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愛とオルゴール
04. 父の言い分
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「フォンテーヌ伯爵家からネイサンを婿養子にしたいという申し出があり、私はそれを受けようと思う」
あの日、父は、母の実家を継いだ叔父のダニエルと私、ネイサンを書斎に呼び出してそう切り出した。
絶句する私たちに向かって父は、現王の亡き妹を正妻として娶ったフォンテーヌ伯爵家との婚姻における我が家と叔父の伯爵家への利点を滔々と述べた後、”幸いにも”ロートレック侯爵家には嫡男であるネイサンを婿に出しても、後を継げるリカルドがいるためこの決断に至ったのだと宣った。
「……僕……いえ、私は、納得できません。この家を継ぐのは正妻の息子である私であるというのは私が生まれる前から決まっていたことではないですか」
ネイサンはあふれ出る怒りを少しでも抑え込もうとしてだろう、ことさらゆっくりと丁寧にそう言った。
私はぶるぶると震えているネイサンの手に自分の手を重ね、父である人に向かって言った。
「そうですわ、ネイサンの言う通りです。ロートレック侯爵家の跡継ぎは生まれる前からネイサンだと決まっています。そうでしょう? ダニエル叔父様」
父は私の視線を避け、呆れることに助けを求めるような顔をして叔父を見た。
だが、もちろん叔父は冷たい口調で父を切り捨てた。
「私にも小侯爵が一体何を言われているのか理解できませんね。
貴方はここへきて貴方と我が姉の間に生まれた子に爵位を継がせるという取り決めを反故にしようというのですか?
ネイサンやジェシカだけでなく姉を、我が家を馬鹿にするのにも程がある」
吐き捨てるようにそういった叔父に、父は怯んだようだったが、それでも叔父に哀願するように言い募る。
「しかし、先方のたっての願いなのだ。あちらは伯爵家とはいえもはやニュートンとロートレックとが束になっても太刀打ちできない存在だろう?
なにせ、彼は前王が溺愛していた王女を娶ったあと、飛ぶ鳥を落とす勢いを勢力を拡大しているんだから」
惨めったらしい言い方にカチンとくる。
「フォンテーヌ家がどれほどの権力を持っていようと、他家の継承問題に口出しできる筈がないではありませんか。それとも、ネイサンと共にロートレックを献上でもするつもりですの?」
私の言葉に父は馬鹿みたいに狼狽えた。
「そんなことはしない。そんな話ではないのだこれは」
父が言うには、お偉いフォンテーヌ家の令嬢は亡くなった王女の忘れ形見であり、王子しか持たない王やその王子達にもたいそう可愛がられているそうな。
また、伯爵家はこれまでの貢献に鑑みて近々侯爵位を賜るのではないかと言われている。
だからネイサンはロートレックよりも王家に近い侯爵の地位を確保できるのだから、これはネイサンにとって良い話なのだ、と。
「なにが僕のためだ! リカルドのためだろう! アンタはあいつに爵位を譲りたいだけだ! 僕は認めない! いいか、絶対に認めないぞ!」
ネイサンはそう言って立ち上がった。
重ねていた手を振り払うことになったことを詫びるように私を見た後、この場にいることすら耐えきれなくなったのか部屋から出ていってしまった。
私はネイサンの後姿を見送った後、改めて目の前にいる男に目を向けた。
「もちろん、このお話はお断りいただけるのですわよね? そもそもこんな話をわたくしたちにした時点で軽蔑いたしますけれど、言うに事欠いてネイサンのためだなどと。
そうだわ! せっかくですもの、リカルドをフォンテーヌ家に差し上げるというのはどうですの? それならばリカルドにとって、これほど素晴らしいことはないのではないかしら?
そのための身分が必要なら、叔父様の養子にしていただくなりなにかしら手はありますでしょう?」
私の言葉に父である男が疲れたように言う。
「駄目だ。もとよりリカルドや他の男では駄目なんだ。彼はネイサンを欲しがっているのだから」
ネイサンを? 弟からそんな話は聞いたことがないがもしかするとフォンテーヌ家の令嬢がネイサンに懸想でもしているというのだろうか?
でもそれならば、自ら家を捨ててネイサンの元に嫁ぐというのが筋でしょうに!
「常識を疑いますわ。あちらが養子でも取って家を継がせるか、何れは二人の間に生まれた子を養子に欲しいというような条件で令嬢をあの子の元に嫁がせたいというのならまだしも、あの子からロートレック侯爵の身分を取り上げてあちらの爵位を継がせる?
そんな申し出をするほうもするほうなら受けようとするのもするほうです。
お断りください。いくらなんでもそんな理不尽な申し出を受け入れるほどロートレックもニュートンも卑屈になるような家ではないはずですもの」
すると、目の前の男は私ではなく叔父を見て何かを呟いたようだった。
「何ですか? 言いたいことがあるなら……」
更に問い詰めようと身を乗り出す私を叔父の手が止めた。
「ジェシカ、お前はネイサンのところに行きなさい。今、あの子を支えてやれるのは君しかいない。ここは私にまかせてあの子のところへ行くんだ。あとは私が話をしよう」
俯いている父を見据えたながら叔父が言った。
私は叔父の態度に少しだけ違和感を感じたがネイサンのことが気になっていたためその指示に従って、黙りこんだ二人を残して部屋を後にしたのだった。
あの日、父は、母の実家を継いだ叔父のダニエルと私、ネイサンを書斎に呼び出してそう切り出した。
絶句する私たちに向かって父は、現王の亡き妹を正妻として娶ったフォンテーヌ伯爵家との婚姻における我が家と叔父の伯爵家への利点を滔々と述べた後、”幸いにも”ロートレック侯爵家には嫡男であるネイサンを婿に出しても、後を継げるリカルドがいるためこの決断に至ったのだと宣った。
「……僕……いえ、私は、納得できません。この家を継ぐのは正妻の息子である私であるというのは私が生まれる前から決まっていたことではないですか」
ネイサンはあふれ出る怒りを少しでも抑え込もうとしてだろう、ことさらゆっくりと丁寧にそう言った。
私はぶるぶると震えているネイサンの手に自分の手を重ね、父である人に向かって言った。
「そうですわ、ネイサンの言う通りです。ロートレック侯爵家の跡継ぎは生まれる前からネイサンだと決まっています。そうでしょう? ダニエル叔父様」
父は私の視線を避け、呆れることに助けを求めるような顔をして叔父を見た。
だが、もちろん叔父は冷たい口調で父を切り捨てた。
「私にも小侯爵が一体何を言われているのか理解できませんね。
貴方はここへきて貴方と我が姉の間に生まれた子に爵位を継がせるという取り決めを反故にしようというのですか?
ネイサンやジェシカだけでなく姉を、我が家を馬鹿にするのにも程がある」
吐き捨てるようにそういった叔父に、父は怯んだようだったが、それでも叔父に哀願するように言い募る。
「しかし、先方のたっての願いなのだ。あちらは伯爵家とはいえもはやニュートンとロートレックとが束になっても太刀打ちできない存在だろう?
なにせ、彼は前王が溺愛していた王女を娶ったあと、飛ぶ鳥を落とす勢いを勢力を拡大しているんだから」
惨めったらしい言い方にカチンとくる。
「フォンテーヌ家がどれほどの権力を持っていようと、他家の継承問題に口出しできる筈がないではありませんか。それとも、ネイサンと共にロートレックを献上でもするつもりですの?」
私の言葉に父は馬鹿みたいに狼狽えた。
「そんなことはしない。そんな話ではないのだこれは」
父が言うには、お偉いフォンテーヌ家の令嬢は亡くなった王女の忘れ形見であり、王子しか持たない王やその王子達にもたいそう可愛がられているそうな。
また、伯爵家はこれまでの貢献に鑑みて近々侯爵位を賜るのではないかと言われている。
だからネイサンはロートレックよりも王家に近い侯爵の地位を確保できるのだから、これはネイサンにとって良い話なのだ、と。
「なにが僕のためだ! リカルドのためだろう! アンタはあいつに爵位を譲りたいだけだ! 僕は認めない! いいか、絶対に認めないぞ!」
ネイサンはそう言って立ち上がった。
重ねていた手を振り払うことになったことを詫びるように私を見た後、この場にいることすら耐えきれなくなったのか部屋から出ていってしまった。
私はネイサンの後姿を見送った後、改めて目の前にいる男に目を向けた。
「もちろん、このお話はお断りいただけるのですわよね? そもそもこんな話をわたくしたちにした時点で軽蔑いたしますけれど、言うに事欠いてネイサンのためだなどと。
そうだわ! せっかくですもの、リカルドをフォンテーヌ家に差し上げるというのはどうですの? それならばリカルドにとって、これほど素晴らしいことはないのではないかしら?
そのための身分が必要なら、叔父様の養子にしていただくなりなにかしら手はありますでしょう?」
私の言葉に父である男が疲れたように言う。
「駄目だ。もとよりリカルドや他の男では駄目なんだ。彼はネイサンを欲しがっているのだから」
ネイサンを? 弟からそんな話は聞いたことがないがもしかするとフォンテーヌ家の令嬢がネイサンに懸想でもしているというのだろうか?
でもそれならば、自ら家を捨ててネイサンの元に嫁ぐというのが筋でしょうに!
「常識を疑いますわ。あちらが養子でも取って家を継がせるか、何れは二人の間に生まれた子を養子に欲しいというような条件で令嬢をあの子の元に嫁がせたいというのならまだしも、あの子からロートレック侯爵の身分を取り上げてあちらの爵位を継がせる?
そんな申し出をするほうもするほうなら受けようとするのもするほうです。
お断りください。いくらなんでもそんな理不尽な申し出を受け入れるほどロートレックもニュートンも卑屈になるような家ではないはずですもの」
すると、目の前の男は私ではなく叔父を見て何かを呟いたようだった。
「何ですか? 言いたいことがあるなら……」
更に問い詰めようと身を乗り出す私を叔父の手が止めた。
「ジェシカ、お前はネイサンのところに行きなさい。今、あの子を支えてやれるのは君しかいない。ここは私にまかせてあの子のところへ行くんだ。あとは私が話をしよう」
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