65 / 67
65. 懐かしい素敵な声
しおりを挟む
「それじゃあ、本を返すわね」
アルノの手から離れて、ふわりふわりと浮いてミツバのもとに飛んでいく本。両手にそっと降りてきた本を取った瞬間、ズシッと重みを感じて、本と一緒にその場に座り込んでしまった
「お、重い……」
サクラ達が心配そうにミツバを見つめる中、ゆっくりと本を抱きながら立ち上がった
「本、だいぶ分厚くなってるね」
サクラと一緒にミツバの本をめくると、前とは違う文字が本の最後まで書かれていた
「相変わらず読めないね」
側で見ていたツバキが、読めないその文字に首をかしげている
「サクラ、何て書いているの?」
と、ナツメが問いかけてもサクラは答えず、ミツバの本を読み進めている。一人だけ読んでいる姿に、少しムッと怒ったような表情のナツメに気づいたアルノがサクラ達に背を向けて、ポツリと呟いた
「本を求める人達の願い事よ」
アルノの言葉が聞こえて、サクラ以外みんながアルノに目を向ける。みんなの視線を感じて、振り返るとミツバにニコッと微笑んだ
「今も昔も、良いことも悪いことを本を頼ってきた人達の願い事」
アルノの話を聞きながら、本に目を向けたミツバ。読めないその文字をサクラと一緒に見つめていると、アルノがミツバの方へと歩きはじめた
「それをミツバちゃんに絶ち切ってもらわなきゃいけないの」
「私が……」
本の重さとアルノの言葉に躊躇しはじめたミツバ。だが、そんな事はお構いなしに、アルノがミツバの手を取り引っ張った
「ほらほら。悩んでいる時間なんてないわよ」
「……でも」
「大丈夫よ。たぶん」
「たぶん……ですか?」
不安そうなミツバと機嫌よく話をするアルノ。二人の様子をナツメ達も不安そうに見ている
「アルノさん!ミツバは何をするの?」
と、ナツメが大声で話しかけると、部屋の真ん中までミツバの手を引いたアルノがそっと手を離した。重たい本も一緒に持っていたミツバ。本を落とさないように、ぎゅっと強く本を抱きしめると、それを見たアルノがクスッと笑った。すると、アルノの部屋にある本棚から、ふわりと本が現れて、部屋の中をあっちこっちと動き回りはじめた。その本に見入っているナツメ達。本が空を舞う音に紛れるように、何処からともなくサクラやミツバとは違う声が、うっすらと聞こえてきた
「……声。どこから?」
楽しい声や悲しい声が、あちらこちらからと聞こえてくる。姿の見えないたくさんの声に、恐さで抱きしめあうユリとツバキ。ナツメもユリの服をつかんで息を飲んだ
「この声は、本を書いてきた人たちよ」
声を聞いても冷静なアルノ。すると、声に聞き入っていたアルノの側に家政婦達が、なぜか少し嬉しそうに近づいてきた
「懐かしい声がしますね」
「そうね、元気かしらね」
「ええ、アルノ様を見て微笑んでいると思いますよ」
クスクスと笑いあう三人を、不思議そうに見ているナツメ達。サクラも聞いたことのないたくさんの声に、少し不安になってきた頃、すぐ側で本を持ったままボーッとしているミツバにアルノが声をかけた
「ねぇ、ミツバちゃん」
「……はっ、はいっ!」
声をかけられると思ってなかったミツバ。思わず大声で返事をしてしまった。その元気のいい声を聞いて嬉しそうに何やら耳元でヒソヒソと内緒話をしはじめたアルノ。話し終えたのか、二人見つめあうと、アルノが何度も頷いてミツバを優しく抱きしめた
「分かりました……。私に出来ることなら、サクラのためなら……」
アルノの手から離れて、ふわりふわりと浮いてミツバのもとに飛んでいく本。両手にそっと降りてきた本を取った瞬間、ズシッと重みを感じて、本と一緒にその場に座り込んでしまった
「お、重い……」
サクラ達が心配そうにミツバを見つめる中、ゆっくりと本を抱きながら立ち上がった
「本、だいぶ分厚くなってるね」
サクラと一緒にミツバの本をめくると、前とは違う文字が本の最後まで書かれていた
「相変わらず読めないね」
側で見ていたツバキが、読めないその文字に首をかしげている
「サクラ、何て書いているの?」
と、ナツメが問いかけてもサクラは答えず、ミツバの本を読み進めている。一人だけ読んでいる姿に、少しムッと怒ったような表情のナツメに気づいたアルノがサクラ達に背を向けて、ポツリと呟いた
「本を求める人達の願い事よ」
アルノの言葉が聞こえて、サクラ以外みんながアルノに目を向ける。みんなの視線を感じて、振り返るとミツバにニコッと微笑んだ
「今も昔も、良いことも悪いことを本を頼ってきた人達の願い事」
アルノの話を聞きながら、本に目を向けたミツバ。読めないその文字をサクラと一緒に見つめていると、アルノがミツバの方へと歩きはじめた
「それをミツバちゃんに絶ち切ってもらわなきゃいけないの」
「私が……」
本の重さとアルノの言葉に躊躇しはじめたミツバ。だが、そんな事はお構いなしに、アルノがミツバの手を取り引っ張った
「ほらほら。悩んでいる時間なんてないわよ」
「……でも」
「大丈夫よ。たぶん」
「たぶん……ですか?」
不安そうなミツバと機嫌よく話をするアルノ。二人の様子をナツメ達も不安そうに見ている
「アルノさん!ミツバは何をするの?」
と、ナツメが大声で話しかけると、部屋の真ん中までミツバの手を引いたアルノがそっと手を離した。重たい本も一緒に持っていたミツバ。本を落とさないように、ぎゅっと強く本を抱きしめると、それを見たアルノがクスッと笑った。すると、アルノの部屋にある本棚から、ふわりと本が現れて、部屋の中をあっちこっちと動き回りはじめた。その本に見入っているナツメ達。本が空を舞う音に紛れるように、何処からともなくサクラやミツバとは違う声が、うっすらと聞こえてきた
「……声。どこから?」
楽しい声や悲しい声が、あちらこちらからと聞こえてくる。姿の見えないたくさんの声に、恐さで抱きしめあうユリとツバキ。ナツメもユリの服をつかんで息を飲んだ
「この声は、本を書いてきた人たちよ」
声を聞いても冷静なアルノ。すると、声に聞き入っていたアルノの側に家政婦達が、なぜか少し嬉しそうに近づいてきた
「懐かしい声がしますね」
「そうね、元気かしらね」
「ええ、アルノ様を見て微笑んでいると思いますよ」
クスクスと笑いあう三人を、不思議そうに見ているナツメ達。サクラも聞いたことのないたくさんの声に、少し不安になってきた頃、すぐ側で本を持ったままボーッとしているミツバにアルノが声をかけた
「ねぇ、ミツバちゃん」
「……はっ、はいっ!」
声をかけられると思ってなかったミツバ。思わず大声で返事をしてしまった。その元気のいい声を聞いて嬉しそうに何やら耳元でヒソヒソと内緒話をしはじめたアルノ。話し終えたのか、二人見つめあうと、アルノが何度も頷いてミツバを優しく抱きしめた
「分かりました……。私に出来ることなら、サクラのためなら……」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
魅了の対価
しがついつか
ファンタジー
家庭事情により給金の高い職場を求めて転職したリンリーは、縁あってブラウンロード伯爵家の使用人になった。
彼女は伯爵家の第二子アッシュ・ブラウンロードの侍女を任された。
ブラウンロード伯爵家では、なぜか一家のみならず屋敷で働く使用人達のすべてがアッシュのことを嫌悪していた。
アッシュと顔を合わせてすぐにリンリーも「あ、私コイツ嫌いだわ」と感じたのだが、上級使用人を目指す彼女は私情を挟まずに職務に専念することにした。
淡々と世話をしてくれるリンリーに、アッシュは次第に心を開いていった。
ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!
クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。
ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。
しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。
ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。
そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。
国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。
樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる