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第114話 油型油?
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冒険者ギルド本部での式典は無事に終わった。
木等級の俺が一緒にいたので会場が少しざわついたが、冒険者ギルド職員として随行しただけということでみんな納得してくれた。
フロアボス討伐で誰一人怪我も死亡も無かったのは、エチュードの指揮と冒険者パーティーの実力のお陰ということになっている。
実際はちょこちょこ怪我もしていたが、癒し手と俺の魔法で帰還時に怪我が無くなっていたのではあるが。
どうも大きな式典というのは苦手なので、早々に退散させてもらう。
思えば品質ミーティングで表彰されたりとか、とてもつらい思い出だな。
集まったサプライヤーの前で表彰されるのは恥ずかしかった。
重点管理メーカーとして改善事例を発表させられた時はもっと恥ずかしかったけどな。
そんなわけで、シルビアとプリオラと一緒に、お土産を見て回る。
「あ、ここちょっと入りたいんだけど」
俺が気になったのは小さな工房だった。
店の外からは金属製のグラスが見えている。
それはへら絞りで作ったグラスだった。
「いらっしゃい」
店に入るとカウンターに男のドワーフがいる。
いつもながら外見で年齢はわからない。
「あ、アルトさんじゃないですか」
「誰だっけ?」
「忘れたんですか!」
向こうは俺の事を知っているみたいだったが、俺には全く記憶がない。
「エッセさんの弟子のグランタですよ。あの工房で修業していた」
「あー、思い出したよ」
と適当にあわせたが、全く記憶にない。
「あんた、絶対思い出してないでしょ」
「そうよね」
シルビアとプリオラに見抜かれた。
勘がいいな。
「独立して王都で工房をつくったんですよ」
「そうか、どうりでへら絞りの製品が沢山置いてあるわけだ」
そうだ、へら絞りの製品はエッセの工房で作られている為、運搬コストがかかる王都には少ししか持ち込まれていない。
それも、高価なものになるので、貴族や大商人達が所有するだけだ。
ところが、ここには沢山の製品が置いてある。
「ちょっと見せてもらってもいいかな」
「どうぞどうぞ」
俺は店内の商品を見る。
客としてというよりは、品質管理の目でだけど。
「うーん」
「どうですか?」
「ちょっと製品のばらつきが大きいな」
「わかりますか」
「そうやって言うってことは自分でも気が付いていたってことだよな」
「はい」
同じ金型で作った製品なのだが、出来栄えが違う。
それでも並べて使わなければ気づかれないだろう。
しかし、こうやって店に並べてしまうと、その違いは一目瞭然だ。
「ほら、こうすると光の反射が違うだろ」
「あら本当ね」
「こうすると違いがわかるわね」
俺はシルビアとプリオラに寸法が微妙に違う二つの商品を見せた。
二人とも違いに気が付く。
光の反射が違うのは勿論寸法が違うからである。
「買う人たちは気が付いていませんけど、作っている自分が気づいているのが嫌なんですよ。なんとかなりませんかね」
「なんとかと言われてもね。まずは作っているところを見せてもらおうか」
うん、三現主義だね。
そんなわけで、店は臨時休業にして奥の工房でへら絞りを見せてもらう。
工作機械と金型はデボネアに注文したというので、そちらは間違いないだろう。
一応見てみたが、問題は見当たらなかった。
各部位の緩みでばらついているわけではなさそうだな。
芯もきちんと出ている。
「じゃあ、作って見せて」
そうお願いすると、グランタは金型と材料を機械にセットした。
そして金型に油をハケで塗る。
その後銅板を絞っていくが問題はない。
二個目を作ろうと、再びハケで油を塗った時に俺は気が付いた。
「それだな」
「これですか?」
ハケを指さすと、グランタが不思議そうにする。
「油はコーティングの役目をするんだ。金型と材料の間にある油の形状も製品に影響するんだよ。最初と次に油を塗布しようとしたときに、ハケについている油の量がちがったろう」
「そんなことが……」
エッセもそこまでは教えていなかったのか。
現代であれば油の塗布は定量的に行うことが出来る。
しかし、ここでは手塗りしかない。
気を遣わなければ、油の塗布量なんて簡単に変化してしまう。
それが製品の出来栄えの差となったわけだ。
「どうしたらいいんですか」
そう言われてもねえ。
俺が前世で行った対策は滴下への変更だったのだが、ここではそれは出来ない。
結局は職人の経験で同じ塗布量にするしかない。
まあ、気温で油の硬さも変わるから、季節に応じてそこも変えないといけないんだけど。
「ハケをあまり油の容器に浸しすぎないようにした方がいいね」
とはアドバイスをしておいた。
スポンジでもあれば、スポンジを油に浸しておき、その上にハケを置くくらいで丁度いい。
つけすぎてもいかんのよ。
という訳で、ハケが油の容器に入りすぎないよう、中につっかえ棒を入れておいた。
後は本人の頑張り次第で、同じ程度の塗布量とできるようになるだろう。
期待しているぞ。
「ありがとうございます。ところで……」
「なんだい?」
グランタが強請るような視線を向けてくる。
「私もステンレスの材料が欲しいのですけど……」
「エッセの弟子だしなぁ。でも他の材料と条件が違うから、条件出しが難しいぞ」
「そこは努力します」
そう頼まれてしまったので、ステンレスの板をスキルで作って渡した。
「ここに100枚材料がある。それで納得がいくものが出来たらステラまで持ってくるんだ。良ければ継続して材料を供給するよ」
「わかりました。俺、アルトさんに認められるような作品が出来たら、彼女にプロポーズするんだ」
重い。
そんな重い話を持ってこないでください。
なんでフラグを立てようとするんだ。
ひとまず弟子の成長をエッセに見せようと、銅でできたグラスを一つ購入して店を出た。
※作者の独り言
加工油の塗布量で製品の寸法が変化します。
食器なら別に問題はないかもしれませんが、嵌合させる製品の場合、漏れにつながったりするので、塗布量の管理は必須ですよね。
といいつつも、はけ塗りしている会社もまだまだあったりしますけど。
木等級の俺が一緒にいたので会場が少しざわついたが、冒険者ギルド職員として随行しただけということでみんな納得してくれた。
フロアボス討伐で誰一人怪我も死亡も無かったのは、エチュードの指揮と冒険者パーティーの実力のお陰ということになっている。
実際はちょこちょこ怪我もしていたが、癒し手と俺の魔法で帰還時に怪我が無くなっていたのではあるが。
どうも大きな式典というのは苦手なので、早々に退散させてもらう。
思えば品質ミーティングで表彰されたりとか、とてもつらい思い出だな。
集まったサプライヤーの前で表彰されるのは恥ずかしかった。
重点管理メーカーとして改善事例を発表させられた時はもっと恥ずかしかったけどな。
そんなわけで、シルビアとプリオラと一緒に、お土産を見て回る。
「あ、ここちょっと入りたいんだけど」
俺が気になったのは小さな工房だった。
店の外からは金属製のグラスが見えている。
それはへら絞りで作ったグラスだった。
「いらっしゃい」
店に入るとカウンターに男のドワーフがいる。
いつもながら外見で年齢はわからない。
「あ、アルトさんじゃないですか」
「誰だっけ?」
「忘れたんですか!」
向こうは俺の事を知っているみたいだったが、俺には全く記憶がない。
「エッセさんの弟子のグランタですよ。あの工房で修業していた」
「あー、思い出したよ」
と適当にあわせたが、全く記憶にない。
「あんた、絶対思い出してないでしょ」
「そうよね」
シルビアとプリオラに見抜かれた。
勘がいいな。
「独立して王都で工房をつくったんですよ」
「そうか、どうりでへら絞りの製品が沢山置いてあるわけだ」
そうだ、へら絞りの製品はエッセの工房で作られている為、運搬コストがかかる王都には少ししか持ち込まれていない。
それも、高価なものになるので、貴族や大商人達が所有するだけだ。
ところが、ここには沢山の製品が置いてある。
「ちょっと見せてもらってもいいかな」
「どうぞどうぞ」
俺は店内の商品を見る。
客としてというよりは、品質管理の目でだけど。
「うーん」
「どうですか?」
「ちょっと製品のばらつきが大きいな」
「わかりますか」
「そうやって言うってことは自分でも気が付いていたってことだよな」
「はい」
同じ金型で作った製品なのだが、出来栄えが違う。
それでも並べて使わなければ気づかれないだろう。
しかし、こうやって店に並べてしまうと、その違いは一目瞭然だ。
「ほら、こうすると光の反射が違うだろ」
「あら本当ね」
「こうすると違いがわかるわね」
俺はシルビアとプリオラに寸法が微妙に違う二つの商品を見せた。
二人とも違いに気が付く。
光の反射が違うのは勿論寸法が違うからである。
「買う人たちは気が付いていませんけど、作っている自分が気づいているのが嫌なんですよ。なんとかなりませんかね」
「なんとかと言われてもね。まずは作っているところを見せてもらおうか」
うん、三現主義だね。
そんなわけで、店は臨時休業にして奥の工房でへら絞りを見せてもらう。
工作機械と金型はデボネアに注文したというので、そちらは間違いないだろう。
一応見てみたが、問題は見当たらなかった。
各部位の緩みでばらついているわけではなさそうだな。
芯もきちんと出ている。
「じゃあ、作って見せて」
そうお願いすると、グランタは金型と材料を機械にセットした。
そして金型に油をハケで塗る。
その後銅板を絞っていくが問題はない。
二個目を作ろうと、再びハケで油を塗った時に俺は気が付いた。
「それだな」
「これですか?」
ハケを指さすと、グランタが不思議そうにする。
「油はコーティングの役目をするんだ。金型と材料の間にある油の形状も製品に影響するんだよ。最初と次に油を塗布しようとしたときに、ハケについている油の量がちがったろう」
「そんなことが……」
エッセもそこまでは教えていなかったのか。
現代であれば油の塗布は定量的に行うことが出来る。
しかし、ここでは手塗りしかない。
気を遣わなければ、油の塗布量なんて簡単に変化してしまう。
それが製品の出来栄えの差となったわけだ。
「どうしたらいいんですか」
そう言われてもねえ。
俺が前世で行った対策は滴下への変更だったのだが、ここではそれは出来ない。
結局は職人の経験で同じ塗布量にするしかない。
まあ、気温で油の硬さも変わるから、季節に応じてそこも変えないといけないんだけど。
「ハケをあまり油の容器に浸しすぎないようにした方がいいね」
とはアドバイスをしておいた。
スポンジでもあれば、スポンジを油に浸しておき、その上にハケを置くくらいで丁度いい。
つけすぎてもいかんのよ。
という訳で、ハケが油の容器に入りすぎないよう、中につっかえ棒を入れておいた。
後は本人の頑張り次第で、同じ程度の塗布量とできるようになるだろう。
期待しているぞ。
「ありがとうございます。ところで……」
「なんだい?」
グランタが強請るような視線を向けてくる。
「私もステンレスの材料が欲しいのですけど……」
「エッセの弟子だしなぁ。でも他の材料と条件が違うから、条件出しが難しいぞ」
「そこは努力します」
そう頼まれてしまったので、ステンレスの板をスキルで作って渡した。
「ここに100枚材料がある。それで納得がいくものが出来たらステラまで持ってくるんだ。良ければ継続して材料を供給するよ」
「わかりました。俺、アルトさんに認められるような作品が出来たら、彼女にプロポーズするんだ」
重い。
そんな重い話を持ってこないでください。
なんでフラグを立てようとするんだ。
ひとまず弟子の成長をエッセに見せようと、銅でできたグラスを一つ購入して店を出た。
※作者の独り言
加工油の塗布量で製品の寸法が変化します。
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