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辺境のお姫様
20. 再び修羅場
ライアン王子とカトリーヌ様は前にカトリーヌ様とルパート=セルジュ様が言い争いをしていた生け垣の裏に連れ立って行った。
私とノアは以前私がカトリーヌ様達の話を聞いた場所にいる。
「どういうことだ? 君は何を言ってる?」
「決まったことですわ」
「だが、君が? 君が勝手にこんなことをして許されるのか? それにこんなことをして君はいったいこれからどうするつもりなんだ?」
「御心配には及びませんわ」
「だが、いや、そんな……」
「殿下、わたくしは思うとおりにいたします。正直に申し上げると、今更殿下に遠慮することなど何もございませんの」
「私に対して君が、この場で、婚約の破棄をつきつけるというのがか?」
「正確にはわたくしが突きつけているのではありません。
誰よりも先んじてこの件を貴方様にお伝えしただけです。
わたくしがただの手駒でしかないことは殿下もよくご存じのとおりですわ。
ですから、おっしゃるようにわたくし如きに婚約の破棄などとそんな権限はございませんわね」
「だがなぜ今? いくらなんでもまだ早い……それに君のことについては私も考えて」
「わたくし、自分の身は自分でと前々から決めておりましたの」
「なに……を……?」
王子殿下はカトリーヌ様の言葉に終始混乱しているようだ。対するカトリーヌ様は、どこか勝ち誇ったような声で王子殿下に対峙している。
余裕のある様子はいつかの、セルジュ様との会話とは全く違っているし、先日のカフェテラスでの戸惑っているような様子とも違っていた。
「貴方様はわたくしを娶るおつもりはないと前々感じておりましたの。ですから、その時のために色々と考えておりました。
わたくし、これを機に家を、貴族であることを捨てましたの」
「本気で言っているのか? それが本当だというのなら君はこんな所にいるべきじゃない。
はやく申請を取り消すんだ、なんなら私も一緒に行ってもいい。君は一時の感情で取り返しのつかないことをしているのだぞ!
いや、まて、仮にも私の婚約者の令嬢が正式な発表もないまま貴族でなくなる手続きなど認められるわけがない、君は私を担ごうとでもしてるのか?」
王子殿下はますます混乱していらっしゃるようでした。
「担いでなどおりません。本当に認められましたのよ。ですから、今こうして貴族だけが通う学園にいることも本来なら許されないことですわ」
そんな殿下に、カトリーヌ様は飄々として続けた。
「自分でも信じられないくらい上手くいきまして、わたくし、自由を得たのです」
「自由……?」
「ええ、自由です」
「なにを、言って……」
「殿下、わたくしと貴方様との婚約破棄は直ぐに公表されます。
わたくしは切り捨てられたのですよ、セルジュ家にも実家のダイナー家にも。
そして、わたくしはそれに乗じてかねてより考えてたことを実行しました。
殿下、わたくしたちの間にはこれまでに何もありませんでしたわね。でも、それはお互い様なのです。
ですから、わたくしのことで気に病む必要はございませんとお伝えしておきます。
わたくしは望んでこの道を選んだのですから」
「君は……いったい……?」
ライアン王子はたぶん私とノアと同じように、カトリーヌ様の言葉が何を意味しているのかがわからず、理解しようとして焦っている。
「あまり時間がありませんから単刀直入に申し上げます。
殿下、貴方様にはお味方が必要です。
何を言っているのかおわかりいただけますでしょう?
恐れながらわたくしは殿下が一番大切にしておられるものが何か、そのたむに何をされるつもりか、わかるような気がしております。
そして、貴方様の決断はある意味でとてもつらいものでもあったことでしょうが同時にとても素晴らしいこと、王子殿下としてご立派なことだと思っておりますわ。
わたくしは逃げることを選びました。ここにいても何も得られないからです。
でも殿下は逃げられない。いえ、逃げるつもりがないのでしょう?
ですから、これはわたくしからの最初で最後の心のこもった贈り物です。心して聞いてください」
カトリーヌ様の声はここへきて少しだけ懇願するようなものに変化した。
「ルパートですわ。
貴方様が上手く立ち回るためにセルジュの側で味方になるとしたら彼しかいない。
殿下のご意思は、今頃はもうきちんと相手方と通じているのでしょう?
でも、わたくしとの婚約破棄の一件のようにセルジュ側の動きを把握できていないのは危険なことです。
殿下がわたくしやルパートをおいそれとは信用できないとお思いになるのもわかります。
ただ、わたくしへの餞別だと思って彼ときちんと話をしてみてください。
最初は信用できないと思われるかもしれません。
相手の感情を逆なでするような人なんです、ルパートという人は。
でもどうか、わたくしに言われたと言って彼に協力を求めてください。
そうすれば少なくともルパートからセルジュの側へ秘密が漏れるようなことはないと誓います。
そしてもし、もしも、少しでも彼が貴方の役に立ったと思われたなら、彼のことを救ってやってください。
いいですか、どうぞ、お願いします。貴方の願いが叶ったときに、絶対に彼を救ってください」
「カトリーヌ、君は」
「話は以上ですわ。わたくしはこれで失礼いたします。
本当はここへも来ないほうがよかったのですが、最後にどうしても一目会いたかったのです……未練がましいですわね。
さようなら、ライアン殿下。きっともう二度とお目にかかることはないでしょう」
「カトリーヌ……」
去っていく足音が一つ。
私とノアは何も言えず顔を見合わせたが、ライアン王子に私たちの存在が気づかれないように足早にその場を後にした。
翌週、学園は騒然となった。
ライアン殿下とカトリーヌ=ダイナー伯爵令嬢の婚約が破棄され、カトリーヌ様が学園を退学されたことが発表されたためだ。
また、日が経つにつれまことしやかに囁かれた話によると、カトリーヌ様はある令嬢を破落戸に襲わせる計画を立て、実行しようとしたところ失敗した。
そのため伯爵家からも勘当され、平民となって国外へ追放されたのだという。
そして、その噂は少なくとも誰からも否定されなかった。
私とノアは以前私がカトリーヌ様達の話を聞いた場所にいる。
「どういうことだ? 君は何を言ってる?」
「決まったことですわ」
「だが、君が? 君が勝手にこんなことをして許されるのか? それにこんなことをして君はいったいこれからどうするつもりなんだ?」
「御心配には及びませんわ」
「だが、いや、そんな……」
「殿下、わたくしは思うとおりにいたします。正直に申し上げると、今更殿下に遠慮することなど何もございませんの」
「私に対して君が、この場で、婚約の破棄をつきつけるというのがか?」
「正確にはわたくしが突きつけているのではありません。
誰よりも先んじてこの件を貴方様にお伝えしただけです。
わたくしがただの手駒でしかないことは殿下もよくご存じのとおりですわ。
ですから、おっしゃるようにわたくし如きに婚約の破棄などとそんな権限はございませんわね」
「だがなぜ今? いくらなんでもまだ早い……それに君のことについては私も考えて」
「わたくし、自分の身は自分でと前々から決めておりましたの」
「なに……を……?」
王子殿下はカトリーヌ様の言葉に終始混乱しているようだ。対するカトリーヌ様は、どこか勝ち誇ったような声で王子殿下に対峙している。
余裕のある様子はいつかの、セルジュ様との会話とは全く違っているし、先日のカフェテラスでの戸惑っているような様子とも違っていた。
「貴方様はわたくしを娶るおつもりはないと前々感じておりましたの。ですから、その時のために色々と考えておりました。
わたくし、これを機に家を、貴族であることを捨てましたの」
「本気で言っているのか? それが本当だというのなら君はこんな所にいるべきじゃない。
はやく申請を取り消すんだ、なんなら私も一緒に行ってもいい。君は一時の感情で取り返しのつかないことをしているのだぞ!
いや、まて、仮にも私の婚約者の令嬢が正式な発表もないまま貴族でなくなる手続きなど認められるわけがない、君は私を担ごうとでもしてるのか?」
王子殿下はますます混乱していらっしゃるようでした。
「担いでなどおりません。本当に認められましたのよ。ですから、今こうして貴族だけが通う学園にいることも本来なら許されないことですわ」
そんな殿下に、カトリーヌ様は飄々として続けた。
「自分でも信じられないくらい上手くいきまして、わたくし、自由を得たのです」
「自由……?」
「ええ、自由です」
「なにを、言って……」
「殿下、わたくしと貴方様との婚約破棄は直ぐに公表されます。
わたくしは切り捨てられたのですよ、セルジュ家にも実家のダイナー家にも。
そして、わたくしはそれに乗じてかねてより考えてたことを実行しました。
殿下、わたくしたちの間にはこれまでに何もありませんでしたわね。でも、それはお互い様なのです。
ですから、わたくしのことで気に病む必要はございませんとお伝えしておきます。
わたくしは望んでこの道を選んだのですから」
「君は……いったい……?」
ライアン王子はたぶん私とノアと同じように、カトリーヌ様の言葉が何を意味しているのかがわからず、理解しようとして焦っている。
「あまり時間がありませんから単刀直入に申し上げます。
殿下、貴方様にはお味方が必要です。
何を言っているのかおわかりいただけますでしょう?
恐れながらわたくしは殿下が一番大切にしておられるものが何か、そのたむに何をされるつもりか、わかるような気がしております。
そして、貴方様の決断はある意味でとてもつらいものでもあったことでしょうが同時にとても素晴らしいこと、王子殿下としてご立派なことだと思っておりますわ。
わたくしは逃げることを選びました。ここにいても何も得られないからです。
でも殿下は逃げられない。いえ、逃げるつもりがないのでしょう?
ですから、これはわたくしからの最初で最後の心のこもった贈り物です。心して聞いてください」
カトリーヌ様の声はここへきて少しだけ懇願するようなものに変化した。
「ルパートですわ。
貴方様が上手く立ち回るためにセルジュの側で味方になるとしたら彼しかいない。
殿下のご意思は、今頃はもうきちんと相手方と通じているのでしょう?
でも、わたくしとの婚約破棄の一件のようにセルジュ側の動きを把握できていないのは危険なことです。
殿下がわたくしやルパートをおいそれとは信用できないとお思いになるのもわかります。
ただ、わたくしへの餞別だと思って彼ときちんと話をしてみてください。
最初は信用できないと思われるかもしれません。
相手の感情を逆なでするような人なんです、ルパートという人は。
でもどうか、わたくしに言われたと言って彼に協力を求めてください。
そうすれば少なくともルパートからセルジュの側へ秘密が漏れるようなことはないと誓います。
そしてもし、もしも、少しでも彼が貴方の役に立ったと思われたなら、彼のことを救ってやってください。
いいですか、どうぞ、お願いします。貴方の願いが叶ったときに、絶対に彼を救ってください」
「カトリーヌ、君は」
「話は以上ですわ。わたくしはこれで失礼いたします。
本当はここへも来ないほうがよかったのですが、最後にどうしても一目会いたかったのです……未練がましいですわね。
さようなら、ライアン殿下。きっともう二度とお目にかかることはないでしょう」
「カトリーヌ……」
去っていく足音が一つ。
私とノアは何も言えず顔を見合わせたが、ライアン王子に私たちの存在が気づかれないように足早にその場を後にした。
翌週、学園は騒然となった。
ライアン殿下とカトリーヌ=ダイナー伯爵令嬢の婚約が破棄され、カトリーヌ様が学園を退学されたことが発表されたためだ。
また、日が経つにつれまことしやかに囁かれた話によると、カトリーヌ様はある令嬢を破落戸に襲わせる計画を立て、実行しようとしたところ失敗した。
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