161 / 439
第160話 JIS T 8101
しおりを挟む
「足を怪我したのか」
「はい」
相談窓口にはスターレットが来ていた。
別に相談という訳ではない。
松葉づえを使っているのだが、ここまで歩いてくるのは大変だったろう。
用事がないならおとなしくしていればいいのに。
「でもどうして」
そう訊いたら
「シールドを握っていた手が滑って、足の上に落としちゃったんですよ。ドジですよね」
スターレットは恥ずかしそうに笑う。
まあよくあることだ。
バイスクランプを足の上に落としたことがあるが、あの時は焦ったな。
安全靴があったから助かったけど。
「さて、今日は暇だし、ティーノの店にでも行こうか。どうせ稼ぎがないんだろう。おごってやるよ」
「わー、ありがとう」
仕事もないので、スターレットと一緒にティーノの店に向かう。
昼間なので、人通りはかなり多い。
俺は辺りを見回しながら、人目につかないところを探していく。
「あの辺なら人目につかないかな」
思わず考えていたことが口に出てしまった。
「何、こんな昼間から私を襲うつもり?」
「誰がそんなことするか。人聞きの悪い」
俺は人目につきにくい建物の裏手にスターレットを連れていき、素早くヒールの呪文を唱える。
「どうだ、治ったろう」
「そうね。もう痛くないわ」
スターレットは包帯の巻いてある足で地面を何度も踏む。
どうやら完全に治ったようだな。
「冒険者ギルドの職員が、冒険者のけがを無償で治療しているなんて噂が広まったら面倒だから、このことは内緒だぞ」
「わかったわ」
スターレットは周囲を見回して、誰も見ていないことを確認してから頷いた。
その後ティーノの店で食事をして別れた。
冒険者ギルドに戻ると、そこにはグレイスとオッティがいた。
二人は俺を待っていたらしい。
「どこに行っていたのよ」
「食事に……」
「そう、まあいいわ。今からティーノの店に行くわよ。そこで相談に乗ってもらいたいの」
「ここじゃダメか?」
さっきまでその店にいたのに、また行くことになるのは勘弁だ。
だが、グレイスは問答無用で俺の手を引っ張て行く。
諦めてもう一度ティーノの店で食事をすることにした。
そこでの相談というのが
「何か新しい商品を売り出したいのよね。画期的な商品はないかしら」
そんな期待の目で見られても、俺がそんなものを考え付くわけがないだろう。
リンスとかマヨネーズなんていうのは、異世界転生の定番アイテムだから思いついたが、そんなものがホイホイ出てくるわけがない。
人工真珠を作るというのもあるが、養殖真珠よりも簡単だよな。
材料さえあれば……
成分は一緒だから、偽物というわけでもないし。
それに海がないところでもできる。
いや、真珠も淡水貝でもできるらしいが。
「真珠はキープね」
グレイスは皮紙にメモをしている。
「パールノギスはないから、寸法測定時に傷つけちゃうけどな」
「なによそれ」
「ノギスにも種類が色々あるんだよ。ダンチノギス、ピッチノギス、デプスノギス、ホースカシメノギス、インサイド、アウトサイド、それにジュエリー。宝石測定用のノギスは別物だ」
そう、ノギスには様々な種類があり、目的に応じて形状が違うのだ。
詳しくはググレカス。
というか、このスキルツリーを考えた神様、どんな基準でスキルを設定しているんだよ。
「説明を聞くのが面倒だからいいわ」
興味なさそうにグレイスは目を背ける。
測定器具についてもっと長々と語りたかったのに残念だ。
「他には――」
そう言いかけて、先ほどのスターレットの足のけがを思い出した。
「安全靴を作って売ろう」
「安全靴か。いいな」
オッティは賛成してくれる。
グレイスは安全靴がわからないのか、頭の上にはてなマークを浮かべている。
「安全靴っていうのは、靴のつま先部分に鉄などの先芯がある靴のことだ。JISで規格が決められているぞ」
「ああ、それならなんとなくわかるわ。JIS規格は知らないけど」
うん、俺も細かい規格は知らない。
ググります。
異世界だけど。
「しかしなあ……」
オッティが顔をしかめた。
何かあるのか?
「どうした?」
「ほら、S班長っていたじゃん」
「ああ、いたいた。元珍走団とか自慢している痛い人だったよな」
「あの人、『安全靴は人を蹴るのに最適。鉄が入っているから相手は痛がるし、自分は痛くない』っていつも言ってたんだよ」
安全靴は安全に他人を攻撃するためのものではありません。
その後、革のブーツやサンダルに先芯をつけたものを試作し、ある程度のサイズを売り出した。
売れ行きはそんなに良くないみたいだが、知名度が上がればもっと売れるんじゃないかな。
後日、グレイスから届いた安全靴をスターレットに渡す。
「これが前に言ってた、鉄が入っている靴ですか」
スターレットが手に取ってしげしげと眺める。
「ちょっと重いですね」
「鉄が入っているからな。耐久性試験は万全だ。鉄のラージシールドでも落とさない限りは、潰れることもないぞ」
「ありがとう。これで何度盾を足の上に落としても大丈夫ですね」
微笑むスターレットに、それは違うだろと心の中でつっこんだ。
※作者の独り言
タイトルは安全靴のJIS規格の番号です。
「はい」
相談窓口にはスターレットが来ていた。
別に相談という訳ではない。
松葉づえを使っているのだが、ここまで歩いてくるのは大変だったろう。
用事がないならおとなしくしていればいいのに。
「でもどうして」
そう訊いたら
「シールドを握っていた手が滑って、足の上に落としちゃったんですよ。ドジですよね」
スターレットは恥ずかしそうに笑う。
まあよくあることだ。
バイスクランプを足の上に落としたことがあるが、あの時は焦ったな。
安全靴があったから助かったけど。
「さて、今日は暇だし、ティーノの店にでも行こうか。どうせ稼ぎがないんだろう。おごってやるよ」
「わー、ありがとう」
仕事もないので、スターレットと一緒にティーノの店に向かう。
昼間なので、人通りはかなり多い。
俺は辺りを見回しながら、人目につかないところを探していく。
「あの辺なら人目につかないかな」
思わず考えていたことが口に出てしまった。
「何、こんな昼間から私を襲うつもり?」
「誰がそんなことするか。人聞きの悪い」
俺は人目につきにくい建物の裏手にスターレットを連れていき、素早くヒールの呪文を唱える。
「どうだ、治ったろう」
「そうね。もう痛くないわ」
スターレットは包帯の巻いてある足で地面を何度も踏む。
どうやら完全に治ったようだな。
「冒険者ギルドの職員が、冒険者のけがを無償で治療しているなんて噂が広まったら面倒だから、このことは内緒だぞ」
「わかったわ」
スターレットは周囲を見回して、誰も見ていないことを確認してから頷いた。
その後ティーノの店で食事をして別れた。
冒険者ギルドに戻ると、そこにはグレイスとオッティがいた。
二人は俺を待っていたらしい。
「どこに行っていたのよ」
「食事に……」
「そう、まあいいわ。今からティーノの店に行くわよ。そこで相談に乗ってもらいたいの」
「ここじゃダメか?」
さっきまでその店にいたのに、また行くことになるのは勘弁だ。
だが、グレイスは問答無用で俺の手を引っ張て行く。
諦めてもう一度ティーノの店で食事をすることにした。
そこでの相談というのが
「何か新しい商品を売り出したいのよね。画期的な商品はないかしら」
そんな期待の目で見られても、俺がそんなものを考え付くわけがないだろう。
リンスとかマヨネーズなんていうのは、異世界転生の定番アイテムだから思いついたが、そんなものがホイホイ出てくるわけがない。
人工真珠を作るというのもあるが、養殖真珠よりも簡単だよな。
材料さえあれば……
成分は一緒だから、偽物というわけでもないし。
それに海がないところでもできる。
いや、真珠も淡水貝でもできるらしいが。
「真珠はキープね」
グレイスは皮紙にメモをしている。
「パールノギスはないから、寸法測定時に傷つけちゃうけどな」
「なによそれ」
「ノギスにも種類が色々あるんだよ。ダンチノギス、ピッチノギス、デプスノギス、ホースカシメノギス、インサイド、アウトサイド、それにジュエリー。宝石測定用のノギスは別物だ」
そう、ノギスには様々な種類があり、目的に応じて形状が違うのだ。
詳しくはググレカス。
というか、このスキルツリーを考えた神様、どんな基準でスキルを設定しているんだよ。
「説明を聞くのが面倒だからいいわ」
興味なさそうにグレイスは目を背ける。
測定器具についてもっと長々と語りたかったのに残念だ。
「他には――」
そう言いかけて、先ほどのスターレットの足のけがを思い出した。
「安全靴を作って売ろう」
「安全靴か。いいな」
オッティは賛成してくれる。
グレイスは安全靴がわからないのか、頭の上にはてなマークを浮かべている。
「安全靴っていうのは、靴のつま先部分に鉄などの先芯がある靴のことだ。JISで規格が決められているぞ」
「ああ、それならなんとなくわかるわ。JIS規格は知らないけど」
うん、俺も細かい規格は知らない。
ググります。
異世界だけど。
「しかしなあ……」
オッティが顔をしかめた。
何かあるのか?
「どうした?」
「ほら、S班長っていたじゃん」
「ああ、いたいた。元珍走団とか自慢している痛い人だったよな」
「あの人、『安全靴は人を蹴るのに最適。鉄が入っているから相手は痛がるし、自分は痛くない』っていつも言ってたんだよ」
安全靴は安全に他人を攻撃するためのものではありません。
その後、革のブーツやサンダルに先芯をつけたものを試作し、ある程度のサイズを売り出した。
売れ行きはそんなに良くないみたいだが、知名度が上がればもっと売れるんじゃないかな。
後日、グレイスから届いた安全靴をスターレットに渡す。
「これが前に言ってた、鉄が入っている靴ですか」
スターレットが手に取ってしげしげと眺める。
「ちょっと重いですね」
「鉄が入っているからな。耐久性試験は万全だ。鉄のラージシールドでも落とさない限りは、潰れることもないぞ」
「ありがとう。これで何度盾を足の上に落としても大丈夫ですね」
微笑むスターレットに、それは違うだろと心の中でつっこんだ。
※作者の独り言
タイトルは安全靴のJIS規格の番号です。
0
あなたにおすすめの小説
爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。
秋田ノ介
ファンタジー
88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。
異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。
その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。
飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。
完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜
シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。
起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。
その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。
絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。
役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。
転生社畜、転生先でも社畜ジョブ「書記」でブラック労働し、20年。前人未到のジョブレベルカンストからの大覚醒成り上がり!
nineyu
ファンタジー
男は絶望していた。
使い潰され、いびられ、社畜生活に疲れ、気がつけば死に場所を求めて樹海を歩いていた。
しかし、樹海の先は異世界で、転生の影響か体も若返っていた!
リスタートと思い、自由に暮らしたいと思うも、手に入れていたスキルは前世の影響らしく、気がつけば変わらない社畜生活に、、
そんな不幸な男の転機はそこから20年。
累計四十年の社畜ジョブが、遂に覚醒する!!
異世界でぼっち生活をしてたら幼女×2を拾ったので養うことにした【改稿版】
きたーの(旧名:せんせい)
ファンタジー
【毎週火木土更新】
自身のクラスが勇者召喚として呼ばれたのに乗り遅れてお亡くなりになってしまった主人公。
その瞬間を偶然にも神が見ていたことでほぼ不老不死に近い能力を貰い異世界へ!
約2万年の時を、ぼっちで過ごしていたある日、いつも通り森を闊歩していると2人の子供(幼女)に遭遇し、そこから主人公の物語が始まって行く……。
―――
当作品は過去作品の改稿版です。情景描写等を厚くしております。
なお、投稿規約に基づき既存作品に関しては非公開としておりますためご理解のほどよろしくお願いいたします。
転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜
犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中に呆然と佇んでいた。
馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出したのだ。前世、日本伝統が子供の頃から大好きで、小中高大共に伝統に関わるクラブや学部に入り、卒業後はお世話になった大学教授の秘書となり、伝統のために毎日走り回っていたが、旅先の講演の合間、教授と2人で歩道を歩いていると、暴走車が突っ込んできたので、彼女は教授を助けるも、そのまま跳ね飛ばされてしまい、死を迎えてしまう。
享年は25歳。
周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっている。
25歳の精神だからこそ、これが何を意味しているのかに気づき、ショックを受ける。
大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。
精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。
人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。
神の手違い転生。悪と理不尽と運命を無双します!
yoshikazu
ファンタジー
橘 涼太。高校1年生。突然の交通事故で命を落としてしまう。
しかしそれは神のミスによるものだった。
神は橘 涼太の魂を神界に呼び謝罪する。その時、神は橘 涼太を気に入ってしまう。
そして橘 涼太に提案をする。
『魔法と剣の世界に転生してみないか?』と。
橘 涼太は快く承諾して記憶を消されて転生先へと旅立ちミハエルとなる。
しかし神は転生先のステータスの平均設定を勘違いして気付いた時には100倍の設定になっていた。
さらにミハエルは〈光の加護〉を受けておりステータスが合わせて1000倍になりスキルも数と質がパワーアップしていたのだ。
これは神の手違いでミハエルがとてつもないステータスとスキルを提げて世の中の悪と理不尽と運命に立ち向かう物語である。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる