冒険者ギルド品質管理部 ~生まれ変わっても品管だけは嫌だと言ったのに~

犬野純

文字の大きさ
325 / 439

第324話 応力は応用力とは違うんやで

しおりを挟む
この前読んだ異世界系の小説ですが、怪力を持ったキャラクターが焼きの入った硬い剣を、握力で曲げる描写がありましたが、硬い剣は靭性が無いから折れるんじゃないかと思いました。
まあ、それすらも超越した力なのかも知れませんが。
それでは本編いってみましょう。


「まったく、どうして魔法使いっていうのはあんなに体力がないのかしらね」

 俺の目の前でプリプリ怒っているのはシルビアだ。
 訳を訊いたところ、最近魔法使いや魔術師の新人が多くて、彼等を教育をしているのだが、基礎体力が低すぎて中々進まない事に腹を立てているとか。
 適性考えたらそうだよね。
 間接部門の現場応援って言っても、普段体を動かしていない社員は、4時間(休憩時間除く)の業務ですら辛いからな。
 因みに、とある家電メーカーは経営が傾いた時に、完成車両メーカーに社員を派遣したのだが、ほぼ全員が業務に耐えられないと言ってたとか聞いたことがある。
 フロントガラス組み付け工程とか大変そうですね。
 他の工程はよく知りませんけど。
 僕がやるなら、工場内を自転車で走る係がいいです。
 走るだけで仕事はしませんけど。
 話がそれました。

「それにしても、どういう訳かそういうジョブの新人が増えたよね」

 俺が言うと、シルビアが呆れた顔でこちらを見た。

「何?」

「あんた理由を知らないの?」

 再び呆れ顔のシルビア。

「知らないよ」

「あんたの友達が部屋の温度を快適にするやつ売っているから、いままで貴族に雇われていた炎や氷の魔法の使い手が失業しているのよ」

「あー」

 エアコンの売れ行きが良いのはいいことだが、そのせいで既存の職業の立場が奪われているわけか。
 昔はコピー技師なんてのもありましたね。
 そういえば、第三話でコピー技師じゃなくて良かったとか言った気もするが、転生前でもコピー技師じゃなくてよかったな。
 その流れで行くと、今後は自動運転の技術が確立すると、タクシードライバーなんかも失業しちゃいますね。
 「みんな無職になっちゃうの?」、「それがサダメならね」って感じですか?
 どこの谷だかわかりませんが、僕は鶯谷がいいです。
 ちょっと暗い話になったので、ここでこの話題を打ち切った。

 シルビアはまた訓練所に戻っていき、俺は暇になったのでコーヒーを飲んで時間を潰す。
 すると、今度はホーマーとシャレードが相談にやってきた。
 なんでも、新商品を開発しているのだが、寸法不良が出てしまい、うまくいかないのだとか。
 それは品質管理じゃなくて、生産技術案件じゃないのかと言ったが、オッティに相談すると金がかかるうえに、アイデアを持っていかれる可能性があるから駄目なんだとか。
 確かに、オッティにアイデアを相談したら、こちらよりもはるかにいい物を作りそうだよな。
 スキルがチートなんだから。

「で、どんな不具合が出ているんだ?」

 俺がホーマーに訊ねると、

「パイプの端部をフォーミング加工して、反対側を溶接してから、フォーミングした側の組み付けをしようとしたら嵌合できなかったんです」

 と答えた。
 フォーミング加工とは線材や板材の塑性加工のことであるが、管材でもフォーミング加工をしている。

「まずは現物を見てみたいんだけど」

「それじゃあ工房に移動しましょう」

 そんなわけで、三人で工房に移動する。
 そこで見せられた試作品は雨どいだった。
 漏斗のように広げた端部のすぐ近くに別のパイプがL字に溶接してある。
 そいつに蓋をつけたいそうなのだが、その蓋がどうしても嵌らないのだ。
 蓋の目的は落ち葉避けである。

「家の壁にとって雨水は大敵だからな。屋根から垂らすのではなくて、一か所に集めて地面に流したい」

 とシャレードが説明してくれた。
 なんでも、大陸の東方にある国で商人が見かけたのだという。
 まあ、こんなものは瓦屋根がないと発達しないだろうな。
 最近の日本の住宅でも、雨どい無いのもあるし。
 あれだと、雨水が壁に湿気を与えるからよくないんだけどね。
 その辺は素材でカバーできているのかな?
 おっと、前世の住宅についてはまあいいか。

「あー、蓋に対して雨どいの方が歪んでいるな」

 渡された現物は測定するまでも無く歪んでいる。
 蓋に対してのクリアランスが無さ過ぎるってのもあるのだろうな。
 少しの変形があると、こうして嵌めあいに問題がでるのだから。

「クリアランスが無さ過ぎだよ」

 俺の指摘に対して、ホーマーは少し怒ったような表情になる。

「ドワーフなら、これくらいのクリアランスで十分だと思ったんですよね。それに溶接前に確認するとキチンとはまっていますから」

「溶接前は嵌るの?」

「はい」

 だとすると、溶接の熱で残留応力が除去されて、寸法に変化があったのかな。
 樹脂成形だとアニール処理なんて言われたりもするが、残留応力のある製品に熱を加えると寸法が変化する。
 特に加工部位なんかだと顕著だ。
 水分を除去する乾燥炉に入れただけで、かなり寸法が変化するものもあるしな。
 というか、それで問題になった事がある。
 図面寸法から逸脱していると言われたが、どんなに検査をしても不良は見つからない。
 それなのに、客先ではほぼ全てが寸法不良になっているのだ。
 後工程を確認したら、弊社の製品に熱が加わる工程があり、そこで変形が発生していたのである。
 そんなもん、こちらとしてはわかりようもないですがな。
 こちらとしては、客先での受け入れ時に図面スペックを満足しているので、勿論なんの対応もしませんでしたよ。
 というか、なんで試作時にその不具合が出なかったのか不思議ですね。
 似たような話は、当然自社でもあって、工程の流れをぶったぎって、途中に熱処理を入れて対応してます。
 多分見積り間違って、利益は出ていないと思うんだけど、不良品を納品するわけにはいかないから、仕方のない事ですよね。
 前世の話だから、今どうなったかはわかりません。

「一度熱を加えて、残留応力を除去してから仕上げをすればいいかな」

 そこで閃く。

「熱処理用に魔法使いを雇わないか?」

 熱処理のための温度管理をするのに、そんな便利な設備が無いので、どうしても感覚によるものでしか出来ないが、仕事がない魔法使いが世の中に余っているので、熱処理の仕事を与えたらいいんじゃないだろうか。
 温度計と時間のわかるタイマーは必要だけど。
 むしろ、その辺もスキルで何とかならないものか。
 賢者の学院でマジックアイテムとして作ってくれてもいいけどね。

「熱処理か、確かに他のドワーフと違って、溶接工ってジョブだと焼き入れなんかもスキルがないんだよね。ただ、自分だけの稼ぎだと無理かな」

「そこは他の工房からも仕事を受ければいいさ。熱処理は種類が多いからな。素材の焼鈍をしてもいいし」

 そう提案してみる。
 まあ、俺のスキルなら焼鈍材を作るのも可能なのだが、一般の工房向けに材料は作ってないからな。
 需要を掘り起こすことが出来るかもしれないぞ。

「それが出来るなら、雇ってみようかな」

「人の手配は任せてくれ。あとは、熱処理の条件も確認しておく」

 まあ、ネットスーパーもどきのスキルで、電気炉購入も出来るから、それに熱処理のプログラム組んでもいいんだけどね。
 それだと失業対策にならないからやらないだけで。
 蛍光エックス線分析機といい、誰がそんなもんネット通販で買うんだよと思うんだけど、需要あるんだろうな。

 そうして、シルビアから魔法使いを紹介してもらい、熱処理の仕事を始めることになった。
 それについては、またの機会で。


※作者の独り言
溶接の熱で応力に変化がというのは経験ありませんが、話の都合でそうしました。
炉中ロウ付けにしたかったけど、そんなシチュエーションが思い浮かばなかったので。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

転生社畜、転生先でも社畜ジョブ「書記」でブラック労働し、20年。前人未到のジョブレベルカンストからの大覚醒成り上がり!

nineyu
ファンタジー
 男は絶望していた。  使い潰され、いびられ、社畜生活に疲れ、気がつけば死に場所を求めて樹海を歩いていた。  しかし、樹海の先は異世界で、転生の影響か体も若返っていた!  リスタートと思い、自由に暮らしたいと思うも、手に入れていたスキルは前世の影響らしく、気がつけば変わらない社畜生活に、、  そんな不幸な男の転機はそこから20年。  累計四十年の社畜ジョブが、遂に覚醒する!!

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中に呆然と佇んでいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出したのだ。前世、日本伝統が子供の頃から大好きで、小中高大共に伝統に関わるクラブや学部に入り、卒業後はお世話になった大学教授の秘書となり、伝統のために毎日走り回っていたが、旅先の講演の合間、教授と2人で歩道を歩いていると、暴走車が突っ込んできたので、彼女は教授を助けるも、そのまま跳ね飛ばされてしまい、死を迎えてしまう。 享年は25歳。 周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっている。 25歳の精神だからこそ、これが何を意味しているのかに気づき、ショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

異世界でぼっち生活をしてたら幼女×2を拾ったので養うことにした【改稿版】

きたーの(旧名:せんせい)
ファンタジー
【毎週火木土更新】 自身のクラスが勇者召喚として呼ばれたのに乗り遅れてお亡くなりになってしまった主人公。 その瞬間を偶然にも神が見ていたことでほぼ不老不死に近い能力を貰い異世界へ! 約2万年の時を、ぼっちで過ごしていたある日、いつも通り森を闊歩していると2人の子供(幼女)に遭遇し、そこから主人公の物語が始まって行く……。 ――― 当作品は過去作品の改稿版です。情景描写等を厚くしております。 なお、投稿規約に基づき既存作品に関しては非公開としておりますためご理解のほどよろしくお願いいたします。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

処理中です...