冒険者ギルド品質管理部 ~生まれ変わっても品管だけは嫌だと言ったのに~

犬野純

文字の大きさ
334 / 439

第333話 転造タップ

しおりを挟む
「表面に傷がついちゃうんだけど、どうしたらいいかな?」

 エッセが俺のところにアルミ合金の丸棒を持ってきた。
 俺はそれを受け取り、傷がある個所を見る。
 端部に袋穴があいており、その内部にはネジがきってある。
 そして、端面には傷があった。
 傷の程度はRmax20.37だ。
 凹凸が0.02ミリ程度だと思って欲しい。
 Rzの方がよかったですか?
 誰に聞いているかわからないけど。

「キリコが原因か」

「うん」

 俺の言葉にエッセが頷いた。
 アルミ合金は粘るので、硬い材料に比べてキリコが繋がってしまいやすい。
 その結果、刃具に長いキリコが巻き付いて材料に傷をつけてしまうことがあるのだ。
 0.02ミリの凹凸など、使用上は問題ないことが多いのだが、仕上がり具合としては非常にまずい。
 アルミ合金に当たった光が乱反射して、見た目が非常に悪いのだ。

「加工条件を変更しても、同じような傷がでちゃってどうしたらいいのかわからなくなったんだ」

「なるほどな」

 キリコが出るのが問題なのか、キリコがアルミ合金に当たるのが問題なのか。
 どちらで解決すればいいだろうか。
 キリコを出さないようにするのであれば転造タップだし、傷がつくのを前提にしたら端面を削って仕上げればよい。

「転造タップ?」

 おっと、エッセは転造タップを知らなかったか。
 タップには二種類ある。
 一般的に知られているのは切削タップだろう。
 これはねじ加工するための刃物が素材を切削していく。
 それに対して転造タップは素材を寄せてねじ山を作る。
 わかりにくいかな?
 自分の腕でも腹でも指でつまんでみると、皮がよってしわになると思う。
 それがねじ山になっるイメージだ。
 これならばキリコは出ない。

「じゃあ、全部転造タップにすればいいじゃないか」

 とエッセは言うが、そう簡単にもいかない。

「材料が硬いと転造出来ないんだ。それに、転造タップは切削タップよりも大きな力が必要になる。まあ、それらをクリアーしたとしても、下穴の管理がかなり厳しいからな。下穴の精密加工が出来るオッティの作った工作機械ならまだしも、それ以外の工作機械だときちんとしたねじにならないかもしれないな」

 キリコで傷がつく以外は切削タップのほうがいい。
 転造タップは管理が大変なのだ。
 特に下穴の状態でねじの出来が左右されるので、真面目に保証度評価をすると、転造タップは全数検査しなければならない会社が殆どだろう。
 たちの悪いことにねじの工程能力なんてものは評価出来ない。
 ねじゲージを使って合否を確認するくらいなのだが、下穴の一部が大きくてねじ山が低くても、ねじゲージでは不良が発見できないのだ。
 ねじ山の一部が低かったとしても、ゲージは通ってしまう。
 ゲージが通るなら問題ないと思うかもしれないが、実はそうではない。
 ネジを使ってシールしている場合は、ねじ山の低さが致命的なのだ。
 例を挙げればドレンボルトだ。
 ねじ部にシール材を注入して密封性を上げているが、それは山があって機能する。
 下穴が大きくて、ねじ山が低ければ金属同士で密接する個所が無いため、シール材だけでの気密は出来ないのだ。
 まあ、その原因に辿り着くまでの調査の苦労といったらもうね……
 実際はドレンボルトじゃないですよ。
 念のため断っておきます。

 まあ、そんなわけで技術部門も転造タップは極力採用したくないと言ってはいるが、キリコに起因する不良が出るとなると、どうしても転造タップを採用してしまう。
 インサートねじならばとも思うが、インサートにすると費用が上がってしまい、競争力が無くなるのでそれも出来ないんだよな。
 どうしろと。
 品管に出来る事は不良がばれないように祈るだけです。
 そう、ばれなければいいのです。
 ねじ山先端のチッピングとか、機能に影響しないんだよっていう神の声が聞こえた気がします。

「まあ、転造タップって言っても現物をみないとだろうから、オッティにお願いしてタップを取り寄せるよ。こちらに届いたらエッセのところに持って行くから」

「ありがとうございます」

 ドワーフなので、見本があればその後は自分で何とかするだろう。
 工作をする為に神が創造した種族だからな。

 数週間後、オッティから転造タップが届き、エッセの工房へと届けた。
 エッセは直ぐに使ってみたいというので、そのまま俺も立ち会う。

「あー、確かにいつもよりも強い力を掛けないと、同じように回転しませんね」

 エッセは工作機械から伝わる感覚を教えてくれた。
 俺にはその感覚とやらがわからないので、素直に感心する。
 前世でも職人のおじいちゃんがフライスから伝わる感覚を教えてくれたのだが、どうしてもそれが俺にはわからなかった。
 「自動車だって毎日乗っていれば、路面から伝わる感覚がわかるだろうが」って言われて、なんとなくイメージは湧いたのだが、習得するところまではいかなかったな。
 その後も色々と条件を変えながら加工をするというので、新品のねじゲージを作成し渡しておいた。
 ねじゲージって意外と摩耗が早いからね。



※作者の独り言
転造タップはキリコが出ないのですが、ねじの品質保証が大変なので、出来れば使用したくないですね。
なんとかかんとか16949だと、ねじ部全数検査だとかなっていたりするので、それなら転造タップでもいいですけど。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

転生社畜、転生先でも社畜ジョブ「書記」でブラック労働し、20年。前人未到のジョブレベルカンストからの大覚醒成り上がり!

nineyu
ファンタジー
 男は絶望していた。  使い潰され、いびられ、社畜生活に疲れ、気がつけば死に場所を求めて樹海を歩いていた。  しかし、樹海の先は異世界で、転生の影響か体も若返っていた!  リスタートと思い、自由に暮らしたいと思うも、手に入れていたスキルは前世の影響らしく、気がつけば変わらない社畜生活に、、  そんな不幸な男の転機はそこから20年。  累計四十年の社畜ジョブが、遂に覚醒する!!

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中に呆然と佇んでいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出したのだ。前世、日本伝統が子供の頃から大好きで、小中高大共に伝統に関わるクラブや学部に入り、卒業後はお世話になった大学教授の秘書となり、伝統のために毎日走り回っていたが、旅先の講演の合間、教授と2人で歩道を歩いていると、暴走車が突っ込んできたので、彼女は教授を助けるも、そのまま跳ね飛ばされてしまい、死を迎えてしまう。 享年は25歳。 周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっている。 25歳の精神だからこそ、これが何を意味しているのかに気づき、ショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

異世界でぼっち生活をしてたら幼女×2を拾ったので養うことにした【改稿版】

きたーの(旧名:せんせい)
ファンタジー
【毎週火木土更新】 自身のクラスが勇者召喚として呼ばれたのに乗り遅れてお亡くなりになってしまった主人公。 その瞬間を偶然にも神が見ていたことでほぼ不老不死に近い能力を貰い異世界へ! 約2万年の時を、ぼっちで過ごしていたある日、いつも通り森を闊歩していると2人の子供(幼女)に遭遇し、そこから主人公の物語が始まって行く……。 ――― 当作品は過去作品の改稿版です。情景描写等を厚くしております。 なお、投稿規約に基づき既存作品に関しては非公開としておりますためご理解のほどよろしくお願いいたします。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

処理中です...