冒険者ギルド品質管理部 ~生まれ変わっても品管だけは嫌だと言ったのに~

犬野純

文字の大きさ
70 / 439

第69話 設計と品管

しおりを挟む
ジャストナウで苦しんでいるお話です。
製図の知識がない人に、文章だけで説明するのが辛いけど、がんばります。
ついでに、新規立ち上げでドハマりして、毎日深夜残業とか辛い。
それでは本編いってみましょう。


「実は王都にある冒険者ギルドから、新人の教育を任されてね」

 ギルド長の執務室に呼ばれた俺は、ギルド長からそう聞かされた。

「何故自分が呼ばれたのかわかりませんが……」

 そう答えた。
 なにせ、俺のジョブは品質管理だ。
 新人を教育するというのであれば、シルビアの方が向いているだろう。

「その新人のジョブというのが発明家なんだよ」
「発明家?」

 品質管理や生産技術というジョブがあるので、発明家があっても不思議ではない。
 というか、発明家の方があるべきだろう。

「コンソルテという若い男なんだが、アイデアを鍛冶師に伝えるのが上手くできずに、才能を活かせないでいるということで、君に白羽の矢が立ったというわけだ。今まで自分の考えたことをドワーフ達に伝えて、色々作ってきたのが評判になっているからね」
「そういうことですか」

 つまりは、製図を教えろということか。

「いつからでしょうか?」
「数日のうちにこちらに到着する予定だ。期限は一週間、よろしく頼むよ」
「はい」

 俺はギルド長の依頼を承諾した。
 前世でも製図方法が確立したのは産業革命以降だったはずだ。
 レオナルドダヴィンチの設計図が残っているというが、それは製図のルールに則ったものではない。
 良い機会なので、これからこの世界に製図を広めていこう。

「という訳で、新人教育をすることになったんだよ」
「へぇ」
「発明家のジョブも珍しいですわね」

 時刻は夕方。
 シルビアとオーリスと一緒に、ティーノの店で夕食をとっている。

「発明家が考えた事も、誰かに伝えて加工してもらわないと実現しないんだけど、その伝え方にルールを作らないといけないんだ」
「料理のレシピみたいなものですわね」
「そうだね。もっといえば、レシピを元に肉を切る人、野菜を切る人、下味をつける人と別々だと思って欲しい。一人で全部やるなら調整しながらできるけど、違う場所でやったものをここで皿に盛りつけるなら、調整はできないからね。調整のいらないような伝え方をしなきゃいけないんだよ」
「ただ、それなら大量生産も可能というわけですわね」
「そうだね」

 そうか、大量生産が可能になるんだよな。
 このタイミングというのが少し気になる。
 水島の事が頭をよぎったが、考えすぎかな?
 念のためオーリスにはコンソルテの素性を、カイロン伯爵経由で調べてもらうようお願いした。

 そして数日後、コンソルテがステラに到着したという事で、俺の教育が始まった。
 コンソルテは赤髪に碧眼の整った顔をした好青年だ。
 身長も高く、ほっそりとした体形は早速女性たちの目を引いた。
 教えたくなくなるがな。
 これで都沢みたいな性格なら、そうも言えたのだが、非常に性格もよい。
 完璧超人かよ。

「以上が組図をばらして部品図に落とす手順だけど、ここまでで質問はある?」
「ここまでは大丈夫です」
「実線と点線の使い分けは気をつけなさい」
「はい」

 設計の経験はないが、治具の構想図くらいは描いたことあるので、その時の経験と知識を基にコンソルテを教育している。
 最初に座学で教えて、そこから課題を与えて図面を描かせる。
 彼の覚えが良いのもあって、こちらは苦労しない。
 あっという間に約束の一週間が過ぎた。

「ありがとうございました。王都に帰ったら、教えていただいた事を使って、新しいものを生み出します」
「その知らせが届くのを楽しみにしているよ」

 そう言ってコンソルテとは別れた。

「助かったよ、オーリス」
「どういたしまして」

 コンソルテが見えなくなったところで、物陰からオーリスが出てきた。

「やはりフォルテ公爵が送り込んできた人物でしたわね」
「自分の領地で兵器の大量生産をするために図面を描くノウハウが欲しかったのだろうね」
「よろしかったの?」
「何が?」
「製図方法を教えた事ですわ」
「ああ、そのことね」

 オーリスに俺は製図の事を話す。
 知らないと難しいが、ついてこれるかな?

「製図には投影法といって、影を写して描く手法があり、それには第一角法と第三角法っていうのがあるんだ」
「なんですの?」

 流石に言葉だけでは難しいので、紙に描いて説明をする。
 まずは十字に区切られた空間を描く。
 そこに第一角から第四角までを区切る。

       |
第二角    |    第一角
________________
       |
第三角    |    第四角



 こんな感じだ。
 第一角法は二角と四角からの投影となる。
 第三角法も同じだ。
 ただ、展開が逆になるので、これを間違うと穴位置が全く逆になるのである。
 第二角と第四角でも製図出来るが、一般的ではない。
 四角い二角が丸く収める事はできないのだ。

「図面がどちらの投影法で描かれているかを知らせないと駄目なんだよ。これを間違うと作り直しになるんだ」

 現代の図面には第何角法で描かれたかを示す記号がある。
 あっても不慣れな設計者だと間違う。
 なぜなら、3DCADが一般的になってきたため、二次元図面を描く機会が減ってきたからだ。
 紙図面なしで、データだけ渡すなんていうのがかなりある。
 穴位置が逆で設備が組み立てられないなんていうのは、自分も何度も経験した。

「つまり、思っていたのと反対の部品が出来上がってくるということですわね」
「そうだね」
「でも、それってオッティも知っているんじゃないかしら?」
「あいつも知識としては知っているけど、実践ができないんだよ。何度も同じミスを繰り返していたから。そうでもなきゃ俺の所に設計者を送り込んでこないだろうね。自分で教えればいいんだから」

 まあ、そんなもんですよ。
 理解できない人間には理解できない。
 だからアイソメ図っていうのがあるんですけどね。

「それともう一つ、大切なことを教えていないんだ」
「まだあるんですの?」
「原点と軸についてだね」
「原点と軸……」

 俺は下のような図を描いた。
 ■が原点で、●が穴だと思って欲しい。

■□□□□□□
□□□□□□□
●□□□□□□
□□□□□●□
□□□□□□□


□□□□□□□
□□□□□□□
●□□□□□□
□□□□□●□
□□□□□□■


□□□□□□□
□□□□□□□
●□□■□□□
□□□□□●□
□□□□□□□

 加工をする際、どこの原点から寸法を追うのかで、仕上がり具合が変わってくる。
 なぜなら寸法には公差というものがあり、公差は距離が長くなればなるほど大きくなる。
 それは加工精度を考えれば仕方がないことなのだ。
 例えば家を建てる時の公差と、手のひらサイズの部品を加工する時の公差が一緒に出来るはずがないということだ。
 更にこれに角度が付けば、部品図では良品であっても、組み付け時に取り付かないという現象が起きるのだ。
 直線距離は一緒でも、角度がずれれば縦横の寸法が変わってくるからだ。
 つまり、部品図であっても、組み立てを考慮して、どこの原点から加工して、部品のどこで取り付け角度を決めるのか、それを指示してあげないとまともに組み立てられないのである。
 これは紙に描くよりも、実際に見せたほうがわかりやすいのだが、この場所にはそれを見せる物がないので諦めた。

「まあ、そんなわけで、一人の作業者が加工から組み立てまでを行うのであれば、自分で調整しながら完成までもっていけるが、部品加工と組み立てを別々で行おうと思ったら、この事をしらないと大失敗するんだよ。気がついたときには使えない部品を大量に生産した後ってことになると思う」
「それを教えなかったのですわね」
「まあね。散々痛い思いをしてきたから、製図の段階でデザインレビューをする癖はついたけど、オッティは時間の無駄だって言っていたのを思い出したからね。彼がどうやってリカバリーするか楽しみだ」
「悪い顔をしていますわよ」

 オーリスに注意されてしまった。
 コンソルテの失敗と、それの尻ぬぐいをする水島を見てみたかったが、こればかりは無理だな。
 自分が巻き込まれない不具合はとても楽しいのに。
 いや、自分もかなり性格が歪んでいるな。
 オーリスに注意をされるわけだ。


※作者の独り言
補足で書いておくと
JISの削り加工中級の公差でいえば
6ミリを越え30ミリ以下だと公差は±0.2。
30ミリを越え120ミリ以下だと公差は±0.3。
30ミリと31ミリではOK範囲がレンジで0.2ミリ違います。
この公差を吸収するような組み立て図を考えないと、失敗しますね。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

転生社畜、転生先でも社畜ジョブ「書記」でブラック労働し、20年。前人未到のジョブレベルカンストからの大覚醒成り上がり!

nineyu
ファンタジー
 男は絶望していた。  使い潰され、いびられ、社畜生活に疲れ、気がつけば死に場所を求めて樹海を歩いていた。  しかし、樹海の先は異世界で、転生の影響か体も若返っていた!  リスタートと思い、自由に暮らしたいと思うも、手に入れていたスキルは前世の影響らしく、気がつけば変わらない社畜生活に、、  そんな不幸な男の転機はそこから20年。  累計四十年の社畜ジョブが、遂に覚醒する!!

異世界でぼっち生活をしてたら幼女×2を拾ったので養うことにした【改稿版】

きたーの(旧名:せんせい)
ファンタジー
【毎週火木土更新】 自身のクラスが勇者召喚として呼ばれたのに乗り遅れてお亡くなりになってしまった主人公。 その瞬間を偶然にも神が見ていたことでほぼ不老不死に近い能力を貰い異世界へ! 約2万年の時を、ぼっちで過ごしていたある日、いつも通り森を闊歩していると2人の子供(幼女)に遭遇し、そこから主人公の物語が始まって行く……。 ――― 当作品は過去作品の改稿版です。情景描写等を厚くしております。 なお、投稿規約に基づき既存作品に関しては非公開としておりますためご理解のほどよろしくお願いいたします。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中に呆然と佇んでいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出したのだ。前世、日本伝統が子供の頃から大好きで、小中高大共に伝統に関わるクラブや学部に入り、卒業後はお世話になった大学教授の秘書となり、伝統のために毎日走り回っていたが、旅先の講演の合間、教授と2人で歩道を歩いていると、暴走車が突っ込んできたので、彼女は教授を助けるも、そのまま跳ね飛ばされてしまい、死を迎えてしまう。 享年は25歳。 周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっている。 25歳の精神だからこそ、これが何を意味しているのかに気づき、ショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

神の手違い転生。悪と理不尽と運命を無双します!

yoshikazu
ファンタジー
橘 涼太。高校1年生。突然の交通事故で命を落としてしまう。 しかしそれは神のミスによるものだった。 神は橘 涼太の魂を神界に呼び謝罪する。その時、神は橘 涼太を気に入ってしまう。 そして橘 涼太に提案をする。 『魔法と剣の世界に転生してみないか?』と。 橘 涼太は快く承諾して記憶を消されて転生先へと旅立ちミハエルとなる。 しかし神は転生先のステータスの平均設定を勘違いして気付いた時には100倍の設定になっていた。 さらにミハエルは〈光の加護〉を受けておりステータスが合わせて1000倍になりスキルも数と質がパワーアップしていたのだ。 これは神の手違いでミハエルがとてつもないステータスとスキルを提げて世の中の悪と理不尽と運命に立ち向かう物語である。

【第2章完結】最強な精霊王に転生しました。のんびりライフを送りたかったのに、問題にばかり巻き込まれるのはなんで?

山咲莉亜
ファンタジー
 ある日、高校二年生だった桜井渚は魔法を扱うことができ、世界最強とされる精霊王に転生した。家族で海に遊びに行ったが遊んでいる最中に溺れた幼い弟を助け、代わりに自分が死んでしまったのだ。  だけど正直、俺は精霊王の立場に興味はない。精霊らしく、のんびり気楽に生きてみせるよ。  趣味の寝ることと読書だけをしてマイペースに生きるつもりだったナギサだが、優しく仲間思いな性格が災いして次々とトラブルに巻き込まれていく。果たしてナギサはそれらを乗り越えていくことができるのか。そして彼の行動原理とは……?  ロマンス、コメディ、シリアス───これは物語が進むにつれて露わになるナギサの闇やトラブルを共に乗り越えていく仲間達の物語。 ※HOT男性ランキング最高6位でした。ありがとうございました!

処理中です...