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第113話 浸炭の心
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「冒険者ギルド本部で式典ですか」
俺はシルビア、プリオラと一緒にギルド長に呼び出されていた。
このまえフロアボス討伐を成功させたので、王都にある冒険者ギルド本部で式典が開催されるというのである。
ステラの冒険者ギルドでも式典をやったので十分じゃないかと思うのだが、どうも偉い人にはそれがわからんのですよ。
「式典まで日がなくてね、すぐにでも王都に出発してもらいたい。他の討伐隊のメンバーは既に出発しているんだ」
他の討伐隊のメンバーはフロアボス討伐という業績を引っさげて、王都で活動するつもりだったらしい。
まあ、ここで活動していると、俺が一人で倒したっていう話がいつ出るかわからないからな。
別に手柄を独り占めするつもりもないのだが。
そんなわけで、三人で乗合馬車で王都に向かった。
道中では盗賊が出たが、シルビアとプリオラの手にかかれば脅威では無かった。
俺の役割は収納ボックスだけで終わった。
「式典まで少し時間があるから、王都の店を見るわよ」
シルビアが女の子っぽいことを言うので感心してしまったが、連れていかれたのは武器と防具の店だった。
そんなことだろうとは思ったが。
「ここは王都でも一番の武器屋よ」
事前に下調べをしていたプリオラが案内してくれる。
店に入ると怒鳴り声が聞こえた。
「ちぇっ!何だいその剣の持ち方はッ!!それじゃあ折角の剣が台無しだよ!!」
「いや、どうも指が滑ってな」
「けっ、このうすのろが!!俺の剣は芸術品なんだよッ、それを台無しにしやがって!!」
「すまんすまん、気を付けるよ」
「いやまったく、おやじの剣は芸術品だな」
なんか感じ悪いな。
どなているのは店の店主か。
「こっちはバスタードソードだったね」
「ああ、いいやつを頼むよ」
「ええい、てめぇらに売る剣はねえ、帰れ」
「ええ!?」
「うちのは王国一の剣だ。どれをとったって酷いものはひとつもねぇ!!それをろくに切れ味もわからないくせしていいやつをだとッ!!なま言うんじゃねえ、とっとと出ていきやがれ!!」
今度もまただ。
「こっち何にする」
「ショートソード」
俺は答えた。
「そっちは?」
「あたし?ああ……ええと何にしようかな……」
プリオラが答えに詰まった。
「けっ、自分が何を買いたいのかわかんねえのかよ。貧乏人の小娘はこれだから嫌んになる」
「あの……あたし」
「へっ、しょうがねえなあおたくは……うちみたいな一流の店は無理だよ。露店か何かで売ってる剣でも買ってな」
そこへシルビアが助け舟を出した。
「おいおいオヤジ、いい加減にしてやれよ」
「いいや、このおやじの言う通りだ。露店の剣を買えよ」
「ひどいわ!アルトまで……」
「こんな店の剣より、露店の剣の方がよっぽど使えるぜ」
俺がそういうと、店主が顔色を変えた。
「な、何をォ!?」
「確かに鉄も最高、炭素も最高、だがおやじ、肝心のお前の腕が最低だ。折角の鉄も炭素も泣いてらあ」
「やろう!!このコレオスの腕にケチをつける気かッ!!」
「王都ってなあ不思議なところだよな。客のくせにぺこぺこするのがいるから馬鹿な鍛冶師が付け上がるんだ」
「ぶっ殺されてえのかい!!この店は王国一と折り紙つけられてるんだ!!客も騎士団や冒険者の上位等級ばかりよ!!それをてめえみたいな青二才がッ!!」
「出来の違いをお前の目に見せてやろう」
「め……眼にだと!?」
俺は店のショートソードを折る。
そして折れた刃の断面を、マクロ試験スキルで作り出したエッチング液に浸した。
しばらく時間が経過した後に、液から刃を引き上げる。
浸炭で炭素が入ったところの色が変わるのだが、外側がほんのりと色が変わっている程度である。
「見ろ、お前のショートソードは表面からわずか5μmしか焼きが入っていない。表面が欠けたらとたんに脆い部分が露出するんだ。硬さが売りのソードとしては失格だよ」
「あっ」
どうやらコレオスも気が付いたらしい。
浸炭焼入れの場合有効硬化層深さと全硬化層深さというのがあって、深さが浅いと表面付近しか硬さが得られていないということになる。
摩耗したり、欠けたりしたら当然柔らかい部分が露出してくる。
5μはいくらなんでも浅すぎだろう。
だからこそ、露店で買ったほうがましだといったのだ。
設備の整っていないこの世界で浸炭焼入れをするのは手間だったのだろう。
慢心から、品質が崩れてしまったのだ。
「剣っていうのは鉄と鉄の間に適度な炭素が入っていないと焼き入れしたときに硬くならない。鉄と炭素が上手く溶け合わないのさ。これでわかったかい、お前の剣のできの悪さが!!」
俺の指摘にコレオスはぐうの音もでなかった。
さて、あとは俺が競馬場に行くときにプリオラがショートソードを渡してくれたらハッピーエンドだな。
この前は30点だなんて捨て台詞をはいてごめんね。
※作者の独り言
元ネタに近づけようとしたらこんな結果に。
焼入れを職人の経験でやっていた時代って大量生産には向かないですよね。
溶接以上にばらつきの管理をできないと思います。
俺はシルビア、プリオラと一緒にギルド長に呼び出されていた。
このまえフロアボス討伐を成功させたので、王都にある冒険者ギルド本部で式典が開催されるというのである。
ステラの冒険者ギルドでも式典をやったので十分じゃないかと思うのだが、どうも偉い人にはそれがわからんのですよ。
「式典まで日がなくてね、すぐにでも王都に出発してもらいたい。他の討伐隊のメンバーは既に出発しているんだ」
他の討伐隊のメンバーはフロアボス討伐という業績を引っさげて、王都で活動するつもりだったらしい。
まあ、ここで活動していると、俺が一人で倒したっていう話がいつ出るかわからないからな。
別に手柄を独り占めするつもりもないのだが。
そんなわけで、三人で乗合馬車で王都に向かった。
道中では盗賊が出たが、シルビアとプリオラの手にかかれば脅威では無かった。
俺の役割は収納ボックスだけで終わった。
「式典まで少し時間があるから、王都の店を見るわよ」
シルビアが女の子っぽいことを言うので感心してしまったが、連れていかれたのは武器と防具の店だった。
そんなことだろうとは思ったが。
「ここは王都でも一番の武器屋よ」
事前に下調べをしていたプリオラが案内してくれる。
店に入ると怒鳴り声が聞こえた。
「ちぇっ!何だいその剣の持ち方はッ!!それじゃあ折角の剣が台無しだよ!!」
「いや、どうも指が滑ってな」
「けっ、このうすのろが!!俺の剣は芸術品なんだよッ、それを台無しにしやがって!!」
「すまんすまん、気を付けるよ」
「いやまったく、おやじの剣は芸術品だな」
なんか感じ悪いな。
どなているのは店の店主か。
「こっちはバスタードソードだったね」
「ああ、いいやつを頼むよ」
「ええい、てめぇらに売る剣はねえ、帰れ」
「ええ!?」
「うちのは王国一の剣だ。どれをとったって酷いものはひとつもねぇ!!それをろくに切れ味もわからないくせしていいやつをだとッ!!なま言うんじゃねえ、とっとと出ていきやがれ!!」
今度もまただ。
「こっち何にする」
「ショートソード」
俺は答えた。
「そっちは?」
「あたし?ああ……ええと何にしようかな……」
プリオラが答えに詰まった。
「けっ、自分が何を買いたいのかわかんねえのかよ。貧乏人の小娘はこれだから嫌んになる」
「あの……あたし」
「へっ、しょうがねえなあおたくは……うちみたいな一流の店は無理だよ。露店か何かで売ってる剣でも買ってな」
そこへシルビアが助け舟を出した。
「おいおいオヤジ、いい加減にしてやれよ」
「いいや、このおやじの言う通りだ。露店の剣を買えよ」
「ひどいわ!アルトまで……」
「こんな店の剣より、露店の剣の方がよっぽど使えるぜ」
俺がそういうと、店主が顔色を変えた。
「な、何をォ!?」
「確かに鉄も最高、炭素も最高、だがおやじ、肝心のお前の腕が最低だ。折角の鉄も炭素も泣いてらあ」
「やろう!!このコレオスの腕にケチをつける気かッ!!」
「王都ってなあ不思議なところだよな。客のくせにぺこぺこするのがいるから馬鹿な鍛冶師が付け上がるんだ」
「ぶっ殺されてえのかい!!この店は王国一と折り紙つけられてるんだ!!客も騎士団や冒険者の上位等級ばかりよ!!それをてめえみたいな青二才がッ!!」
「出来の違いをお前の目に見せてやろう」
「め……眼にだと!?」
俺は店のショートソードを折る。
そして折れた刃の断面を、マクロ試験スキルで作り出したエッチング液に浸した。
しばらく時間が経過した後に、液から刃を引き上げる。
浸炭で炭素が入ったところの色が変わるのだが、外側がほんのりと色が変わっている程度である。
「見ろ、お前のショートソードは表面からわずか5μmしか焼きが入っていない。表面が欠けたらとたんに脆い部分が露出するんだ。硬さが売りのソードとしては失格だよ」
「あっ」
どうやらコレオスも気が付いたらしい。
浸炭焼入れの場合有効硬化層深さと全硬化層深さというのがあって、深さが浅いと表面付近しか硬さが得られていないということになる。
摩耗したり、欠けたりしたら当然柔らかい部分が露出してくる。
5μはいくらなんでも浅すぎだろう。
だからこそ、露店で買ったほうがましだといったのだ。
設備の整っていないこの世界で浸炭焼入れをするのは手間だったのだろう。
慢心から、品質が崩れてしまったのだ。
「剣っていうのは鉄と鉄の間に適度な炭素が入っていないと焼き入れしたときに硬くならない。鉄と炭素が上手く溶け合わないのさ。これでわかったかい、お前の剣のできの悪さが!!」
俺の指摘にコレオスはぐうの音もでなかった。
さて、あとは俺が競馬場に行くときにプリオラがショートソードを渡してくれたらハッピーエンドだな。
この前は30点だなんて捨て台詞をはいてごめんね。
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