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第94話 ウェルドナットはどうしてあんなに不良の要因となるのでしょうか
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「板にネジをつけられたら色々な製品が作れるよなー」
俺は新しい製品が何か作れないかと考えていた。
この世界では板を留めるのはビスかリベットだ。
それでもいいのだが、新工法として何かやってみたい。
バーリングにするか、ウェルドナットにするかどちらかだな。
バーリングというのは、板を抜いたときの立ち上がりに雌ねじ加工をする工法である。
ネジ山の数が少ないのが欠点だな。
やはりネジ山は1.5Dくらい欲しい。
Dはダイアメーターの頭文字で、直径のことだ。
ネジ山はネジの直径の1.5倍以上あってほしい。
必ずというわけではないが、ネジの利きを考えたらそれくらいはということである。
M6のネジであれば、ネジ山の長さは9ミリ以上ということになる。
バーリングではその工法上どうしてもネジ山の長さを確保できない。
となると、ウェルドナットだな。
ウェルドナットはその名の通り溶接するナットである。
これさえあれば、薄い金属の板にも沢山のネジ山をつけることができ、雄ネジで十分なトルクがかけられる。
それで何をしようとかは考え付いていないけど。
兎に角、旋盤はあるので、ウェルドナットを作って溶接してみよう。
まずはネジゲージ作成スキルで模範を作る。
模範とは、その名の通りネジの模範となる形だ。
雄ネジを作る場合は、雌ネジの模範に合わせる。
一度雄ネジを加工したら、模範の雌ネジとはめあい確認をするのだ。
ネジ山の角度や高さ、案内などが合わないと、締め込む事が出来なかったり、違和感があったりするからだ。
俺は模範の雄ネジを作るとそれをデボネアに渡した。
そして、この模範に合うウェルドナットの加工をお願いする。
俺が渡したポンチ絵は四角いナットだ。
溶接時にネジ山を溶かさないように、そのための肉厚を確保してある。
「三日後だな」
「わかりました。出来たら私とホーマーを呼んでください。ここで溶接してみましょう」
「あいよ」
デボネアに注文が終わり、あとは完成を待つばかりだ。
おっと、ホーマーにも話をしておかないとな。
デボネアの工房から出た足で、ホーマーが働くエッセの工房へと顔を出す。
「ちわー。三河屋です」
「誰だよ、ってアルトか」
俺の挨拶が不振だったのか、ナディアではなくエッセが奥から出てきた。
手にはスミスハンマーを持っている。
かなり警戒されていたのか。
次は気を付けないとな。
「と謂うわけで、金属の板にネジをつけたいんだ」
ウェルドナットの説明をして、今回の目的を伝える。
ホーマーとエッセは興味津々だ。
やはり新しい事には目がないようだな。
「デボネアから三日後にウェルドナットが出来ると言われているが、どうする?」
二人の顔を順番に見ながら問いかける。
「勿論やらせてもらいます」
とホーマー。
「見学させてもらっても?」
「ああ、エッセも来ればいい」
エッセも一緒に見学することになった。
ここで断られていたら、ウェルドナットが無駄になっていたな。
順番は間違えないようにしないと。
その日はそれで終わりとなり、いよいよ約束の三日後となった。
デボネアが冒険者ギルドに顔をだし、俺はデボネアの工房に一緒に向かった。
工房に着くと、既にエッセとホーマーが待っていた。
「さて、始めようか」
「「はい」」
俺の指示で鉄板に丸い穴をあけるエッセ。
この穴は雄ネジを反対から入れるめだ。
ナットなので当然だな。
金属の板側から雄ネジを挿入して、ウェルドナットに締結するのだ。
さて、次はいよいよウェルドナットの溶接だな。
溶接前に雄ネジで金属の板とウェルドナットを固定する。
「これは位置決めですか?」
ホーマーが訊いてきた。
「それもあるが、スパッタ対策だ。スパッタが飛んで、ウェルドナットの中に入ると、ネジが使えなくなるからな」
「成程」
そう、スパッタ飛びは組み付け不良の原因となる。
ネジ山へのスパッタ飛びなど厳禁だ。
なので、こうして最初からネジを組んだ状態にして、スパッタが侵入しないようにするのだ。
それに、ウェルドナットにはパイロットと謂う案内がついている。
位置はそれで決まるのだ。
「それじゃあ、ウェルドナットの隅を点付け溶接してみて」
「はい」
ホーマーが俺の指示に従って、ウェルドナットを板に溶接した。
俺は溶け込み具合を確認する。
「良品だな」
「見せてください」
エッセがウェルドナットの溶接された板を手に取る。
彼はそれをまじまじと見ながら、なにやら考えている。
新商品の事だろうけど。
「これって、どんなことに使えるんですか?」
「エッセ、それは外して再び組み付ける目的で使うんだ。外さないものであれば、リベットや溶接で留めればいいだろ」
中々いい例えが思い付かないな。
前世であれば、自動車で説明出来るのだけど。
自動車の部品を全て溶接やリベットで固定していたら、部品が壊れただけで、車を取り替えなければならない。
テールランプが壊れただけで、車を買い換えるなど非効率的だろう。
そのためのウェルドナットだ。
「うーん、金属の鎧や盾に付ければ、ワイヤーロープと共締めにして、持ち物の落下防止は出来そうなんだけど」
まだこの世界には早かったな。
馬車も木製が多い。
馬が牽くのに、金属だと重いからな。
まあ、そのうち使い方を考えていこう。
ウェルドナットなんて、溶接忘れや、溶接強度不足、スパッタ飛びに、六角や四角だと方向間違いと不良を挙げればきりがない。
無理して使わなくてもいいかな。
炉中ロウ付けに続いてお蔵入りだな。
エッセとホーマーは溶接されたウェルドナットを見ながらああでもない、こうでもないと議論しているので、彼らが何か思い付いたら、そのときは手伝うくらいはしよう。
そう心に誓って、ウェルドナットの普及は一度封印することにした。
俺は新しい製品が何か作れないかと考えていた。
この世界では板を留めるのはビスかリベットだ。
それでもいいのだが、新工法として何かやってみたい。
バーリングにするか、ウェルドナットにするかどちらかだな。
バーリングというのは、板を抜いたときの立ち上がりに雌ねじ加工をする工法である。
ネジ山の数が少ないのが欠点だな。
やはりネジ山は1.5Dくらい欲しい。
Dはダイアメーターの頭文字で、直径のことだ。
ネジ山はネジの直径の1.5倍以上あってほしい。
必ずというわけではないが、ネジの利きを考えたらそれくらいはということである。
M6のネジであれば、ネジ山の長さは9ミリ以上ということになる。
バーリングではその工法上どうしてもネジ山の長さを確保できない。
となると、ウェルドナットだな。
ウェルドナットはその名の通り溶接するナットである。
これさえあれば、薄い金属の板にも沢山のネジ山をつけることができ、雄ネジで十分なトルクがかけられる。
それで何をしようとかは考え付いていないけど。
兎に角、旋盤はあるので、ウェルドナットを作って溶接してみよう。
まずはネジゲージ作成スキルで模範を作る。
模範とは、その名の通りネジの模範となる形だ。
雄ネジを作る場合は、雌ネジの模範に合わせる。
一度雄ネジを加工したら、模範の雌ネジとはめあい確認をするのだ。
ネジ山の角度や高さ、案内などが合わないと、締め込む事が出来なかったり、違和感があったりするからだ。
俺は模範の雄ネジを作るとそれをデボネアに渡した。
そして、この模範に合うウェルドナットの加工をお願いする。
俺が渡したポンチ絵は四角いナットだ。
溶接時にネジ山を溶かさないように、そのための肉厚を確保してある。
「三日後だな」
「わかりました。出来たら私とホーマーを呼んでください。ここで溶接してみましょう」
「あいよ」
デボネアに注文が終わり、あとは完成を待つばかりだ。
おっと、ホーマーにも話をしておかないとな。
デボネアの工房から出た足で、ホーマーが働くエッセの工房へと顔を出す。
「ちわー。三河屋です」
「誰だよ、ってアルトか」
俺の挨拶が不振だったのか、ナディアではなくエッセが奥から出てきた。
手にはスミスハンマーを持っている。
かなり警戒されていたのか。
次は気を付けないとな。
「と謂うわけで、金属の板にネジをつけたいんだ」
ウェルドナットの説明をして、今回の目的を伝える。
ホーマーとエッセは興味津々だ。
やはり新しい事には目がないようだな。
「デボネアから三日後にウェルドナットが出来ると言われているが、どうする?」
二人の顔を順番に見ながら問いかける。
「勿論やらせてもらいます」
とホーマー。
「見学させてもらっても?」
「ああ、エッセも来ればいい」
エッセも一緒に見学することになった。
ここで断られていたら、ウェルドナットが無駄になっていたな。
順番は間違えないようにしないと。
その日はそれで終わりとなり、いよいよ約束の三日後となった。
デボネアが冒険者ギルドに顔をだし、俺はデボネアの工房に一緒に向かった。
工房に着くと、既にエッセとホーマーが待っていた。
「さて、始めようか」
「「はい」」
俺の指示で鉄板に丸い穴をあけるエッセ。
この穴は雄ネジを反対から入れるめだ。
ナットなので当然だな。
金属の板側から雄ネジを挿入して、ウェルドナットに締結するのだ。
さて、次はいよいよウェルドナットの溶接だな。
溶接前に雄ネジで金属の板とウェルドナットを固定する。
「これは位置決めですか?」
ホーマーが訊いてきた。
「それもあるが、スパッタ対策だ。スパッタが飛んで、ウェルドナットの中に入ると、ネジが使えなくなるからな」
「成程」
そう、スパッタ飛びは組み付け不良の原因となる。
ネジ山へのスパッタ飛びなど厳禁だ。
なので、こうして最初からネジを組んだ状態にして、スパッタが侵入しないようにするのだ。
それに、ウェルドナットにはパイロットと謂う案内がついている。
位置はそれで決まるのだ。
「それじゃあ、ウェルドナットの隅を点付け溶接してみて」
「はい」
ホーマーが俺の指示に従って、ウェルドナットを板に溶接した。
俺は溶け込み具合を確認する。
「良品だな」
「見せてください」
エッセがウェルドナットの溶接された板を手に取る。
彼はそれをまじまじと見ながら、なにやら考えている。
新商品の事だろうけど。
「これって、どんなことに使えるんですか?」
「エッセ、それは外して再び組み付ける目的で使うんだ。外さないものであれば、リベットや溶接で留めればいいだろ」
中々いい例えが思い付かないな。
前世であれば、自動車で説明出来るのだけど。
自動車の部品を全て溶接やリベットで固定していたら、部品が壊れただけで、車を取り替えなければならない。
テールランプが壊れただけで、車を買い換えるなど非効率的だろう。
そのためのウェルドナットだ。
「うーん、金属の鎧や盾に付ければ、ワイヤーロープと共締めにして、持ち物の落下防止は出来そうなんだけど」
まだこの世界には早かったな。
馬車も木製が多い。
馬が牽くのに、金属だと重いからな。
まあ、そのうち使い方を考えていこう。
ウェルドナットなんて、溶接忘れや、溶接強度不足、スパッタ飛びに、六角や四角だと方向間違いと不良を挙げればきりがない。
無理して使わなくてもいいかな。
炉中ロウ付けに続いてお蔵入りだな。
エッセとホーマーは溶接されたウェルドナットを見ながらああでもない、こうでもないと議論しているので、彼らが何か思い付いたら、そのときは手伝うくらいはしよう。
そう心に誓って、ウェルドナットの普及は一度封印することにした。
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