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第425話 最近三国志や戦国時代の例え話をする上司っていなくなったよね 前編
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「今日は来てくれてありがとう」
グレイスが俺に頭を下げる。
「いや、まだ来ただけで役に立てるかどうかはこれからだから」
と、遠慮がちにこたえた。
俺は今グレイスに呼び出されて、グレイス領の冒険者ギルドに来ていた。
呼び出された理由は冒険者ギルド本部による定期監査の事前確認だ。
つい最近、余所の冒険者ギルドで買取の査定額に大きな間違いがあったのが発覚し、本部は監査を強化することにしたのだ。
その影響で、重度の指摘を受ける冒険者ギルドが続出。
対策完了まで本部に足を何度も運んでいるのだとか。
そんな事態に危機感を覚えたグレイスが、ステラで何度も本部の監査を経験した俺を招聘して、本部の監査が来る前の自主監査をやらせることにしたわけだ。
「早速見てまわろうか。悪いところを見つけても、改善する時間がなくなっては元も子もないから」
「そういうところ、助かるわ。オッティって監査にはからっきしなんだもの。それに、なんというか他人事なのよね」
「あー、それは昔っからだね。指摘事項で手伝えることがあったら言ってくれって言うんだけど、お前のところが指摘されてるんだよっていうのが何度か」
「死んでもなおらなかったのね」
「雀百まで踊り忘れずって言うしな」
「それはちょっと違うんじゃないの?」
「それならそもそも、オッティは冒険者ギルドの運営とは関係ないから、馬鹿は死ななきゃ治らないってのは言い過ぎじゃないか」
「なに言ってるの、オッティは理事なのよ」
「ああ、関係おおありかー」
「そうよ。なのに他人事だから頭にくるってわけ」
「変わってないなあ」
オッティの話はここで切り上げて、事前監査をはじめていく。
買取部門を最初に確認したが、そよの冒険者ギルドで大きな失態があったため、その横展開がされているので問題は見当たらない。
「どう?」
とグレイスに訊かれたが、
「これなら大きな指摘事項はないだろうね」
と答えた。
「大きなっていう事は、小さな指摘事項はあるって事よね」
「監査員っていうのは指摘事項を見つけるのが仕事だからね。指摘事項なしで帰ってしまえば、今度は彼等が上司から何を見てきたんだって言われるんだよ。完璧な運営をしているところなんて無いはずだからね」
「そんな重箱の隅をつつくような事をして楽しいの?」
グレイスのいう事はわからなくもない。
前世では自分も監査員として監査に臨む時は、本当に些細な事を指摘して嫌な顔をされた事もあった。
ほとんどの場合は、些細な指摘にしておきますからねっていう出来レースだったんだけど。
「楽しいか楽しくないかで仕事はしないからねえ。それと……」
「それと?」
「よその冒険者ギルドで買取部門が大きな指摘を受けたのは知れ渡っているから、どこの冒険者ギルドだってそこは対策しているはずだよね。だから、俺なら買取部門以外の監査を重点的にするよ。そうすれば指摘事項も見つけやすいじゃないか。試しに、次は依頼を貼り出す掲示板に行ってみようか」
俺とグレイスは掲示板へと移動した。
そして、その掲示板を見て早速指摘事項が出てきた。
「ここに貼り出している依頼については、どのランクが適性かわかりにくいよね」
「一応右から高ランクの依頼ってなっているわよ」
「でも、その境目があいまいなんだよ。いっそのこと等級ごとに掲示板を分けるとかした方がわかりやすいよ」
一見して依頼はランク順に並べられて貼り出されているように見えるが、その境目がわかりにくいのだ。
手に取ってみればわかるのだが、近づかないとわからないっていう欠点がある。
中間等級の冒険者だと特に、どこへんに自分たちに適した依頼が貼り出されているのかわからないのだ。
「それなら監査の前に掲示板をランク分けしないとね」
「ちょっと待った」
とグレイスが職員に伝えようとしたので、一旦それを止めた。
「なんでよ」
不満そうなグレイスに止めた真意を伝える。
「さっき言ったように、監査員っていうのは指摘事項を見つけるのが仕事だ。見つからなければ重箱の隅をつつくような些細な、そしてこちらの意図してないところを指摘してくる。それを改善させられるくらいなら、指摘事項をコントロールした方が楽だろう。ちょうど三国志で曹操が張繍に使った偽撃転殺(ぎげきてんさつ)の計を逆手に取った虚誘掩殺(きょゆうえんさつ)の計みたいにさ」
偽撃転殺の計は張繍の立てこもる城に対して、曹操軍が連日西側を攻めて相手を西側に集めたところで、本命の東側の門を攻めて開門させたという計略である。
虚誘掩殺の計は偽撃転殺の計を読んだ張繍が曹操軍を城内に引き入れ、矢で攻撃をして撃退したという計略だ。
つまり、買取部門を重点的に監査するぞと思わせて、その実他部門を監査することで指摘事項を見つけようとする監査員を誘い込み、あらかじめ対策の用意をしてあるところを指摘させようというように持って行きたいのだ。
「柳孔明の罠ね」
「いや、カク(なぜか変換できない)っていう軍師の考えた計略なんだけど。それに柳孔明はレッドバロンの登場キャラクターで、武上純希が孔明っていうキャラクターをやたらと自分の書いた作品に登場させるって知らないとわからないボケだよね」
ツッコミにくいボケは止めて欲しい。
それにしても、自分で言っておきながらなんだが、最近は三国志や日本の戦国時代の話を持ち出して、仕事の例えとして話す上司っていなくなったよなあ。
山陰の麒麟児、山中鹿之助こと山中幸盛の「我に七難八苦をあたえたまえ」なんていう逸話なんて、若い奴に苦労を押し付ける上司が言うセリフの定番だった気もするけど、最近ではとんときかない。
「流石アルト。わかっているじゃない。それにしても、こちらに来てからというもの歴史の話をできる人が居なくて、話したいけど話せないからストレスが溜まっていたのよ。アルトが居てくれてよかったわ」
「オッティは?」
「彼は駄目よ。歴史なんて明治維新以降しか興味ないのよ。それも兵器ばっかり」
「オッティはワシントン条約っていったら海軍軍縮条約が真っ先に思い浮かぶやつだからなあ」
なんとなくお分かりかと思うが、そういう奴なのだ。
「それにしても、グレイスが歴史好きとは思ってもみなかったよ」
「私は大学時代に歴史の教授に司馬史観を語ったほどなのよ」
うん、それはそれで駄目だろう……
グレイスが俺に頭を下げる。
「いや、まだ来ただけで役に立てるかどうかはこれからだから」
と、遠慮がちにこたえた。
俺は今グレイスに呼び出されて、グレイス領の冒険者ギルドに来ていた。
呼び出された理由は冒険者ギルド本部による定期監査の事前確認だ。
つい最近、余所の冒険者ギルドで買取の査定額に大きな間違いがあったのが発覚し、本部は監査を強化することにしたのだ。
その影響で、重度の指摘を受ける冒険者ギルドが続出。
対策完了まで本部に足を何度も運んでいるのだとか。
そんな事態に危機感を覚えたグレイスが、ステラで何度も本部の監査を経験した俺を招聘して、本部の監査が来る前の自主監査をやらせることにしたわけだ。
「早速見てまわろうか。悪いところを見つけても、改善する時間がなくなっては元も子もないから」
「そういうところ、助かるわ。オッティって監査にはからっきしなんだもの。それに、なんというか他人事なのよね」
「あー、それは昔っからだね。指摘事項で手伝えることがあったら言ってくれって言うんだけど、お前のところが指摘されてるんだよっていうのが何度か」
「死んでもなおらなかったのね」
「雀百まで踊り忘れずって言うしな」
「それはちょっと違うんじゃないの?」
「それならそもそも、オッティは冒険者ギルドの運営とは関係ないから、馬鹿は死ななきゃ治らないってのは言い過ぎじゃないか」
「なに言ってるの、オッティは理事なのよ」
「ああ、関係おおありかー」
「そうよ。なのに他人事だから頭にくるってわけ」
「変わってないなあ」
オッティの話はここで切り上げて、事前監査をはじめていく。
買取部門を最初に確認したが、そよの冒険者ギルドで大きな失態があったため、その横展開がされているので問題は見当たらない。
「どう?」
とグレイスに訊かれたが、
「これなら大きな指摘事項はないだろうね」
と答えた。
「大きなっていう事は、小さな指摘事項はあるって事よね」
「監査員っていうのは指摘事項を見つけるのが仕事だからね。指摘事項なしで帰ってしまえば、今度は彼等が上司から何を見てきたんだって言われるんだよ。完璧な運営をしているところなんて無いはずだからね」
「そんな重箱の隅をつつくような事をして楽しいの?」
グレイスのいう事はわからなくもない。
前世では自分も監査員として監査に臨む時は、本当に些細な事を指摘して嫌な顔をされた事もあった。
ほとんどの場合は、些細な指摘にしておきますからねっていう出来レースだったんだけど。
「楽しいか楽しくないかで仕事はしないからねえ。それと……」
「それと?」
「よその冒険者ギルドで買取部門が大きな指摘を受けたのは知れ渡っているから、どこの冒険者ギルドだってそこは対策しているはずだよね。だから、俺なら買取部門以外の監査を重点的にするよ。そうすれば指摘事項も見つけやすいじゃないか。試しに、次は依頼を貼り出す掲示板に行ってみようか」
俺とグレイスは掲示板へと移動した。
そして、その掲示板を見て早速指摘事項が出てきた。
「ここに貼り出している依頼については、どのランクが適性かわかりにくいよね」
「一応右から高ランクの依頼ってなっているわよ」
「でも、その境目があいまいなんだよ。いっそのこと等級ごとに掲示板を分けるとかした方がわかりやすいよ」
一見して依頼はランク順に並べられて貼り出されているように見えるが、その境目がわかりにくいのだ。
手に取ってみればわかるのだが、近づかないとわからないっていう欠点がある。
中間等級の冒険者だと特に、どこへんに自分たちに適した依頼が貼り出されているのかわからないのだ。
「それなら監査の前に掲示板をランク分けしないとね」
「ちょっと待った」
とグレイスが職員に伝えようとしたので、一旦それを止めた。
「なんでよ」
不満そうなグレイスに止めた真意を伝える。
「さっき言ったように、監査員っていうのは指摘事項を見つけるのが仕事だ。見つからなければ重箱の隅をつつくような些細な、そしてこちらの意図してないところを指摘してくる。それを改善させられるくらいなら、指摘事項をコントロールした方が楽だろう。ちょうど三国志で曹操が張繍に使った偽撃転殺(ぎげきてんさつ)の計を逆手に取った虚誘掩殺(きょゆうえんさつ)の計みたいにさ」
偽撃転殺の計は張繍の立てこもる城に対して、曹操軍が連日西側を攻めて相手を西側に集めたところで、本命の東側の門を攻めて開門させたという計略である。
虚誘掩殺の計は偽撃転殺の計を読んだ張繍が曹操軍を城内に引き入れ、矢で攻撃をして撃退したという計略だ。
つまり、買取部門を重点的に監査するぞと思わせて、その実他部門を監査することで指摘事項を見つけようとする監査員を誘い込み、あらかじめ対策の用意をしてあるところを指摘させようというように持って行きたいのだ。
「柳孔明の罠ね」
「いや、カク(なぜか変換できない)っていう軍師の考えた計略なんだけど。それに柳孔明はレッドバロンの登場キャラクターで、武上純希が孔明っていうキャラクターをやたらと自分の書いた作品に登場させるって知らないとわからないボケだよね」
ツッコミにくいボケは止めて欲しい。
それにしても、自分で言っておきながらなんだが、最近は三国志や日本の戦国時代の話を持ち出して、仕事の例えとして話す上司っていなくなったよなあ。
山陰の麒麟児、山中鹿之助こと山中幸盛の「我に七難八苦をあたえたまえ」なんていう逸話なんて、若い奴に苦労を押し付ける上司が言うセリフの定番だった気もするけど、最近ではとんときかない。
「流石アルト。わかっているじゃない。それにしても、こちらに来てからというもの歴史の話をできる人が居なくて、話したいけど話せないからストレスが溜まっていたのよ。アルトが居てくれてよかったわ」
「オッティは?」
「彼は駄目よ。歴史なんて明治維新以降しか興味ないのよ。それも兵器ばっかり」
「オッティはワシントン条約っていったら海軍軍縮条約が真っ先に思い浮かぶやつだからなあ」
なんとなくお分かりかと思うが、そういう奴なのだ。
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