こねくとノイズ

5. 扉を開けたその向こう

「学校休んで大丈夫かな……」
　カチャカチャと食器を洗い流しながらサクラが呟く
「テスト期間でもないし、まあ大丈夫か。後でお兄ちゃんに連絡しておけば……」
　ノイズが使った食器を洗い流そうとしたその時、突然サクラの目の前に本がバサバサとページの音を立てて現れた
「ビックリした……。なんで本が？」
　部屋に置いていたはずの本が現れ驚くサクラの頬に本がすり寄る
「会いに来たの？嬉しいけど、ここにいたら濡れちゃうから、テーブルにいてくれる？」
　本の動きに戸惑いつつもサクラがそう言うと本を閉じた状態でテーブルに着いた本。それを見ていると、パタパタと階段を降りる音が聞こえ、ノイズとメメがキッチンに入ってきた
「ほら、やっぱりサクラの所にいたじゃん」
「そうね、なら仕方ないわ」
　テーブルにある本を見てメメがため息混じりに頷く。サクラが二人に気づいて、まだ少し残っていた洗い物を急いで終わらした

「片付け終わりましたけど、えーっと……」
「よし、じゃあ出ようか。荷物あるなら急いで持ってきて」
「わ、分かりました」
　ノイズに返事をして、バタバタと急ぎ足で部屋に戻っていくサクラ。テーブルにいた本もふわりと浮かび、サクラの後を追いかけていく
「……本まで一緒に行くの？」
「もうサクラの本ね」
　本の動きにノイズが少し不満そうに呟くと、メメがクスッと笑ってそれに返事をする。その間に、部屋に着いたサクラはバタバタと物音を立てて鞄に筆記用具等を適当に入れている側で、本がバサバサとページの音を立ててウロウロと飛んでいる
「よしっ！」
　と、気合いをいれて、またバタバタと急ぎ足で階段を降りると、リビングでのんびりしていたノイズとメメを見つけ声をかけた

「お待たせしました！」
　本と一緒に息を切らしてきたサクラ。それを見て、ノイズがソファーから立ち上がり、うーんと背伸びをする側で、メメが壁にあった時計を見た
「出発が遅れたわね。ノオトに何か言われそうね」
「気にしないの。不安を言っている時間があるから行くよ。サクラ、私の手を握って」
　そう言うとサクラに手を伸ばすノイズ。恐る恐る手を取ると、ぎゅっと強くつかまれそのまま玄関の方に歩いていく
「扉開けたら、驚いて、手を離しちゃダメだよ」
　玄関の扉のドアノブに手を掛け、サクラの方に少し振り向く。少し険しい顔をしているノイズにサクラが恐る恐るゆっくりと頷く
「よし、それじゃあ覚悟はいいね」
「あまりこの家に帰ってこられないかもよ」
　扉を開けようとした時、サクラの頭の上に乗っているメメがクスッと笑って言った言葉に、サクラが驚いて少し後退りした
「メメ、そんな意地悪言っちゃダメだよ。サクラ、ちゃんと帰ってこれるからね」
　慌ててドアノブから手を離しサクラにメメの言葉を消すように笑って話すノイズ。それを聞いて、また恐る恐る頷くサクラ。それを見て、ほっと胸を撫で下ろすノイズ。メメがクスクスと笑っているのを見て、今度はムッと怒った顔でメメを見ると、サクラがノイズの手を少しぎゅっとつかんだ
「……じゃ、本当に行くよ」
　ふぅ。と一つため息をついて、またドアノブをつかんだ。グッと少し力を入れて、玄関の扉を開けると、とても眩しい光が扉の向こうから差し込んで、サクラがぎゅっと強く目を閉じる。すると、ノイズと繋いでいた手がグイッと引っ張られた


「サクラ、目を開けていいよ」
　ノイズの声が聞こえて、恐る恐るゆっくりと目を開いた
「うわぁ……」
　サクラの目の前には、いつもと違う見たことのない景色。メメのように話す犬やウサギ、空を飛びながら本を読む人など、今まで見たことのないような人達がたくさんいた
「騒がしいわね……」
「サクラの家から出てすぐだから、余計にうるさく感じるかもね」
　ノイズとメメは驚く様子もなく、周りを見ながら二人で話をする。しばらく見た後、歩き出そうとした時、グイッと体が動かず、振り向くとサクラが呆然として動かずにいた
「サクラ、魔力使うから早くここに来て」
　グイグイとサクラの手を引っ張りながらノイズが言うと、慌てて一歩進むと、サクラの後ろに見えていた家の中や玄関の扉が、ゆっくりと消えてしまった
「お家が……」
　帰れなくなると思い、消えた家に手を伸ばすサクラ。だが、それとは反対方向にノイズにグイッと手を引っ張られ、家のあった場所からどんどんと離れていく
「えーっと、こっちだっけ？」
「こっちよ。いつになったら覚えるのかしら……」
　サクラの気持ちはつゆ知らず、見知らぬ道を歩くノイズとメメ。さっき居た場所よりも建物や人が増え、サクラの気持ちが追い付かず、ずっといい辺りを見渡している
「手、離そうか？一人で歩ける？」
　サクラの様子と手が離れそうになっているのに気づいたノイズがそう声をかけると、何度も顔を横に振るサクラ。それを見てノイズがつかんでいたサクラの手をぎゅっと強くつかみ直した
「離れないようにね」
　そう言うとまた歩きはじめたノイズ。サクラも慌てて歩きノイズの服をつかんで少し後ろを歩く。ふと、少し離れた場所でパタパタと走る小さな子供がノイズから渡された本に似ている事に気づいて、サクラの側でずっとウロウロと動き回っている本を見た
「あの、ここはどこなんですか？」
「うーん、なんて説明したらいいのかな」
　と、サクラの質問にどう言おうかと首をかしげるノイズ。すると、メメがノイズの頭の上に乗り、ペシペシと軽く叩いた
「ノオトとの約束の時間に、もう大分過ぎている。説明はノオトに会ってからにしましょ」