入れ替わりのプリンセス

夜宮

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辺境のお姫様

24. 恋のお悩み

 最近カレン様の様子がおかしい。

 ついこの間まであんなに楽しそうで光り輝くようだったのに、今はどこか儚げというか憂いのあるご様子がまた艶があるというかなんというか。

「ねえ、ノア。今のカレン様を見ていると同性の私でも”どうか貴女のお悩みを聞かせてください、私がなんでも解決してさしあげますから!”って言いたくなる感じなんだけど、ノアはどう?」

「確かにあのご様子でお一人では放っておけないような気になりますね」

 そうなのだ、周りの男性たちはチラッチラとカレン様を見ていて、あわよくば……みたいな下心満載の目をしている方もいるみたい。

「放っておけないわよね」

「まあ、そうですね。バーンスタイン嬢にはお嬢さまがお世話になっていますしね」

 私は週末、カレン様を屋敷に招くことにした。

 カレン様はあまり乗り気ではない感じがしたがそこは強引に約束を取り付けた。

「………………」

「………………」

 カレン様はたぶん頑張って会話を続けようとされているのだとは思うが、どうしても話が弾まない。

 とりあえず私はカレン様に自ら入れたお茶を薦めた。

「どうぞ、召し上がってみてください。わたくしね、あれからものすごく一生懸命に練習して、ようやくお客様にお出ししても良いというお墨付きをもらったのですわ。ルーカス様にも美味しいと言ってもらいましたのよ」

 カレン様は素直にお茶を飲んでくださった。

「本当ね、とても美味しいわ」

 多少無理をしているようではあるけれど、やっとカレン様が笑ってくださった!

「差し出がましいようですが、カレン様、何か気がかりなことでもおありなの?」

 すると、カレン様は一瞬泣き出しそうに歪んだ顔をしたがすぐに笑顔を作った。

「何もありませんのよ。疲れているのかしら、最近よく皆様にそんなふうに言われるのですが、本当に何もないのです」

 うーん。カレン様、手ごわい。
 だけど、私、退いてあげないの。
 ごめんなさい、カレン様。

「そういえば、あの時のお方、腕のお怪我の具合はいかがですの?」

 私の言葉にカレン様は微かに肩を揺らした。

「サーベント様の事ですわね? それならもうずいぶん良くなってらっしゃるようですわ」

「そうですか」

「ええ」

 流石はカレン様。知らなければそのまま流しましたよ。

「サーベント様とはよく図書館でご一緒されてましたでしょう?」

「ええ、怪我の具合が気になったものですから」

「それだけ?」

「え?」

「庇っていただいた感謝の気持ちだけで毎日のように会いに行かれていたのですか?」

 カレン様は目を伏せた。そして堅い笑みを浮かべて言った。

「そうですわ、それ以外に理由なんてありませんでしょう?」

 ここにきて私は躊躇した。おせっかいにも人の恋路に口を出して本当にいいことになるのか不安になったからだ。

 でも、このままでいてもカレン様はお辛い気持ちを持てあますことになるのではないか。

 私が同じように笑顔でカレン様を見つめていると、カレン様は私から目をそらして俯いた。

 私はそんなカレン様を見て意を決した。
 カレン様があんなふうに俯くなんて駄目だ! って思ったから。

「サーベント子爵家には三人の子息がいらっしゃるようですわね。一番上のヴィクター様だけが亡くなられた前妻のご子息で、後のお二人は現在の夫人のご子息。

 ご家族の関係はそう悪くはないもののようですが、やはり、といいますが後継者の問題については難しいところがあるようですわ」

 カレン様は俯いたままだったが、自然に組んでいた両の手を握りしめたようだった。

「子爵家は子息達の婿入り先を探すのに余念がないご様子。問題はどの子に後を継がせ、どの子を婿に出すかということになりますわね」

 私は一口お茶を啜った。カレン様が更に両手を堅く握りしめるのを見ながら。

「そこに、娘婿を探しているフレミング男爵家との話が持ち上がりました。

 フレミング家の跡取りはジェシカ様という方でルーカス様やヴィクター様と同じく今年で学園を卒業される年です。

 ですから、子爵家ではわたくしたちと同じ年の後妻の子ではなく同じ年のヴィクター様とならつり合いが取れると思われたことでしょう。

 まあ、最初から子爵家ではヴィクター様のお相手を見つけようと考えていたようですけれどね」

 カレン様はジェシカ様のお名前を聞いた途端、はっとしたように顔をあげて私のほうを見た。私はカレン様の揺れる瞳を見つめて微笑んだ。

「でもね、わたくし、偶々知っているのですが、ジェシカ様にはご両親にはまだ秘密にしてらっしゃったけれど親しくしている方がいらっしゃるのです。

 ジェシカ様はその方と結ばれたいの。

 そのことを両親に言う機会を伺っていたところだったからサーベント家との話は寝耳に水だったようですわね。

 しかし、既に親同士の間で顔合わせの日まで決められている。どうしようかと悩んだ挙句にお見合い相手に突撃するなんて、ジェシカ様は中々に行動的な方だと思いませんか?

 しかも、ジェシカ様は見ず知らずのお見合い相手に上手く口裏を合わせて話をなかったことにしてもらうつもりでいたのですから、本当に、豪胆な方ですわよね」

「では……」

「結果は見事ジェシカ様の思った通りになったそうですわ」

「そんな、わたくし……知らなくて」

 カレン様は再び俯いてしまった。

「お茶が冷めてしまいましたわね。今度はわたくし、別の茶葉で挑戦しますわ。茶葉によって変えなくてはならないことが多すぎてなんて」
「クロエ様、わたくし、怖くて逃げたの」

 私の言葉を遮ってカレン様が言った。

「ヴィクター様が他の方と婚約するかもしれないと知ってどうしていいかわからなくなってしまって……。

 ヴィクター様の隣に誰かが、ジェシカ様が当然のように寄り添う姿を想像すると辛かった。

 もうあんなふうにヴィクター様とお話することが出来なくなるのかと思うとわたくし……ヴィクター様の幸せを願うことなんてできそうもなくて」

 私はカレン様の側に行き、堅く結ばれていた両手を包み込むように手を添えた。

「誰だってそう、わたくしだって同じですわ。もし、ルーカス様が私を捨てて他の女性と婚約したとして、ルーカス様の幸せなんて願えない。

 そうでない方もいるのかもしれないけど、わたくしには無理だわ。ルーカス様の隣にわたくしではない方がいるなんて考えるだけで耐えられない気持ちになりますもの」

「でも、わたくしたちの間にはクロエ様とヴェルナー様のようなものはないのに」

「それは、これから築いていくものなのですわ」

 カレン様と私は見つめあった。

「初めからなにもかも整った関係なんてないのですから」

「そうね。わたくしはまず逃げずに自分の気持ちを受け入れなくては」

 しばらくすると、カレン様はそう言って輝くような笑顔を見せた。

 私もつられて笑顔になった。

 私たちは心地よい気持で再度、私の入れたお茶を飲んだ。

 今度も私の腕前をカレン様はとても褒めてくださった。

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