冒険者ギルド品質管理部 ~生まれ変わっても品管だけは嫌だと言ったのに~

犬野純

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第382話 「わかった?」「はい」は信じるな

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 俺は冒険者ギルドの訓練場でシルビアが新人冒険者たちに指導しているのを見ている。
 彼らがこれから仕事をするのにあたり、シルビアの指導をどこまで理解したのかを確認するためだ。
 こういうことをしていると前世を思い出す。
 新人教育は製造の班長や組長の仕事だったのだが、客先から品管も最終的な合否判断に加わるようにと指摘があり、新人の教育記録に品管もサインするような書式に改定した事がある。
 教育が終了していない新人が生産したものは、一定以上の力量があるものがダブルチェックするのだが、製造としてはそれが手間なので、早いとこ教育を終了させたがるのだ。
 結果として合否判断が甘くなり、未熟な作業者が不良を生産、流出させてしまう事があった。
 それは弊社に限らずどこの会社でも見られる風景なので、客先が水平展開として仕入れ先に要求した結果として、品管の確認も追加となったわけである。

「スタンフラッシュは大きな音と、眩しい光が発生するから、使うときは自分もその影響を受ける危険があるの。だから逃げながら自分たちより後ろで発動するように使うのよ。わかった?」

「はい」

 シルビアがスタンフラッシュの使い方を説明した。
 説明を受けた新人たちは元気な返事をする。
 スタンフラッシュはモンスタートレインを発生させないために、逃げるときに使うマジックアイテムだ。
 爆発音と閃光でモンスターを怯ませ、その隙に距離を稼いでトレインが発生しないようにする。
 迷宮に入る冒険者のパーティーには所持しなければならない義務があり、入り口で持ち物チェックがある。

「じゃあ次だけど――」

「ちょっと待って」

 シルビアが次の説明に移ろうとした時に、俺はそれを止めた。

「ちょっと待ったコールだー」

「ねるとんか!」

 反射的に新人のボケに突っ込んでしまった。

「なによアルト。あたしと付き合いたいならオーリスと別れてからよ。待つだけの女にはなりたくないわ」

 シルビアが迫ってくる。
 いや、別にシルビアと付き合いたいわけではないのだが。

「おお、ツーショットだ」

「だから、ねるとんじゃねーよ!」

 この新人はどこでこんな語彙を仕入れて来るのやら。

 おっといけない。
 話が逸れたな。

「ごめんね、シルビア。今の説明だけで本当に理解してくれたのかわからなくてね。特に、スタンフラッシュを使う場面は逃げている最中で、落ち着いて使うことが難しいからね。実際に使ってもらうのがいいんじゃないかな」

「それもそうね」

 シルビアは納得してくれた。
 管理者のための外部講習で教えられたのだが、作業者の教育は「やってみせ,言って聞かせて,させてみて」という三段活用だ。
 元々は山本五十六の言葉で「やってみせ,言って聞かせて,させてみて,誉めてやらねば,人は動かじ」というものなのだが、教育の理解度確認には誉めてやる必要はないので、講師が途中までしか言わなかったのだろう。
 それに、工場で求めている作業者は、別に誉められるために自発的に何かをする必要はない。
 作業標準書を遵守してくれさえすればよいのだ。
 むしろ、変な改善などしないで欲しい。
 合理化の名の元に、品質が削られる事が多いからね。
 結局目先の利益にとらわれて、後で不良により大きな損失を出して大敗北する、弊社のミッドウェー海戦になるからね。

 シルビアは新人たちの方に向き直ると

「じゃあ、今から追いかけるから、実際にスタンフラッシュを使ってちょうだい。あたしを止められなかったら、背中から木剣の一撃が飛んでくるわよ」

 と言って、木剣をビュンと振って見せた。
 あまりの剣速に新人たちの顔が青ざめる。
 緊張感があっていいね。

 そして次々とシルビアに追われて、慌ててスタンフラッシュを使った結果

「全然出来てないじゃない!!」

 とシルビアが怒り出した。
 発動させずにただ地面に落とすだけの者、自分も効果範囲に巻き込んでしまった者などが続出したのである。

「何でわかったって訊いたらはいって返事をしたのよ!」

「そりゃあ、出来るつもりだったのか、わかりませんって言うのが怖かったかのどちらかだよ」

 実際に会社の朝礼なんかでも、管理者の話を聞いて最後にわかったかどうか質問すると、みんなわかったと返事をするのだ。
 その場でわかりませんという奴なんか見たこと無い。
 で、後で指示したことが出来ていないので指摘すると

「聞いていませんでした」

「理解できていませんでした」

「日本語ワカリマセン」

 と返ってくる。
 理解度の確認は返事では駄目なのだ。
 実際にやらせてみるか、聞いたことを言わせてみるかしないと、本当の意味での確認にはならない。

「嘘をついた人には罰を与えないとね」

 シルビアの怒りに燃えた目を見た新人たちは震えあがった。
 まあ、命に係わる事だから、中途半端な理解で返事をしてしまった事を身に染みて反省してもらうには丁度いいか。

「ふう、すっきりしたわ」

 一通り新人をいびった、いや可愛がった結果すっきりした表情のシルビアが俺の方にやってきた。
 新人の指導はすっきりするための手段じゃないんだけどと苦笑する。

「今日の仕事は終わったし、今からカフェにでも行く?」

「まあ、俺も仕事はないしたまにはいいか」

 と二人して街で人気のカフェに行く事になった。
 思い返してみれば、前世では彼女いない歴=人生だった俺が、こうして美女と一緒にカフェに行くなどとは想像できなかったな。
 道中のシルビアとの会話は、どの武器が効率的に相手の命を奪えるかという、恋愛要素ゼロの内容だったが。
 ストーカーには需要があるかもしれないけど。

 そんな会話をしながら歩いていると、人気のカフェに到着した。
 食事時でもないのに、店内はほぼ満席状態である。
 ただし、待つような事にはならなかった。

「あれ、アルトじゃない。それにシルビア」

 店内でそう話しかけてきたのはオーリスだった。
 俺達を見たとたんにオーリスの顔が般若のようになった。

「どうしてこの時間冒険者ギルドで仕事をしているはずの夫が、他所の女と人気のカフェに来ているのかしら?140文字以内で納得のいく理由を説明してもらいたいですわね」

 うん、140文字って短いよね……


※作者の独り言
なんでみんなわかってもいないのに返事してしまうん?
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