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辺境のお姫様
18. 相談
カレン様はその週の休日に私をバーンスタイン侯爵家に招待してくれた。
「嬉しいわ、わたくし、お友達を自宅にお招きすることなどあまりなくて」
そう言うと、カレン様は手ずから私のためにお茶を淹れてくださった。
「わたくしのほうこそ嬉しいです。それにこのお茶、美味しいですわ。とてもお上手ですのね」
「よかった。これは幼い頃に猛練習した成果なのよ。忙しい父と二人、庭で一緒にお茶を飲むために」
侯爵家で出されるお茶だから茶葉も良いものを使っているのはもちろんだろうが、カレン様が淹れてくださったお茶は香りといい、味わいといい驚くほど美味しかった。
それに、侯爵さまとご一緒するために練習したのだと言われたときの、はにかんだカレン様のお顔と言ったら!
私が侯爵様でも、おかしな男性を近づけることなど絶対したくない!とおもうほど可愛らしかった。
それにこういうふうに本当に二人きりでできるお茶会も良いな、と思った私は早速カレン様に淹れ方を教えてもらうことにして、ルーカス様に美味しいと言って飲んでいただけるお茶を淹れられるよう今日から練習することに決めた。
そんなやりとりが一段落ついたとき、カレン様が何が言いたげにしているのに気が付いた。
「どうかなさいまして?」
するとカレン様は気まずげに切り出された。
「クロエ様は、その、サラ=ヴェルナー様とはどの程度お付き合いがあるのかしら?」
サラ様との関係?
「そうですね、お会いすればご挨拶を交わすぐらいでしょうか」
「そうですわね。あまり親しくなさっているというご様子ではございませんものね」
そう言ってまたカレン様は沈黙された。
「あの、カレン様?」
「実はね、クロエ様、こんなことをお耳に入れるのはどうだろうと思ったのですが、やはり知っておられたほうがよろしいかと思って言いますわね。
ヴェルナー様のことなのですがクロエ様といつもご一緒にいらっしゃるバートン様のことについて色々とおっしゃってるみたいなの。
その、バートン様だって皆と同じように学園に通っている学生であるはずなのに、自分の時間も持てずにクロエ様の従者のように付き従うのはおかしいと思わないのか、とか、バートン様に話しかけるのにもクロエ様を通してでなければならないような雰囲気があるのも好ましくないのでは、とかですわね。
そういうのはバートン様だけでなくクロエ様にとっても良くないことじゃないかなどとも。
ヴェルナー様に他意はないとしても、どこか煽動するような感じになっているところがあると申しますか、少し話が広がりすぎているような気がしまして。
中には不用意にそういった言葉に同調されている方もおられるようなのです」
ああ、そういうことか、と私は思った。
「言い難いことを言わせてしまって申し訳ございませんわ、カレン様」
「いいえ、そんな、わたくしが勝手に申し上げたことですので」
私は、気づかわしそうなカレン様に微笑みかけた。
「そういうふうに言われているとは知りませんでしたが、わたくしには普段、軽い世間話をするようなまだ友人だとは呼べないようなお付き合いをする方しかいないうえに、皆さまがおっしゃるようにノアと二人、少し皆様方には奇妙に見えるところがあるのは存じております。
それに、おっしゃるように私がノアを護衛として縛り付けているというのは本当の事ですので、それが気に入らないと言われれば、そう思う方もいらっしゃるだろうというのが私の偽らざる気持ちです」
「クロエ様……」
カレン様は同情したようにシュンとしたような顔をされた。
「そう言われるなら言われても仕方のないことだと思います。
でも、傲慢に聞こえるかもしれませんが、これに関しては他の方々に理解していただく必要のないことだと思っておりますのでお気になさらないで」
言いたい人には言わせておけばいい。というか、勝手に言っていればいいとしか私には言えなかった。
「そう、ですわね。ただ、一つだけ申し上げるなら、バートン様ではなくクロエ様と仲良くなりたいと思ってそういう話に頷く方も多いのですわ。
わたくしのようにクロエ様ともっとお話をしてみたいと思っている方々はヴェルナー様の言葉に単純に賛同しているわけではないと思うのです」
「そう言ってくださってありがとうございます。わたくしも、カレン様や皆様と仲良くできれば嬉しいと思っていますわ」
私は一瞬、優しいカレン様に、王都から辺境への帰り道に巻き込まれそうになった事件のことを言ってしまいそうになった。
あれは物盗りの仕業だということだったが、私自身が標的であった可能性が全くないとはいえないことを皆は心配した。
幸い、大事には至らなかったが、一歩間違えば私の命はなかったかもしれないと後でどれだけそれが恐ろしいことだったか知った。
あの時、ノアは怪我をしていて私と一緒にいなかった。そしてその事をとても悔いたみたいだった。
ノアは幼いころから私の騎士で、私はノアに守ってもらうだけのお嬢様だけど、私たちは兄と妹のようにいつも一緒にいたのに肝心な時に一緒にいなかったことが、少しだけ私たちの関係を歪なものにしてしまったところがあるのかもしれない。
時が解決してくれる、と私たちにもお互いにわかっているのだが、まだその時はこない。
たぶん、本当は、絶対に、ノアが突然貴族の養子になって、元々入学するはずもなかった学園にまで一緒に来ることになったのは、何かそこらあたりに理由があるのだろうとも思う。
でも、私には何が理由かということよりも、私とノアにとっては今は非常事態なんだということしかわからない。
私たちの関係が正常なものになるまでには少しだけ時間をかけるしかない、としか。
そう説明すれば、或いは納得してもらえるのかもしれないとは思うものの、そこまで言う必要もないかとも思う。
それに、何故かカレン様にはそんなことを言う必要がないような気もするのだ。
カレン様には最初から私とノアが一緒にいることを当然のこととして見ていてくださるようなところがあるからだ。不思議な方だ、カレン様って。
「カレン様、わたくし、カレン様とお友達になれてとても嬉しゅうございます」
「わたくしもです、クロエ様。わたくしもクロエ様とお友達になれてよかったですわ」
私とカレン様はそれからもいろんなことを話しした。
そして次は私の屋敷へ招待することにして、二人だけの楽しいお茶会は幕を閉じた。
「嬉しいわ、わたくし、お友達を自宅にお招きすることなどあまりなくて」
そう言うと、カレン様は手ずから私のためにお茶を淹れてくださった。
「わたくしのほうこそ嬉しいです。それにこのお茶、美味しいですわ。とてもお上手ですのね」
「よかった。これは幼い頃に猛練習した成果なのよ。忙しい父と二人、庭で一緒にお茶を飲むために」
侯爵家で出されるお茶だから茶葉も良いものを使っているのはもちろんだろうが、カレン様が淹れてくださったお茶は香りといい、味わいといい驚くほど美味しかった。
それに、侯爵さまとご一緒するために練習したのだと言われたときの、はにかんだカレン様のお顔と言ったら!
私が侯爵様でも、おかしな男性を近づけることなど絶対したくない!とおもうほど可愛らしかった。
それにこういうふうに本当に二人きりでできるお茶会も良いな、と思った私は早速カレン様に淹れ方を教えてもらうことにして、ルーカス様に美味しいと言って飲んでいただけるお茶を淹れられるよう今日から練習することに決めた。
そんなやりとりが一段落ついたとき、カレン様が何が言いたげにしているのに気が付いた。
「どうかなさいまして?」
するとカレン様は気まずげに切り出された。
「クロエ様は、その、サラ=ヴェルナー様とはどの程度お付き合いがあるのかしら?」
サラ様との関係?
「そうですね、お会いすればご挨拶を交わすぐらいでしょうか」
「そうですわね。あまり親しくなさっているというご様子ではございませんものね」
そう言ってまたカレン様は沈黙された。
「あの、カレン様?」
「実はね、クロエ様、こんなことをお耳に入れるのはどうだろうと思ったのですが、やはり知っておられたほうがよろしいかと思って言いますわね。
ヴェルナー様のことなのですがクロエ様といつもご一緒にいらっしゃるバートン様のことについて色々とおっしゃってるみたいなの。
その、バートン様だって皆と同じように学園に通っている学生であるはずなのに、自分の時間も持てずにクロエ様の従者のように付き従うのはおかしいと思わないのか、とか、バートン様に話しかけるのにもクロエ様を通してでなければならないような雰囲気があるのも好ましくないのでは、とかですわね。
そういうのはバートン様だけでなくクロエ様にとっても良くないことじゃないかなどとも。
ヴェルナー様に他意はないとしても、どこか煽動するような感じになっているところがあると申しますか、少し話が広がりすぎているような気がしまして。
中には不用意にそういった言葉に同調されている方もおられるようなのです」
ああ、そういうことか、と私は思った。
「言い難いことを言わせてしまって申し訳ございませんわ、カレン様」
「いいえ、そんな、わたくしが勝手に申し上げたことですので」
私は、気づかわしそうなカレン様に微笑みかけた。
「そういうふうに言われているとは知りませんでしたが、わたくしには普段、軽い世間話をするようなまだ友人だとは呼べないようなお付き合いをする方しかいないうえに、皆さまがおっしゃるようにノアと二人、少し皆様方には奇妙に見えるところがあるのは存じております。
それに、おっしゃるように私がノアを護衛として縛り付けているというのは本当の事ですので、それが気に入らないと言われれば、そう思う方もいらっしゃるだろうというのが私の偽らざる気持ちです」
「クロエ様……」
カレン様は同情したようにシュンとしたような顔をされた。
「そう言われるなら言われても仕方のないことだと思います。
でも、傲慢に聞こえるかもしれませんが、これに関しては他の方々に理解していただく必要のないことだと思っておりますのでお気になさらないで」
言いたい人には言わせておけばいい。というか、勝手に言っていればいいとしか私には言えなかった。
「そう、ですわね。ただ、一つだけ申し上げるなら、バートン様ではなくクロエ様と仲良くなりたいと思ってそういう話に頷く方も多いのですわ。
わたくしのようにクロエ様ともっとお話をしてみたいと思っている方々はヴェルナー様の言葉に単純に賛同しているわけではないと思うのです」
「そう言ってくださってありがとうございます。わたくしも、カレン様や皆様と仲良くできれば嬉しいと思っていますわ」
私は一瞬、優しいカレン様に、王都から辺境への帰り道に巻き込まれそうになった事件のことを言ってしまいそうになった。
あれは物盗りの仕業だということだったが、私自身が標的であった可能性が全くないとはいえないことを皆は心配した。
幸い、大事には至らなかったが、一歩間違えば私の命はなかったかもしれないと後でどれだけそれが恐ろしいことだったか知った。
あの時、ノアは怪我をしていて私と一緒にいなかった。そしてその事をとても悔いたみたいだった。
ノアは幼いころから私の騎士で、私はノアに守ってもらうだけのお嬢様だけど、私たちは兄と妹のようにいつも一緒にいたのに肝心な時に一緒にいなかったことが、少しだけ私たちの関係を歪なものにしてしまったところがあるのかもしれない。
時が解決してくれる、と私たちにもお互いにわかっているのだが、まだその時はこない。
たぶん、本当は、絶対に、ノアが突然貴族の養子になって、元々入学するはずもなかった学園にまで一緒に来ることになったのは、何かそこらあたりに理由があるのだろうとも思う。
でも、私には何が理由かということよりも、私とノアにとっては今は非常事態なんだということしかわからない。
私たちの関係が正常なものになるまでには少しだけ時間をかけるしかない、としか。
そう説明すれば、或いは納得してもらえるのかもしれないとは思うものの、そこまで言う必要もないかとも思う。
それに、何故かカレン様にはそんなことを言う必要がないような気もするのだ。
カレン様には最初から私とノアが一緒にいることを当然のこととして見ていてくださるようなところがあるからだ。不思議な方だ、カレン様って。
「カレン様、わたくし、カレン様とお友達になれてとても嬉しゅうございます」
「わたくしもです、クロエ様。わたくしもクロエ様とお友達になれてよかったですわ」
私とカレン様はそれからもいろんなことを話しした。
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