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辺境のお姫様
21. 謀(ノア視点)
ノアは夜更けに屋敷を抜け出した。
そしてヴェルナー公爵家のルーカスが使っている執務室へと向かった。
「今日、ライアン王子とカトリーヌ=ダイナーが婚約の破棄について話しているのをお嬢さまと一緒に聞くことになりました」
ルーカスは一瞬動きを止めた後、ため息をついた。
「なぜ? クロエに聞かせる話じゃない」
ノアは肩を竦めた。
「盗み聞きするってきかなかったんで、しかたなく」
ルーカスはそれ以上は文句を言わず、ノアの話の続きを促す。
「お嬢様には、二人が何を言っているのかわからないのは仕方が無いことだから首をつっこまないように言いました。実際、二人が交わしていた会話だけで内容を察することは不可能ですから、お嬢様もしぶしぶ頷いてくれました」
「そう。で、婚約は破棄されたとカトリーヌ=ダイナーがそう言った?」
ノアが頷くとルーカスは黙ってしばらく考えてから言った。
「第二王子の様子は?」
「驚いていましたね。ちょっと滑稽なくらいでしたよ。あと、ダイナー嬢はルパート=セルジュを慕っているようでした」
ノアの言葉にルーカスはまた少し考えこんだ。
「あの娘は?」
ノアは顔を歪めた。
「相変わらずですよ。はやくなんとかしてください。あの性悪」
「あの娘の出番はこれからだ。心配しなくても役が終われば消える」
ルーカスはなんでもない顔でそう言った。たぶん、彼にとっては本当になんでもないことなのだろうとノアは思った。
最初はあの娘に同情する気持が無いわけではなかったが、ノアにとっても既にサラという娘は排除すべき存在でしかなかった。
娘は役に立つ、役に立たせる存在だから放っておけと言われてるから我慢しているだけだ。
そうでなければ……とノアが考えているあいだ、ルーカスも何か考えているようだった。
「あの人、ダイナー嬢は」
必要のない問いだったが思わずノアが言ったのに、珍しくルーカスも答えてくれた。
「心配ない。モーリス商会が面倒をみるそうだ」
「パーカー氏が? それはまた……」
モーリス商会の会頭のパーカーはノースフィールド辺境伯の懐刀と言われている人だ。武力ではなく知力のほうの。
しかし、どうしてパーカー氏がダイナー嬢を助けてやることになったのだろう。
本来なら唆し、利用するはずではなかったか。
それなのにカトリーヌ=ダイナーは意気揚々と自由になるんだと言っていたな、とノアが考えているとルーカスが言った。
「カトリーヌ=ダイナーが下りてしまったことで少しごたつくかもしれない。クロエを頼む」
「はい」
ルーカスとの話が終わり、屋敷に向かう道々ノアはここまでの出来事を思い返していた。
クロエが襲撃されたこと。
そしてその場にいなかった自分。
あの時、運が味方せずにバーンスタイン侯爵家の手のものがいなかったらと思うと今でもノアの手は震える。
そして、そこからノースフィールド、ヴェルナーがバーンスタインを取り込み、セルジュを追い込むために仕掛けた罠。
そこに飛び込んできた第二王子は、セルジュを断罪するために協力するという。
肉親を、後ろ盾を失っても国を守るというのだから見上げたものだった。
“だが、女の趣味は悪いな”
ノアはサラという娘の顔を思い出して顔をしかめた。
王子は今更引き返す事はできない。
生まれながらに手にしているものを殆ど手放すことになるが、図らずも得るものがあったのなら良いことだ。
謀が終われば、おとり役の娘と二人、仲良く静かに暮らせばいい。
そこまで考えてから、ノアは二人のことなどさっさと忘れて、さて、どうやってクロエの好奇心を今日の出来事から別の方向へ向けようかという、あの二人のことを考えるよりはるかに楽しい考えに切り替えた。
ルーカスのように甘え、甘やかすことで問題解決はできないのだからノアはノアのやり方でクロエを納得させなければならない。
ほんの少しでも、二度とクロエに危険が迫らないように。
そのためにはなんでもするとあの日誓った。
ノアはそう考えながら今日もクロエのいる場所へと帰るのだった。
そしてヴェルナー公爵家のルーカスが使っている執務室へと向かった。
「今日、ライアン王子とカトリーヌ=ダイナーが婚約の破棄について話しているのをお嬢さまと一緒に聞くことになりました」
ルーカスは一瞬動きを止めた後、ため息をついた。
「なぜ? クロエに聞かせる話じゃない」
ノアは肩を竦めた。
「盗み聞きするってきかなかったんで、しかたなく」
ルーカスはそれ以上は文句を言わず、ノアの話の続きを促す。
「お嬢様には、二人が何を言っているのかわからないのは仕方が無いことだから首をつっこまないように言いました。実際、二人が交わしていた会話だけで内容を察することは不可能ですから、お嬢様もしぶしぶ頷いてくれました」
「そう。で、婚約は破棄されたとカトリーヌ=ダイナーがそう言った?」
ノアが頷くとルーカスは黙ってしばらく考えてから言った。
「第二王子の様子は?」
「驚いていましたね。ちょっと滑稽なくらいでしたよ。あと、ダイナー嬢はルパート=セルジュを慕っているようでした」
ノアの言葉にルーカスはまた少し考えこんだ。
「あの娘は?」
ノアは顔を歪めた。
「相変わらずですよ。はやくなんとかしてください。あの性悪」
「あの娘の出番はこれからだ。心配しなくても役が終われば消える」
ルーカスはなんでもない顔でそう言った。たぶん、彼にとっては本当になんでもないことなのだろうとノアは思った。
最初はあの娘に同情する気持が無いわけではなかったが、ノアにとっても既にサラという娘は排除すべき存在でしかなかった。
娘は役に立つ、役に立たせる存在だから放っておけと言われてるから我慢しているだけだ。
そうでなければ……とノアが考えているあいだ、ルーカスも何か考えているようだった。
「あの人、ダイナー嬢は」
必要のない問いだったが思わずノアが言ったのに、珍しくルーカスも答えてくれた。
「心配ない。モーリス商会が面倒をみるそうだ」
「パーカー氏が? それはまた……」
モーリス商会の会頭のパーカーはノースフィールド辺境伯の懐刀と言われている人だ。武力ではなく知力のほうの。
しかし、どうしてパーカー氏がダイナー嬢を助けてやることになったのだろう。
本来なら唆し、利用するはずではなかったか。
それなのにカトリーヌ=ダイナーは意気揚々と自由になるんだと言っていたな、とノアが考えているとルーカスが言った。
「カトリーヌ=ダイナーが下りてしまったことで少しごたつくかもしれない。クロエを頼む」
「はい」
ルーカスとの話が終わり、屋敷に向かう道々ノアはここまでの出来事を思い返していた。
クロエが襲撃されたこと。
そしてその場にいなかった自分。
あの時、運が味方せずにバーンスタイン侯爵家の手のものがいなかったらと思うと今でもノアの手は震える。
そして、そこからノースフィールド、ヴェルナーがバーンスタインを取り込み、セルジュを追い込むために仕掛けた罠。
そこに飛び込んできた第二王子は、セルジュを断罪するために協力するという。
肉親を、後ろ盾を失っても国を守るというのだから見上げたものだった。
“だが、女の趣味は悪いな”
ノアはサラという娘の顔を思い出して顔をしかめた。
王子は今更引き返す事はできない。
生まれながらに手にしているものを殆ど手放すことになるが、図らずも得るものがあったのなら良いことだ。
謀が終われば、おとり役の娘と二人、仲良く静かに暮らせばいい。
そこまで考えてから、ノアは二人のことなどさっさと忘れて、さて、どうやってクロエの好奇心を今日の出来事から別の方向へ向けようかという、あの二人のことを考えるよりはるかに楽しい考えに切り替えた。
ルーカスのように甘え、甘やかすことで問題解決はできないのだからノアはノアのやり方でクロエを納得させなければならない。
ほんの少しでも、二度とクロエに危険が迫らないように。
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