リンの方へとまっすぐ進み続ける。


「気持ち悪いね。その技……まさか腕を分身させて斬撃を増やすだなんて」


 リンが地面に剣を突き刺す。途端に衝撃波が地面を割りながら伝い、斬撃を相殺した。


「そなた、なんだその技は! それがしよりもずっと魔王の幹部らしいではないか!!」

 「……技でもなんでもないよ」


  おもむろにリンは手のひらほどの石を拾い上げ、手に乗せた。
 

 「……ふんっ」


 握り始めると瞬く間にヒビが入り、煙を上げ、そして……。
 拳は完全に握られた。開くと、手のひらに小さな石ころがひとつあるばかり。圧縮されたのだ、強靭な握力によって。

 「私は魔術が見える。少しだけなら使える。だけどそれが霞むくらい、どうしようもないくらい強い力を持っている」


 リンはそう言って剣を握り、その刀身を一往復撫でた。リンの魔術でコーティングされた剣はどす黒く変色していた。


 「これから始めるのは一方的な暴力だから、覚悟してね?」

 
 その顔に先程までの微笑みはなく、ただ獲物を見据えていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

没落貴族とバカにしますが、実は私、王族の者でして。

亜綺羅もも
恋愛
ティファ・レーベルリンは没落貴族と学園の友人たちから毎日イジメられていた。 しかし皆は知らないのだ ティファが、ロードサファルの王女だとは。 そんなティファはキラ・ファンタムに惹かれていき、そして自分の正体をキラに明かすのであったが……

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

酔っぱらったせいで、勇者パーティーを洗脳してしまった

透けてるブランディシュカ
ファンタジー
悪友のせいで酔ったら。(※重複投稿しています)仲仁へび

処理中です...