冒険者ギルド品質管理部 ~生まれ変わっても品管だけは嫌だと言ったのに~

犬野純

文字の大きさ
20 / 439

第19話 作業観察と宮廷料理

しおりを挟む
 俺はシルビアと一緒に冒険者ギルドの食堂で遅いランチを食べていた。
 昼時は冒険者で混雑するため、彼らが食事を終えた時間帯に昼食を取るようにしている。
 俺もシルビアも比較的自由に時間を使えるので、こうした事ができるのだ。

「あら、見かけない女性ね」

 シルビアが食堂に来た女性を見てそう言う。
 年齢は25歳くらいだろうか、短い栗色の髪の毛に同じ色の瞳をした小柄な女性だ。
 彼女はそのまま厨房の中へと入っていったので、俺とシルビアは彼女の後を追い、厨房へと入った。
 部外者が厨房に入るなど、普通じゃないからな。

「クリオ、やっと見つけたわ」

 女性が厨房で働くスタッフのクリオに声を掛けた。
 二人は知り合いか?

「帰ってくれ」

 クリオは野菜を刻む手を止めて、女性の方をみてそう叫ぶ。
 やはり二人は知り合いのようだ。

「王都からやっとここまで来たのよ。料理長が倒れてしまって、来月の周辺各国を招いてのパーティーに出す料理が作れないのよ」
「俺はもう宮廷の料理人は辞めたんだ。関わらないでくれ」

 そう言うと、クリオは厨房から走って出ていってしまった。
 女性はその後を追おうとしたが、シルビアが彼女の肩を掴んでそれを止めた。

「どうやら事情があるようね。話して頂戴」

 シルビアは首を突っ込む気満々だ。
 彼女に任せておくと、腕力で解決しそうで心配なので、俺も一緒に女性の話を聞くことにした。
 一先ず厨房から出て、食堂のテーブルに座って話を聞く。

「私の名前はセリカ。宮廷で給仕の仕事をしています。クリオとはかつて同じ職場で働いていました」
「クリオは宮廷料理人だったってことか。奴がここに来て1年も経ってないからな」

 最近雇われた俺は知らなかったが、クリオもここに来てからそんなに経ってないそうだ。

「クリオは若いのにその腕を買われて、将来は料理長になると思われていました。だけど、ある時彼が指導していた新人が出した料理が大失敗で、来賓達にとても不評だったのです。クリオはその事に責任を感じて職を辞して姿を消したのです。私はなんとか彼を探そうと、色々と手を尽くした結果、迷宮都市ステラに彼が居ると突き止めました」
「何で直ぐに来なかったのよ」
「いや、それはおかしいぞ。探すのも大変だけど、王都からここまで2週間は掛かる。そんなに簡単な旅でもないだろ」

 シルビアの考えを批判したが、それは大きな間違いだった。

「は?アルトは判ってないのね」
「何がだよ」
「セリカはクリオの事が好きなのよ。好きな男の居場所を見つけたなら、直ぐにでも向かうべきだわ」
「はへ?」

 俺は馬鹿みたいな声を出してしまった。
 そうなのか。

「はい……。私も仕事の都合をつけたらここに向かおうと思っていました」

 真っ赤になって下を向くセリカ。
 シルビアの言う通りなのか。

「それで、来月の晩餐会の大仕事を終えたらと思っていたのですが、料理長が病で倒れてしまい、代わりを務められる程の料理人がいないものですから、こうしてクリオを連れ戻しにきたのです」
「そういうことか。でも、あの態度を見ると厳しそうだな」

 俺がそう言うと、セリカは悲しそうな顔をして下を向いてしまった。

「そう言う事なら、アルトがなんとかするわよ」
「俺が?」

 シルビアが俺を見る。

「あんたならクリオがその時どうすれば良かったか判るでしょ」
「そう言われてもなぁ」
「目の前で女の子が困っているのよ。助けてあげなさいよ」
「そうだな」

 とりあえずクリオを探して話をしてみようか。
 セリカにはここで待っているようにお願いし、俺とシルビアでクリオを探しに行く。
 取り敢えずクリオの部屋に行ってみたら、クリオはそこにいた。

「クリオ、ちょっと話を聞かせてくれないか」
「俺は王都には戻らない」

 俺がお願いしたのには訳がある。
 後ろには口よりも先に手が出るお姉さんがいるからだ。
 案の定手が出た。

「クリオ!女の子が危険を顧みず、王都からステラまで来たっていうのに、なんでそんな事言ってるのよ」

 クリオは吹っ飛んで壁に激突する。
 会話ができる程度には留めて欲しいな。
 と思ったら、そこでクリオが話し合いに応じる気になったようだ。
 大門軍団か!

 クリオが昔のことを話し始める。

「自分で言うのもなんですが、当時の私は料理長に負けないくらいの料理の腕が有りました。料理人のジョブを与えてくれた神に毎日感謝しながら仕事の腕を磨いていたのです。実力を認められ、後輩の指導を任せられたのですが、その後輩に任せた料理を晩餐会に出した所、来賓達にとても不評で、私は王の顔に泥を塗ってしまったのです。罰こそ無かったのですが、私は自分が許せず職を辞して、気がつけばここにいたって訳です。ジョブは料理人ですから、結局どこかで料理をしないと生きてはいけないのですから、ギルドの食堂で雇ってもらえないかとギルド長に土下座して頼み込みました」
「どーりで、クリオが来てから食堂の味が良くなったと思ったのよ。そんな腕前だったなんてね」
「私は料理をすること自体は辞めようとは思いませんが、もう人を使って料理をするのは止めたんです。あんな思いはしたくないですからね」

 遠い目をしながらクリオは語ってくれた。
 彼の気持ちも判るが、それではセリカはどうするというのだ。
 彼女は仕事というのもあるが、クリオに会いたくてここまで来たというのに。

「クリオ、あんたセリカの気持ちはどうするのよ」
「彼女は仕事で自分を連れ戻しに来たのでしょう」
「違うわよ、セリカはあんたに会いたくてここまで来たのよ。そんな彼女の気持ちに応えてあげようと思わないの?」
「――まさか、彼女が俺のことを?」

 クリオは驚いた顔を見せた。
 俺もクリオも、男はこういう時鈍くて嫌だね。

「さて、クリオの話を聞いていて、判らなかったことがあるのだが、後輩の力量はどうやって確認したんだ?彼は客に料理を出せるレベルだったのか?」
「焼きは問題なかったから、料理人として十分だろうと思ってスープを任せたんだ。それが失敗だった」
「そうか。スープの腕前は確認しなかったんだな」
「ああ、それも確認すべきだったな」
「俺は料理のことは判らないので、何ができれば一人前なのか教えてくれ」

 俺はクリオから料理人としての能力は何ができればよいのかを教えてもらった。
 それを元に作業観察シートを作成し、誰がどの料理をどの程度できるのかを確認できるようにした。
 評価は1~5までで、合格点が4以上。
 3以下は確認しないと客に提供出来ないレベル。
 コピー機が無いので、全て手書きとなるが、数枚作ってこれを後は自分で書き写してもらおう。
 クリオが文字が読めて良かった。
 文字が読めない場合は、また別の対策を考えなければならなかったからな。
 これがあれば、料理人の腕前を、調理方法毎に評価できて、仕事の割り振りも問題なくできるだろう。
 前世の工場で例えるなら、NCベンダーが使えるからって、成型機が使える訳じゃないからな。
 ひとくくりに加工というが、全くの別物だ。
 料理だってそういうことだろう。

「これで宮廷料理人の力量を確認して、晩餐会当日の仕事を割り振ればいい。今から王都に戻ればなんとか間に合うだろ」
「アルト……」
「まずはセリカに謝りなさいよ」

 クリオはシルビアに尻を叩かれて、食堂で待つセリカの元に向かった。
 まったく、暴力を振るわないと気が済まないのかと苦笑いするが、クリオみたいなのはその方がいいのかも知れないな。
 この世界にコンプライアンスなど無い!

「セリカ、さっきはすまなかった」
「いいのよクリオ、私の方こそ無理を言ってごめんなさい。今から王都に戻って皆でどうするか考えるわ」
「いや、俺も一緒に行くよ」
「え!?」

 セリカの顔が一気に明るくなる。
 先程までクリオ抜きでどうしたらいいか悩んでいたセリカだったが、クリオの決意で問題が解決したのだ。
 その後クリオはみんなに挨拶を済ませて、直ぐに王都に向かって出発した。

「あーあ、これでまたギルドの食堂の味が落ちるわね」

 シルビアが残念そうに言うが、顔は笑っている。

「シルビアさん、私だってクリオから教えてもらって腕が上がっているんですからね」

 メガーヌがむっとしてシルビアを睨む。
 まあ、今後食堂の味がどう変わるか確認させて貰いましょう。
 官能評価って難しいから、クリオの思い出が強いと正統な評価が出来ないんだよね。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

転生社畜、転生先でも社畜ジョブ「書記」でブラック労働し、20年。前人未到のジョブレベルカンストからの大覚醒成り上がり!

nineyu
ファンタジー
 男は絶望していた。  使い潰され、いびられ、社畜生活に疲れ、気がつけば死に場所を求めて樹海を歩いていた。  しかし、樹海の先は異世界で、転生の影響か体も若返っていた!  リスタートと思い、自由に暮らしたいと思うも、手に入れていたスキルは前世の影響らしく、気がつけば変わらない社畜生活に、、  そんな不幸な男の転機はそこから20年。  累計四十年の社畜ジョブが、遂に覚醒する!!

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中に呆然と佇んでいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出したのだ。前世、日本伝統が子供の頃から大好きで、小中高大共に伝統に関わるクラブや学部に入り、卒業後はお世話になった大学教授の秘書となり、伝統のために毎日走り回っていたが、旅先の講演の合間、教授と2人で歩道を歩いていると、暴走車が突っ込んできたので、彼女は教授を助けるも、そのまま跳ね飛ばされてしまい、死を迎えてしまう。 享年は25歳。 周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっている。 25歳の精神だからこそ、これが何を意味しているのかに気づき、ショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

異世界でぼっち生活をしてたら幼女×2を拾ったので養うことにした【改稿版】

きたーの(旧名:せんせい)
ファンタジー
【毎週火木土更新】 自身のクラスが勇者召喚として呼ばれたのに乗り遅れてお亡くなりになってしまった主人公。 その瞬間を偶然にも神が見ていたことでほぼ不老不死に近い能力を貰い異世界へ! 約2万年の時を、ぼっちで過ごしていたある日、いつも通り森を闊歩していると2人の子供(幼女)に遭遇し、そこから主人公の物語が始まって行く……。 ――― 当作品は過去作品の改稿版です。情景描写等を厚くしております。 なお、投稿規約に基づき既存作品に関しては非公開としておりますためご理解のほどよろしくお願いいたします。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

処理中です...