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調味料と株式市場
31 勧誘
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エルマーの店が人気になるにつれ、新しい客がどんどん増えてくるのは当然だった。
そして、そこにカール王子とアンネリーゼがやってくるのも、また蓋然性は高かったのである。
そこにはオットマーとギルベルトも一緒にいた。
アルノルトを欠いてはいたが、他の三人はこうしていつもアンネリーゼと一緒に行動しているのだ。
カールの行動は王子としては問題だったが、最近ではドミニクを次期国王に推す声が強くなり、自由気ままな行動も好きにさせておけば良いという空気になりつつあった。
「ここが最近話題のお店ね」
アンネリーゼがそう言えば、カールは
「アンネのために予約を取っておいたんだ」
と彼女のピンクの髪を撫でた。
「嬉しいですわ、カール様。アンネリーゼは大切にされていて、とても幸せです」
アンネリーゼはしなをつくってカールにアピールする。
カールはその仕草にデレデレとなるが、それを見ていたオットマーとギルベルトも雰囲気に当てられて目尻が下がる。
「さあ、入ろうか」
「はい」
カールに促されてアンネリーゼは店に入った。
そして予約された席に案内される。
店内には香辛料の匂いが充満していた。
「美味しそうな匂いがしてますね」
「そうだな。アンネもきっと気に入ってくれると思う」
「楽しみです~」
エルマーの見せに来ているのは、貴族か大商人なので彼らはカール王子の行いを知っている。
婚約者であるシェーレンベルク公爵令嬢のブリュンヒルデを追い出し、平民であるアンネリーゼと婚約し直した。
魔法が使えるので、アンネリーゼにも貴族の血は流れているのだろうが、自出の怪しい女を愛人ではなく婚約者にしたことで、カール王子をよく思わない者たちは多かった。
そして、ここでもそれを見せつけられたことで、眉をひそめる者たちも多かった。
が、当人たちは気にもしていない。
料理が運ばれてきてからも、イチャイチャしながら食べている姿を晒し、余計に怪訝な顔をされることになった。
「カール様、私毎日この料理を食べたいです」
「そうか、オットマーすまないが、シェフを専属の料理人にしたいと伝えてきてくれ」
「かしこまりました」
アンネリーゼに頼まれたカールは嫌とは言えず、オットマーにシェフの勧誘を指示した。
オットマーも素直にその指示に従い、厨房へと向かった。
「シェフはいるか?」
「はい、どのようなご要件でしょうか?何か料理に気に入らないことでも?」
エルマーがオットマーに対応する。
「いや、料理はとても素晴らしかった。だから、料理人として雇いたいとカール王子がもうされておる」
その言葉にエルマーはまたかと思った。
もう既に何度も貴族からの勧誘を受けている。
既になれてしまったことで、だから今回もいつものように断るだけだった。
「この店はシェーレンベルク公爵の娘婿であるマクシミリアン様が主要株主として経営に関わっております。私はご恩に報いるためにも、他の方にはお仕えいたしません」
「遠慮することはない」
「いや、遠慮しているわけでは無いのですが」
「公爵家程度、殿下の前ではどうということはない。何か言ってくれば殿下が追い返してくれる」
エルマーは目の前の男が話しにならないとクラクラ来ていた。
今まで勧誘に来た中では断トツに会話が成立しない。
「他のお客様の料理を作らなければなりませんので、このお話はここまでにしていただけませんでしょうか」
「ここまで言っても駄目か」
「はい。お話は受けられません」
ここまで言っても引き下がらないオットマーに、エルマーは頭を悩ませていたが、丁度そこに予約をしていたマクシミリアンたちがやってきた。
従業員が困っているエルマーを見かねて、マクシミリアンに相談したところ、マクシミリアンは厨房へとやってきた。
「やあ、エルマー。困っているみたいだね」
「マクシミリアン様」
僕が厨房に顔を出すと、エルマーは地獄で仏に会ったような顔を見せた。
「お前がマクシミリアンか?」
体格の良い男に名前を聞かれる。
名前を呼び捨てにするとは礼儀がなってないなと思ったら、僕より先にその事を後ろから来たブリュンヒルデが指摘した。
「相変わらず礼儀がなってないようですね。ヒンデンブルク様」
「ブリュンヒルデか。どうして貴様がここにいる?」
オットマーはブリュンヒルデを睨んだ。
そうか、こいつがブリュンヒルデを断罪したうちの一人、オットマー・フォン・ヒンデンブルクか。
近衛騎士団長の父親に鍛えられたというだけあって、見ただけでも強そうなのがわかる。
そんな男がブリュンヒルデに殺気を放っているので気が気でない。
しかし、ブリュンヒルデは怯まずにオットマーに言う。
「婚約者とのデートで予約した店に来るのはおかしいかしら?それに、ここは私の婚約者も出資しているお店。勝手にシェフを引き抜こうとしないでいただきたいですわね」
「はん、婚約者か。聞いてはいたがお前のような性根の腐った女と婚約した者がいると聞いたが、誰かと思っていたらこんな子供ではないか。うまく誑かしたか?」
その物言いにカチンと来た。
僕の外見は同世代と比べると幼く見られるから、成人しているのに子供と言われるのは仕方がない。
だけど、ブリュンヒルデの事を悪く言うのは許せない。
こいつは叩き潰してやる。
「この店は上場しているので、どうしてもエルマーが欲しければ、株を買い集めて貴方が思うように経営したらいいでしょう」
「株を買うだと?」
僕の挑発にオットマーが食いついてきた。
「そうです。市場で株を買い集めて、筆頭株主になればこの店の経営を思うままに出来ますからね。もっとも、そんな事も知らないようでは、経営なんて無理でしょうけど」
「ふん、確かに俺は経営の事はよくわからん。だが、アンネにこの店をプレゼントすれば、彼女なら上手く経営してくれるはずだ」
「僕の店を渡すつもりは無いですけどね。エルマーの腕は宝物だ。ま、ブリュンヒルデの笑顔ほどじゃないけどね」
先程オットマーに貶されたブリュンヒルデを持ち上げる。
ブリュンヒルデはこんな時に何を言っているのという圧を送ってくるが、僕は涼しい顔でそれを受け流した。
これは多分夜の夫婦の語らいで、いつもよりイジメられるパターンだな。
シーツを強く握らされるくらいに、キツく攻められるのを覚悟した。
「ふん、夫婦揃って救いがたい。お似合いだな」
「そりゃどうも」
「しかし、良いことを聞いた。この店を買わせてもらおう」
「上場している企業を買うのは誰でも出来ますので、どうぞご自由に」
オットマーはそこで今日エルマーを引き抜くのは諦めて、席の方へと帰っていった。
「エルマー、今日はこれ以上揉めないように帰るね」
「申し訳ございませんでした、マクシミリアン様」
「いいって。エルマーが悪いわけじゃないから」
頭を下げるエルマーを止める。
それに、この状況を使ってオットマーを叩き潰してやるチャンスが訪れたのは幸運だった。
ブリュンヒルデも攻め手を欠いていたから、こちらとしても都合が良い。
ブリュンヒルデも僕の意図を理解したようで、猛禽類が餌を見つけたような表情になる。
なお、その日の夜は何故か女装させられた。
強く握った時に出来たシーツのシワは、噂好きのメイドの間で暫く面白おかしく話される事になった。
そして、そこにカール王子とアンネリーゼがやってくるのも、また蓋然性は高かったのである。
そこにはオットマーとギルベルトも一緒にいた。
アルノルトを欠いてはいたが、他の三人はこうしていつもアンネリーゼと一緒に行動しているのだ。
カールの行動は王子としては問題だったが、最近ではドミニクを次期国王に推す声が強くなり、自由気ままな行動も好きにさせておけば良いという空気になりつつあった。
「ここが最近話題のお店ね」
アンネリーゼがそう言えば、カールは
「アンネのために予約を取っておいたんだ」
と彼女のピンクの髪を撫でた。
「嬉しいですわ、カール様。アンネリーゼは大切にされていて、とても幸せです」
アンネリーゼはしなをつくってカールにアピールする。
カールはその仕草にデレデレとなるが、それを見ていたオットマーとギルベルトも雰囲気に当てられて目尻が下がる。
「さあ、入ろうか」
「はい」
カールに促されてアンネリーゼは店に入った。
そして予約された席に案内される。
店内には香辛料の匂いが充満していた。
「美味しそうな匂いがしてますね」
「そうだな。アンネもきっと気に入ってくれると思う」
「楽しみです~」
エルマーの見せに来ているのは、貴族か大商人なので彼らはカール王子の行いを知っている。
婚約者であるシェーレンベルク公爵令嬢のブリュンヒルデを追い出し、平民であるアンネリーゼと婚約し直した。
魔法が使えるので、アンネリーゼにも貴族の血は流れているのだろうが、自出の怪しい女を愛人ではなく婚約者にしたことで、カール王子をよく思わない者たちは多かった。
そして、ここでもそれを見せつけられたことで、眉をひそめる者たちも多かった。
が、当人たちは気にもしていない。
料理が運ばれてきてからも、イチャイチャしながら食べている姿を晒し、余計に怪訝な顔をされることになった。
「カール様、私毎日この料理を食べたいです」
「そうか、オットマーすまないが、シェフを専属の料理人にしたいと伝えてきてくれ」
「かしこまりました」
アンネリーゼに頼まれたカールは嫌とは言えず、オットマーにシェフの勧誘を指示した。
オットマーも素直にその指示に従い、厨房へと向かった。
「シェフはいるか?」
「はい、どのようなご要件でしょうか?何か料理に気に入らないことでも?」
エルマーがオットマーに対応する。
「いや、料理はとても素晴らしかった。だから、料理人として雇いたいとカール王子がもうされておる」
その言葉にエルマーはまたかと思った。
もう既に何度も貴族からの勧誘を受けている。
既になれてしまったことで、だから今回もいつものように断るだけだった。
「この店はシェーレンベルク公爵の娘婿であるマクシミリアン様が主要株主として経営に関わっております。私はご恩に報いるためにも、他の方にはお仕えいたしません」
「遠慮することはない」
「いや、遠慮しているわけでは無いのですが」
「公爵家程度、殿下の前ではどうということはない。何か言ってくれば殿下が追い返してくれる」
エルマーは目の前の男が話しにならないとクラクラ来ていた。
今まで勧誘に来た中では断トツに会話が成立しない。
「他のお客様の料理を作らなければなりませんので、このお話はここまでにしていただけませんでしょうか」
「ここまで言っても駄目か」
「はい。お話は受けられません」
ここまで言っても引き下がらないオットマーに、エルマーは頭を悩ませていたが、丁度そこに予約をしていたマクシミリアンたちがやってきた。
従業員が困っているエルマーを見かねて、マクシミリアンに相談したところ、マクシミリアンは厨房へとやってきた。
「やあ、エルマー。困っているみたいだね」
「マクシミリアン様」
僕が厨房に顔を出すと、エルマーは地獄で仏に会ったような顔を見せた。
「お前がマクシミリアンか?」
体格の良い男に名前を聞かれる。
名前を呼び捨てにするとは礼儀がなってないなと思ったら、僕より先にその事を後ろから来たブリュンヒルデが指摘した。
「相変わらず礼儀がなってないようですね。ヒンデンブルク様」
「ブリュンヒルデか。どうして貴様がここにいる?」
オットマーはブリュンヒルデを睨んだ。
そうか、こいつがブリュンヒルデを断罪したうちの一人、オットマー・フォン・ヒンデンブルクか。
近衛騎士団長の父親に鍛えられたというだけあって、見ただけでも強そうなのがわかる。
そんな男がブリュンヒルデに殺気を放っているので気が気でない。
しかし、ブリュンヒルデは怯まずにオットマーに言う。
「婚約者とのデートで予約した店に来るのはおかしいかしら?それに、ここは私の婚約者も出資しているお店。勝手にシェフを引き抜こうとしないでいただきたいですわね」
「はん、婚約者か。聞いてはいたがお前のような性根の腐った女と婚約した者がいると聞いたが、誰かと思っていたらこんな子供ではないか。うまく誑かしたか?」
その物言いにカチンと来た。
僕の外見は同世代と比べると幼く見られるから、成人しているのに子供と言われるのは仕方がない。
だけど、ブリュンヒルデの事を悪く言うのは許せない。
こいつは叩き潰してやる。
「この店は上場しているので、どうしてもエルマーが欲しければ、株を買い集めて貴方が思うように経営したらいいでしょう」
「株を買うだと?」
僕の挑発にオットマーが食いついてきた。
「そうです。市場で株を買い集めて、筆頭株主になればこの店の経営を思うままに出来ますからね。もっとも、そんな事も知らないようでは、経営なんて無理でしょうけど」
「ふん、確かに俺は経営の事はよくわからん。だが、アンネにこの店をプレゼントすれば、彼女なら上手く経営してくれるはずだ」
「僕の店を渡すつもりは無いですけどね。エルマーの腕は宝物だ。ま、ブリュンヒルデの笑顔ほどじゃないけどね」
先程オットマーに貶されたブリュンヒルデを持ち上げる。
ブリュンヒルデはこんな時に何を言っているのという圧を送ってくるが、僕は涼しい顔でそれを受け流した。
これは多分夜の夫婦の語らいで、いつもよりイジメられるパターンだな。
シーツを強く握らされるくらいに、キツく攻められるのを覚悟した。
「ふん、夫婦揃って救いがたい。お似合いだな」
「そりゃどうも」
「しかし、良いことを聞いた。この店を買わせてもらおう」
「上場している企業を買うのは誰でも出来ますので、どうぞご自由に」
オットマーはそこで今日エルマーを引き抜くのは諦めて、席の方へと帰っていった。
「エルマー、今日はこれ以上揉めないように帰るね」
「申し訳ございませんでした、マクシミリアン様」
「いいって。エルマーが悪いわけじゃないから」
頭を下げるエルマーを止める。
それに、この状況を使ってオットマーを叩き潰してやるチャンスが訪れたのは幸運だった。
ブリュンヒルデも攻め手を欠いていたから、こちらとしても都合が良い。
ブリュンヒルデも僕の意図を理解したようで、猛禽類が餌を見つけたような表情になる。
なお、その日の夜は何故か女装させられた。
強く握った時に出来たシーツのシワは、噂好きのメイドの間で暫く面白おかしく話される事になった。
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