友人に裏切られて勇者にならざるを得なくなったけど、まだ交渉の余地はあるよね?

しぼりたて柑橘類

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三・五章R:惨事、現に狂え

三話:彼はなぜ突き動かされるのか

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 「ここで……殺させてもらう」

 
 リザードマンはリンに大剣を振りかざした。
 リンは剣も抜かずに問いかける。

 
 「……自殺でもしに来たの? そうじゃなきゃ、私の前に出てこないよね?」

 「村のため、家族のため……立ち上がらねばならねえこともあるんだ。大人しく忘れてもらおうか」

 「……わざわざ弱い相手に負けてまでそんなことする必要ないからね。 理解できないよ」

  「それが! 親なんだッ!……たあぁぁッッ!!」


 リザードマンは大剣を両手持ちし、こちらに走ってくる。その動きはあまりに真っ直ぐで、正々堂々というより戦いになれていないといった印象だ。
 リンはその様子を、ただただ静観していた。


 「……どうしてなんだろうね。この旅、やっぱり分からないことが多すぎるよ」
 
 「油断している暇があると思うなァァァァ!!!」


 剣はリンの脳天めがけ振り下ろされる!!


  「……やっぱりローレルには居てもらった方がいいね。わかんないことが多いや」


 そう言って、体を横向きにしてスレスレで避ける。リンのすぐ目の前を、極太の刀身が横切る。


  「な、何っ!? ──うわああっ!」


 全体重を乗せた一撃だったようで、リザードマンの体は不格好にも前につんのめった。
 リンは無言のまま大剣を蹴飛ばす。リザードマンの手から離れた大剣は、近くの茂みまで滑って行った。


 「……チェックメイトだね?」

 「……まだだ……!  」


 リザードマンは歯をむき出しにして威嚇する。


 「お前ら人間には、毒の牙も毒への耐性もないだろう! せいぜい苦しんで死ねっ!! ガアアアアッ!!」


 リザードマンはリンの両肩をつかみ、大口を開けて首元にかぶりつく!──ハズだった。


 「ゴハッ………?」


 リザードマンの口の中には、リンの右ストレートが既に刺さっていた。 為す術なく、膝から崩れ落ちる。そして苦しそうに吐血した。
 しかしリザードマンはあきらめない。
 状況が読めないなりに、必死に周りを探ろうと目を左右に振り続けている。リンはその様子を不思議そうに眺めていた。屈んでリザードマンに話しかける。


 「そんなに大事なものなの? 家族ってさ」

 「大事なんてもんじゃねえ……俺の……全てだ。死んでも守らきゃならねぇ……」

 「でも死んでちゃ仕方ないよ。 わざわざ私なんかに喧嘩売るだなんて、初めから死にに来てるようなものでしょ? どうしてそこまで?」
 
 「この村からお前は出られるほどの力を持っている。村の奴らには出来ないが……お前にはできてしまいそうだからな。だからだ」

 「私にはできるって……ここまでの話を聞いてると、まるで私が村民皆殺しにするような言いっぷりだね? それがここからの出方なの?」


 リザードマンはまぶたを静かに閉じ……。
 ──急に腕をつき出した。 


 「死ねっ……! この村のために!」


 その手には、小型なボウガンが握られていた。 
 

 [──バシュッ]








 「ぐっ……あぁぁぁぁ!!」


 リザードマンは手首を切り落とされ、痛みに喘ぐ。その間わずか。うつ伏せになって小さく丸まると、リザードマンは動かなくなった。
力なく手の先とボウガンが地面に落ちていた。


 「念の為、トドメも刺して置こうか」
 

 リンは血で汚れたロングソードをリザードマンの首の上で振り下ろす!


 「やめよ」

 「……?」


 も、後ろから止められた。
 リンが振り返ると、そこには三角帽子とタイトなローブを着た、魔女らしい女がたっていた。


 「もうこやつは死んでおるのだから」


 つばの広い帽子の下から、三日月のような笑みだけが浮かんでいた。
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